白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第96話 最強の二人

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「――黒翼旋嵐レイヴン・ストームッ!!」


マルセラの背中に展開された黒き翼が、無数の刃となって解き放たれる。 

それは漆黒の暴風雨。 一つ一つがダイヤモンドよりも硬く、
カミソリよりも鋭い魔力の羽が、セラフィナを切り刻もうと殺到する。


「あら、やるじゃない」


セラフィナが優雅に手をかざし、闇の障壁を展開する。


ガガガガガガガッ!!


激しい衝突音。 マルセラの黒羽は、ただ弾かれるだけではない。
 障壁に突き刺さり、そこからヒビを広げ、抉じ開けようとしている。


「フフッ、素晴らしいわ先生。 現役を退いてなお、この出力……。
 やはり技量だけなら、当時の私より上ね」


セラフィナが感嘆の声を漏らす。 

余裕ぶってはいるが、その足は一歩も動かせない。 

マルセラの猛攻が、セラフィナをその場に釘付けにしているのだ。


「口を動かす暇があったら、手を動かしなさいッ!」


マルセラが扇子を振るう。 

旋回していた黒羽が集合し、

巨大な漆黒の槍となってセラフィナの頭上から降り注ぐ。


「――断罪の黒槍ブラック・ジャベリン!!」


「甘い」

セラフィナが指を弾く。 頭上の空間が歪み、重力波が槍を迎え撃つ。

ドゴォォォォン!!

魔力が拮抗し、爆風が玉座の間を揺るがす。

 だが、爆風の中から飛び出したのは、マルセラ本人だった。


「なっ……!?」


セラフィナがわずかに目を見開く。

 魔法の衝突を目くらましにし、マルセラはすでに懐に入り込んでいた。

 黒い魔力を纏った扇子が、セラフィナの喉元へと迫る。


「チェックメイトよ!」


「……いいえ」


セラフィナの瞳が、赤く発光した。


「まだステイルメイト(手詰まり)ね」

ズンッ!!

「ぐ、ぅ……ッ!?」

マルセラの動きが止まる。 扇子がセラフィナの喉に届く寸前、
見えない巨人の手によって全身を鷲掴みにされたような圧力が襲ったのだ。



「惜しかったわね、先生。 人間相手なら、今ので勝負ありだったわ。
……でも、残念ながら私はもう、その枠組みにはいないの」


セラフィナの手元に、ドス黒い闇が収束する。


「――神威・重力崩落ディバイン・グラビティ


ドガァァァァァァァン!!!!!


「あがッ……!!」


マルセラの体が、真下へと叩きつけられた。

 床の大理石が粉々に砕け散り、クレーターができる。

 さらに衝撃波が彼女を弾き飛ばし、壁際まで転がらせる。


「ハァ……ハァ……ッ」


マルセラが血を吐きながら、震える手で体を起こす。

 黒いドレスは裂け、翼も片方が消滅している。

だが、その瞳だけはまだ死んでいない。


「……さすがね。腐っても元ナンバーズ……。
人間でありながら、たった一人でここまで私に迫るとは」



セラフィナがパチパチと拍手をする。


 そこにあるのは、嘲笑ではない。


 純粋な強者への評価と、それをねじ伏せた自分への陶酔。


「誇っていいわ。あなたは間違いなく、最強の人間だった」


セラフィナの手のひらに、空間ごと削り取るような高密度の闇の球体が生成される。


「だからこそ、ここで消えなさい。私の新世界に、古い強者は不要よ」








一方、そのすぐ傍らで繰り広げられる姉妹の戦いも、限界を迎えていた。

「しずく、対象、排除……」

瑠璃が唸る。 正確無比な三連切り。

「くっ……!!」

しずくは盾を斜めに構え、切っ先を逸らすのが精一杯だ。

火花が散り、衝撃が肩を麻痺させる。

(強い……ッ!  お姉ちゃん、なんでこんなに……!)


瑠璃の動きに迷いはない。 
先ほどの魂の抵抗は、セラフィナの再洗脳によって完全に封じ込められていた。

 今の彼女は、妹への愛も思い出も塗りつぶされた、完璧な戦闘マシーン。


「ハァァァァッ!!」


しずくが盾で殴りかかる。

 だが、瑠璃はそれを軽々と受け止め、逆にしずくの足払いを仕掛ける。


「あっ」


しずくの体勢が崩れる。 そこへ、無慈悲な打撃が鳩尾に入った。

ドゴッ!!

