白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第6話 十星会議

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――呼び出しは、あまりにも突然だった。

朝の空気はまだ冷たく、
しずくはベッドの端に座ったまま、
ぼんやりと窓の外を眺めていた。

その静けさを破るように、
部屋のドアが勢いよく開く。

「おはようございますっ!」

昨日案内をしてくれた、元気な女性職員がにこやかな笑顔で入ってきた。
手には薄型のタブレット端末。

朗らかなその声に、
しずくは思わず身を起こした。

「本日は十星会議じっせいかいぎがございます!
しずく様は議題に参加予定ですので、ご準備をお願いしますね!」

「えっ、あの……会議って……?」

しずくは思わず聞き返す。
まだ制服すらなじんでいない自分が、なぜ“会議”に呼ばれるのか、訳が分からなかった。

女性職員は、にこにこと微笑みながら説明を始めた。

「はい、会議といっても――特別なやつです!」

「現在、魔法少女は階級制度になっていてですね。
最高ランクには“十星ナンバーズ”と呼ばれる№10から№1までの十人の魔法少女がいらっしゃいます」

「その方々が、それぞれの部隊を統括していて、
まさにこのユナイトアークの中核ともいえる存在なんですよ~!」

「そして今日は、その十人全員が集まる十星会議じっせいかいぎ
その席で、しずく様の“正式な紹介”があるんです!」

「しょ……紹介……?」

「そうです!
しずく様は今、魔法少女として“注目の新人”ですからね。
『白封筒から奇跡が生まれた』って、皆さまもご興味を持たれているようで!」

その言葉に、しずくの喉が詰まる。

――“奇跡”

――“注目”

それは、まるで異物のように彼女の胸に居座る単語だった。

「――ささっ、とにかく行きましょー!!」

女性職員は明るく手を叩き、
しずくの背を軽く押す。

勢いに飲まれるように、
しずくは制服の裾を整えながら立ち上がった。

「えっ、ちょっと、準備が――」

「だいじょーぶですっ、準備はもう完璧に整ってますから!

緊張するかもしれませんけど、
案外みなさん優しいですし!」

彼女は軽やかな足取りで廊下を進んでいく。
しずくは小走りでその後に続いた。

「ちなみに……」

職員が少し声を潜めて、いたずらっぽく振り返る。

「私の一押しは、№2のリサ様なんです~!」

「えっ、リサ……さん?」

「そうです!
あの獣みたいな目、冷たいけどちゃんと見てるっていうか……

あの鋭さがたまらなくて……!
こわいけど、素敵なんですよね~」

ふわっと頬を染める彼女に、
しずくは返事に困って笑ってしまった。

「え、えっと……素敵、なんですか?」

「ええ、すっごく! ……
あ、でもリサ様の前では絶対にそんなこと言わないでくださいね?

