白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第46話 コウモリの導き

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ユナイトアーク内部――

緊張と沈黙が交錯する、異様な空気の中で、

捜索が始まった。


ギルベルトにより選抜された部隊が、

管理局の隅々まで走り回る。

魔法少女たちの居住区、

会議室、補給庫、訓練場――


一つ一つの部屋が調べられ、記録が洗われ、

立ち入り記録が照合された。


ナンバーズも例外ではなかった。


全員が身体検査、事情聴取のチェックを受けた。


あの誇り高い彼女たちすら、

沈黙のまま、それを受け入れた。

しかし。


「……何も、出てこない、だと?」

ギルベルトの呟きが、沈黙の中でこだました。

不審人物の目撃なし。侵入の痕跡なし。


凶器も、決定的な証拠も、

何ひとつ――見つからなかった。



まるで、最初から「何もなかった」かのように。


それでも、時間は容赦なく流れる。





深紅の絨毯が敷き詰められた会議室に、

静寂が広がっていた。

そこに立つのは、ナンバーズ。

そして報告の中心にいたのは、


魔法少女№1セラフィナ・クレスト。

彼女の澄んだ声が、張り詰めた空気を震わせる。


「……以上が、イザベラ・クロムウェルに関する、現在の状況です」



その言葉の直後、椅子に座る一人の男が、

静かに目を伏せた。

ユナイトアーク総統――ゼノン・レイブン。

紺灰色の軍服身を包み、

背筋を伸ばしたその姿は、まるで鋼の彫像のようだった。


ゼノンは額に指を当て、わずかに目を閉じる。


「……なんてことだ……まさか、イザベラ君が……」


ため息交じりに吐き出されたその言葉に、皆が息を呑んだ。


「……惜しい人材だった。あれほどの才覚を持ちながら、
誰よりも現場に寄り添い続けた」
その呟きに、場の誰もが言葉を挟めずにいた。


セラフィナは静かに頭を下げる。


「申し訳ありません。現在、全力で捜索を進めています。必ず真相を――」


ゼノンは手を上げて制し、ゆっくりと顔を上げた。


「――頼むよ。君たちに任せるしかない」


目を細め、わずかに眉を寄せる。


「しかし、問題はもう一つある」

再び背もたれに身を預け、声の調子を変えた。


「――魔法少女管理局の総監が不在となった。これは、看過できる問題ではない」

一同に走る緊張。


ゼノンの目は、すでに次の局面を見据えていた。


「だが、今さら外部の人間を呼び込んでも、内部の意思決定に遅れが生じる。
 何より、君たちも指揮を執りにくいだろう」


静かに語られるその言葉は、

理路整然としていながら、確かな圧を伴っていた。


「――セラフィナさん」


ゼノンはまっすぐに彼女を見た。



「君に、その役を担ってもらえないだろうか。
 今この場で、最も信頼に足る人材として、私は君を推す」


セラフィナの表情に迷いはなかったが、


責任の重みを感じていた。

やがて、彼女は姿勢を正し、

凛とした声で答えた。


「……承知しました。私でよろしければ、引き受けます」


ゼノンはわずかに微笑を浮かべた――


それは安堵にも似た、深い信頼の表れだった。


「感謝する。セラフィナ総監」


こうして、イザベラ・クロムウェルの後を継ぐ形で、


セラフィナ・クレストは「№1」兼「魔法少女管理局総監」となった。


イザベラ・クロムウェルの死、

そしてその後任としてセラフィナ・クレストが

魔法少女管理局総監に任命されたことを――


真壁しずくは、白光隊《ルミナスホワイト》の面々に伝えた。


隊の面々は、報告の言葉を聞きながら、

誰一人として口を開かなかった。


隊には、重たい空気が満ちていた。

言葉にできない感情が、音もなく、息の間に漂っていた。


「……セレス様の時を、思い出しますよ」


リリアが、ぽつりと呟いた。


その声には、かつての痛みをなぞるような微かな震えがあった。


「……あぁ、そうだな」


カレンがゆっくりと頷く。


「もう、こんな経験はしたくないと思っていたが……」


沈黙が続く中、アヤメが前に一歩出た。


その瞳には、揺れる不安が宿っていた。


「しずく様……我々は、いったいどうしたら……?」


その問いに、しずくはわずかに顔を上げる。


胸の奥には、言葉にならない感情が渦巻いていた。


でも、今、必要なのは――誰かが、前を見ること。


だから。


「……私たちは、私たちのするべきことをしましょう!」


その言葉は、静かに、――隊の中心に届いた。


アヤメが、ぐっと拳を握りしめる。


「……そうですね。こんなときこそ、隊が一丸とならないと!」


リリアもまた、頷いた。

「……うむ。誰かを守るための力、忘れてはなりませんね」

そのとき。


カレンが、そっとしずくに近づき、耳元に囁く。

「――ちょっと、いいか」


しずくが小さく頷くと、カレンは短く言った。


「何かあったら、いつでも助けになる。……遠慮はいらない。声をかけてくれ」


その言葉に、しずくの胸がじんわりと温かくなる。


「……ありがとうございます」


目を伏せたまま、そう返した。




夜。



世界は静まり返り、

今日の余熱さえもどこかに消えていた。



それでも――しずくのまぶたは、閉じることができなかった。



(眠れない……)


天井を仰ぎ、浅く呼吸する。


胸の奥がざわついて、落ち着かない。


ヘーゲルの死。

――そして、イザベラの死。


重なる喪失が、夜の帳の中で、

しずくの意識を冷たく包む。


そのときだった。


……カタン


扉の外――微かな音。


「ん……?」


しずくはゆっくりと身を起こし、

ベッドの端に腰を下ろす。


(……なんだろう)


そっと立ち上がり、扉の方へと一歩ずつ近づく。

しずくが扉に近づこうとした、そのときだった。

……スッ。


扉の隙間から、黒い何かが滑り込んでくる。

風でも、音でもない。

それは――影。

「っ、な……なに……?」


しずくが息を呑んだその瞬間、

影はふわりと宙に舞い上がり――

やがて、翼を広げた小さなコウモリの姿へと形を変えた。


(このコウモリ……見たことがある)


記憶が瞬時に引き出される。


「……ミラさんの、コウモリ」


漆黒の翼を持つ小さな存在は、

ひと鳴きもせず、部屋の中を旋回する。


――いや、誘導している。


まるで「ついてこい」と言っているように。


しずくは迷いを振り払い、静かに扉を開いた。


廊下に出たその瞬間――


コウモリはひらりと舞い、闇の中へとすべり込んでいく。


(……行かなくちゃ)


一歩踏み出そうとしたとき、ふと――


カレンの顔が、脳裏をよぎった。


(何かあったら、助けになるって……)


しずくは、踵を返し、そっとカレンの部屋へと足を向けた。


「カレンさん……すみません、起きてますか?」


小さなノックに、すぐ反応があった。


「どうした、しずく……?」


開いた扉の奥、カレンは上着を羽織った姿で現れた。


しずくは、先ほどの出来事を短く説明する。


「ミラさんの使い魔が……、導こうとしているんです。

理由は分かりません。でも、放っておけなくて」

カレンは短く頷いた。


「分かった。私も行こう」


それだけを言うと、

無言で武装を身につけ始めた。


しずくとカレンは、夜の廊下に出る。


月光の届かぬ回廊――


足音だけが、静かに響く。


そして、二人は――


闇に紛れるように飛んでいく、

コウモリの導きに従って、


眠らぬユナイトアークの深部へと、


足を踏み入れていった。
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