ドラゴンレディーの目覚め

莉絵流

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エゴとの上手なつきあい方

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いつも通り、食事も後片付けも二人でチャッチャと済ませて、
今は、コーヒーを飲みながらのお喋りタイム。この時間が、私にとっては、
最良の癒しなんだよね。アトランティーナとお喋りしてるだけで、
私の中に溜まった澱が流されていくような気がするの。

「ミウ、さっきの話の続きをしても良いかしら?」

「うん、大丈夫だよ。っていうか、お願いします」

「五十嵐智美さんのこと、チームのメンバーだけに、少し厄介よね」

「うん、それは私も思ってる。でもね、彼女が藤崎さんのことを好きだと
思う気持ちは、彼女のものだし、私がとやかく言えることではないと
思ってるし、私が誰のことを好きになっても、私の気持ちは私のものだから、
他の誰かにとやかく言われる筋合いではないと思ってる」

「ミウ、その考えは合っているけど、人の気持ちって理屈で割り切れるもの
ではないでしょ?今後、もし、ミウと弦夜がつきあうことになったとして、
それが、みんなに知れた時のこと、考えているの?」

「そこは、つきあうことが決まった時に考えれば良いかなって思ってる。
今から、まだ起こってもいないことをあれこれ考えるのは、少し違うのかなって」

「ミウ、成長したわね。色々、煽ってみたけど、全然、揺らがない。
安心したわ。ミウの言う通りよ。今から心配したり、気にする必要なんて、
全くないわ」

「な~んだ・・・。もう、緊張しちゃったじゃん!私、何か間違ってたかなって、
ちょっとだけビクビクしちゃったよ(笑)確かに今日のランチで、ちょっとだけ
嘘ついちゃったけど、罪悪感を感じるほどのことでもないよねって自分に
言い聞かせてたのも違ってたのかなって。もう、脅かさないで。あっ、これも、
もしかして試験だったとか?」

「嘘って、弦夜がミウのハンバーグ好きを知っていた理由のこと?でも、実際、
ミウもハッキリ覚えているわけでもないんだし、嘘って言うほどのことでも
ないからね。ま、その点に関しては、ミウの言う通り、罪悪感を感じるほどの
ことでもないわね。少し安心した?(笑)

あと、そうね、試験って言ったら大袈裟かもしれないけど、ミウの覚悟を
知りたかったというところはあるわね。でも、安心したわ。ミウがエゴに
振り回されていなくて」

「エゴといえば、そうでもないかも(苦笑)」

「えっ、何かあるの?」

「今日、ふと思ったんだよね、レオンくんのこと。最近、全然、レオンくんが
寄りついて来なくなったの。少し前までは、一緒にランチに行こうとか、
一緒に帰ろうって言ってきてたのにね。それで、ちょっと寂しいって思ってる
自分を発見して、なんとも複雑な気持ちになったんだ(苦笑)

私がレオンくんに恋心を抱くことはないって言ってたじゃない?
でも、相手からは恋心を抱かれたいって思ってるんじゃないのかなって、
すっごくズルイことを思ってるような気がしてね。あ~、これもまたエゴなの
かなって思ったワケ(苦笑)」

「なるほどね。確かに、その感情はエゴね。でも、ミウの言っていることも
分かるわ。誰にでも多かれ少なかれ、そういう感情はあると思うから。
誰でも愛されたいって思っていることに間違いはないからね。
でも、愛されたかったら、まずは自分から愛さないと始まらないわ」

「その愛する対象は、まず自分だよね?」

「よく出来ました!その通りよ、ミウ。ミウは今、自分のことを本気で
愛せているかしら?ここで言う愛とは、エゴの愛ではないのよ。欲しいものを
ただ欲しがるだけではなくて、本当にミウに必要なもの、ミウが心の底から
求めているものを与えることなの。

