「君は悪女だ!」と婚約破棄され、隣国の魔王王子に拾われましたが彼の溺愛が止まりません!

なすび

文字の大きさ
13 / 19

第13話

しおりを挟む
――ワン、ツー、スリー。

(……え!?)

驚いた。体が軽い。まるで無重力空間にいるかのようにスムーズに動ける。カイル王子とのダンスは苦行だった。彼はリズム感がなく、そのくせ「俺に合わせろ!」と無理なステップを強要し挙句の果てに私の足を踏んでは「足が邪魔だ!」と舌打ちをした。だから私はダンスとは『足を踏まれないように逃げ回るスポーツ』だと思っていた。

けれど、ジルベルト殿下のリードは違った。私の動きを先読みし進みたい方向へ自然と体を誘導してくれる。私がバランスを崩しそうになれば腰の手がすっと支えてくれる。まるで、私自身がダンスの名手になったかのような錯覚さえ覚える。

「……上手ですね、殿下」 
「お前が軽いからだ。ちゃんと食べているのか?」
「食べてます! おかげでスカートがきついくらいです」 
「まだまだだ……もっと近づけ」

グイッ。さらに引き寄せられる。今度は太ももが触れ合うほどの距離だ。彼の吐息が私の髪にかかる!

(こ、これは……高度なセクハラ!? パワハラ!?)

私の心拍数が急上昇する。顔が熱い。これ絶対に赤くなってる。

ジルベルト殿下は、私の顔を覗き込み満足そうに目を細めた。

「レティア」 
「は、はい」 
「カイルとかいう男は、お前の足を踏んだそうだな」 
「……なぜそれを?」
「サーニャから聞いた……安心しろ。俺は絶対にお前を傷つけない。お前の足の一本、髪の一筋まで、俺が守る!」

彼はステップを回しながら私の耳元で囁いた。

「だから、すべてを預けて俺に委ねろ……お前はただ、俺の腕の中で咲いていればいい」

その低音ボイスは反則だった。脳髄が痺れるような甘さ。カイル王子に向けられたような命令ではない。懇願にも似た深い愛情。

不覚にも私は彼に身を預けてしまっていた。心地いい気持ちで抵抗する力が抜けていく。この強引だけど優しい腕の中が世界で一番安全な場所のように思えてくる。

(だめよ、レティア。仕事よ。これは業務よ。でも……こんなに大切に扱われたこと、前世も含めて一度だって……)

私が潤んだ瞳で彼を見上げると彼と目が合った。真紅の瞳が揺れている。彼もまた緊張しているのだ。初めて触れる壊れないぬくもりに、どう接していいか戸惑いながらそれでも必死に愛そうとしている。

その不器用さが愛おしいと思ってしまった。

「……殿下。一つだけ、訂正してもよろしいですか」 
「なんだ?」 
「私は『咲いているだけの花』にはなりません」

私は彼の方に握り返した手にきゅっと力を込めた。

「貴方がリードしてくれるなら、私はそれに応えて、最高のステップをお見せします……二人で、あの元婚約者たちの度肝を抜いてやりましょう」

私が好戦的な笑みを浮かべるとジルベルト殿下は一瞬きょとんとし、それから今日一番の深い笑みを浮かべた。

「……ああ。そうだな。やってやろう」
「ええ。徹底的に」

二人の心が邪悪な方向で通じ合った瞬間だった。その時、ターンをした勢いで私のヒールが床に引っかかった。

「あっ!」

バランスを崩し後ろに倒れそうになる。だが、床に叩きつけられる衝撃は来なかった。ジルベルト殿下が素早く私を抱き留めたからだ。いわゆるお姫様抱っこの状態で!

「……大丈夫か?」
「は、はい……ありがとうございます」

顔が近い。唇と唇の距離わずか数センチ。時が止まったかのようだった。

彼の視線が私の唇に吸い寄せられているのがわかる。え、これ、キスする流れ?  業務契約書に『キスを含む』なんて条項あったっけ? いや、ボーナス査定に含まれるなら検討の余地は……

私が混乱して目を白黒させているとガチャリと扉が開いた。

「殿下ー! 休憩用のお茶をお持ちしまし……た……あ」

サーニャとアドルフがワゴンを押して入ってきた。そして、抱き合う私たちを見て再び凍りついた。

「…………失礼しましたァ!!」

バタンッ!! 凄まじい速さで扉が閉まる。

「見ましたか今の!」
「もう結婚式場予約しとけ!」

廊下から叫び声が聞こえてくる。

シンと静まり返る舞踏室。ジルベルト殿下の顔が、みるみるうちに熟したトマトのように赤くなっていく。

「ち、違う! 今のは、その、不可抗力で……」 
「わ、わかってます! 事故です! 労働災害です!」

彼は慌てて私を下ろし咳払いを繰り返した。

「……こ、今日はここまでにしよう」 
「そ、そうですね。休憩が必要です」

私たちは互いに視線を逸らしながら、それぞれの心臓を鎮めるのに必死だった。

(危なかった……。もう少しで、契約外の業務に応じるところだった。でも……嫌じゃなかったかも?)

自分の胸に手を当てると、そこにはかつてないほどの激しい鼓動があった。これは吊り橋効果だ。それとも過労による不整脈か。まさかだなんて、そんなバグのような感情であるはずがない。

そう自分に言い聞かせる私の頬が、ドレスと同じくらい熱を持っていることに私は気づかないふりをした。

 ******

一方、廊下にてジルベルトは壁に手をつき項垂れていた。

「……心臓が止まるかと思った」

彼女の柔らかさと香り。そして、自分を見上げる信頼に満ちた(と彼は解釈した)瞳。もう、抑えが効かなくなってきている。

「守る」と言ったが、一番危険なのは自分自身の欲望かもしれない。だが、俺は後戻りはできない。

「見ていろ、カイル王子……夜会では、彼女が誰のものか、骨の髄まで理解させてやるからな!」

彼の瞳に隠しきれない独占的な欲が現れる。魔王の心に、ざまぁ計画は着々と進行していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

処理中です...