絶対!死にますから、私が!」

「う、うん……わかりました……。」

高くそびえる黒鉄の扉。

その前に立つ二人の兵士が、
まるで城門の守護者のように道を塞いだ。

その瞬間、隣にいた職員の女性がぴたりと動きを止めた。

さっきまでの明るさが嘘のように消え、
表情が凛と引き締まる。

背筋を伸ばし、深く頭を下げると、静かに告げた。

「失礼します。しずく様をお連れしました。」

厚い扉の向こうから、低く響く声が返る。

「……入りなさい。」

兵士たちが無言で頷き、
重々しい扉をゆっくりと開ける。

ぎい――、と金属が擦れる音。

しずくは一瞬、足がすくむのを感じた。

それでも――一歩、前へ。

おずおずと議事堂の中へ足を踏み入れ、後ろを振り返る。

そこには、あの女性職員がいた。

顔を少しだけ上げ、口元を引き締めて――、
ぐっとガッツポーズを作って見せる。

その無言のエールに、
しずくは小さく頷いた。

そして――扉が、ゆっくりと閉まる。

世界が変わる音がした。

重々しい扉が閉じられる音が、
心臓の奥まで響いた。

議事堂は広大で、
中央には円卓が据えられている。

頭上には魔素灯まそとうが円環を描くように並び、
青白い光が会場を照らしていた。

――十の視線が、
一斉に自分へと注がれる。

足がすくみそうになるのを必死でこらえ、
しずくは円卓の中央に進み出た。

呼吸が浅い。
喉が乾く。
声を出す余裕など、とてもなかった。

そのとき、卓の一角に見知った顔があった。

リサだ。

赤髪を乱暴に後ろへ流し、
鋭い紅の瞳でしずくを射抜いている。

その視線は相変わらず獣のように鋭いが、
彼女が小さく頷いたのを見逃さなかった。

その隣には、エレナ。

金の髪を背に流し、
翠緑の装束に大弓を背負った姿。

彼女は柔らかな笑みを浮かべ、
片目を閉じてウインクを送ってきた。

わずか一瞬の仕草。

それだけで、
しずくの硬直した肩が少しだけ緩んだ。

そのとき、卓の一角で椅子が軋む。

赤髪を無造作に刈り込み、
鋭い紅の瞳が獣の光を宿す女剣士が立ち上がった。

戦場をくぐり抜けて擦り切れた黒マントは、
まるで彼女の生き様そのものだった。

【№2 リサ・ヴァレンタイン】
【マガツ討伐数:52】
【コードネーム:紅刃の獣クリムゾン・ビースト

「――今回集まってもらったのは、ほかでもねえ。」

腰の大剣に手を添え、リサは低く言い放つ。

「“白封筒”から魔法少女が現れた。しずくだ。
こいつを俺の隊に入れる。……文句ある奴は言え。」

「ふざけるな!」

鋭い声が会場を裂く。

蒼銀の長髪を後ろに束ね、
金の刺繍を施した紺碧の軍装を纏う女が、剣のように背筋を伸ばして立ち上がった。

その冷たい蒼眼は、しずくを容赦なく切り裂く。

【№4 クラウディア・フォン・ノルデン】
【マガツ討伐数:36】
【コードネーム:氷の騎士アイス・ナイト

「白封筒の下民を魔法少女に入れていいはずがない!
それは制度そのものの冒涜だ!」

リサが睨み返す。

「こいつは初出撃で魔法を使い、災厄体マガツを倒している。
それだけで十分証明になるだろうが。」

その応酬を和らげるように、柔らかい声が響いた。

金糸のような長髪を背に垂らし、
深緑の狩人装束に身を包んだ女が立ち上がる。
背の大弓が静かに光を受けて輝いた。

【№6 エレナ・フォルティス】
【マガツ討伐数:39】
【コードネーム:翠弓の守護者ヴェルデント・ガーディアン

「……私も、それは保証します。
しずくには力がある。それを、私の目で確かに見ました。」

しかしクラウディアは食い下がる。

「力があれば良いというものではない!
規律が乱れれば、いずれ崩壊を招く!」

その言葉を遮るように、低く響く声が落ちた。

整然とした濃紺の将校服に、きっちり撫でつけられた金髪。

腰には磨き抜かれた軍用拳銃。

冷たい黒の瞳が規律そのものを体現していた。

【№5 ギルベルト・シュトラール】
【マガツ討伐数:34】
【コードネーム:鋼鉄の軍律アイアン・コマンダー

「規律は絶対だ。
私も“白封筒”を魔法少女に入れるのは反対だ。

組織とは秩序。
例外を認めた瞬間、それは瓦解する。」

議場に冷たい重みが落ちる。

だが、エレナは微笑を崩さず言葉を返した。

「それでも、私はリサの意見に賛成します。
この子には――力があります。
そして、その力は人類に必要です。」

その緊張を、豪快な笑いが吹き飛ばした。

鮮やかな青髪を刈り上げ、火傷痕の残る腕を組んだ女。

肩を露出した革鎧の上に煤けたマントを羽織り、
拳には青い炎がほのかに揺れていた。

【№7 ライラ・ブレイズ】
【マガツ討伐数:25】
【コードネーム:蒼炎の拳ブルー・インファーナル

「でもさぁ!
人材不足なんだし、戦えそうな奴は入れるべきじゃね?

“奇跡”だろうが“下民”だろうが、勝てりゃそれでいい!」

「……まったく、あなたは。」

黒いベールを肩から垂らし、
妖艶な紫のドレスを纏った女が、顎に指を当てて嘲笑する。

【№8 ミラ・ヴェイル】
【マガツ討伐数:27】
【コードネーム:夜影の抱擁ナイトシェイド・エンプレス

「そんな単純な話じゃないのよ、ライラ。
あなたはいつも“火事場”のことしか考えてない。」

ひやりとした空気が再び広がる。

ライラが欠伸をして片手をひらひら振った。

「ふーん、そんなもんなのか。
じゃあ――ガレスはどう思うんだ?」

その視線を受け、
黒鉄の甲冑に包まれた巨躯の女が、ゆっくりと顔を上げた。

背には己の身長を超える巨大な戦斧。

刃は幾度もマガツを両断してきた傷で刻まれ、鈍い光を放っている。

赤銅色の三つ編みが胸に垂れ、琥珀の瞳が静かに光った。

【№9 ガレス・アイアンハート】
【マガツ討伐数:34】
【コードネーム:戦斧の豪盾バトルアックス

「……まだ、わからない。
戦場でどう役立つか――それを見てからだ。」

その無骨な答えに、場が一瞬沈黙した。

議場に沈黙が流れた、その時――。

――ドンッ!

