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第35話 絶対秩序《アブソルート・オーダー》
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──そして、白光隊が正式に編成された。
カレンはしずくの席へ静かに歩み寄り、
机に並んだ資料を指でなぞりながら語り始めた。
「しずく、白光隊の説明をする。
もともと私の隊だったメンバーはおよそ三割。
他はすべて新規だ。つまり、戦闘経験が浅い者ばかりという不安がある。
そこで――この隊では、訓練と練兵を重点的に行う。リリアと私に任せてもらう。」
リリアが一歩前に出て、静かに言った。
「私の得意分野です」
しずくは少し戸惑いながら問いかけた。
「えっと……私は、何を担当すれば……?」
カレンは微笑を浮かべたが、その目には確かな厳しさが宿っていた。
「しずく――お前はナンバーズとして覚えるべきことが多い。
もしかしたら――君がいちばん大変かもしれない」
「えっ……?」
胸が強く跳ねた。
こうして、しずくのナンバーズとしての業務が始まった。
戦場で拳を振るうだけではない。
資料整理、予算の管理、隊の作戦行動の立案、指示系統の構築――
彼女にとって、拳を上げるよりも厳しい戦いが、デスクの上に待っていた。
時が過ぎ――初日の業務があっという間に終わろうとしていた。
「ん、もうこんな時間か。しずく、今日はこのくらいにしておくか」
カレンが声を掛けた。
「そ、そうですか……」
しずくは机に突っ伏して、ため息をついた。
「ああ。だいぶ大変そうだな」
カレンは隣で軽く肩を叩いた。
「そうですね……事務関係がこんなに大変とは。あと、戦略面も……」
しずくは俯いたまま呟いた。
カレンは顎に手を当て、しばし考え込んだ。
「ふむ。事務関係は、秘書をつけた方がいいな……」
少し間を置いて続ける。
「戦闘面なら私の意見だけでなく、
他のナンバーズの意見も聞くと、うまくいくかもしれない」
「ほ、他のナンバーズ……?」
しずくは顔を上げ、不安と希望が混じる目をカレンに向けた。
「そう。戦略面で頼りになる人といえば……彼女しかいないだろうな」
翌日――。
しずくは指定された部屋の前で足を止めた。
薄明かりの廊下、刻まれたライン、冷たいタイルの床が静まり返っている。
扉に手を添え、軽くノックを入れる。
コンコン
返事はすぐに、低く響いた。
「入れ」
躊躇を少し抱えながら、しずくは扉を押し開けた。
そこに立っていたのは、重厚な雰囲気をたたえた――
ギルベルト・シュトラールだった。
整った軍服、磨かれた階級章、無駄のない姿勢。
佇まいはまさに軍律そのものだった。
「ふむ、定刻通りだな」
軍令のような口調で、ギルベルトがゆっくりと歩み寄る。
コツコツと、靴底が廊下に響く音が重く静かに。
その一歩ごとに、空気が引き締まっていくようだった。
そして彼女は立ち止まり、
しずくを真正面から見据えた。
「それでは、真壁しずくよ。ナンバーズとしての帝王学――
私が叩き込んでやろう!!」
その宣言は、雷鳴のように響いた。
しずくは無意識に背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
静かな訓練場へ向かう廊下を、ギルベルトとしずくは並んで歩いていた。
ギルベルトの歩幅は一定で、
まるで歩くたびに鉄の規律が床に刻まれていくようだった。
「しずくよ――君がナンバーズとなったということは、
ただ戦う力を手に入れたということではない。
上に立つ者の責務、隊を率いる者の覚悟、それを背負ったということだ」
ギルベルトの声は低く、しかし一歩ずつその言葉に重みを込めていた。
