白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第56話 絶望の逃避行

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「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」

しずくたちは、ユナイトアークの1階、

広大なメインエントランスへと飛び出した。

煌びやかなロビーは無人だったが、

非常ベルの音がけたたましく鳴り響いている。


「こっちだ! 各自隊に合流するぞ!」


ギルベルトが先頭を切る。


全員が満身創痍だ。エレナは何度も足をもつれさせ、

ミラとシズは意識のないクラウディアを支えるだけで精一杯だった。


その時だった。

ズゥゥゥゥン――――!!

足元の床が、突き上げられるように激しく震動した。

地震ではない。遥か地下深く、

大地の底で何かが炸裂したような、重く、破壊的な衝撃。


「……ッ!?」


ロビーの強化ガラスがビリビリと共鳴し、シャンデリアが大きく揺れる。


その直後、耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。


今まで微かに響いていた地下からの戦闘音も、魔力も、すべてが消えた。


それは、ライラの戦いが終わったことを意味していた。


「……嘘、だろ」


リサが震える声で呟く。


しずくは唇を噛み締め、拳を握りしめた。


(ライラさん……)


戻りたい。今すぐ駆け戻って、瓦礫を掘り返してでも彼女を見つけたい。


だが、ここで戻れば、彼女が命を懸けて作った時間が無駄になる。


「……行くぞ」


ギルベルトが苦渋の表情で告げる。その声は、泣いているように聞こえた。

「ギルベルト隊長!!」

そこへ、ロビーで待機していたギルベルト隊のエクリプスが一人、

青ざめた顔で駆け寄ってきた。

「ギルベルト様、この爆発はいったい!?」

ギルベルトは足を止めず、鋭く叫んだ。


「説明している時間はない!各隊に通達!戦闘準備をしろ!」


「えっ……?戦闘準備ですか?いったい何と……?」

彼女が困惑して言いかけた、その瞬間。

「――緊急放送。緊急放送」

無機質なアナウンスと共に、

ロビーの壁面に設置された巨大なホログラムスクリーンが一斉に起動した。

ザザッ、ザザッ……。

ノイズが走り、画面が明滅する。

「な、何だ……?」

全員が足を止めて見上げる。

画面に映し出されたのは、ユナイトアークのシンボルマーク。

そして、その前に立つ一人の女性。

純白の法衣を纏い、憂いを帯びた表情で佇む聖女。

「セラフィナ……ッ!?」

しずくが息を呑む。

画面の中のセラフィナは、地下で見せたあの禍々しい姿ではない。


翼も、狂気も隠し、誰もが知る№1聖女の仮面を完璧に被っていた。


「人類の為に命を懸けるエクリプス、そして魔法少女の皆様」


セラフィナの声は、悲しみと厳粛さに満ちていた。


「本日、我々人類にとって、極めて遺憾な悲劇が起きてしまいました」


彼女が伏し目がちに告げる。


「ユナイトアーク総統、ゼノン・レイブン閣下が……殺害されました」


「なっ……!?」


ギルベルトが目を見開く。

「それだけではありません。先日亡くなられたイザベラ様……。
 これら一連の悲劇は、すべて繋がっていたのです」


画面が切り替わる。そこには、「容疑者」としてのリストが表示された。


ギルベルト、リサ、ミラ、エレナ、ライラ、ガレス、クラウディア、

そしてしずく、カレン。

セラフィナとエリスを除く、ナンバーズたちの顔写真だ。


「調査の結果、判明いたしました。
 これらは全て――魔法少女管理局内部の反乱分子による、凶行であると」

「は……?」

リサが呆然と口を開く。


「何言ってんだ、あいつ……。全部、てめぇがやったことじゃねぇか……!」


画面の中のセラフィナは、毅然とした態度で続ける。


「一部のナンバーズたちが、自らの力に溺れ、人類の管理を逃れて暴走しました。
 彼女たちはあろうことか、より強大な力を欲し、
私利私欲のためにゼノン総統を殺害。
さらには禁忌とされるマガツの研究に手を染め、施設を破壊したのです」

画面に、無惨に破壊された地下施設の映像が映し出される。

そして、そこから逃走するしずくたちの後ろ姿が、

まるで犯人が逃げている証拠映像として切り抜かれて流された。


「彼女たちは、もはや人類の守護者ではありません。
 世界を脅かす、災厄そのものです」


セラフィナの瞳が、画面越しに世界を射抜く。


「よって、私、セラフィナ・クレストは、ここに宣言いたします」


彼女の声が、冷徹な審判のように響き渡った。


『――魔法少女全排除命令パージ・オーダーの発令を』


「全排除、だと……!?」


ギルベルトが戦慄する。


「現在逃走中の反乱分子ナンバーズ。
 彼女たちを、S級指名手配犯として認定します。
及び、これに同調する全ての魔法少女を拘束、
抵抗する場合は――殺害を許可します」

「正義あるエクリプスたちよ。
どうか、この世界を守るために……彼女たちを狩りなさい」

プツン。

放送が切れた。

静まり返るロビー。

しかし、その静寂はすぐに破られた。

ウゥゥゥゥゥ――ッ!!

