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第38話
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「――それでね。ヴィヅランド大陸にあるラナテスクって国にはね。1年に1度、男の人たちがエデンの神様になりきる仮装コンテストがあるんだって!」
「へえ~。すごいなぁ」
「お兄ちゃんが出たらすぐに優勝だよ♪」
「そ、そう?」
「うん! だってイケメンだから! 絶対に優勝!」
イケメンなんて言ってくれるのはノエルだけなんだけど。
まあそれは置いておいて。
ノエルと一緒に久しぶりの夕食を取りながら、僕は楽しい時間を過ごしていた。
よくこうして夕食の席で、ノエルは書物で読んだ異国の話を聞かせてくれる。
こうやってノエルの話を聞いている時が、僕にとって何よりも幸せな時間だった。
「一度でいいから行ってみたいなぁ~」
「いつか必ず行ってみよう」
「うんっ! お兄ちゃんがステージに立ってるとこ見るの楽しみぃー♪」
「いや、僕の参加って決定事項なの!?」
「もちろんだよっ!」
そんなこんなで盛り上がっていると……。
コンコン、コンコン。
玄関の方からノックする音が聞こえてくる。
「? 誰だろう、こんな時間に」
「あっ、メリアちゃんじゃない? この前、またおいしいデザートを作ってくれるって言ってたじゃん! きっとお兄ちゃんのB級ダンジョンクリアを祝って、デザート持ってきてくれたんだよ♪」
「先生? ああ、そっか。じゃあちょっと見てくるよ」
テーブルから立ち上がると、そのまま玄関へ向かう。
ノエルにはそんな風に言ったけど、来客がメリアドール先生だとは思えなかった。
(だって、先生は僕がB級ダンジョンをクリアしたって、多分知らないはずだし……)
ひょっとすると、また誰かから話を聞いたのかもしれないけど、こんな夜遅くになってから訪ねて来たことはこれまでに一度もない。
何か嫌な予感を抱きつつ、玄関のドアをそっと開ける。
「はい? どちらさまで……――ッ!?」
その瞬間、僕は息を呑んだ。
「久しぶりだな、ナード」
「……ダコタ……」
暗闇の中、忌まわしき顔がそこに浮かんでいた。
これまで散々いじめられてきた嫌な記憶が一気に甦ってくる。
でも、それも一瞬のこと。
「……僕のアパートになにか用?」
「ハッ! いつの間にか立派に物言えるようになったじゃねぇか、寄生虫野郎!」
「……」
「最近、随分と調子がいいみたいだな?」
「おかげさまで」
「あのクソでゴミなステータスを授与されたてめーが、C級をソロでクリアしたとかなんの冗談だ? どうせギルドに土下座して、そう吹聴してもらってんだろ? 寄生虫らしい姑息な手段で笑えるぜ! クッハハッ!」
「その情報古いよ。だって、僕はもうB級ダンジョンをクリアしたから」
「!? な、なに……?」
「特に何も用がないなら帰ってもらえないかな? 僕、今ノエルと楽しい夕食の最中なんだから」
「……ハッ、またお決まりのノエルノエルか。C級だろうがB級だろうが同じことだ! てめーがズルしてるってことは分かってんだよ!」
「僕、ズルなんかしてないけど?」
「だったら決闘して証明してみろ! この俺よりも強いってな!」
バンッ!
ダコタが玄関前のレンガを蹴り上げる。
化け物みたいな体格は変わらずだ。さすがに威圧感がある。
いつもそうだった。こうやって物に当たって、相手を屈服させようとしてくる。
けど、今の僕にはそれらの行為はすべて幼稚に映った。
「オラどうした? ビビってんのか? まさか逃げるなんてことしねぇよなぁ? ズルしてねーんなら、決闘を受けられるはずだろ? どうなんだよ、ナードッ!」
ガタッ。
その時、リビングの方で物音がする。
振り返れば、不安そうに顔を覗かせたノエルの姿があった。
「お、お兄ちゃん……」
「おぉっ? はじめましてだな、妹ちゃんよぉ~」
「この人が、ダコタさん……?」
「そうだよぉ? 俺様がダコタだ。ちょっとばっかコイツ借りるが、いいかい?」
気持ちの悪い猫撫で声でダコタが口にする。女の子相手にはいつもこれだ。
もうこんなヤツを相手にする必要もない。僕はノエルとの大切な食事の途中なんだ。
すぐに追い返して……。
「ずっとお兄ちゃんをいじめて、ひどいことばっかして……もうお兄ちゃんと関わらないでください!」
(ノエルっ!?)
