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1章

第20話

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 それから歩き続けること一時間。

 辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
 紫色の眩い光が地平線の彼方へ落ちようとしている。

「やっぱりダメか。今日中にバルハラに着きそうにないな」

 目の前に別れ道が現れたところで俺たちはその場で立ち止まった。

 懐から地図を取り出して確認すると、ドラゴン神殿があった荒野からまだ半分くらいしか進んでいなかった。
 
「申し訳ありません、マスター。私が《天竜眼》でアイテムを探すのに手間取ったことが原因です」

「いやあれは俺が勝手にお願いしたことだ。ナズナのせいじゃないから気にするな」

 ふぅとひと息吐くと、俺は近くの長石に腰をかけた。
 これから本格的に夜になるとキャンプをする地点を探すのが難しくなってくる。

(魔物に見つからないうちに野宿できる場所を探した方がいいか)

 そう提案しようとするが、ナズナが何かに気付いたように声を上げた。

「ご報告です。別れ道の先にある山の麓にどうやら人里があるようです」

「人里?」

 改めて地図に目を落とすもそのような場所があるとは記載されていない。

「けっこうな規模ですね。数百人単位で人族の方が暮らしていると思われます」

「《天竜眼》で確認したのか?」

「はい。ここから歩いても辿り着く距離にあります」

「そうか」

 この地図は以前王都のビフレストで購入した一級品だ。
 シグルード王国の詳細が事細かに描かれている。

(だから人の営みがあるなら記載されていないなんてことはないと思うんだが)

 まさか隠れ里か?

 そういう場所には何か大きな秘密が隠されていることが多い。
 地図にもあえて載せていないのかもしれなかった。

 そんな場所へ行くことは少しだけ抵抗があったが、正直腹が減って限界だったりする。
 多分それはナズナにしても同じだろう。

 食事にありつける可能性があるなら向かわない手はなかった。

「よし。それじゃそこへ行ってみるか」

「畏まりました、マスター。ご案内いたします」

 そのまま俺たちは別れ道の左側へと進んで行った。



 ◇◇◇



(本当にこんなところに里なんかあるのか?)

 俺はナズナの後に続きながら少しだけ疑問を抱いていた。

 別れ道を左に進むとすぐに山道が姿を見せて俺たちはそこを登り始めたわけだが。

 辺りはすでに真っ暗だ。
 今さら引き返すわけにもいかない。
 
 こんな中で魔物が飛び出してきたらサイアクだ。

 なんとか早く人家の集まっている場所まで辿り着きたい。
 そんな気持ちで登り続けること30分。

「里の入口が見えてきました」

 前方からナズナのそんな声が上がる。
 直後、俺の目にもその光景が飛び込んできた。

 山道の途中に突然開けた場所が現れて、その奥には長い階段が見える。
 どうやらここを登ると里へ辿り着けるようだ。

「花鳥の里って書いてあるな」

「はい」

 階段下の石碑にはそう刻まれていた。
 本当にこんなところで人族が暮らしていたんだな。

 はやる気持ちを抑えながら俺とナズナは並んで階段を登り始める。
 
 すると。
 階段を登ったその先に鮮やかな野花で彩られた里が姿を現した。
 
「見てください、マスター。とても綺麗です」

「ああ。すごいな」

 俺たちは一緒に鳥居を潜ると、目の前に広がったのどかな里の景色を見て大きく感動する。

 民家の道沿いには美しい灯篭がいくつも立ち並び、夜に彩りを添えていた。
 
 里の一番奥には高台が見える。
 そこにもいくつか住いがあるようだ。

 いっそう華やかだから、ひょっとするとあの高台には権力者が暮らしているのかもしれない。
 
 辺りには里で暮らす人々の姿も見えて、どこか活気づいたその光景に俺は素直にいいところだなって思った。

「とりあえず泊まれる宿を探すぞ。それと飯が食える場所も。ナズナもろくに食べてなくて腹が減ってるだろ?」

「実はさっきからお腹がずっと鳴りっぱなしでした。そうしていただけると助かります」

 少しだけ頬を赤くさせながら、ナズナは恥ずかしそうにへその辺りを押さえる。
 竜姫って言ってもやはり腹は減るみたいだな。

 そんなことを2人で話していると。

 トントン。

 突然、後ろから誰かに肩を叩かれる。
 反射的に振り返るとそこにはフードをかぶった女の子が立っていた。

「ねぇねぇキミ。見かけない顔だね?」

「誰だ、あんたは」

 少女はニコニコと笑顔を浮かべている。
 敵意ある相手じゃないってことはすぐに分かった。

「ボクはここで暮らしてる里民だよ。ねっ? なんでこの山に里があるって分かったの? 旅人だよね、キミ」

 目の前の女の子は、和モノの民族衣装を羽織って、短めのスカートをはいていた。
 フード越しから褐色の肌と艶やかな赤色のミディアムヘアが覗いている。

 健康的で天真爛漫な美少女。

 それが女の子に対する俺の第一印象だった。
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