しずくはその言葉を胸に刻むように頷いた。
「隊長を名乗る者は、味方の隊員が迷わぬよう道を示さねばならぬ。
前線へと送り出す者として、それがどういうことか、
君はもう理解しているはずだ」
しずくはしばらく言葉を探し、ようやく口を開いた。
「はい…理解しています。私が前に立ち、道を示すべきだと…」
ギルベルトは無言で頷き、訓練場の大きな門を静かに押し開けた。
風がそよぎ、鉄製の大扉が静かに音を立てる。
「では――実践だ」
扉が開くと、その先ではエクリプス隊員と魔法少女たちが訓練を行っていた。
その様子を見たギルベルトの声が一気に変わる。
「おい、そこ! 動きが遅いぞ!」
その一声で、場の空気が瞬時に硬く締まり付いた。
「はい!!」
隊員が大声で応える。
「もう一度だ!」
隊員たちは息を整え直し、再び動き出した。
ギルベルトはしずくに顔を向けて低く言う。
「しずく、観察せよ――」
そして全体に向けて、檄を飛ばした。
「マガツとの戦闘は、一瞬が命取りだ。
彼女らエクリプスには、我々のような突出した能力はない。
生き残るためには、瞬時の判断で道を切り拓くしかない。
それを指揮し、判断するのが――我々だ」
しずくの胸に、熱くその言葉が突き刺さった。
砂埃が舞い、隊員たちの息遣いが訓練場に響く。
ギルベルトは鋭く目を光らせ、しずくを真っ直ぐに見据えた。
「君はこれから、戦場だけでなく――すべての時において、
隊を動かす者となる。覚悟を」
しずくは拳を握りしめ、視線を前に定めた。
「はい、覚悟しています」
再び、あるエクリプスが遅れ始めた。
訓練場の冷たい風が吹き抜け、砂ぼこりが舞う。
「また遅れているぞ!」
その声が、訓練場の静寂を切り裂いた。
「も、申し訳ありません!」
女性は深く頭を下げた。
ギルベルトは軽く息を吐き、無言でその女性に近づいた。
その歩みが、しずくには異様に感じられた。
「もういい。体に教えこんでやろう」
女性がかすかに後ずさる。
「え、なにをする気ですか…。まさか――」
しずくが声を漏らす。
ギルベルトは隊員の前で手を大きく広げた。
その瞬間、空気が歪んだように静まり返る。女性の瞳が見開かれ、身体がピタリと止まる。
次の瞬間――。
女性の動きが一変した。
先ほどとは打って変わり、素早く動き、射撃までを一連の動作でこなしていた。
「こ、これって…」
しずくは思わず顔を上げ、驚きに声を震わせる。
ギルベルトが低く口を開いた。
「驚いたか。これが、私の能力、絶対秩序だ。
ギルベルトは淡々と続ける。
「この能力は、私の指示通りに、
遅れなく――恐怖や感情に支配されず、即座に行動に移せる。
それこそが、戦場における最大の強みだ」
しかし、しずくの眉がわずかにひそめられた。
「でも……もし、その行動が間違いだった時は……?」
その言葉が空気を震わせた次の瞬間、横から鋭く、しかし揺るぎない声が響いた。
「愚問です、ナンバー10」
振り向くと、そこには銀灰色の短髪と鋭い眼差しを持つ魔法少女がいた。
ギルベルトの隊章を誇らしげに身に付けている。
「私たちは、ギルベルト様を信頼しています」
その声には、一切の迷いがなかった。
「ギルベルト様の命令に従い、その通りに動くこと――
それが、最も生存率が高く、勝率が高いと証明されているのです」
「たとえその判断で、自分の命が失われようとも――
それは、部隊全体にとって最善の選択。
だから、私たちは個を捨て、部隊の勝利を優先するのです」
凛としたその言葉に、しずくは思わず息を呑んだ。
(すごい……これが、ギルベルトさんの隊……)
重厚な規律と信頼が、この部隊を支えている。
その空気に、しずくは圧倒されながらも、確かに何かを感じ取っていた。
ギルベルトは懐から分厚い資料ファイルを取り出し、淡々とページをめくる。
