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3章

第12話

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 城内の至るところでは豪華絢爛な装飾が施されていた。
 煌びやかな廊下を感心しながら進んでいくと登り階段の上に荘厳な扉が見えてくる。

「陛下はあの中におられます」
「話は通っておりますのでどうぞお入りください」

 階段を登り2人の兵士に大きな扉を開けてもらうと俺とナズナは玉座の間へと足を踏み入れた。

 すると。

「おぉ、待っておったぞ! エルハルト殿!」

 広間上段の玉座からすぐに声が上がる。 
 高座の長椅子に腰をかけているのはシグルード国王だ。

 王国中で国王の肖像画は飾られているから俺はその顔を見てすぐにピンときた。

 年齢は40代半ばといったところか。
 口元に見事なヒゲを生やし、黄金の王冠と赤いマントを身につけている。
  
 見た目はまだ若々しい。
 体もシュッと引き締まっているから王国の騎士団長と言われても信じてしまいそうだ。

 ナズナはすぐに頭を低くすると胸元に手を当てて国王へ敬礼した。
 
(すごいな。人族の社交儀礼まで身につけているのか)
 
 俺もナズナに倣って一度敬礼する。

「国王。今回は招待してくれて感謝するぞ」

「こちらこそわざわざすまなかったな! 我が城までエルハルト殿に来てもらえて余は嬉しい! して……そちらの乙女子はどなたかな?」

「お目にかかれて光栄でございます、陛下。私はナズナと申します」

「ナズナは俺の付き添いで来たんだ。何か問題があったか?」

「いやぁ、問題はないのだ。ただ少し気になっただけでな。ガッハハッ!」

 一瞬不自然な間ができるも国王は豪快に笑ってすぐに話題を変える。
 
「バルハラからここまで大変だったのではないか? ビフレストまでは距離もかなりあっただろう?」

「それなら心配無用だ。バルハラのギルマスに魔法で送ってもらったからな。おかげですぐに着いた」

「ほうほう、そうだったか! バルハラのギルドマスターはとても優秀だと聞いている。だからこそエルハルト殿のような者が自然と集まって来るのかもしれんな! ガッハハッ!」

 それから国王は俺に対して謝礼を口にした。

 ベルセルクオーディンを倒したことや各領の冒険者ギルドが抱える問題を解決してきたことについて感謝される。

 こんな風に君主がいち冒険者に感謝を伝えるのはとても珍しい。

 俺はただ依頼されたクエストをこなしてきただけだ。
 報酬だって貰っているわけだしな。

 だから俺は気付いていた。

 国王はこんなことを言うために俺をここまで呼んだんじゃないって。



 ◇◇◇



 その後も国王は俺に対して当たり障りのない会話を続けた。

(さすがにおかしいな)

 何か時間を稼ぐように一方的に話をされているような気がして俺はつい本音を口にしてしまう。

「そろそろいいんじゃないか?」

「……っ? そ、そろそろというのは?」

「俺を招いた本当の理由は何なんだ?」

「……」

 そこで国王はぴたりと話を止める。
 そして口元のヒゲに手を触れながら豪快に笑った。

「ガッハハッ! さすがはエルハルト殿! お見通しだったというわけか!」

 隣りのナズナが小声で話しかけてくる。

「どういうことでしょうか、マスター? 陛下は謝礼が目的だったのではないのですか?」

「いや。おそらく違うな」

 2人でそんなことを話していると国王はくるりと体を動かして長椅子の後ろに向けて声をかけた。

「どうだ? もう確認は十分か?」

『……はい、お父様。こちらの殿方で間違いありません』

「うむ。ならば出て来い」

 すると、1人の少女が長椅子の後ろから姿を現す。
 
(!)

 女の子の顔を見て俺は思わずハッとした。
 
 間違いない。
 あの時の少女だ。

 煌びやかなブロンド色のストレートヘアとエメラルド色の鮮やかな瞳。
 その気品溢れる佇まいと透明感ある顔立ちを忘れるわけがない。

「オリヴィア……」

「お久しぶりです、旅の御方」

 そう口にすると彼女はにっこりと笑顔を浮かべた。

 今日のオリヴィアはキャペリンハットと花柄のフリルドレスという格好じゃなかった。
 純白のプリンセスドレスにプラチナのティアラを頭に付けている。

 その姿を見て気付かないはずがない。

「あんた王女様だったのか」

「はい。この前はきちんとご挨拶することができずに申し訳ございませんでした。旅の御方……いえ、エルハルト・ ラングハイム様。わたくしはオリヴィア・シグルードと申します」

 オリヴィアはドレスの裾を少しだけ持ち上げながら華麗にお辞儀をする。

 高貴な身分の者に違いないとは思っていたがまさか王女様だったとは。
 この前は小柄で華奢な印象を受けたが、純白のドレスを身にまとったオリヴィアはとても大人びて見えた。

「ナズナの言った通りだったな」

「はい。またオリヴィアさんとお会いすることが叶いました」

 オリヴィアは一礼すると国王の隣りの長椅子に静かに腰をかける。
 その洗練された麗しい動作はまさに一国のプリンセスそのものだった。
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