「が、ぁ……ッ」


呼吸が止まる。 しずくがよろめく。

 瑠璃は追撃の手を緩めない。


鎌を大きく回転させ、遠心力を乗せたフルスイングで薙ぎ払う。


バグォォォン!!


「きゃあぁぁぁッ!!」


しずくが風圧でボールのように吹き飛ばされ、柱に激突した。

 盾を持つ左腕が上がらない。 全身が悲鳴を上げている。


「攻撃を続行……」


瑠璃がゆらりと歩み寄ってくる。 その瞳は、深海のように冷たく、暗い。


「お姉、ちゃん……。お願い……思い出して……」


しずくの声は届かない。 絶望的な実力差。 

そして何より、姉を壊したくないという想いが、

心のどこかでしずくの拳を鈍らせていた。

その時、セラフィナの声が耳に入り、振り向いた。

セラフィナがマルセラにとどめを刺そうとしている。


「――さようなら、先生」


冷酷な声が響いた。 セラフィナが腕を振り上げる。


 トドメの一撃。 放たれれば、マルセラは跡形もなく消滅する。


「マルセラさんッ!!」

しずくが絶叫する。 助けに行きたい。

 でも、目の前には瑠璃が立ちはだかっている。


「どいて!どいてよお姉ちゃんッ!!」


しずくが盾を振るうが、瑠璃は微動だにせず、冷徹に躱す。


(間に合わない……ッ!)


スローモーションになる世界。 セラフィナの闇が膨れ上がる。


 マルセラが覚悟を決めて瞳を閉じる。


絶望。 誰もがそう思った。


その瞬間。


「――させねぇよッ!!!」 

「――はっ!!」

ドオォォォォォォォォォォン!!!!!



突如として乱入したのは、相反する二つの極光。

 全てを焼き尽くす紅蓮の炎と、全てを凍てつかせる蒼氷の斬撃。


炎と氷の螺旋は、セラフィナとマルセラの間に割って入り、

放たれようとしていた闇の球体を相殺し、霧散させた。



熱気と冷気が混じり合い、濃密な水蒸気が爆発的に広がる。 視界が白く染まる。


「……チッ」


セラフィナが不快そうに舌打ちをし、ドレスの裾を払う。

 瑠璃もまた、予期せぬ事態に動きを止め、警戒態勢をとる。


白煙の向こう側。 二つの影が、揺らめいていた。


カツン、カツン。


足音が響く。 一つは力強く、荒々しい足音。

 もう一つは静かで、威厳に満ちた足音。


「……はぁ、はぁ。ったく、ギリギリじゃねぇか!」


煙を払い、巨大な大剣を肩に担いで現れたのは、炎を纏った赤髪の戦士。


「……リサ、さん!?」


しずくが目を見開く。 ボロボロの戦闘服。全身傷だらけ。

 だが、その瞳は以前よりも強く、激しく燃え上がっている。 

死闘を乗り越え、友の想いを背負って帰ってきた、不屈の№2。


「しずく! 待たせたな!」


リサがニカッと笑い、親指を立てる。


そして、もう一人。 リサの隣で、氷の長剣を静かに構える、白銀の髪の女性。 

その身に纏うのは、戦場の空気を一変させるほどの、冷徹かつ神聖な覇気。


「……戻ったぞ、セラフィナ」


凛とした声が、玉座の間を凍らせる。

 彼女こそが、冷静沈着な氷の使い手にして、№4位、クラウディア。


「あら……」


セラフィナは眉一つ動かさず、つまらなそうに二人を見やった。

「死んだと思っていたけれど……。しぶとく這い上がってきたようね」


クラウディアは氷のように冷ややかな瞳でセラフィナを見下ろし、

フッと鼻で笑った。

「私が貴様程度に殺されると思うか?」

クラウディアの視線が、傷ついたマルセラと、必死に戦うしずくに向けられる。

 その瞳に、静かな怒りの炎が灯る。

「それに……、随分と好き勝手をしてくれたようだな。
 私の大切な仲間たちを傷つけた罪……万死に値するぞ」


「ふん」


セラフィナは鼻を鳴らし、鬱陶しそうに手を振った。


「次から次へと……。湧いてくる害虫は、纏めて駆除するに限るわね」


役者は揃った。 炎の№2、 氷の№4。


最強の二人が、絶望を覆すために帰還した。
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