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第二節 芥屋のご近所さん
第5話 お手製
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愕然とした泉はワーズの顔をまじまじと見つめ、問いを口にする。
「わ、ワーズさん…………サイズは、どうやって……?」
搾り出した声は上擦り震えていた。
最悪、意識のない時に――と、本当に最悪な場面を思い浮かべていれば、いつものへらりとした笑みを取り戻した男は、立ち上がるなり黒いコートから一枚の紙片を取り出した。
「ああ。君が昨日不幸にも遭遇した変態中年からこの紙を」
言い終わりを待たず、白い紙を引ったくる。
と同時に、覗かれぬようワーズへ背を向けては、震える手で広げた。
目の前で行われていたやり取りが、まさかそんな……。
「目測だから正確じゃないかもしれないけど、大体合ってたみたいだね」
大体どころの騒ぎではない。
紙には何から何までピッタリな数値が書かれていた。
数字だけは泉にも分かる算用数字が使われているだとか、そんなことにも気が回らなくなるくらい、衝撃的な羅列だ。
一つ、難点があるなら、それは――。
「うそ……増えてる……」
若干であろうと、乙女の大敵の増した数値に青筋と汗が浮かんだ。
「目測だから少しの狂いは仕方ないよ。でも、これのお陰でクァンに色々使いっ走り頼めたんだから、あの変態もたまには役に立つよね」
確かにお陰かもしれないが、友人にだって知られたくないサイズを、性癖はさておき中年男に知られるとは。
と、ここで「いや、でも」と思い直す。
ワーズがクァンの持ってきた物を買っていたら、ショックは更に大きかったはずだ。それこそ本当に死にたくなるかもしれない。
そっと、緩くもきつくもない服に触れる。かなり良い素材が使われており、着心地も良い。これは、仕方ないと諦めるべきかもしれない。
しかし、ここでふともう一つ、重大な疑問が浮かんできた。
「あのぉ、ワーズさん……? この紙の内容、見ていませんよね?」
一瞬、何を言われたのか分からない、きょとんとした顔になるワーズ。
しかしてすぐに得心がいったなら、血の赤さに似た口で軽やかに笑う。
「もちろん」
「良かった、そうですよね、もちろんですよね」
変わらぬふらふらした様子に、自分の失態を知って泉は顔を赤くする。
――が。
「だって見ないと作れないからね、服」
(て、手製!?)
二重の衝撃に眩暈を覚える泉へ、ワーズは満足そうに笑いかける。その、他意のない、もちろん悪意もない笑顔に、しかし泉は余計気恥ずかしさを覚えて叫んだ。
「ふ、服くらい、自分で買ってきます!!」
半ば悲鳴に近い声に対し、ワーズは笑顔から一転、少し困ったような顔をした。
「試着室とか密室で一人になったら、命の補償がないんだよ? 鏡の裏に引き摺り込まれる、なんて良く聞く話だね」
「うう……じゃあ制服で我慢します!」
ずっと着続けているのを想像しては鳥肌が立つが、こうなるとほとんど意地だ。
デザイン云々に文句はない。替えの服があるだけでもありがたい。ありがたいが――目の前の男が、己のサイズが事細かに書かれた紙片と睨めっこしながら作り上げた服など、何も思わず着ておけという方が無理だ。
だが、泉の恨み混じりの訴えに、ワーズは更に眉根を寄せて言った。
「露出が多い服はね、危険を誘うんだよ? ここでは特に、ね」
「…………」
ワーズの言葉に、昨日の男たちの姿が過ぎる。
意図的に濁しているのか、それとも一般論として語っているのかは分からないが、ワーズの言いたいことは、つまりはそういうことなのだろう。
忘れかけていた怖気に、泉の身体が一度震えたなら、少し寂しそうに笑ってワーズは続けた。
「ボクが作った服が気に入らないならゴメンね。でも、君の身を守るためなんだ」
ワーズの殊勝な言葉に、泉は自然と申し訳ない気分になった。
(……そうよね。わざわざ作ってくれたのに、私ったらなんて失礼なことを)
第一、服をそのまま買うにしても、この服の生地にしても、掛かる費用は馬鹿にならない。あの下着類とて、言うなればワーズの好意で用意されたものであって、泉は一銭も出していないのだ。仮に持ち合わせが潤沢だろうと、未だによく分からない場所なのだから、通貨が違う可能性は極めて高い。
恥ずかしいという理由だけで、ずいぶん図々しいことを言ってしまった。
「ワーズさん、ごめんなさ――」
「それにデザインなら他にもあるよ! 色とりどりで、寝間着もエプロンもほらこの通り!」
反省した途端、これである。