人は、とかく本当に求めているものではなくて、それを誤魔化すために
何か別のものを欲しがる傾向があるからね。でも、そんなことを繰り返して
いたら、いつまで経っても本当に心が満たされることはなくて、次から次へと
対象を変えて、ただ欲しがるということを繰り返すだけで、不毛な時間を
費やすだけになってしまうの。

だから、本当に心の底から求めているものは何かを知る必要がある。
その対象は人に限ったことではないけどね。それが、エゴとの上手な
つきあい方なのよ。まぁ、今のミウが本当に欲しがっているものを
自分と向き合って探る必要があるのは人だけどね(苦笑)
さて、ミウはどうかしら?」

「ねぇ、それって、私がレオンくんに愛されたいって思ってるってこと?
え~っと・・・、どうなんだろう?確かにレオンくんに愛されていたとして、
それが私が本当に求めていることなのかって考えると違う気がする。
だって、レオンくんに愛されたとしても、それで私の心が満たされることは
ないもんね(苦笑)」

「今、想像したのね。とても良いわ、ミウ。その状況を思い浮かべて、自分の心を
覗いてみることは、とても大事なこと。そうしないと、自分の本当の気持ちは
見えてこないものね。

じゃ、今度は、弦夜で考えてみてごらんなさい。弦夜に深く愛されている状況を
思い浮かべたら、ミウの心は満たされるのかしら?」

「う~ん・・・。そうだね。まだ、ハッキリと具体的にはイメージ出来ないって
いうか、思い浮かばないんだけど、藤崎さんに愛されていたら・・・。
最初に浮かんだ言葉は、『嬉しい』だったよ。だから、レオンくんよりは
満たされるのかもしれないね(笑)」

「レオンと比べるのもどうかと思うけどね(苦笑)ミウにとって、レオンって、
どんな存在なんだろう?もしかしたら、ミウの心の奥底にレオンが居るという
ことはないの?」

「いや・・・ないと思うよ」

「でも今、レオンが寄りついて来ないことを寂しいって感じているんでしょ?
それは、どうしてなのかしら?ミウの気持ちだから、ミウにしか分からない
ことなのよ。ちょっとだけ、考えてみてくれる?」

「う~ん・・・そうだなぁ・・・。レオンくんに恋してはいないけど、
居なくなったら困る存在だね。仕事の面でも、私よりたくさん色々な経験を
してるから、的確なアドバイスをしてくれるし、心の面っていうか、私の
ことをきちんと理解してくれてるから、些細な変化っていうか、私が何を
考えてて、何に悩んでるのかとか、言わなくても察知してフォローして
くれるの。それが、すっごく心地良くて楽だし、助かるし、有り難いなって
思ってる。

もし、私が藤崎さんとつきあうことになって、それをレオンくんが知って、
距離を空けられちゃったら、困る・・・いや、困るっていうよりも心細い
って言った方が私の気持ちには近いような気がする。

別にレオンくんを利用してるつもりはないんだけど、頼りになる親戚の
お兄ちゃん的な存在なのかもしれない。いつも傍に居てくれて、私が
ダメな時は、しっかり叱ってくれて、よく出来た時には褒めてくれてって
感じなのかな。

だから、私にとってのレオンくんは、アトランティーナに近い存在なの
かもしれないって思う。守られてるなって感じるの。だけど、だからといって、
アトランティーナが居なくなって、レオンくんだけが残るっていうのは、
また違うんだけどね。今言えるのは、こんな感じなのかなぁ」

「なるほどね。よく分かったわ。レオンは、今もミウの守護天使なのね(苦笑)
アトラン国に居た時、レオンはミウの守護天使だったということは、もう知って
いるわよね?」

「うん、もちろん!」

「あの頃も8人居る守護天使の中で、レオンが一番過保護だったのよ(苦笑)
ミウには、小さい頃からご両親が居なかったでしょ?だから、レオンが、母親や
父親の役割を一人で担っていたところはあるわね。あの頃のことが、今でも
抜けないのかもしれないわね(苦笑)