僕が追い返す前に、ノエルは果敢にもダコタに歯向かってしまう。
その姿は、勇ましさを感じるほどだった。
「クククッ! 妹ちゃんはよく知ってるねぇ~! そうだよぉ? この俺が、この弱虫を、ず~~~っといじめてきたんだぜ? なぜなら、コイツはとんでもなく弱いからなんだよぉ!」
「っ……お、お兄ちゃんは弱くなんかないもん!」
「ヒャッハハッ! やっぱ孤児の役立たずだけあって、妹も妹でバカだな! しかもこれまでずっと陽の光を浴びずに育ってきたんだろ? 頭もふやけて腐ってやがるぜ! これからもこの貧乏ったらしいアパートで惨めに暮らすことだな! フッハハ――!?」
シュッ!
「妹を貶すのだけは許さないぞ、ダコタ」
もう我慢ならなかった。
とっさに英霊の短刀を引き抜いて、ダコタの首筋にそれを当てていた。
「……コ、コイツッ……!」
「お兄ちゃん!?」
殴りかかって反撃を仕掛けてくるダコタの一撃をさらりとかわす。
以前とはまったく違う。相手の動きが手に取るように分かった。
「チッ……! オイッ! こんなごちゃごちゃした場所じゃ本気は出せねぇ! ついて来いッ!」
「ああ」
そうダコタについて行こうとするも……。
「ダメだよお兄ちゃん! あんな人の誘いに乗っちゃ! 危ないことしないで……」
手をノエルに引っ張られて、僕はその場で立ち止まる。
ノエルの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
一瞬迷った後、僕はかがみ込むと、ノエルの柔らかな水色の髪を撫でながら言った。
「……大丈夫。お兄ちゃんはちゃんと帰ってくるから。これは、僕が決着をつけなくちゃいけないことなんだ」
「っ」
「絶対に約束する。僕、必ずノエルのところへ帰って来るから」
「うぅっ……う、うん……」
ノエルは涙ながらに頷いてくれた。
「行って来るね」
ノエルから手を離すと、僕はスイッチを切り替える。
今がこれまでの恨みを晴らす時なんだ。
絶対に復讐を成し遂げてみせる。
「へえ~。すごいなぁ」
「お兄ちゃんが出たらすぐに優勝だよ♪」
「そ、そう?」
「うん! だってイケメンだから! 絶対に優勝!」
イケメンなんて言ってくれるのはノエルだけなんだけど。
まあそれは置いておいて。
ノエルと一緒に久しぶりの夕食を取りながら、僕は楽しい時間を過ごしていた。
よくこうして夕食の席で、ノエルは書物で読んだ異国の話を聞かせてくれる。
こうやってノエルの話を聞いている時が、僕にとって何よりも幸せな時間だった。
「一度でいいから行ってみたいなぁ~」
「いつか必ず行ってみよう」
「うんっ! お兄ちゃんがステージに立ってるとこ見るの楽しみぃー♪」
「いや、僕の参加って決定事項なの!?」
「もちろんだよっ!」
そんなこんなで盛り上がっていると……。
コンコン、コンコン。
玄関の方からノックする音が聞こえてくる。
「? 誰だろう、こんな時間に」
「あっ、メリアちゃんじゃない? この前、またおいしいデザートを作ってくれるって言ってたじゃん! きっとお兄ちゃんのB級ダンジョンクリアを祝って、デザート持ってきてくれたんだよ♪」
「先生? ああ、そっか。じゃあちょっと見てくるよ」
テーブルから立ち上がると、そのまま玄関へ向かう。
ノエルにはそんな風に言ったけど、来客がメリアドール先生だとは思えなかった。
(だって、先生は僕がB級ダンジョンをクリアしたって、多分知らないはずだし……)
ひょっとすると、また誰かから話を聞いたのかもしれないけど、こんな夜遅くになってから訪ねて来たことはこれまでに一度もない。
何か嫌な予感を抱きつつ、玄関のドアをそっと開ける。
「はい? どちらさまで……――ッ!?」
その瞬間、僕は息を呑んだ。
「久しぶりだな、ナード」
「……ダコタ……」
暗闇の中、忌まわしき顔がそこに浮かんでいた。
これまで散々いじめられてきた嫌な記憶が一気に甦ってくる。
でも、それも一瞬のこと。
「……僕のアパートになにか用?」
「ハッ! いつの間にか立派に物言えるようになったじゃねぇか、寄生虫野郎!」
「……」
「最近、随分と調子がいいみたいだな?」
「おかげさまで」
「あのクソでゴミなステータスを授与されたてめーが、C級をソロでクリアしたとかなんの冗談だ? どうせギルドに土下座して、そう吹聴してもらってんだろ? 寄生虫らしい姑息な手段で笑えるぜ! クッハハッ!」
「その情報古いよ。だって、僕はもうB級ダンジョンをクリアしたから」
「!? な、なに……?」
「特に何も用がないなら帰ってもらえないかな? 僕、今ノエルと楽しい夕食の最中なんだから」
「……ハッ、またお決まりのノエルノエルか。C級だろうがB級だろうが同じことだ! てめーがズルしてるってことは分かってんだよ!」
「僕、ズルなんかしてないけど?」
「だったら決闘して証明してみろ! この俺よりも強いってな!」
バンッ!
