食欲の錬金術師〜草しか食べれない転生草食エルフは錬金術で体をいじって食の旅に出る〜

第19話 小麦粉の調理1

　厨房に入ると城の料理人達が整列して待っていた。

　料理長と思われる真ん中にいる男が笑顔で口を開いた。

「あんたがフォルテ様かい？」

「ああ。これから厨房を使わせてもらうよ？」

「その前に一つ言わせてくれ」

　料理長はそう言って直角に腰を折った。

「あなたのお陰で陛下に久々に料理を口にしてもらえた。使用人が食べる賄いのスープにパンを入れただけの質素な物だが、一口食べた陛下は何も言わずに私の顔を見て微笑んでくれたよ。いつもの葉野菜を無表情で食べる陛下では見れない、久々の顔だった。本当にありがとう」

　料理長の言葉に、後ろにいた料理人達が一斉に頭を下げた。

「それはそうだろう。いつも同じ野菜くさばかり食べてたら味も忘れてしまうだろう。だけどな、これからはお前達が国王の体調管理をするんだ。栄養が偏れば体は弱くなり早死にする。あれが骨を折ったのもそれが原因だ。これから忙しくなる。お前達も手伝え、気取った貴族の料理じゃなく、美味い料理を作るぞ！」

　決して貴族の料理がまずいと言ってるわけではない。豪華な料理はたまに食べるだけでいい。

　家庭的な料理を食べるから、豪華な料理も美味しく食べられる。
　何事もバランスだ。

「さて、まずはこれから作るぞ！」

　フォルテはそう言って小麦粉を調理台の上に勢いよく置いた。

「フォルテ様、パンならば城にもございますが？」

　国王に出す様な最上級品は今は仕入れていないが、使用人の中には、貴族の出の者もいる為、上級品は置いてあると、料理長はフォルテに進言した。

「小麦粉はパンだけを作る物ではないぞ」

　フォルテは料理長の言葉に口角を少し上げて返事した。

　料理長なこう言うということは、この世界の料理はバリエーションが少ないのだろう。

　しかし、これから発展していく中で、地球にはない料理を思いつく人がいるかもしれないと言う事だ。

　幸い寿命は長いのだから、楽しみは多い方がいい。

「まず大きいボウルを用意しろ！それから必要なのは、塩と水だ！」

　大きなボウルを用意されたが、フォルテが思うよりも小さかった為、二つを錬金術で合成して、大きなボウルを作った。

　その中に小麦粉を入れるのだが、フォルテは買ってきた貴族用の小麦粉と平民用の小麦粉を半々で入れて混ぜ合わせた。

　ちなみにボウルは２つ用意して小麦粉も両方に同じ分量で入れてある。

「よし、それじゃ料理長は俺の隣で真似をして隣で同じ物を作れ！」

「分かりました！」

　フォルテが居なくなっても作れるように隣で教えながら作ることにする。

「まずは塩と水を混ぜ合わせて塩水を作る。そしたらこれを少量ずつ混ぜながら小麦粉を練っていくぞ！」

「はい！」

　まずは小麦粉を一つの生地にまとめる。
　これはパン作りも同じなので料理長も手際よくこねていく。

「この時、水の入れ過ぎには注意だ。みろ、このくらいだまになってボソボソの状態になったら水を足さずにしっかりとこねていくんだ」

「分かりました！」

　フォルテが手際よくこねていく隣で、料理長は水が少なく上手くまとまらない。

「もう少しだけ水を足してみろ。入れすぎるなよ？」

「はい！」

　フォルテの指示を受けて、少量を足すことで料理長も小麦粉を一塊の生地にする事ができた。

　その後、やらか過ぎれば小麦粉を使って生地の硬さを耳たぶ位に整える。

「水と小麦粉を使ってだいたい耳たぶの硬さだ。覚えておけ」

「分かりました」

　料理長は真面目なのか、自分の耳たぶを触りながら反対の手で生地の硬さを確認している。

　その後は、生地を15分程寝かせる。

　ラップがないので、タオルを被せて待つことにする。

「砂糖なんかは入れないんですね」

　休憩している間に料理町から質問をされたのでフォルテは頷いて答えた。

「パンではないからな」

「新しい食べ物がとても楽しみです！」

　フォルテの言葉に料理長は笑顔で答えた。
　周りで見学している料理人達も無言で頷いた。

　謎の一体感のなかで疎外感を感じながらも、気になっているのか、ケミーニアも調理工程をじっと見学しているのであった。