38 / 109
第38話 総統ゼノン・レイブン
しおりを挟む「……以上をもちまして、ユナイトアーク・レセプションを開会といたします」
壇上から響いたのは、
魔法少女管理局・総監である イザベラ・クロムウェルの堂々たるスピーチだった。
会場には大きな拍手が巻き起こる。
しずくは会場の隅で胸にそっと手を当て、小さく呼吸を整えた。
(……終わった。アンナちゃんが用意してくれた台本通りに、
なんとかスピーチも進んだし……)
式の進行、挨拶回り、スピーチ――すべてが初めての経験だったが、
アンナの支えがあった。
「ふぅ――疲れた……。」
思わず呟いて、しずくは壁にもたれかかる。
式はそのまま立食形式の会食タイムへと移った。
グラスの音、歓談の声、料理の香りが次々に空間へ溶け込んでいく。
華やかな会場の中で、しずくはそっと息をついた。
「お疲れ様、大丈夫?」
背後から柔らかな声が聞こえ、
顔を上げると――すぐ隣にイザベラが立っていた。
「あっ……お疲れ様です。ありがとうございます。なんとか……大丈夫です」
しずくはグラスを両手で抱え、震えた声で応える。
「息苦しいだろうけど、頼むわね。これもナンバーズの役割だから」
その言葉は静かで、だが確かな重みを帯びていた。
その後、声を落とし――
「それと、ガレスから聞いたわよ。――“生命の間”を見たそうね。」
「……す、すみません……私なんかが……」
しずくは頭を下げそうになったが、イザベラはふっと微笑んだ。
「いいのよ。ガレスが自分の判断で許可したのなら。」
しずくは顔をあげ、改めてイザベラを見た。
「あの子が……誰にも許可を出さなかったガレスが、あなたにだけは見せたのね」
その言葉を添え、小さく目を細める。
「もう、あなたは立派なナンバーズだわ。これからも頼りにしてるからね」
「はい……!」
しずくの返事は思わず大きくなった。だがその直後――
イザベラの表情は一変した。
「――来たわ。失礼のないように。」
その言葉に、しずくは無意識に背筋を伸ばした。
イザベラが視線を向けた先。
護衛を数名従えた一人の人物が、こちらへゆっくりと歩み寄ってくる。
その姿に、しずくの心臓が跳ねた。
(あの人は――)
耳の奥で、アンナの声が蘇る。
「いいですか、しずくさん! 絶対に覚えてほしい人がいます。
我がユナイトアークのトップ、総統ゼノン・レイブン様です!
ぜーったい失礼のないようにお願いします!!」
その言葉の意味が――今、この瞬間に、目の前に現れていた。
身に纏うのは深い紺灰色の礼装軍服。金色の刺繍が肩から胸元を飾り、
赤いタイと白いシャツのコントラストが格式を際立たせている。
オールバックに撫で付けられた灰黒の髪。鋭い顎のライン。
隙のない姿勢。全てが計算されたように洗練されていた。
軽やかな足取りに迷いはなく、
口元には穏やかな笑みを浮かべている――が。
その瞳だけは違っていた。
まるで全てを見透かすかのような、冷たく、鋭い光を宿している。
しずくの背筋には、はっきりと冷たいものが走った。
(……この人が……ユナイトアークの頂点……)
整った口調、洗練された身振り。
(緊張する……、失礼は絶対に、できない)
しずくは自然と姿勢を正し、息を整えた。
ゼノン・レイブンは歩みを止め、
しずくの前に立った。
そして――やわらかく笑みを浮かべ、丁寧に頭を下げた。
「やあ、はじめまして。
わたくし、ユナイトアーク総統のゼノン・レイブンと申します」
その表情は丁寧で、まるで旧知の人間に接するかのように微笑んでいる。
「お会いできて光栄ですよ、真壁しずくさん――でしたね?」
その声は低く穏やかで、まるで緊張をほぐすかのように優しかった。
さっきまで感じていた威圧感が、嘘だったかのように思えるほどだ。
しずくは一瞬戸惑いながらも、慌てて頭を下げた。
「……真壁しずくです。はじめまして。お会いできて、光栄です」
ゼノンはやわらかく微笑んだまま、しずくの顔をじっと見つめる。
「あなたのご活躍、報告で目にしましたよ。