ワーズがどこからかわんさか出してきた服たちに、泉は察して嘆息した。
この人、趣味で作っているだけなんだ、と。
「わ、ワーズさん…………サイズは、どうやって……?」
搾り出した声は上擦り震えていた。
最悪、意識のない時に――と、本当に最悪な場面を思い浮かべていれば、いつものへらりとした笑みを取り戻した男は、立ち上がるなり黒いコートから一枚の紙片を取り出した。
「ああ。君が昨日不幸にも遭遇した変態中年からこの紙を」
言い終わりを待たず、白い紙を引ったくる。
と同時に、覗かれぬようワーズへ背を向けては、震える手で広げた。
目の前で行われていたやり取りが、まさかそんな……。
「目測だから正確じゃないかもしれないけど、大体合ってたみたいだね」
大体どころの騒ぎではない。
紙には何から何までピッタリな数値が書かれていた。
数字だけは泉にも分かる算用数字が使われているだとか、そんなことにも気が回らなくなるくらい、衝撃的な羅列だ。
一つ、難点があるなら、それは――。
「うそ……増えてる……」
若干であろうと、乙女の大敵の増した数値に青筋と汗が浮かんだ。
「目測だから少しの狂いは仕方ないよ。でも、これのお陰でクァンに色々使いっ走り頼めたんだから、あの変態もたまには役に立つよね」
確かにお陰かもしれないが、友人にだって知られたくないサイズを、性癖はさておき中年男に知られるとは。
と、ここで「いや、でも」と思い直す。
ワーズがクァンの持ってきた物を買っていたら、ショックは更に大きかったはずだ。それこそ本当に死にたくなるかもしれない。
そっと、緩くもきつくもない服に触れる。かなり良い素材が使われており、着心地も良い。これは、仕方ないと諦めるべきかもしれない。
しかし、ここでふともう一つ、重大な疑問が浮かんできた。
「あのぉ、ワーズさん……? この紙の内容、見ていませんよね?」
一瞬、何を言われたのか分からない、きょとんとした顔になるワーズ。
しかしてすぐに得心がいったなら、血の赤さに似た口で軽やかに笑う。
「もちろん」
「良かった、そうですよね、もちろんですよね」
変わらぬふらふらした様子に、自分の失態を知って泉は顔を赤くする。
――が。
「だって見ないと作れないからね、服」
(て、手製!?)
二重の衝撃に眩暈を覚える泉へ、ワーズは満足そうに笑いかける。その、他意のない、もちろん悪意もない笑顔に、しかし泉は余計気恥ずかしさを覚えて叫んだ。
「ふ、服くらい、自分で買ってきます!!」
半ば悲鳴に近い声に対し、ワーズは笑顔から一転、少し困ったような顔をした。
「試着室とか密室で一人になったら、命の補償がないんだよ? 鏡の裏に引き摺り込まれる、なんて良く聞く話だね」
「うう……じゃあ制服で我慢します!」
ずっと着続けているのを想像しては鳥肌が立つが、こうなるとほとんど意地だ。
デザイン云々に文句はない。替えの服があるだけでもありがたい。ありがたいが――目の前の男が、己のサイズが事細かに書かれた紙片と睨めっこしながら作り上げた服など、何も思わず着ておけという方が無理だ。
だが、泉の恨み混じりの訴えに、ワーズは更に眉根を寄せて言った。
「露出が多い服はね、危険を誘うんだよ? ここでは特に、ね」
「…………」
ワーズの言葉に、昨日の男たちの姿が過ぎる。
意図的に濁しているのか、それとも一般論として語っているのかは分からないが、ワーズの言いたいことは、つまりはそういうことなのだろう。
忘れかけていた怖気に、泉の身体が一度震えたなら、少し寂しそうに笑ってワーズは続けた。
「ボクが作った服が気に入らないならゴメンね。でも、君の身を守るためなんだ」
ワーズの殊勝な言葉に、泉は自然と申し訳ない気分になった。
(……そうよね。わざわざ作ってくれたのに、私ったらなんて失礼なことを)
第一、服をそのまま買うにしても、この服の生地にしても、掛かる費用は馬鹿にならない。あの下着類とて、言うなればワーズの好意で用意されたものであって、泉は一銭も出していないのだ。仮に持ち合わせが潤沢だろうと、未だによく分からない場所なのだから、通貨が違う可能性は極めて高い。
恥ずかしいという理由だけで、ずいぶん図々しいことを言ってしまった。
「ワーズさん、ごめんなさ――」
「それにデザインなら他にもあるよ! 色とりどりで、寝間着もエプロンもほらこの通り!」
反省した途端、これである。
ワーズがどこからかわんさか出してきた服たちに、泉は察して嘆息した。
この人、趣味で作っているだけなんだ、と。
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