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異世界転移編

第15話 城へ

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 ムツキはこの日が憂鬱だった。

 リフドンとの約束の日。

 リフドンからは、行き先は内緒だと言われているが、リフドンとの会話から容易に想像できる。

 多分、今から城に向かい、そこで王様と会うのだろう。

 リモート会議で上司と顔を合わせる事こそあっても、入社式も無かった年の自分としては社長すら見た事がなかった。

 そんなムツキが国のトップと謁見する事になろうとは思ってもみなかった。
 ムツキ口から心臓が飛び出しそうなほどに緊張している。

 しかし、逃げ場などない。

 事前に今日と約束してしまった以上、反故にすればそれこそ処罰が待っている事だろう。

 そういえば、記憶は薄いがほかの国で王様にあっていたな。スキル名だけで追い出された身なので、印象が薄いのも当たり前かもしれないけど。

 ムツキがリフドンの店に向かうと、既に店の前に馬車が用意されており、ちょうど店から出てきたリフドンに言われるがまま、馬車に乗乗り込んで城(多分)へと向かうのだった。


 ムツキの乗った馬車は、案の定エクリア城の方へと向かい、城へと続く一本道を馬車が進み始めた頃に、イタズラが成功した様な笑みでリフドンはやっとムツキに行き先と、謁見の説明をしだした。

 緊張で顔の引き攣ったムツキの顔は、リフドンにはさぞ驚いている様に見えただろう。


 《謁見》と言っても、ムツキが想像していた様な、城の大広間を使った仰々しい物では無かった。

 通された部屋は、ドラマで見る社長室程の大きさの部屋で、この部屋で国とリフドンとの取引のついでに王様が興味を持ったムツキの紹介をするくらいらしい。

 それもそうか。とムツキは自分の考えすぎた想像を自意識過剰だと恥ずかしく思った。

 王様からすれば、ムツキは珍しい物を持って来たと言うだけの平民だ。

 あとは贔屓商人であろうリフドンの知り合いと言う事以外はなんでもない人間で、リフドンが俺の話をしたから気になった位なのだろう。


 ムツキは、リフドンと並んでソファに腰を掛け、王様が来るのを待っていた。

 すると、3人の人物が部屋へとやって来た。

 3人が入って来たのを見て、リフドンが立ち上がって腕を胸に当て3人に向かって軽く会釈をするのを見て、ムツキもそれに倣った。

「楽にしてよい」

 そう言って、3人内、真ん中の人物、王様がムツキとリフドンの向かいのソファに腰を下ろして、そのソファの後ろに、一緒に入室した若い男性2人が立ったまま控えた。

 リフドンはそれを見てから先程まで座っていたソファに再び腰を下ろして、ムツキの服をくいくいと引っ張りムツキにも着席を促す。

 それを合図に、ムツキは恐る恐る腰を下ろすと精一杯の笑顔を作った。

 やはり、覇気?オーラ?が違うなあ。

 そんな事をムツキが考えていると王様がゆっくりと話し出した。

「私がこのエクリア帝国の主、シュナイゼルだ。妻は病弱であまり部屋から出られない為、いつもはリフドンに部屋まで来てもらうのだが、君をいきなり呼ぶわけにもいかない。勘弁してほしい」

「わ、私はムツキと申します。行く当てもなかった所をリフドンさんに拾っていただきまして、これからこの国にお世話になります」

 緊張していたムツキはそう言って座ったままではあるが、勢いよく頭を下げた。

 それを見てシュナイゼルは苦笑いであった。

「そんなに緊張しなくていい。君を呼んだのは人柄を見たかったのもあるのだがね、問題ない様だな、これは。珍しい物を持ち込んだのだからどんな人物か気になってね、あの滋養強壮剤は良かった。心なしか妻の顔色が良くなったよ。宮廷薬師も研究してあれよりもいい物を作ろうと気合いを入れているよ。ほら、お前達も名乗りなさい」

「は。近衛騎士団長のカインと言います。以後お見知り置きを」

 ガタイが特別いい訳ではないが、騎士団長と言うだけあって強いのだろう。

 そしてカインの隣に立ったもう1人は、驚いた様に口をあんぐりと開けて固まっていた。

 かくいうムツキも、シュナイゼルの話の途中から、内容があまり頭に入って来ていなかった。

 銀髪の小さな鳥くらいの大きさの、小さな女の子がいきなり自分の肩をガジガジと齧っていたからだ。

 ムツキは、シュナイゼルやリフドンが反応しないのだから、無視した方がいいのだろうと反応を返さなかったが、彼には見えているのかな?

 などと考えながら、反応した青年にこの状況をどうしたらいいのか教えてもらえると助かります。と、聞きたい所をムツキはグッと堪えた。

 ムツキの肩を、ガジガジと齧っていた小さい女の子は、満足したのか肩から口を離すと、ニコニコとしながら光の玉を作り出して、ん!とでもいいそうな雰囲気でムツキに差し出した。

 受け取らないといけないんだろうな。

 見えてない人王様達に変に思われないかな?

 そう思いながら、ムツキは玉を受け取った。

 ピコン!スキル:マルチによってピリカの精霊術を取得しました。

 ピコン!ピリカから銀妖精の祝福が付与されました。

「君、まさか見えているのかい!」

 ピコン!精霊の祝福を得た事により、ニコラス・ネイルから取得していたエルフの血統が有効化されました。

 …「え?」



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