奇人街狂想曲

かなぶん

文字の大きさ
13 / 98
第二節 芥屋のご近所さん

第5話 お手製

しおりを挟む
 愕然とした泉はワーズの顔をまじまじと見つめ、問いを口にする。
「わ、ワーズさん…………サイズは、どうやって……?」
 搾り出した声は上擦り震えていた。
 最悪、意識のない時に――と、本当に最悪な場面を思い浮かべていれば、いつものへらりとした笑みを取り戻した男は、立ち上がるなり黒いコートから一枚の紙片を取り出した。
「ああ。君が昨日不幸にも遭遇した変態中年からこの紙を」
 言い終わりを待たず、白い紙を引ったくる。
 と同時に、覗かれぬようワーズへ背を向けては、震える手で広げた。
 目の前で行われていたやり取りが、まさかそんな……。
「目測だから正確じゃないかもしれないけど、大体合ってたみたいだね」
 大体どころの騒ぎではない。
 紙には何から何までピッタリな数値が書かれていた。
 数字だけは泉にも分かる算用数字が使われているだとか、そんなことにも気が回らなくなるくらい、衝撃的な羅列だ。
 一つ、難点があるなら、それは――。
「うそ……増えてる……」
 若干であろうと、乙女の大敵の増した数値に青筋と汗が浮かんだ。
「目測だから少しの狂いは仕方ないよ。でも、これのお陰でクァンに色々使いっ走り頼めたんだから、あの変態もたまには役に立つよね」
 確かにお陰かもしれないが、友人にだって知られたくないサイズを、性癖はさておき中年男に知られるとは。
 と、ここで「いや、でも」と思い直す。
 ワーズがクァンの持ってきた物を買っていたら、ショックは更に大きかったはずだ。それこそ本当に死にたくなるかもしれない。
 そっと、緩くもきつくもない服に触れる。かなり良い素材が使われており、着心地も良い。これは、仕方ないと諦めるべきかもしれない。
 しかし、ここでふともう一つ、重大な疑問が浮かんできた。
「あのぉ、ワーズさん……? この紙の内容、見ていませんよね?」
 一瞬、何を言われたのか分からない、きょとんとした顔になるワーズ。
 しかしてすぐに得心がいったなら、血の赤さに似た口で軽やかに笑う。
「もちろん」
「良かった、そうですよね、もちろんですよね」
 変わらぬふらふらした様子に、自分の失態を知って泉は顔を赤くする。
 ――が。
「だって見ないと作れないからね、服」
(て、手製!?)
 二重の衝撃に眩暈を覚える泉へ、ワーズは満足そうに笑いかける。その、他意のない、もちろん悪意もない笑顔に、しかし泉は余計気恥ずかしさを覚えて叫んだ。
「ふ、服くらい、自分で買ってきます!!」
 半ば悲鳴に近い声に対し、ワーズは笑顔から一転、少し困ったような顔をした。
「試着室とか密室で一人になったら、命の補償がないんだよ? 鏡の裏に引き摺り込まれる、なんて良く聞く話だね」
「うう……じゃあ制服で我慢します!」
 ずっと着続けているのを想像しては鳥肌が立つが、こうなるとほとんど意地だ。
 デザイン云々に文句はない。替えの服があるだけでもありがたい。ありがたいが――目の前の男が、己のサイズが事細かに書かれた紙片と睨めっこしながら作り上げた服など、何も思わず着ておけという方が無理だ。
 だが、泉の恨み混じりの訴えに、ワーズは更に眉根を寄せて言った。
「露出が多い服はね、危険を誘うんだよ? ここでは特に、ね」
「…………」
 ワーズの言葉に、昨日の男たちの姿が過ぎる。
 意図的に濁しているのか、それとも一般論として語っているのかは分からないが、ワーズの言いたいことは、つまりはそういうことなのだろう。
 忘れかけていた怖気に、泉の身体が一度震えたなら、少し寂しそうに笑ってワーズは続けた。
「ボクが作った服が気に入らないならゴメンね。でも、君の身を守るためなんだ」
 ワーズの殊勝な言葉に、泉は自然と申し訳ない気分になった。
(……そうよね。わざわざ作ってくれたのに、私ったらなんて失礼なことを)
 第一、服をそのまま買うにしても、この服の生地にしても、掛かる費用は馬鹿にならない。あの下着類とて、言うなればワーズの好意で用意されたものであって、泉は一銭も出していないのだ。仮に持ち合わせが潤沢だろうと、未だによく分からない場所なのだから、通貨が違う可能性は極めて高い。
 恥ずかしいという理由だけで、ずいぶん図々しいことを言ってしまった。
「ワーズさん、ごめんなさ――」
「それにデザインなら他にもあるよ! 色とりどりで、寝間着もエプロンもほらこの通り!」
 反省した途端、これである。
 ワーズがどこからかわんさか出してきた服たちに、泉は察して嘆息した。
 この人、趣味で作っているだけなんだ、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子

冬野月子
恋愛
突然日本から異世界に召喚されたリリヤ。 けれど実は、リリヤはこの世界で生まれた侯爵令嬢で、呪いをかけられ異世界(日本)へ飛ばされていたのだ。 魔力量も多く家柄の良いリリヤは王太子ラウリの婚約者候補となる。 「完璧王子」と呼ばれていたが、リリヤと同じく呪いのせいで魔力と片目の視力を失っていたラウリ。 彼との出会いの印象はあまり良いものではなかった。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...