「君は悪女だ!」と婚約破棄され、隣国の魔王王子に拾われましたが彼の溺愛が止まりません!

なすび

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第11話

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「私は逃げません!」
「な……!?」 
「『化け物』? 鏡を見てください。今の貴方は、ただの高熱を出してうなされている子供にしか見えませんわ!」

私は猛吹雪の中を彼に向かって歩いていく。魔力の風が私の頬を切り裂きうっすらと血が滲む。だが止まらない。

「危険だ……来るな……ッ!」
「行きます! 貴方と契約したのは誰ですか!? 私は『頂いた対価以上の成果を出す』と言いましたよね!」

美味しいご飯。ふかふかのベッド。使用人たちの笑顔。そして、私の能力を認めてくれた言葉。それだけのものを貰っておいて、ハイそうですかと逃げるなんて私のプライドが許さない!

私は彼の目の前までたどり着くと膝をついた。そして、躊躇なく彼を抱きしめた。

「――っ!?」

ジルベルト殿下の体が硬直する。信じられないくらい冷たい。まるで氷塊を抱いているようだ。普通の人間なら、この瞬間に心臓麻痺を起こしていただろう。だが私は負けない!

「『聖なる灯火よ、乱れた脈を鎮め、清らかなる流れとなれ』――浄化(ピュリフィケーション)!!」

私の全身から黄金色の光が溢れ出した。それは攻撃的な光ではなく春の日差しのような柔らかく温かい光。その光がジルベルト殿下の青白い冷気を包み込み中和していく。

ジュワァァァ……。氷が水蒸気となって昇華する音が響く。

「な……熱い……? いや、心地よい……幸せな気分だ」 
「暴れないでください。今、貴方の体内の魔力回路(パイプ)が詰まっているんです。私が通しますから!」
 
私は彼を強く抱きしめたまま背中をさすった。物理的な接触点から私の魔力を送り込む。彼の体内にある暴風雨のような魔力の渦。それを私の魔力が包み込み整列させ穏やかな川の流れへと変えていく。

これが、私のと言われた力。攻撃魔法しか評価されない国では見向きもされなかったサポート特化の力。

「……すごい……俺の魔力が……鎮まっていく……」 
「当たり前です。私はプロですから」

私は彼の耳元で子供をあやすように囁いた。

「大丈夫。貴方は化け物じゃありません。ただ、ちょっとエネルギーが大きすぎるだけ……私がいます。私が、貴方の制御装置(ブレーキ)になります」

ジルベルト殿下の震えが少しずつ収まっていく。彼は恐る恐る私の背中に腕を回した。

「……レティア。お前は……」 
「はい?」
「……優しい温もりだ。子供の頃、母の腕の中で安心して眠っていたことを思い出す」

その声には、もう獣のような唸り声は混じっていなかった。あるのは、凍えていた旅人がようやく暖炉にたどり着いた時のような安堵だけ。

やがて、部屋を満たしていた氷がすべて消え去り元の重厚な絨毯が姿を現した。魔力暴走は完全に収束したのだ。力を使い果たしたのかジルベルト殿下の体がぐらりと傾いた。私はとっさに体勢を変え彼の頭を自分の太腿の上に受け止めた。いわゆる膝枕の体勢だ。

「……あ」

ジルベルト殿下が下から私を見上げている。いつもの強面ではなく、前髪が乱れ頬が上気しとろんとした瞳で見つめてくるその顔は……。不覚にも破壊力抜群だった。

(かっ、かわいいぃぃぃ……!? 魔王様改め、大型犬!?)

私は動揺を隠すために彼の汗ばんだ額をハンカチで拭った。

「……膝枕など、子供の頃以来だ」
「緊急措置です。動かないでください。まだ魔力が安定していません」 
「……ああ。俺は今動けない……このまま、溶けてしまいそうだ」

彼はふっと目を細め私の腰に回した腕に力を込めた。甘えた子供が逃がさないとでも言うようだ。

「レティア……礼を言う」 
「お礼なら、ボーナス査定に上乗せしておいてください」
「ああ。城一つ分くらいでいいか?」 
「規模がおかしいです」

軽口を叩きながら私は彼が眠りに落ちるのを感じていた。寝息が聞こえてくる。無防備な寝顔で、さっきまでの『魔王』としての威厳はどこへやら。今はただの疲れ切った青年だ。

私は彼の黒髪を優しく撫でながら指を通した。サラサラとしていて気持ちがいい。

(……ざまぁみろ、カイル王子!)

私は心の中で元婚約者に勝利宣言を送った。貴方は知らなかったでしょう? 私の『浄化魔法』が世界最強の魔術師を従えるための鍵だったことをね! そして、貴方が「可愛げがない」と捨てた私が今隣国の王子にこんなにも求められ必要とされていることを!

「君は不吉な悪女だ」いいえ。今の私は、この人の光です。

私は窓の外を見た。暴風雨は止み雲の切れ間から満月が顔を覗かせている。月光が私たちのいる部屋を静かに照らしていた。

――ガチャリ。扉がそっと開きメイド長のサーニャと料理長のアドルフが顔を覗かせた。二人は膝枕で眠る主と、それを優しく撫でる私の姿を見て顔を見合わせた。そして、無言でガッツポーズをしてそっと扉を閉めた。

(……見られた)

私の顔から火が出そうになったが膝の上の大型犬が起きそうになったので私は諦めてため息をついた。まあいいか。今日は、残業手当がたっぷり出そうだ。
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