「君は悪女だ!」と婚約破棄され、隣国の魔王王子に拾われましたが彼の溺愛が止まりません!

なすび

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第17話

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シーン……。会場は静まり返っていた。誰も言葉を発せなくあまりにも圧倒的な蹂躙劇。魔獣の出現から討伐まで、わずか三分ほど。カップ麺すら出来上がらない早業だった。

「……ふぅ。いい運動になりました」

私は乱れた前髪を指で直し何事もなかったように微笑んだ。ジルベルト殿下も涼しい顔で私の隣に戻ってくる。

「レティア、怪我はないか?」
「ええ。殿下の完璧なガードのおかげですわ」 
「お前の浄化も見事だった。あの泥汚れを一瞬で落とすとは、我が城のクリーニング係も真っ青だな」
「お褒めに預かり光栄です」

私たちは互いを称え合った。その姿は、あまりにも日常的であまりにも美しかった。

一方で現実を受け入れられない者たちがいた。

「う、嘘よ……私の、古代の魔獣が……」

セラフィがへたり込んでいる。魔石が砕け散り副作用のバックラッシュが起きたのか彼女の髪は白髪交じりになり、肌も老婆のようにカサカサに干からびていた。借り物の力を使った代償だった。

「あ、ああ……いやああああああ」

カイルも悲惨だった。恐怖で失禁しドレスコードもへったくれもない無様な姿を戻ってきた貴族たちに見られてしまっていた。

「カイル殿下」

私は冷ややかに彼を見下ろした。

「民を守るべき王族が、真っ先に逃げ出すとは何事ですか? お漏らしまでして、恥ずかしくて情けない! それに比べて、ジルベルト殿下をご覧ください。一歩も引かず、民を守りきりました」

周囲の貴族たちが一斉にカイルを非難の目で見る。

「なんて格好だ……」
「あれが王子の姿か!」
「それに比べて魔王様は……なんと勇敢な」

貴族たちの囁きが聞こえる。

「ち、違う! 俺は、応援を呼びに行こうと……!」 
「言い訳は結構です!」

そこへジルベルト殿下が近衛騎士団を引き連れて歩み寄った。

「カイル王子、及びセラフィ嬢……貴様らを『国家転覆罪』および『テロ行為』の現行犯で拘束する」

ジルベルト殿下の宣告は氷の刃のように鋭かった。

「他国の夜会に魔獣を放つなど、狂気の沙汰だ。これは宣戦布告と受け取る! 貴国には、相応の賠償を請求させてもらうぞ。領土の半分くらいで足りるか?」 

「ひ、ひぃぃッ! ま、待ってくれ! これはセラフィが勝手に……俺は知らない!」 
「カイル様ぁ! 助けてえぇぇぇぇぇ!」

二人は見苦しく泣き叫びながら屈強な騎士たちに引きずられていった。その姿にかつての栄光はなく哀れな罪人でしかなかった。

ざまぁみろ! 今度こそ心の底からそう思った。私を虐げ利用しようとした報いだ。これからは冷たい牢獄の中で自分たちの愚かさを反省するがいいわ!

 ******

騒動が片付いた後。会場は再び賑わう。しかし、先ほどとは違う種類の熱気に包まれていた。私たちを見る目が恐怖から崇拝へと変わっていたのだ。

「す、素晴らしい……」 
「あれこそが真の王の姿だ」
「そして、あの浄化の光……まさに女神の再来!」

拍手が起こった。最初はパラパラと、やがて万雷の拍手となってホールを揺るがした。

「……目立ちすぎたな」

ジルベルト殿下が苦笑する。

「ええ。これでは、『静かに研究だけしていたい』という私の夢は叶いそうにありませんね」 
「諦めろ。お前はもう、俺の隣に立つしかないだ!」

彼は強引に私の腰を引き寄せると皆の前で宣言した。

「聞け! このレティアこそが、我がヴェルグラス王国の次期王妃である! 文句のある者は、今の魔獣以上の覚悟を持って前に出ろ!」

シーン。誰が出るかそんなもの。全員がひれ伏し祝福の言葉を叫んだ。

私は溜息をつきつつも満更でもない気分だった。ブラック企業(元婚約者)を辞めて、ホワイト企業(魔王城)に転職したら、いつの間にか重役(王妃)に抜擢されてしまった。まあ、悪くないキャリアアップだ。

「さあ、レティア。仕事は終わりだ」

ジルベルト殿下が子供のようなワクワクした顔で私を見た。

「モンブランを食べに行こう。料理長が首を長くして待っている」 
「ふふ、はい。残業手当分、たっぷり頂きますからね」

私たちは拍手の嵐の中を堂々と退場した。繋いだ手は、もう二度と離れることはないだろう。
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