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消えゆく芸術
6.芸術家達の「家」
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消えた芸術家達の家は七か所、全て大きな山の麓に建てられていて、それぞれの家のデザインはもちろん各々の芸術家たちの完全オリジナルデザインだ。
その七名の芸術センス、世界観を表すような家は、山を取り囲むように七軒、建てられていて、それだけの敷地もあった。
そして……これは数年ほど前に分かった事だが、その家々は、山の頂上を中心に遥か上から見ると、山を含めたアートそのものの様になっていると、ドローンロボットを飛ばして街の撮影をしていたある者が証明したらしい。
そして、その山と家の融合されたこれは、『一体誰の作品なのか?』と、一時期非常に話題になったが……。
突如、その撮影者は消え、更には撮影されたはずのドローン写真も、なぜか公表されることなくどこかへ消えたと言われている。
この件に関する真相は未だに不明……だがまあ、噂では街の金持ちが発表をする前に高額で買い占めたのではないかという説が、現状最も強い。
もう一つ、その撮影者が消えた理由として有名なのは……呪い殺された、という説。
それに関しては、その七名の芸術家が死亡、又は失踪してから、その家にはドローン撮影者を除いて、ここ数年以上、誰一人として近寄っていない事実の上に成り立つ噂話に基づいている。
なぜかというと、家の持ち主である彼らが居なくなってしまったことも、原因の一つではあるが……。
一番の理由は、奇妙な噂と、山の麓の土地の全ての権利を買った、大富豪がいるからだった。
その人物は……ヴァルは車を走らせながら、山の向こう側に建っているのにも関わらず、先端が見える程大きい城の様な建物を見つめる。
この街一帯を仕切っていると言っても過言ではない程の大富豪……現当主、ミラベル・ポリエイト夫人の大豪邸。
彼女は、当時八歳の時に、この街に大金を積んだ両親とやって来て、世界中から奇跡の芸術品を求めていたミラベル・ポリエイトの両親――ポリエイト夫妻――は、ありとあらゆる美術品を買い占め、その後にコレクションの置き場として大豪邸を建てて住み着いた。
そして、もちろん……そのコレクションの中には誰も足を踏み入れようともしなかった、消えた芸術家達の家にまで及んだのは誰もが容易に予想出来た事だろう。
だが、問題はその後だった。
彼らが訪れるよりも前から流れていた奇妙な噂……コレを確実なものにした事件が発生してしまったから。
彼らが七軒の家全てを買い占めるよりも前に、当然コソ泥、又は収集家が雇ったアンドロイドや人を使い、その有名作家達の家の中で眠ったままであろう、彼らの作品……つまりは遺作を手に入れようと踏み入る者たちが大勢いたのは当然の事。
しかし……その内の誰一人として、その家の作品を見ることは叶わなかった。
なぜなら、不可解なことに、一度家に入った者は全員、狂わされたかのように、呪いだ! 亡霊だ! などと叫び、後に自殺か、誰かを殺し、処刑された……その二択の道を歩んでいる。
そんなことが何件も立て続けに起こるものだから、誰もが手に入れたいが、手に入れることを恐れ……挙句には誰一人として近寄らせない家となり、そんないわくつきの家など欲しくないと、何年も誰の物にもならなかった。
けれど、そんな噂などたかが噂! と笑い飛ばしたポリエイト夫妻は、聞けば卒倒してしまうような値段で、すぐに七軒全ての家を買い占めた。
だが……嘘か真か、それとも本当に呪われたのか……。
その家を手に入れ、ポリエイト夫妻が自ら消えた芸術家の内の一人の家に入ってから間もなくして、二人とも亡くなられた。
この時、現当主ミラベル・ポリエイト夫人は十四歳で、記者会見を行い、こう発言したという。
「私の両親は呪いのような曖昧なものよって、殺されたのではありません。あの家に住まう”亡霊”に、殺されたのです。確実な殺意を持って、殺されたのです。あそこには、全てを亡き者にする真犯人が居ます」
