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1章-3
第32話
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七の鐘のころ。
しんと静まり返った領主館の廊下に蠢く影があった。
「アニキ上手くいきましたね! これで楽勝ですー!」
「まさか寝床を抜け出すとは思ってないはずッスよ~!」
「あんま大声出すなや。アホ盟主が起きてまうやろが」
ぽかっ、ぽかっ!
「「い、痛ひぃ~~!?」」
いつものようにげんこつをお見舞いするとドワ太もドワ助も少し静かになる。
今三人は1階の賓客サロンを抜け出して廊下をこっそりと歩いていた。
もちろんすべてはオーブを盗むためだ。
あの後。
領主館へと招かれたドワタンたちは会食堂でティムたちと晩餐をともにした。
食事の席ではエールも振舞われたわけだが彼らは一切口をつけなかった。
ドワーフ族にとって酒は大好物の嗜好品。
酒を目の前にしながら飲めないというのは三人にとってかなりつらいもの。
「あのエール美味しそうでしたよねぇ。一口くらい飲んでおけばよかったかも」
「オイラたちドワーフ族にとって酒を飲めないってのは拷問に等しいッス……」
「ぜんぶオーブを手に入れるためや。このくらいなんてことないやろ。オーブさえ持ち帰ればあとでぎょうさん父上が酒を振舞ってくれるはずや」
「それはそうかもしれないですけど~」
子分たちにそう言いながらドワタンは自分自身に言い聞かせる。
(せや酒もガマンしたんや。オーブはなんとしても持ち帰ったるで)
◇◇◇
しばらくそのまま廊下を進んでいくとふとドワ太が声を上げた。
「そういえばアニキ。オーブが隠してある場所は分かってるんですかぁ?」
「んなもん簡単や。そーゆう大事なもんはいちばんドデカい部屋に保管されてるもんや」
「おぉっ、そうなんですねぇ~!」
この点に関してもドワタンは抜かりない。
食事の席でさりげなくこの館の構造を確認していたのだ。
(この館でいちばんでかい部屋は2階中央にある大広間や)
物音を立てず一歩一歩廊下を歩いていくドワタン一行。
やがて突き当りの螺旋階段にぶつかる。
吹き抜けとなった階段をゆっくり登って三人は2階へと足を踏み入れた。
3階にはティムの自室があるためここからはさらに慎重になる必要がある。
(とはいえあのアホ盟主は今ごろ酒がまわってぐっすり眠ってるはずやから。そこまで心配しなくてもええねんけど)
ティムや幹部たちが全員エールを口にしたのをドワタンはしっかりと確認していた。
(面倒な取り巻き連中も帰ったわけやし。この館にはあのアホ盟主がひとりいびきかいて眠ってるだけや。オーブを奪うには絶好のチャンスやで)
大広間の入口はそれからすぐに見つかった。
豪華絢爛な装飾がなされた扉が暗闇の中できらりと光る。
(間違いないここや!)
ドワタンはドワ太とドワ助に手で合図を送ると皆で協力して扉をゆっくりと開ける。
目的のものはすぐに見つかった。
「アニキあれじゃないッスか!?」
「あれがオーブってやつなんですねぇ~!」
種族のオーブは広間の祭壇に奉られる形で保管されていた。
子分たちが手を叩いて喜ぶ中、ドワタンも煌びやかなふたつの宝珠を目にしてにやりと口元を釣り上げる。
「はは……こりゃほんまにすごいでっ!」
ドワーフ族のオーブは何度か見たことのあるドワタンだったが、異種族のオーブを実際に目にするのはこれがはじめてだった。
祭壇に保管されたふたつの宝珠は蒼銀色と菫銀色をしており、ドワーフ族の土色のオーブとは輝き方が少し異なった。
(これが進化を果たした種族のオーブかいな。輝きがぜんぜんちゃうやんけ)
目的のものを目の前にしてドワタンもさすがに興奮が抑えきれない。
これを持ち帰れば父上は間違いなく追放を取り消してくれるはずや!と確信を抱く。
「よっしゃ! すぐ入手して早いとこズラかるで」
「そうッスね!」
「アニキ! よろしくお願いしますっ~!」
子分ふたりを入口に待機させるとドワタンはひとり祭壇へと近づいていく。
(しかしまぁ。こんな場所にオーブを保管しとるなんてほんまアホやな)
実は結界が張られていてオーブが手に入らないのではないかとドワタンは心配していた。
だが、それも取り越し苦労であったことに気づく。
(まぁ結界なんちゅーもんが張れるんは人族の中でも限られたヤツだけやろし。あのアホ盟主がそんなスキル持っとるわけないわな! わっはは!)
ほとんど勝利を確信しつつドワタンはふたつの宝珠の前に立つ。
間近で見るとそれはとても妖美な輝きを放っていた。
(こいつを手に入れさえすればワイらドワーフ族は蒼狼王族とオーガ族の力を引き継げるちゅーわけか! すごいでほんま!)
今ドワタンの興奮は最高潮に達していた。
「アニキ! さっさと奪っちゃいましょうよ!」
「もたもたしてると盟主さんが起きてくるかもしれないッス」
後方からそんな声が飛んでくる。
「そう急かすなや。落として割ったりでもしたら目も当てられんで。ここは慎重に……」
とドワタンがオーブに触れようとしたところで。
(なっ!?)
ズシュピーーン!!