視線は書面から動かず、無感情な声が空気を切り裂いた。
「報告によると――お前は、リサの指示を無視してカレンを助けに行った。
そして、その場面でも全滅の可能性が高いにも関わらず、
独断で救出行動に出たとある」
しずくはハッとし、思わず一歩引いた。
「……ナンバーズとして、それは絶対にあってはならない行動だ」
ギルベルトは書類から顔を上げ、しずくを鋭く見つめた。
その瞳には怒りではなく、重々しい責任の色があった。
「いいか、真壁しずく。お前一人の命では済まない。
お前の判断が、部隊全体を――いや、人類の命運すら左右するのだ」
しずくは言葉を失い、ただギルベルトの言葉に耳を傾けた。
「今回は、成功したのかもしれん。だが、それはたまたまだ。
次もそうなるとは限らない。……いいや、むしろ、次は誰かが確実に死ぬ」
ページを静かに閉じながら、ギルベルトは締めくくった。
「リサの判断は正しかった。お前は味をしめるな。
ナンバーズという立場で、奇跡に頼るような思考は捨てろ」
その言葉のひとつひとつが、しずくの胸に痛烈に刺さった。
ギルベルトはしずくの目をまっすぐに見据えた。
その瞳には、迷いも甘さも一切なかった。
「……我々ナンバーズは、隊員たちの命を預かっている」
低く、重く、地を這うような声が静かに響く。
「自分の判断一つで、何十人の命が失われる。それが我々の責務だ」
しずくの胸に、ひとつ、重い鉛のようなものが落ちた。
「全員を、必ず助けようとは思うな。
その思考こそが、部隊全体を危機に陥れる。命取りになるのだ」
ギルベルトは足を止め、訓練場の中央で振り返った。
冷たい風が、しずくの頬を撫でる。
「上に立つ者は、時に非常な判断を下さねばならない。
誰か一人を切り捨て、多くを守る決断を――だ」
その言葉に、しずくは唇を噛んだ。
「……それを、覚悟しろ。真壁しずく。優しさだけでは、指揮官は務まらん」
上に立つ者としての責任――それは、想像以上に重く、苦しいものだった。
カレンはしずくの席へ静かに歩み寄り、
机に並んだ資料を指でなぞりながら語り始めた。
「しずく、白光隊の説明をする。
もともと私の隊だったメンバーはおよそ三割。
他はすべて新規だ。つまり、戦闘経験が浅い者ばかりという不安がある。
そこで――この隊では、訓練と練兵を重点的に行う。リリアと私に任せてもらう。」
リリアが一歩前に出て、静かに言った。
「私の得意分野です」
しずくは少し戸惑いながら問いかけた。
「えっと……私は、何を担当すれば……?」
カレンは微笑を浮かべたが、その目には確かな厳しさが宿っていた。
「しずく――お前はナンバーズとして覚えるべきことが多い。
もしかしたら――君がいちばん大変かもしれない」
「えっ……?」
胸が強く跳ねた。
こうして、しずくのナンバーズとしての業務が始まった。
戦場で拳を振るうだけではない。
資料整理、予算の管理、隊の作戦行動の立案、指示系統の構築――
彼女にとって、拳を上げるよりも厳しい戦いが、デスクの上に待っていた。
時が過ぎ――初日の業務があっという間に終わろうとしていた。
「ん、もうこんな時間か。しずく、今日はこのくらいにしておくか」
カレンが声を掛けた。
「そ、そうですか……」
しずくは机に突っ伏して、ため息をついた。
「ああ。だいぶ大変そうだな」
カレンは隣で軽く肩を叩いた。
「そうですね……事務関係がこんなに大変とは。あと、戦略面も……」
しずくは俯いたまま呟いた。
カレンは顎に手を当て、しばし考え込んだ。
「ふむ。事務関係は、秘書をつけた方がいいな……」
少し間を置いて続ける。
「戦闘面なら私の意見だけでなく、
他のナンバーズの意見も聞くと、うまくいくかもしれない」
「ほ、他のナンバーズ……?」