とても頼もしく、そして勇敢な方だと。
……イザベラ総監の指導のたまものですね」
その言葉に、すぐ隣にいたイザベラが一歩進み出て、軽く会釈する。
「――過分な評価をいただき、恐縮です。
真壁は吸収も早く、責任感もある。期待に応えられる器です」
ゼノンはその答えに軽く頷き、わずかに目を細める。
「……ふむ。なるほど。君がそう言うのなら、なおさら信頼できそうだ」
イザベラは静かに一礼する。
その動作は凛としていて、威厳すら感じさせた。
その時――
ゼノンの背後にいた護衛の一人が一歩前に出て、静かに耳打ちした。
「総統、次の予定が迫っております」
ゼノンは微かに頷き、再びしずくに向き直る。
「この世界を守る者として、あなたのような若き力が必要なのです。
どうかこれからも、ユナイトアークを、そして、人類の未来を支えてくださいね」
「これからも――よろしくお願いしますよ、真壁しずくさん」
そして、すっと手を差し出す。
しずくも一瞬の躊躇の後、真っ直ぐにその手を握り返した。
「はい。よろしくお願いいたします」
握手は短く、しかし確かな重みがあった。
ゼノンはそのまま姿勢を正し、再び敬礼のように軽く頭を下げる。
「では――失礼いたします」
背を向け、護衛たちと共に静かにその場を離れていくゼノン・レイブン。
その後ろ姿は優雅で、どこか芝居がかった所作ですらあった。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです
天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。
その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。
元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。
代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ
takahiro
ファンタジー
首を落とされても心臓を突かれても一瞬にして再生する、絶対の不死性を持つ吸血鬼、ヴィルヘルミナ。
遥か古代より存在し続ける彼女は、ある時は国を動かし歴史を変え、ある時は死にかけの人間を拾い、ある時は人間の野望に巻き込まれ、気の向くままに世界を放浪していた。
人間を見境なく喰らう連中が大嫌いなヴィルヘルミナは、ことある事に吸血鬼と対立し、各地で闘争を繰り広げる。
人間と関わることを好む異端の吸血鬼は、数え切れない人間と接し、そして数多の人間の死に様を目の当たりにする。
吸血鬼ヴィルヘルミナの目が映す、数知れない人々の紡ぐ大河ファンタジーが今、幕を開ける。
======【第一部 13世紀編】ヴィルヘルミナは吸血鬼を戦争に使っているバカがいると耳にし、400年前に魔王を倒した勇者の末裔、ポメレニア辺境伯アドルフを訪ねる。どうやら吸血鬼を投入しているのは辺境伯ではなく彼の敵、諸種族連合軍の方らしい。吸血鬼が現れた場合のみの協力を約束しつつ、ヴィルヘルミナは辺境伯アドルフと行動を共にすることにした。吸血鬼との戦いの行く末、そして辺境伯が望む未来とは……
======お気に入りや感想など、励みになるのでどうぞよろしくお願いします。毎日一話投稿します。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです
ちありや
ファンタジー
クラスメートからのイジメが元で死んでしまった主人公は、その報われぬ魂を見かねた女神によって掬い上げられ異世界で転生する。
女神から授けられた不思議な剣を持つことで、彼はあらゆる敵に打ち勝ちあらゆる難問を解き明かし、あらゆる女性を虜にする力を手に入れる。
無敵の力を手に入れた男が次に望む物は果たして…?
不定期連載(7〜10日間隔で出していく予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる