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3章

第14話

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「エルハルト殿。我が国には『王女が救われた時、王国に救世主が現る』という言い伝えが残っておるのだ。元々シグルード王国は強力な隣国に挟まれた小さな国に過ぎなくてな。だがある時、救世主の男が現れた。彼は王女の危機を救い、やがて王国を再建する英雄へと成長した。王女は男との婚約を果たし、国王となった彼は我が王国を今のように強大な国へと発展させていったのだ」

「今は魔王が復活するかもしれないと大陸中で騒がれております……。そうすればまた混沌の時代が訪れるかもしれません。そんな時代にエルハルト様のような御方が傍にいてくださったらシグルードは安泰すると思うのです……」

「と言われてもな。俺はべつに救世主なんかじゃないぞ」

 俺がそう言うと国王はからからと笑った。

「ガッハハッ! まあというのは口実に過ぎぬのだ! こいつはお主にひとめぼれしてしまったようでな」

「は、はい……。恥ずかしながら殿方に恋をしたのはこれが初めてなんです……。エルハルト様は美男子でありますし女性が放っておかないと思いますが……。もし本当に特定の女性とお付き合いされていないようでしたら、わたくしと婚約していただけないでしょうか……? どうかお願いいたします……!」

 オリヴィアは不安そうに俺の顔を覗きながら改めて懇願してくる。
 一世一代の想いで俺に気持ちを打ち明けてくれているってことがひしひしと伝わってきた。

 ここは俺もきちんと考えるべきだ。
 
「少しの間だけ時間をくれないか?」

 一言そう断って俺は腕を組んで考え始めた。



 ◇◇◇



 仮にオリヴィアと婚約したら俺はどうなるんだろうか。
 
(王女と結婚するってことは王室に入るってことだよな)

 間違いなく今よりも華やかで優美な暮らしが待っている。
 こんな風に王女に婚約を迫られたらどんな男でも飛び跳ねて喜ぶに違いない。

 けれど俺の場合は違う。
 勇者が魔王を倒すための手助けをするっていう大切な使命がある。

 そのために俺は転生してこのザナルスピラへやって来たのだ。

 そんなことを考えているとナズナが小声で話しかけてきた。
 
「マスター。ここはオリヴィアさんの想いに応えるべきではないでしょうか?」

「ナズナはそれでいいのか?」

「何がでしょう? 私はマスターにとって最善の選択を提案しているだけです」

 そう口にしつつもナズナは普段よりもどこか冷たい。
 本心じゃないのかもしれない。

「王室に入れば今よりもより良い暮らしができるのではないでしょうか? 最強の神器を作るための素材集めもしやすくなると思います」

「だがナズナはどうなるんだ?」

「私……ですか?」

「オリヴィアと結婚するってことはナズナはこれまで通り俺の傍にはいられなくなるってことだ。それは俺の望むことじゃない」

「!」

「それに俺たちは主従契約を結んだ仲だ。俺にはナズナが必要なんだ」

「マ、マスター……。こんな陛下たちのいる面前でそんな風に言われるのは……ちょっと恥ずかしいです……」

 ナズナは顔を赤くさせたまま俯いてしまう。
 よく分からなかったがそれっきり何か言ってくるようなことはなかった。

(ナズナの言いたいことも分かるんだが逆なんだよな)

 たしかに王室に入れば今よりもいい暮らしができるのかもしれないが身動きは確実に取りづらくなる。
 王婿なんてものになってしまえば、とてもじゃないが目的は達成できない。

 いろいろと考えた末、結論はやはり一つだった。



 ◇◇◇



「気持ちは固まったか? エルハルト殿」

「ああ」

 俺は高座の長椅子に座るオリヴィアに目を向ける。
 そしてまっすぐに彼女の瞳を見つめながらこう口にした。

「オリヴィア。申し訳ないが、俺はあんたの想いに応えることはできない。それに王女であるオリヴィアと俺なんかが釣り合うとも思えないしな」

「そんなことはありません……! むしろわたくしのような者がエルハルト様に相応しい姫宮になれるのかと、ずっとそのことを考えておりました……。あなた様のことを想うと夜も眠れなくて恋焦がれて……。わたくしはエルハルト様が好きなのですっ……!」

 耳まで真っ赤にしながらオリヴィアは熱い言葉を俺にぶつけてくる。
 ここまで考えてもらえていたなんてなんだか悪い気がするな。

 なぜなら俺には分かっていたから。
 それがオリヴィアの本当の気持ちじゃないってことが。

 落ち着くの待ってから俺は静かに続けた。
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