その当時の彼女の記者会見記事も、Mr.ハロドゥから預かった電子データに入ってあった。
綺麗な顔立ちと黒髪を肩の下あたりまで伸ばし、いつも身に纏っているという真っ白なドレスはまるで、ウェディングドレスを彷彿とさせる、ミラベル・ポリエイト……。
その凛とした姿勢の姿を映した当時の記事に載った写真からは、とても齢十四のものとは思えない程に美しかった。
ふーむ……なるほど、こりゃ、彼女を題材に絵描きが多いのも頷ける美しさだな。
それほどに、彼女の肖像画はこの街のあちこちで見かけた。
まぁ、この記事の写真よりも、もっと大人びていたが。あれがきっと、現在のミラベル・ポリエイト夫人のお姿なのだろう。
コーヒーを飲みながら、絵心も何もないヴァルは現在、都市部内にあるMr.ハロドゥの手配してくれた、七軒の家に比較的近い都市部のホテルに着いて部屋の中に居た。
チェックインをとうに済ませて、事件当時の記者会見記事に目を通しながら。
ノアは……ヴァルの後に風呂に入ったまま、まだ出てこない。
考え事でもしてるんだろうが……。ヴァルは、自分のズボンにある隠しポケットに仕込んである注射器を手に取る。
ヴァルは、一度使ったことがあるその注射器を刺す感触を思い出しつつ、ホテルの窓から見える山と、丁度真正面にあると思われるドンベルト・ワーナーの家を見つめる。
ドンベルト・ワーナーの家は、他の六軒ある家と比べるとかなり低く、白く作られていた。分かりやすいようで、分かりにくい家。個性があるようで、無個性な家……。その評価は様々だった。
あれだけ真っ白でも、あの山を囲った芸術作品の一つだというのだから、不思議なもんだ。
……あの家は、まるで、ノアがMr.ハロドゥから拝借してアパートに並べては眺めていた、あの作品たちを思い出させる。
……俺には、芸術的なものは分からないし、センスもありはしないが……。そんな俺でも、あの段々と月日が経つにつれて白さが目立つようになっていった作品には、確かに引っかかるものがあった。
「何もかもを、否定しているかのようじゃねェか……」
ノアの言葉を、思い出す。
あれは……否定……なのか。
周りを限りなく水に近い程の、薄い水色に塗りたくり、真ん中に残ったカンバスの白い部分を、まるで大の字に寝転んだ人の様な模様で描かれた、あの作品。
ふと思い立ち、ヴァルは、電子記事画面を大きく広げ、検索画面に切り替える。
検索ワード、ドンベルト・ワーナー 最後の作品……。
そこに出てきたのは……。
「これは……カンバス……?」
ただの白いカンバスのみの画像が出てきた。
目を凝らして見ても、そこには水一滴分も、塗ってるようには見えない。これが……芸術ってやつなのか……? 下にスクロールすると、表示されているのは作者名と作品名……。
「作、ドンベルト・ワーナー、タイトルは……『身の潔白』」
突然聞こえた声に、ヴァルが後ろを振り返ると、風呂から出てきたばかりの、頭にバスタオルを羽織っていても下から見える、その長い銀髪に湯を滴らせながら立って、ヴァルが開けた画面を見ていた。
「ノア……お前知ってたのか」
「まァな。……だが、そのタイトルの意味、何を表してるのかまでは、流石に分かんねェ」
ノアは、部屋にある備え付けの冷蔵庫からミニボトルのワインを取り出しながら言う。
ヴァルは手に握った注射器をそっと、ノアに見られないようズボンのポッケに仕舞い込み、データ画面も閉じる。
「芸術家さんには、分かるもんじゃなかったのか?」
「……すべてを読み解ける芸術作品なんて、存在しねェよ。あるなんて断言してる奴ァ、それはそいつの中の都合の良い勝手な解釈なだけだ。本当の芸術作品ってェのは、作品を仕上げた本人が思っている以上の夢と、意味を持ってるもンさ」
ふぅん……と、ヴァルは、ドンベルト・ワーナー氏の家をホテルの窓越しに眺める。その横に、髪を拭きながらノアも並んで来た。
「……今夜、行くんだろ?」
「折角来たのにご挨拶もなしってのは、ノア……お前のよく言う、失礼ってやつに値するだろ?」
ケッ、と吐き捨てるノアは、どうやら通常運転に戻りつつあるようだ。