卓を叩く激しい音が響き渡る。

「ふざけないでいただきたい!!」

漆黒の髪をきつく後ろで束ね、切れ長の瞳を燃やす若い女が立ち上がった。
肩にはマントを羽織り、その重みを背負うかのように全身を震わせている。

【№10 カレン・シュナイダー】
【マガツ討伐数:12】
【コードネーム:黒き継承者ブラック・ヘリテージ

「こいつは!
我らが№10先代――セレス様を殺した張本人ですよ!!

こんなのを仲間に入れろというのですか!!」

しずくの胸を、刃で突き刺すような言葉。
呼吸が詰まり、視界が揺れる。

全員の視線が、
自分を断罪するための槍のように突き刺さってくる――。

「おい、それは違う!」

リサが声を荒げる。

「セレスは災厄体マガツにやられたんだろうが!」

「ちがいます!!」

カレンの声は震え、それでも折れない。

「セレス様は災厄体マガツの攻撃なんか防げたはずです!

あのゴミみたいなエクリプスを守ろうとしたから死んだんです!
つまり――こいつが殺したも同然!」

その瞬間、卓の向こうからギルベルトの冷鋭な声が響いた。

「……訂正しろ。」

腰に下げた軍用拳銃に手を添え、瞳を光らせる。
軍靴の踵が床を叩き、議場全体が緊張に縛られる。

「エクリプスを“ゴミ”だと? 違う。

彼女たちは戦場を支える歯車であり、
寸分違わぬ動きで前線を成立させる刃だ。

欠ければ戦術は崩壊する。
理解もせずに口にするな。」

「っ……! でも、あんな連中いなくたって――!」

カレンはなおも食い下がろうとする。

だが――。

「……静かになさい。」

冷徹な声が、カレンの言葉を断ち切った。

整えられた銀髪が肩のあたりで静かに揺れる。

その端正な横顔は、まるで陶器のように整っていた。

だが――彼女の目元には、白い包帯が巻かれている。

視線は見えないはずなのに、
彼女の一言が放つ威圧感は、場の空気を一瞬で凍らせるほどだった。

【№3 エリス・ハウンド】
【マガツ討伐数:49】
【コードネーム:黒耀の魔導オブシディアン・メイジ

「重要なのは、セラフィナ様の意見です。
あなたたちの感情など、この会議には不要。」

再び、議場が静まり返る。

視線が、一斉に卓の最奥へと向けられた。

白銀の長髪が瀑布のように流れ、
純白の法衣を纏う女がゆるやかに立ち上がった。

その姿はまるで聖像画の天使。

だが、凛とした輪郭をやわらげるように、
彼女の唇には絶えず穏やかな笑みが浮かんでいた。

光を受けた横顔には、慈愛と威厳が同居していた。

【№1 セラフィナ・クレスト】
【マガツ討伐数:194】
【コードネーム:人類の希望ホープ・オブ・ヒューマニティ

「……皆さんの意見はわかりました。」

にこやかに微笑んだまま、セラフィナが口を開いた。

柔らかな声なのに、
議場を満たす空気は一瞬で支配される。

「では――しずくさん?」

不意に呼ばれ、しずくの肩が跳ねた。

「っ、はい……!」

「あなたは、どうしたいのかしら?」

まっすぐな眼差し。にこやかな微笑み。
けれどその裏に、逃げ場のない鋭さを感じてしまう。

「わ、わたしは……」

しずくは唇を噛み、言葉を探した。

「わたしには……荷が重いかと……。」

「ほら見ろ!」

カレンがすかさず声を張り上げ、卓を叩いた。

「本人がこれだ!
やはり、こんな子を仲間に入れるべきじゃ――」

「……いい加減にしなさい。」

冷ややかな声が、カレンの言葉を断ち切った。

銀髪の魔導師、№3のエリスが立ち上がる。

「セラフィナ様の会話を、これ以上遮るなら――私が許しませんよ。」

カレンは一瞬たじろぎ、言葉を失った。

その間も、セラフィナはにこやかな笑みを崩さない。

「できる、できないではなく――」

彼女は柔らかく首を傾げ、問いかける。

「あなたは、どうしたいの?」

しずくの胸に、あの日の記憶が蘇る。

優しく笑った姉の声。
その面影が、涙とともにこみ上げた。

「……わたしは。」

声が震える。

それでも――はっきりと。

「わたしは――るりお姉ちゃんみたいな魔法少女に、なりたいです。」

