食欲の錬金術師〜草しか食べれない転生草食エルフは錬金術で体をいじって食の旅に出る〜

シュガースプーン。

文字の大きさ
39 / 73

第39話 宿

しおりを挟む
 フォルテとヤコブ、レイアが領主館へ戻って来ると、そこにはちょうど領主館から出て来たケミーニアがプリプリと起こった様子でフォルテに近づいて来た。

「フォルテ様!聞いてくださいよ!ここの領主、私達が人と同じ食事をすると言っても邪教に呑まれてはいけません、神聖な食物を食べれば幸せになれますとか言って聞かないんですよ!」

 ケミーニアが言うには、フォルテが戻って来たらみんなで美味しい食事を楽しもうと提案したのだが、それを拒否されて野菜を食べる事を強要されたのだとか。

 以前のケミーニアなら受け入れたかもしれないが、職を知った食いしん坊エルフ娘には受け入れ難い提案であった為、宿に泊まる事を伝えて飛び出して来たのだという。

 野菜だけの味気ない食事などフォルテもごめんなので、ケミーニアに賛成して宿を取る事にした。

 ヤコブが住民に聞いて宿を探し、フォルテとケミーニアはそれについて行く。

 レイアはと言うと「なら俺は金もないしその辺で」などと言い出したのでフォルテに小脇に抱えられるようにして連れて行かれていた。

「フォルテ様、それでその子は?」

「ああ、色々あってな。後で話そう」

「わかりました」

 フォルテの言葉に、ケミーニアは基本イエスマンである為、話は後にしてヤコブが選んだ宿へと向かった。

「いらっしゃいませ。あ、その、うちの宿は野菜だけの提供をしていませんのでエルフの方のお気には召さないかと思うのですが……」

 宿に入ると、受付の女性が申し訳なさそうに申し出た。
 フォルテやケミーニアの耳の形を見て察したのであろう。

「大丈夫です。お二人は人と同じ食べ物を食されます。それに美味しい物に目がない。 街でここが1番食事がおいしい宿だと聞いてやって来たのですが4名泊まれますか?」

「はい!ありがとうございます!」

 ヤコブの説明に嬉しそうに返事をした受付の女性は「お父さんに最高の料理を提供する様に伝えますね!」と話をしながら受付を済ませてくれた。

 部屋を取った後に、フォルテは自分の姿を見て受付の女性に質問した。

「すまないが風呂はあるか?この泥まみれの格好で部屋に上がるのは申し訳ない」

「はい。ございますよ! ではこの札をかけて30分のご利用でお願いします。あ、追加で料金がかかってしまうのですが……」

「かまわん。4人分頼む」

「ありがとうございます。そこまで大きな浴室ではありませんので順番にお願いします」

「分かった」

 フォルテは料金を払い終えると、そのまま風呂に向かった。

 風呂の広さ的にフォルテと、ヤコブは体が大きいので後に入ってもらう事になり、レイアが一緒に入る事になった。

 風呂が嫌なのかジタバタと暴れるが、孤児で何日も風呂に入ってないのだし、今日の作業で泥だらけである為、フォルテは宿に迷惑をかけてはいけないと、服を剥ぎ取って一緒に風呂に入る。

 椅子に座らせて頭からお湯をかける頃には観念したのか、背中を丸めるように縮こまってフォルテに頭を洗われている。

「どうだ、サッパリするだろう?」

「……うん」

 蚊の鳴くような声で返事をするレイアの頭を洗い終えると、体は自分で洗うように言ってフォルテは自分の体を洗い始めた。

 洗い終わって、フォルテは湯船に浸かると、レイアは体を洗い終わったのに縮こまったままだ。

「湯船に浸かっておかないと風邪をひくぞ!」

 フォルテの言葉にレイアは何か決意したように「よし」と呟くと、湯船に入る為に立ち上がった。

 それを見て、フォルテは驚きの声をあげる。

「レイア、お前女だったのか?」

 レイアの股には男性ならあるはずのものがない。

「な、お前、その目的で風呂に連れて来たんじゃないのか?」

 レイアは、逆にフォルテの反応に驚いて顔を真っ赤にしながら大声で質問をした。

「男だと思っていたからな。だが、安心しろ。俺は子供には興味がない」

「バカ! 俺は14歳の立派なレディだ!」

 怒ったレイアが投げた桶が、フォルテの頭に命中してたんこぶを作ったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...