突如光の縄が現れ、体をぐるぐるに縛りつける。
ドワタンはあっという間に拘束されてしまうのだった。
しんと静まり返った領主館の廊下に蠢く影があった。
「アニキ上手くいきましたね! これで楽勝ですー!」
「まさか寝床を抜け出すとは思ってないはずッスよ~!」
「あんま大声出すなや。アホ盟主が起きてまうやろが」
ぽかっ、ぽかっ!
「「い、痛ひぃ~~!?」」
いつものようにげんこつをお見舞いするとドワ太もドワ助も少し静かになる。
今三人は1階の賓客サロンを抜け出して廊下をこっそりと歩いていた。
もちろんすべてはオーブを盗むためだ。
あの後。
領主館へと招かれたドワタンたちは会食堂でティムたちと晩餐をともにした。
食事の席ではエールも振舞われたわけだが彼らは一切口をつけなかった。
ドワーフ族にとって酒は大好物の嗜好品。
酒を目の前にしながら飲めないというのは三人にとってかなりつらいもの。
「あのエール美味しそうでしたよねぇ。一口くらい飲んでおけばよかったかも」
「オイラたちドワーフ族にとって酒を飲めないってのは拷問に等しいッス……」
「ぜんぶオーブを手に入れるためや。このくらいなんてことないやろ。オーブさえ持ち帰ればあとでぎょうさん父上が酒を振舞ってくれるはずや」
「それはそうかもしれないですけど~」
子分たちにそう言いながらドワタンは自分自身に言い聞かせる。
(せや酒もガマンしたんや。オーブはなんとしても持ち帰ったるで)
◇◇◇
しばらくそのまま廊下を進んでいくとふとドワ太が声を上げた。
「そういえばアニキ。オーブが隠してある場所は分かってるんですかぁ?」
「んなもん簡単や。そーゆう大事なもんはいちばんドデカい部屋に保管されてるもんや」
「おぉっ、そうなんですねぇ~!」
この点に関してもドワタンは抜かりない。
食事の席でさりげなくこの館の構造を確認していたのだ。
(この館でいちばんでかい部屋は2階中央にある大広間や)
物音を立てず一歩一歩廊下を歩いていくドワタン一行。
やがて突き当りの螺旋階段にぶつかる。
吹き抜けとなった階段をゆっくり登って三人は2階へと足を踏み入れた。
3階にはティムの自室があるためここからはさらに慎重になる必要がある。
(とはいえあのアホ盟主は今ごろ酒がまわってぐっすり眠ってるはずやから。そこまで心配しなくてもええねんけど)
ティムや幹部たちが全員エールを口にしたのをドワタンはしっかりと確認していた。
(面倒な取り巻き連中も帰ったわけやし。この館にはあのアホ盟主がひとりいびきかいて眠ってるだけや。オーブを奪うには絶好のチャンスやで)
大広間の入口はそれからすぐに見つかった。
豪華絢爛な装飾がなされた扉が暗闇の中できらりと光る。
(間違いないここや!)
ドワタンはドワ太とドワ助に手で合図を送ると皆で協力して扉をゆっくりと開ける。
目的のものはすぐに見つかった。
「アニキあれじゃないッスか!?」
「あれがオーブってやつなんですねぇ~!」
種族のオーブは広間の祭壇に奉られる形で保管されていた。
子分たちが手を叩いて喜ぶ中、ドワタンも煌びやかなふたつの宝珠を目にしてにやりと口元を釣り上げる。
「はは……こりゃほんまにすごいでっ!」
ドワーフ族のオーブは何度か見たことのあるドワタンだったが、異種族のオーブを実際に目にするのはこれがはじめてだった。
祭壇に保管されたふたつの宝珠は蒼銀色と菫銀色をしており、ドワーフ族の土色のオーブとは輝き方が少し異なった。
(これが進化を果たした種族のオーブかいな。輝きがぜんぜんちゃうやんけ)
目的のものを目の前にしてドワタンもさすがに興奮が抑えきれない。
これを持ち帰れば父上は間違いなく追放を取り消してくれるはずや!と確信を抱く。
「よっしゃ! すぐ入手して早いとこズラかるで」
「そうッスね!」
「アニキ! よろしくお願いしますっ~!」
子分ふたりを入口に待機させるとドワタンはひとり祭壇へと近づいていく。
(しかしまぁ。こんな場所にオーブを保管しとるなんてほんまアホやな)
実は結界が張られていてオーブが手に入らないのではないかとドワタンは心配していた。
だが、それも取り越し苦労であったことに気づく。
(まぁ結界なんちゅーもんが張れるんは人族の中でも限られたヤツだけやろし。あのアホ盟主がそんなスキル持っとるわけないわな! わっはは!)
ほとんど勝利を確信しつつドワタンはふたつの宝珠の前に立つ。
間近で見るとそれはとても妖美な輝きを放っていた。
(こいつを手に入れさえすればワイらドワーフ族は蒼狼王族とオーガ族の力を引き継げるちゅーわけか! すごいでほんま!)
今ドワタンの興奮は最高潮に達していた。
「アニキ! さっさと奪っちゃいましょうよ!」
「もたもたしてると盟主さんが起きてくるかもしれないッス」
後方からそんな声が飛んでくる。
「そう急かすなや。落として割ったりでもしたら目も当てられんで。ここは慎重に……」
とドワタンがオーブに触れようとしたところで。
(なっ!?)
ズシュピーーン!!
突如光の縄が現れ、体をぐるぐるに縛りつける。
ドワタンはあっという間に拘束されてしまうのだった。
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