議場がざわめいた。

「……るり、お姉ちゃん?」

声が飛び交う。
視線が鋭く、驚愕に染まる。

リサが思わず身を乗り出した。

「おい、しずく……お前、まさか――」

エレナが思わず手を口に当てる。

「……真壁るりさんの妹……。」

クラウディアが立ち上がり、蒼い瞳を大きく見開いた。

「信じられない……。
あの伝説に、血を分けた妹がいるというのか?」

ギルベルトは目を細め、指で机をとんとん叩きながら低く笑った。

「なるほどな……。あの“希望の槍”の妹か。
ならば確かに、注目されるわけだ。」

ライラは大声で笑い、椅子の背に拳を打ちつける。

「マジかよ! 真壁るりの妹!?
そりゃ面白え!」

ミラは妖艶な微笑を深め、紫の瞳を細めた。

「……ふふ。なるほど。
だからこそ《白封筒》でも“選ばれた”のかしら。」

カレンは唇を噛みしめ、睨みつける。

「……っ。嘘でしょ。
よりによって……あの人の……」

セラフィナは、にこにこと微笑んだまま手を組んだ。

「なるほど……まさか、るりさんの妹さんだったとは……」

エリナが小さく息を呑む。

「しずく、知らなかったの?
……真壁るりさんは――先代の№1よ。」

「……っ」

しずくの呼吸が止まる。

そのとき。
これまで黙っていた重装鎧のガレスが、ゆっくりと顔を上げる。

「……私は、賛成だ。」

低く響く声が議場に落ちる。

「るりさんには、かつて私も命を救われた。
だから……その妹である彼女を、認めよう。」

セラフィナが頷き、議場を見渡す。

「そうね。
ここにいる人は皆、るりさんに命を助けられているはずだわ。」

その声は柔らかく、にこやかに響く。
けれど、その目は笑っていなかった。

「異論はないわね?」

そして――優しい笑みのまま、カレンへ視線を向ける。

「そうよね? カレン?」

「っ……はい……。」

カレンは悔しさを滲ませながらも、うつむき、声を絞り出した。

セラフィナが小さく手を打つ。

「では、決まりね。」

にこやかな声が、鐘の音のように響く。

「しずくさん。
あなたは今日から――正式に我ら魔法少女として迎え入れるわ。」

――その瞬間、議場の空気が決定的に変わった。

重い沈黙を破ったのは、扉の軋む音だった。

ぎい……と開かれた扉から、一人の女性が現れる。

漆黒のロングジャケットを纏い、銀縁の眼鏡をかけた切れ長の瞳。
背筋はまっすぐで、歩みの一つひとつが冷徹な権威をまとっていた。

十星が一斉に椅子を離れ、頭を垂れる。

「決まったようね。」

女性は低く、それでいてよく通る声で告げた。

「真壁しずくさん――あなたを調べさせてもらったわ。
あなたは、先代№1――真壁るりさんの妹さんね。」

静かな間を置き、彼女は自らを名乗った。

【イザベラ・クロムウェル】

《魔法少女管理局・総監》

「私はイザベラ・クロムウェル。《魔法少女管理局・総監》を務めている者です。」

その目が、鋭くもしずくを射抜く。

「あなたには才能がある。
加入が認められて、本当に良かった。」

ライラが肩をすくめて笑う。

「ははっ! あんたが言えば、誰も逆らえないってのに。」

イザベラは首を横に振り、冷静に答える。

「……あなたたちの意見を尊重したかったの。
だから――このような結果で終われて、よかったわ。」

しずくに視線を戻し、静かに右手を差し出す。
そして表情をわずかに緩め、唇に小さな笑みを浮かべた。

「……歓迎するわ、白い魔法少女さん。」

言葉を継ぎ、議場に響かせる。

「まずはリサの部隊――№2に入ってもらうわ。」

「――任せろ。」

リサが椅子を蹴るように立ち上がり、短く言い切った。
その声には、獣のような確信と闘志が宿っていた。

イザベラは頷き、冷徹な口調を取り戻す。

「まずは基礎を叩き込みなさい。以上――解散。」

重々しい扉が再び開かれ、会議の幕が下りた。

しずくはまだ震える膝を押さえながら、
己の胸に宿る鼓動を必死に聞き取っていた。
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