それを見て、ヴァルは少し笑い、安堵しながら視線を落とし、例のコートを手に取る。
「拝みに行ってみるとしますか。芸術家の亡霊とやらに……」
その七名の芸術センス、世界観を表すような家は、山を取り囲むように七軒、建てられていて、それだけの敷地もあった。
そして……これは数年ほど前に分かった事だが、その家々は、山の頂上を中心に遥か上から見ると、山を含めたアートそのものの様になっていると、ドローンロボットを飛ばして街の撮影をしていたある者が証明したらしい。
そして、その山と家の融合されたこれは、『一体誰の作品なのか?』と、一時期非常に話題になったが……。
突如、その撮影者は消え、更には撮影されたはずのドローン写真も、なぜか公表されることなくどこかへ消えたと言われている。
この件に関する真相は未だに不明……だがまあ、噂では街の金持ちが発表をする前に高額で買い占めたのではないかという説が、現状最も強い。
もう一つ、その撮影者が消えた理由として有名なのは……呪い殺された、という説。
それに関しては、その七名の芸術家が死亡、又は失踪してから、その家にはドローン撮影者を除いて、ここ数年以上、誰一人として近寄っていない事実の上に成り立つ噂話に基づいている。
なぜかというと、家の持ち主である彼らが居なくなってしまったことも、原因の一つではあるが……。
一番の理由は、奇妙な噂と、山の麓の土地の全ての権利を買った、大富豪がいるからだった。
その人物は……ヴァルは車を走らせながら、山の向こう側に建っているのにも関わらず、先端が見える程大きい城の様な建物を見つめる。
この街一帯を仕切っていると言っても過言ではない程の大富豪……現当主、ミラベル・ポリエイト夫人の大豪邸。
彼女は、当時八歳の時に、この街に大金を積んだ両親とやって来て、世界中から奇跡の芸術品を求めていたミラベル・ポリエイトの両親――ポリエイト夫妻――は、ありとあらゆる美術品を買い占め、その後にコレクションの置き場として大豪邸を建てて住み着いた。
そして、もちろん……そのコレクションの中には誰も足を踏み入れようともしなかった、消えた芸術家達の家にまで及んだのは誰もが容易に予想出来た事だろう。
だが、問題はその後だった。
彼らが訪れるよりも前から流れていた奇妙な噂……コレを確実なものにした事件が発生してしまったから。
彼らが七軒の家全てを買い占めるよりも前に、当然コソ泥、又は収集家が雇ったアンドロイドや人を使い、その有名作家達の家の中で眠ったままであろう、彼らの作品……つまりは遺作を手に入れようと踏み入る者たちが大勢いたのは当然の事。
しかし……その内の誰一人として、その家の作品を見ることは叶わなかった。
なぜなら、不可解なことに、一度家に入った者は全員、狂わされたかのように、呪いだ! 亡霊だ! などと叫び、後に自殺か、誰かを殺し、処刑された……その二択の道を歩んでいる。
そんなことが何件も立て続けに起こるものだから、誰もが手に入れたいが、手に入れることを恐れ……挙句には誰一人として近寄らせない家となり、そんないわくつきの家など欲しくないと、何年も誰の物にもならなかった。
けれど、そんな噂などたかが噂! と笑い飛ばしたポリエイト夫妻は、聞けば卒倒してしまうような値段で、すぐに七軒全ての家を買い占めた。
だが……嘘か真か、それとも本当に呪われたのか……。
その家を手に入れ、ポリエイト夫妻が自ら消えた芸術家の内の一人の家に入ってから間もなくして、二人とも亡くなられた。
この時、現当主ミラベル・ポリエイト夫人は十四歳で、記者会見を行い、こう発言したという。
「私の両親は呪いのような曖昧なものよって、殺されたのではありません。あの家に住まう”亡霊”に、殺されたのです。確実な殺意を持って、殺されたのです。あそこには、全てを亡き者にする真犯人が居ます」
その当時の彼女の記者会見記事も、Mr.ハロドゥから預かった電子データに入ってあった。
綺麗な顔立ちと黒髪を肩の下あたりまで伸ばし、いつも身に纏っているという真っ白なドレスはまるで、ウェディングドレスを彷彿とさせる、ミラベル・ポリエイト……。