ダコタが玄関前のレンガを蹴り上げる。
化け物みたいな体格は変わらずだ。さすがに威圧感がある。
いつもそうだった。こうやって物に当たって、相手を屈服させようとしてくる。
けど、今の僕にはそれらの行為はすべて幼稚に映った。
「オラどうした? ビビってんのか? まさか逃げるなんてことしねぇよなぁ? ズルしてねーんなら、決闘を受けられるはずだろ? どうなんだよ、ナードッ!」
ガタッ。
その時、リビングの方で物音がする。
振り返れば、不安そうに顔を覗かせたノエルの姿があった。
「お、お兄ちゃん……」
「おぉっ? はじめましてだな、妹ちゃんよぉ~」
「この人が、ダコタさん……?」
「そうだよぉ? 俺様がダコタだ。ちょっとばっかコイツ借りるが、いいかい?」
気持ちの悪い猫撫で声でダコタが口にする。女の子相手にはいつもこれだ。
もうこんなヤツを相手にする必要もない。僕はノエルとの大切な食事の途中なんだ。
すぐに追い返して……。
「ずっとお兄ちゃんをいじめて、ひどいことばっかして……もうお兄ちゃんと関わらないでください!」
(ノエルっ!?)
僕が追い返す前に、ノエルは果敢にもダコタに歯向かってしまう。
その姿は、勇ましさを感じるほどだった。
「クククッ! 妹ちゃんはよく知ってるねぇ~! そうだよぉ? この俺が、この弱虫を、ず~~~っといじめてきたんだぜ? なぜなら、コイツはとんでもなく弱いからなんだよぉ!」
「っ……お、お兄ちゃんは弱くなんかないもん!」
「ヒャッハハッ! やっぱ孤児の役立たずだけあって、妹も妹でバカだな! しかもこれまでずっと陽の光を浴びずに育ってきたんだろ? 頭もふやけて腐ってやがるぜ! これからもこの貧乏ったらしいアパートで惨めに暮らすことだな! フッハハ――!?」
シュッ!
「妹を貶すのだけは許さないぞ、ダコタ」
もう我慢ならなかった。
とっさに英霊の短刀を引き抜いて、ダコタの首筋にそれを当てていた。
「……コ、コイツッ……!」
「お兄ちゃん!?」
殴りかかって反撃を仕掛けてくるダコタの一撃をさらりとかわす。
以前とはまったく違う。相手の動きが手に取るように分かった。
「チッ……! オイッ! こんなごちゃごちゃした場所じゃ本気は出せねぇ! ついて来いッ!」
「ああ」
そうダコタについて行こうとするも……。
「ダメだよお兄ちゃん! あんな人の誘いに乗っちゃ! 危ないことしないで……」
手をノエルに引っ張られて、僕はその場で立ち止まる。
ノエルの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
一瞬迷った後、僕はかがみ込むと、ノエルの柔らかな水色の髪を撫でながら言った。
「……大丈夫。お兄ちゃんはちゃんと帰ってくるから。これは、僕が決着をつけなくちゃいけないことなんだ」
「っ」
「絶対に約束する。僕、必ずノエルのところへ帰って来るから」
「うぅっ……う、うん……」
ノエルは涙ながらに頷いてくれた。
「行って来るね」
ノエルから手を離すと、僕はスイッチを切り替える。
今がこれまでの恨みを晴らす時なんだ。
絶対に復讐を成し遂げてみせる。
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