だから、時には、守護天使として、やり過ぎてしまうこともあって、何度か
注意したこともあったわ。懐かしいわね」

「そうだったんだ・・・。だから、レオンくんが傍に居るとホッとするって
いうか、安心するっていうか、気持ちが楽になるんだね」

「それ、レオンに言ったことある?」

「うん、あるよ」

「そう。おそらく、レオンにとって、最高の褒め言葉だったと思うわよ。
たぶん、言わなかったかもしれないけど、レオンは、ミウにそう言われて
嬉しかったはず。それで、ますます張り切っちゃったんだと思うわ。最初の
目的なんて、すっかり忘れてね(笑)」

「なんか私、レオンくんに悪いことしちゃってる?」

「いいえ、ミウは何も悪くないわ。最初の目的を忘れて、自分の思いだけで
突っ走ってしまったレオンの責任ね。でも、ミウは、レオンに傍に居て欲しい
って思っているんでしょ?もし、弦夜が、レオンがミウの傍に居ることを
嫌がったとしても、その気持ちは変わらない?」

「えっ、藤崎さんが、レオンくんが私の傍に居ることを嫌がるって、どうして?」

「恋愛初心者のミウには、合点が行かないかぁ・・・(苦笑)だって、レオンも
元々は、ミウの恋愛相手候補だったのよ。もし、ミウと弦夜がつきあうことに
なったら、弦夜としては、ミウの傍にレオンが居るなんて、心中穏やかでは
いられないでしょ」

「あ~、そういうもん?私に全く恋愛感情がなかったとしても?」

「ミウになくても、レオンにはあるかもしれないでしょ?それに、ミウと弦夜が、
この先つきあうことになったとして、つきあっていれば、ケンカをすることも
あるだろうし、気持ちが行き違ってしまうこともあると思うの。その時、
ミウの近くにレオンが居たら、ミウの気持ちがレオンに傾いてしまう可能性だって
あるでしょ?100%無いとは言い切れないはずよ」

「え~、でも、レオンくんは、今でも私のママやパパみたいな気分でいてくれてる
ってことはない?だから、藤崎さんとつきあってケンカすることがあったと
しても、慰めてくれることはあったとしても、今の関係性が崩れることはないと
思うんだよね」

「ミウ、レオンは、100%ミウのパパやママではないと思うわよ。
もし、そうだったら、今もミウの周りをウロウロしているはず。でも、最近、
寄りつかなくなったんでしょ?それは、レオンがミウと弦夜のことに
気づいているからだと思うのよね。それで、レオンは、ミウに
近づかないようにしているんだと思うわ」

「気を遣ってるってこと?藤崎さんに?」

「ええ、そういうこと。まぁ、まだ何も起こっていないうちから、こんな話を
していても埒が明かないし、無意味だから、明後日のことを話しましょう。

とりあえず、今のミウは、弦夜に愛されていることを想像した時に<嬉しい>
というワードが浮かんだのよね?ということは、現状、ミウは弦夜に惹かれて
いると考えて間違いないと思うの。

そこで、もう一歩踏み込んで、明後日、食事に行くまでに、弦夜のことを考えて
みると良いわ。あっ、でも、頭で考えるのではなくて、ハートで弦夜のことを
感じてみるのよ」

「えっ、どうやって?」

「ミウが男性から言われたい言葉ってあるでしょ?それを弦夜に言われたら、
どう感じるのか。あと、男性にして欲しいこともそう。ミウが男性にして欲しいと
思っていることを弦夜がしたら、ミウはどう感じるのか、試してみて」

「男性から言われたい言葉、男性にして欲しいこと・・・なんだろう?
そこから始めないとダメだね(笑)」

「そんなに難しく考えることはないのよ。例えば、<好き>とか、
<大切にするよ>とか、<僕が傍にいるよ>とか、色々あるでしょ?して欲しい
ことも、そうねぇ・・・ミウが車道側を歩いていたら、さりげなくミウを内側に
引き寄せてくれるとか、入り口のドアを開けてくれるとか、お店に入った時、
奥の席にエスコートしてくれるとか、そんな感じよ。どう?これでも難しい?」

