白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第37話 アンナ・ヴェイル

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しずくは、自室の前で小さくため息をついた。


 一日を終え、ようやく戻ってきた――そのはずだった。


しかし、扉の向こうからにぎやかな声が聞こえてくる。 


「それは本当に驚きました。まさか、あの場で……」 


「ふふっ、でしょ?」 


不思議に思いながら扉を開けると、


部屋の中ではアヤメとアンナが楽しげに会話をしていた。


 ふたりとも、ソファに座って笑顔を交わしている。 


「えっと……ふたりとも、どうしてここに?」


 しずくが戸惑いながら声をかけると、


アンナがすぐに立ち上がり、笑顔で頭を下げた。


 「しずく様、おかえりなさいませ!」 


続いてアヤメも立ち、落ち着いた口調で報告する。 


「しずく様。アンナさんが、

白光隊ルミナスホワイトに配属されることになりました」


 「――えっ!? 本当に!?」


 しずくの目が見開かれ、思わず声が裏返る。


 アンナは嬉しそうに微笑みながら、小さくピースを見せた。 


「はい! 本日よりナンバー10 白光隊ルミナスホワイト所属となります。 


改めて、よろしくお願いいたします!」


 すると、アヤメが一歩前に出て、静かに補足する。 


「アンナさんは、事務のエキスパートなんです。 


帳簿や予算管理、申請書類など――


なんでも完璧にこなすと、以前から噂されていました」 


「そ、そうなんだ……」 


「はい。隊の運営を支えるうえで、これほど頼もしい方はいないと思います」


 丁寧にお辞儀をするアンナに、しずくは戸惑いながらも頷く。


 「ありがとう……でも、どうして急に?」


 その様子を見て、アンナが少し照れたように笑いながら言葉を添える。


 「実は……しずく様のことが好きなのもありますけど、 


お姉ちゃんに言われたのも大きいです」


 「お姉ちゃん?」 


「ミラお姉ちゃんですよ。№8のミラ・ヴェイルです。」 


その名を聞いた瞬間、しずくとアヤメの動きが止まった。


 「え……」 


「え、ええええ!?ミ 、ミラさんの妹さん!?」 


アヤメとしずくが驚きつつも冷静に確認すると、


アンナはふふっと笑みを浮かべ、こくりと頷いた。 


「そうです。今日は久しぶりに部屋に来て、


いきなり“白封筒の隊に入りなさい”って言ってきて……  


気づいたら、もう内示書も出してあって」 



「ミラさん……行動が早いというか、なんというか……」



 「でも、しずく様の隊だったから、全部オールオッケーでした」


 そう言いながらアンナは再び笑い、小さく両手でピースを作ってみせた。


 しずくは思わずくすっと笑い、アヤメの方に目を向ける。 


「ありがとう。すごく心強いです」 


「はい。これで隊の業務も、かなり円滑になるかと。私も安心しました」 


「しずく様のために、精一杯がんばりますね!」



 アンナの言葉に、しずくはにっこりと微笑み返した。


 ――こうして、白光隊《ルミナスホワイト》に


 №8ミラ・ヴェイルの妹・アンナが加わることになった。


しずくのもとに、最強の秘書が着任した瞬間である。


 ……とても賑やかで、頼もしい仲間が。





翌日から、アンナはしずくの秘書として本格的に業務を開始した。


その手際の良さは、まさに神業の域だった。



大量の書類を次々と処理し、報告書の整形、予算の再編、

スケジュール管理まで――


すべてを短時間で完璧にこなす。



となりでそれを見ていたカレンは、ぽかんと口を開けたまま呟いた。


「……私より早いな」


白光隊《ルミナスホワイト》は、

そんなアンナの活躍で一気に組織としての形を整えはじめた。


同時に、カレンとリリアの厳しくも的確な訓練によって、


隊員たちの練度も急速に高まっていく。


まだ結成して間もない新編隊だったが、

数日のうちに戦える部隊としての輪郭をはっきりと見せ始めていた。


――そして、ある日のこと。


「しずく様!」


元気な声とともに、アンナが両手に何かを抱えて部屋へ駆け込んできた。


「来週、ユナイトアークのレセプションパーティーがあります!」


「れ、レセプションパーティー?」


しずくが目を丸くすると、カレンが肩をすくめながら答えた。


「もうそんな時期か……」


「え、えっと……レセプションって、なんですか……?」


しずくの問いに、カレンがソファに腰を下ろしながら淡々と説明を始める。


「ユナイトアークを広くアピールする場でもあり、


 施設の維持・拡張に必要な資金を集めるため、スポンサーのご機嫌を取る会だ」



「ご、機嫌取り……」



「しずくがナンバーズに就任したばかりってのもあって、


 今回は君が“目玉”だろうな。主役ってわけだ」



「えぇぇ……わたし、そういうの苦手です……」



肩を落とすしずくに、カレンはにっこりと笑って追い打ちをかける。



「まぁそう言うな。これも立派なナンバーズの仕事だ。

 スポンサーの機嫌を損ねて資金を引き上げられたら、

部隊どころかユナイトアーク全体が危機になる。 ――失敗は許されんぞ?」


笑顔は穏やかでも、言葉の刃は鋭い。



「ううっ……プレッシャーが……」



だが、そこで頼れる秘書が満面の笑みで胸を張る。



「お任せください、しずく様!

スピーチ原稿、出席者リスト、会場図、当日のスケジュール――

すべて私が把握し、管理しております! 私にお任せください!」



「さ、さすが……アンナちゃん……!」



すると彼女は、勢いよく両手を広げ――


その手には、大量のドレスや衣装が山のように積まれていた。



「ちなみに……こちら! どのコーディネートでご参加なさいますか?」



「えっ、そ、それ今決めるの!?」



そのタイミングでアヤメが飛びつくように一着を手に取った。


「うおおおお!!これ! しずく様、これにしましょう!!」


「ア、アヤメちゃん!? それ……丈が短すぎるよっ!」


「うう、可愛いと思ったのに……」


続いて、リリアも無言で一着を掲げる。


「隊長。これがいい」


「リリア……それ、水着だぞ。 というか、なんでそんなもの持ってるんだ……?」


カレンの突っ込みも空しく、服選びのカオスが部屋を支配し始める。


しずくは額を押さえながら、深いため息をついた。


(……本当に、ナンバーズって、大変だなぁ……)


――果たして、しずくは無事にレセプションを乗り越えられるのか。


その答えは、まだドレスの山の中――。
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