しずくは顔を上げ、不安と希望が混じる目をカレンに向けた。
「そう。戦略面で頼りになる人といえば……彼女しかいないだろうな」
翌日――。
しずくは指定された部屋の前で足を止めた。
薄明かりの廊下、刻まれたライン、冷たいタイルの床が静まり返っている。
扉に手を添え、軽くノックを入れる。
コンコン
返事はすぐに、低く響いた。
「入れ」
躊躇を少し抱えながら、しずくは扉を押し開けた。
そこに立っていたのは、重厚な雰囲気をたたえた――
ギルベルト・シュトラールだった。
整った軍服、磨かれた階級章、無駄のない姿勢。
佇まいはまさに軍律そのものだった。
「ふむ、定刻通りだな」
軍令のような口調で、ギルベルトがゆっくりと歩み寄る。
コツコツと、靴底が廊下に響く音が重く静かに。
その一歩ごとに、空気が引き締まっていくようだった。
そして彼女は立ち止まり、
しずくを真正面から見据えた。
「それでは、真壁しずくよ。ナンバーズとしての帝王学――
私が叩き込んでやろう!!」
その宣言は、雷鳴のように響いた。
しずくは無意識に背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
静かな訓練場へ向かう廊下を、ギルベルトとしずくは並んで歩いていた。
ギルベルトの歩幅は一定で、
まるで歩くたびに鉄の規律が床に刻まれていくようだった。
「しずくよ――君がナンバーズとなったということは、
ただ戦う力を手に入れたということではない。
上に立つ者の責務、隊を率いる者の覚悟、それを背負ったということだ」
ギルベルトの声は低く、しかし一歩ずつその言葉に重みを込めていた。
しずくはその言葉を胸に刻むように頷いた。
「隊長を名乗る者は、味方の隊員が迷わぬよう道を示さねばならぬ。
前線へと送り出す者として、それがどういうことか、
君はもう理解しているはずだ」
しずくはしばらく言葉を探し、ようやく口を開いた。
「はい…理解しています。私が前に立ち、道を示すべきだと…」
ギルベルトは無言で頷き、訓練場の大きな門を静かに押し開けた。
風がそよぎ、鉄製の大扉が静かに音を立てる。
「では――実践だ」
扉が開くと、その先ではエクリプス隊員と魔法少女たちが訓練を行っていた。
その様子を見たギルベルトの声が一気に変わる。
「おい、そこ! 動きが遅いぞ!」
その一声で、場の空気が瞬時に硬く締まり付いた。
「はい!!」
隊員が大声で応える。
「もう一度だ!」
隊員たちは息を整え直し、再び動き出した。
ギルベルトはしずくに顔を向けて低く言う。
「しずく、観察せよ――」
そして全体に向けて、檄を飛ばした。
「マガツとの戦闘は、一瞬が命取りだ。
彼女らエクリプスには、我々のような突出した能力はない。
生き残るためには、瞬時の判断で道を切り拓くしかない。
それを指揮し、判断するのが――我々だ」
しずくの胸に、熱くその言葉が突き刺さった。
砂埃が舞い、隊員たちの息遣いが訓練場に響く。
ギルベルトは鋭く目を光らせ、しずくを真っ直ぐに見据えた。
「君はこれから、戦場だけでなく――すべての時において、
隊を動かす者となる。覚悟を」
しずくは拳を握りしめ、視線を前に定めた。
「はい、覚悟しています」
再び、あるエクリプスが遅れ始めた。
訓練場の冷たい風が吹き抜け、砂ぼこりが舞う。
「また遅れているぞ!」
その声が、訓練場の静寂を切り裂いた。
「も、申し訳ありません!」
女性は深く頭を下げた。
ギルベルトは軽く息を吐き、無言でその女性に近づいた。
その歩みが、しずくには異様に感じられた。
「もういい。体に教えこんでやろう」
女性がかすかに後ずさる。
「え、なにをする気ですか…。まさか――」
しずくが声を漏らす。
ギルベルトは隊員の前で手を大きく広げた。