「あっ、じゃあ、食事に行く時のことを想像して、それで、シミュレーションして
みれば良いんだ!それで、一つずつ検証してみれば良いね」

「検証だなんて(笑)ま、良いわ。そういうところもミウらしくて良いと
思うから(笑)」

「えっ、なんか私、変なこと言った?」

「検証っていうのは、事実を確認することを言うのよ。だから、ちょっと
違うかなって(苦笑)それに、言葉が硬い(苦笑)」

「じゃあ、検証じゃなくて、シミュレーションして、一つずつ、私がその時に
何を感じるのかを確認してみれば良いね。これなら大丈夫?」

「そうね。その方がしっくり来るわね。そんなに事細かにする必要はないけど、
トライしてみるとミウが知らなかったミウを見つけることが出来るかも
しれないわよ。ま、楽しみながらやってみると良いわ」

「うん!今夜から早速、やってみる。なんか、面白そう」

「そうやって、何でも<面白そう>ってトライできるからこそ、今のミウが
あるのよね。その好奇心、とっても大事よ。これからも、そういうところ
失くさないで欲しいわ」

「たぶん、大丈夫。私、割と何でも面白がっちゃうタイプみたいだから(笑)
それで、会社に入りたての頃も褒められたこと、あるんだ。

<そうやって、何でも面白がって取り組むところ、あなたの良いところだと
思うから変わらないでね>って、先輩に言われて、めっちゃ嬉しかったんだ」

「そうなのね。で、その先輩は、今、どこにいるの?」

「もう、随分前に辞めちゃったんだ。海外に行くって言ってたような気が
するけど・・・。えっ、もしかして、あの先輩って、アトランティーナ
だったの!?」

「うふふ。さあ、どうかしらね(笑)じゃ、今夜はここでお開きにしましょう。
お風呂に入って、今夜もゆっくり、ぐっすりおやすみなさい」

「え~っ、どうなの?気になるじゃん!」

「私は、ミウが生まれてからずっとミウのことを見てきたの。
いつもミウの傍にいたわ。それでは答えにならない?」

「あの先輩がアトランティーナだったかどうかだけ、教えてよ。
確か、スタイルが良くて、めっちゃキレイで、みんなの憧れの的だったんだけど、
誰にもなびかない凛としたところがあって、カッコ良かったんだよね。
そう考えると、今のアトランティーナに似てるし、阿刀田部長にも似てるような
気がする」

「そうね、私は変幻自在だから(笑)あの頃のミウ、とっても可愛らしかった
わね。それで、つい、面倒をみたくなっちゃったのよ。でも、その後の計画も
あったから長居するわけにもいかなくてね。チーフにまでなって、こんなふうに
育ってくれて、とっても嬉しいわ」

「やっぱり、そうなんだ!こちらこそ、あの先輩がいたから、今の私がいるって
いうか、ずっと目標にして、目指してたの。あの頃は、まだ女性がチーフには
なれなかったから、チーフではなかったんだけど、実際、チーフより仕事を
知ってたし、戦力になってたと思う。だからきっと、女性でも活躍できる海外に
行ったんだなって思ってたの。そっか、そうだったんだ!

なんで、今まで気づかなかったんだろう。でも、また会えて、しかもこんなに
近くに居てくれて、本当に嬉しい。ありがとう、アトランティーナ!」

「いいえ、どういたしまして。じゃ、そろそろお風呂に入ってらっしゃい。
それで、今夜こそ、私が出てくる前に寝るのよ」

「は~い!」

「それから、さっき話していたシミュレーションもね」

「あっ、アトランティーナがあの時の先輩だったってことで、興奮しちゃって
忘れてた(笑)思い出させてくれてありがとう!楽しみながら、やってみるね」

「そうしてちょうだい。じゃ、ミウ、おやすみなさい」

「おやすみなさい、アトランティーナ。今日もありがとう!」


<次回へ続く>
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