先ほどとは違う、侵入者迎撃用の赤いサイレンが回転し始める。

「……ハメられた」

ミラの顔から血の気が引いていた。

「全部……あいつの罪を、私たちになすりつけたのよ……!」

「そんな……これじゃあ、私たちは……」

しずくの声が震える。

英雄だったはずの自分たちが。

たった数分の放送で、世界の敵になった。

カチャリ。

背後で、嫌な音がした。

銃を構える音だ。

ギルベルトがゆっくりと振り返る。

そこには、先ほどまで心配そうに駆け寄ってきていた部下のエクリプス。

彼女は震える手で、銃口をギルベルトに向けていた。

「た、隊長……いえ、反乱分子ギルベルト!」

「……信じるのか。あの放送を」


「う、動かないでください! 動くと撃ちます!」

彼女の目には、恐怖と敵意が宿っていた。

もはや、上司への敬意はない。世界を脅かす悪を見る目だ。

「……やめろ」

ギルベルトは銃口を向けられたまま、静かに、けれど痛切な声で語りかけた。

「私に……お前を傷つけさせるな」

「っ……!」

その言葉に、部下の少女の瞳が揺れる。

だが、すぐにその瞳から大粒の涙が溢れ出した。

「嘘つき……! ずっと、尊敬していたのに……!
 信じていたのにぃぃぃッ!!」

感情の決壊とともに、彼女の人差し指が引き金を絞る。

ダンッ!!

乾いた銃声がロビーに響く。

だが、そこにギルベルトの姿はなかった。

「え……?」

瞬きするよりも速く、彼女は懐へと踏み込んでいた。

「すまない」

短く呟き、彼女の首筋へ手刀を叩き込む。

「あ……」

瞳が白目を向き、意識が断ち切られる。

崩れ落ちる彼女の体を、ギルベルトは優しく抱き留めた。

そして、その体を近くのソファへとそっと横たえる。

眠るようなその顔を見て、ギルベルトの拳が震えた。

ギリリ、と奥歯が砕けそうなほど噛み締める。

「……許さんぞ、セラフィナ」

「忠誠心を、信頼を、あいつは自分の武器として利用した。
仲間同士を殺し合わせる、最悪の脚本だ。」


正面ゲートの向こうから、無数の足音と、装甲車のエンジン音が聞こえてくる。

駆けつけてくるのは――かつての仲間だったかもしれない、エクリプスたちの気配。

「ギルベルト! どうするんだ!」

リサが叫ぶ。

「おい! まだ施設内には部下の魔法少女たちが!
 あいつらはどうなる!? あいつらまで処分されるのかよ!」

「……くっ」

ギルベルトは数瞬、目を閉じた。

そして、カッ!と目を見開き、決断を下す。

「総員、聞け!!」

彼女の号令が響き渡る。

「まずは各自、自分の隊の魔法少女たちと合流し、誤解を解きつつ確保しろ!
 そのままユナイトアークから撤退する!」

「撤退って、どこへ!?」

  エレナが叫ぶ。

「我々には出口は一つしかない!」

ギルベルトが指差したのは、最も危険な方角だった。

「脱出場所は――マガツ領域側だ!!」

「なっ……!?」

ミラの顔が引きつる。

それは、結界の外。死の世界へ飛び込めという命令だった。

「そこしか道はない! 躊躇えば全滅だ!」


ギルベルトは全員の顔を見回し、最後に強く告げた。


「今は、各自生き残ることだけを考えろ!
 生きてさえいれば、必ず反撃の機会はある!
 ――行動開始!!」


「了解ッ!!」

弾かれたように、ナンバーズたちが散開する。

背後では武装した部隊が雪崩れ込んでくるのが見えた。

もはや正義も真実も通用しない。

世界中を敵に回した、絶望の逃避行が始まろうとしていた。
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