その凛とした姿勢の姿を映した当時の記事に載った写真からは、とても齢十四のものとは思えない程に美しかった。
ふーむ……なるほど、こりゃ、彼女を題材に絵描きが多いのも頷ける美しさだな。
それほどに、彼女の肖像画はこの街のあちこちで見かけた。
まぁ、この記事の写真よりも、もっと大人びていたが。あれがきっと、現在のミラベル・ポリエイト夫人のお姿なのだろう。
コーヒーを飲みながら、絵心も何もないヴァルは現在、都市部内にあるMr.ハロドゥの手配してくれた、七軒の家に比較的近い都市部のホテルに着いて部屋の中に居た。
チェックインをとうに済ませて、事件当時の記者会見記事に目を通しながら。
ノアは……ヴァルの後に風呂に入ったまま、まだ出てこない。
考え事でもしてるんだろうが……。ヴァルは、自分のズボンにある隠しポケットに仕込んである注射器を手に取る。
ヴァルは、一度使ったことがあるその注射器を刺す感触を思い出しつつ、ホテルの窓から見える山と、丁度真正面にあると思われるドンベルト・ワーナーの家を見つめる。
ドンベルト・ワーナーの家は、他の六軒ある家と比べるとかなり低く、白く作られていた。分かりやすいようで、分かりにくい家。個性があるようで、無個性な家……。その評価は様々だった。
あれだけ真っ白でも、あの山を囲った芸術作品の一つだというのだから、不思議なもんだ。
……あの家は、まるで、ノアがMr.ハロドゥから拝借してアパートに並べては眺めていた、あの作品たちを思い出させる。
……俺には、芸術的なものは分からないし、センスもありはしないが……。そんな俺でも、あの段々と月日が経つにつれて白さが目立つようになっていった作品には、確かに引っかかるものがあった。
「何もかもを、否定しているかのようじゃねェか……」
ノアの言葉を、思い出す。
あれは……否定……なのか。
周りを限りなく水に近い程の、薄い水色に塗りたくり、真ん中に残ったカンバスの白い部分を、まるで大の字に寝転んだ人の様な模様で描かれた、あの作品。
ふと思い立ち、ヴァルは、電子記事画面を大きく広げ、検索画面に切り替える。
検索ワード、ドンベルト・ワーナー 最後の作品……。
そこに出てきたのは……。
「これは……カンバス……?」
ただの白いカンバスのみの画像が出てきた。
目を凝らして見ても、そこには水一滴分も、塗ってるようには見えない。これが……芸術ってやつなのか……? 下にスクロールすると、表示されているのは作者名と作品名……。
「作、ドンベルト・ワーナー、タイトルは……『身の潔白』」
突然聞こえた声に、ヴァルが後ろを振り返ると、風呂から出てきたばかりの、頭にバスタオルを羽織っていても下から見える、その長い銀髪に湯を滴らせながら立って、ヴァルが開けた画面を見ていた。
「ノア……お前知ってたのか」
「まァな。……だが、そのタイトルの意味、何を表してるのかまでは、流石に分かんねェ」
ノアは、部屋にある備え付けの冷蔵庫からミニボトルのワインを取り出しながら言う。
ヴァルは手に握った注射器をそっと、ノアに見られないようズボンのポッケに仕舞い込み、データ画面も閉じる。
「芸術家さんには、分かるもんじゃなかったのか?」
「……すべてを読み解ける芸術作品なんて、存在しねェよ。あるなんて断言してる奴ァ、それはそいつの中の都合の良い勝手な解釈なだけだ。本当の芸術作品ってェのは、作品を仕上げた本人が思っている以上の夢と、意味を持ってるもンさ」
ふぅん……と、ヴァルは、ドンベルト・ワーナー氏の家をホテルの窓越しに眺める。その横に、髪を拭きながらノアも並んで来た。
「……今夜、行くんだろ?」
「折角来たのにご挨拶もなしってのは、ノア……お前のよく言う、失礼ってやつに値するだろ?」
ケッ、と吐き捨てるノアは、どうやら通常運転に戻りつつあるようだ。
それを見て、ヴァルは少し笑い、安堵しながら視線を落とし、例のコートを手に取る。
「拝みに行ってみるとしますか。芸術家の亡霊とやらに……」
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