その瞬間、空気が歪んだように静まり返る。女性の瞳が見開かれ、身体がピタリと止まる。
次の瞬間――。
女性の動きが一変した。
先ほどとは打って変わり、素早く動き、射撃までを一連の動作でこなしていた。
「こ、これって…」
しずくは思わず顔を上げ、驚きに声を震わせる。
ギルベルトが低く口を開いた。
「驚いたか。これが、私の能力、絶対秩序だ。
ギルベルトは淡々と続ける。
「この能力は、私の指示通りに、
遅れなく――恐怖や感情に支配されず、即座に行動に移せる。
それこそが、戦場における最大の強みだ」
しかし、しずくの眉がわずかにひそめられた。
「でも……もし、その行動が間違いだった時は……?」
その言葉が空気を震わせた次の瞬間、横から鋭く、しかし揺るぎない声が響いた。
「愚問です、ナンバー10」
振り向くと、そこには銀灰色の短髪と鋭い眼差しを持つ魔法少女がいた。
ギルベルトの隊章を誇らしげに身に付けている。
「私たちは、ギルベルト様を信頼しています」
その声には、一切の迷いがなかった。
「ギルベルト様の命令に従い、その通りに動くこと――
それが、最も生存率が高く、勝率が高いと証明されているのです」
「たとえその判断で、自分の命が失われようとも――
それは、部隊全体にとって最善の選択。
だから、私たちは個を捨て、部隊の勝利を優先するのです」
凛としたその言葉に、しずくは思わず息を呑んだ。
(すごい……これが、ギルベルトさんの隊……)
重厚な規律と信頼が、この部隊を支えている。
その空気に、しずくは圧倒されながらも、確かに何かを感じ取っていた。
ギルベルトは懐から分厚い資料ファイルを取り出し、淡々とページをめくる。
視線は書面から動かず、無感情な声が空気を切り裂いた。
「報告によると――お前は、リサの指示を無視してカレンを助けに行った。
そして、その場面でも全滅の可能性が高いにも関わらず、
独断で救出行動に出たとある」
しずくはハッとし、思わず一歩引いた。
「……ナンバーズとして、それは絶対にあってはならない行動だ」
ギルベルトは書類から顔を上げ、しずくを鋭く見つめた。
その瞳には怒りではなく、重々しい責任の色があった。
「いいか、真壁しずく。お前一人の命では済まない。
お前の判断が、部隊全体を――いや、人類の命運すら左右するのだ」
しずくは言葉を失い、ただギルベルトの言葉に耳を傾けた。
「今回は、成功したのかもしれん。だが、それはたまたまだ。
次もそうなるとは限らない。……いいや、むしろ、次は誰かが確実に死ぬ」
ページを静かに閉じながら、ギルベルトは締めくくった。
「リサの判断は正しかった。お前は味をしめるな。
ナンバーズという立場で、奇跡に頼るような思考は捨てろ」
その言葉のひとつひとつが、しずくの胸に痛烈に刺さった。
ギルベルトはしずくの目をまっすぐに見据えた。
その瞳には、迷いも甘さも一切なかった。
「……我々ナンバーズは、隊員たちの命を預かっている」
低く、重く、地を這うような声が静かに響く。
「自分の判断一つで、何十人の命が失われる。それが我々の責務だ」
しずくの胸に、ひとつ、重い鉛のようなものが落ちた。
「全員を、必ず助けようとは思うな。
その思考こそが、部隊全体を危機に陥れる。命取りになるのだ」
ギルベルトは足を止め、訓練場の中央で振り返った。
冷たい風が、しずくの頬を撫でる。
「上に立つ者は、時に非常な判断を下さねばならない。
誰か一人を切り捨て、多くを守る決断を――だ」
その言葉に、しずくは唇を噛んだ。
「……それを、覚悟しろ。真壁しずく。優しさだけでは、指揮官は務まらん」
上に立つ者としての責任――それは、想像以上に重く、苦しいものだった。
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