知らない世界に転生したと思ったら、すぐ側にガチ勢がいた件について

三章 〜半年が経って〜

二十九話 『犠牲』

……まさか気付いているとは思わなかった。


「えっと、その……」


私は何と言えばいいのか分からず、視線を彷徨わせる。すると、そんな私を見てなのか、彼女はため息を吐き出した後、呆れたように言った。


「別に隠さなくていいわ。バレバレなんだから………とゆうか、こんな女の方が良いのかしら……？は……？ありえないんですけど！？」


急にキレだしたぞこの人！？なんでこうなるんだ……。情緒不安定にも程があるだろ……これは破滅しますわ……！


「まぁ、そこはどうでもいいわ！それであのイザベラはいつものやつと違うんでしょう？」


ニヤリ、と笑みを浮かべる彼女。嫌な笑い方だなおい……。


「……どうして分かったんですか？」


思い切って聞いてみることにしたが、答えは期待してない。ただの時間稼ぎだ。でもまぁ一応聞いておきたいじゃん？気になるし！それに、彼女の目的も知っておきたいところだしね！うんうん！！


「簡単よ。貴方が憑依される前のイザベラとの様子と違うからね。雰囲気がまるで別人のようになっているわ」


そりゃあそうだよ。だって中身違うんだもん。というかそこまで分かるのか……いい観察眼を持っているようである。


「ま、そういうことで、協力しなさい」


へ？協力？……また何か変なことに巻き込まれるのか……と、私はため息を吐いた。本当に勘弁してくれ……って思ったけど……


「何をしたらいいんですか」


諦めて受け入れることにする。断ったところで無駄だし……。それに協力しないと殺されそうだし……。いやまぁ死ぬことは無いかもしれないけど、それでも怖いものは怖い。


「まず最初にすべき事は——」


△▼△▼


——獲物が掛かった。私は密かにほくそ笑む。


「……ワン、ツー、スリー！」


ナタリーがダンスのステップを数えるように、声を出す。それに合わせて、私は彼女と共に体を動かす。


「はい、そこでターン！」


ナタリーがそう指示した瞬間、私はその場で回転をした。その際スカートが翻るが気にしないことにする。


「ターン！」


声に出し、ナタリーの手を握る。そのまま回転を続け、止まると同時に、私とナタリーは動きを止めた。


「——な、何やってるわけ？」


イザベラは困惑した表情を浮かべていた。まあそりゃあそうだろうな。急に、踊り出して意味不明なことを言ってたら誰だって不審に思うはずだ。


「はぁ？頭おかしくなっちゃったんじゃない？」


辛辣……だが、これに関しては私も同意見である。急にダンスを踊り出したら誰だってそう思うはずだ。


「まぁ、そうでしょうねー、私だって意味わからないもの。だけどやらなきゃいけない状況なのよ……！」


「はぁ？何言ってんのこいつ」と言いたげな顔をしているイザベラ。いや分かるよ私も同じ気持ちだもの。なんなら今すぐにでも帰りたいぐらいだし……。


「……分からないの？」


ナタリーが真剣な眼差しでそう問いかける。だがイザベラは首を横に振った。そりゃそうだろうね……！


「あんた、本当はイザベラ・ディグルムじゃないでしょ？」


ナタリーがそう言った瞬間、イザベラの目が大きく見開かれた。まぁ、その通りだ。だってこの子の中身、私の妹だもん。


見た目と口調や仕草は違うし。


「えぇそうよ。だけどそれが何？」


開き直ったのか、悪びれもなく答えたイザベラ（中身妹）に対して、


「ふーん……認めるんだ」


「えぇ。私は確かにイザベラではないわ。でも、それあんたに関係ある？こいつと仲良かったの？」


妹であるイザベラのその問いに対しナタリーが答えるより先に、私は口を開いた。


「ないね！全く知らない他人だった！何ならどうでもいいわ！」


胸を張り、堂々と言うナタリー。まぁ、ナタリーはそうだろうな……。


「そんなこと、どうでもいいの！！私は……あんたにこれを説明してほしかっただけよ」


ナタリーはそう叫ぶと、イザベラに対し、ナタリーは魔石をイザベラに見せた。そ、その魔石は！それを見せた途端、主に男性陣が血相を変えた代物だ。



「な、何よこれ」


「これはね、この闇の魔石は人の感情に干渉したり支配したりできる効果があってね……。簡単に言えば精神操作ができるっていうアイテムみたいなもんかな？」


得意げに語るナタリーの言葉を聞いた瞬間、イザベラは「そんなのアリなのか……」と呟いていた。まあ確かに普通なら考えられないような効果だし納得できない気持ちは分かるぞ……でも実際にあるんだなこれが……！


「そ、それで？あの謎ダンスとその闇の魔石は何か関係あるの？説明してくれるかしら？」


イザベラがそう尋ねると、ナタリーは大きくため息を吐いた。そして軽く咳払いをしてから口を開く。


「はいはい……まず、あのダンスは魔石を発動するために必要な動作なの。闇の魔石を発動するためのスイッチみたいなものなのよ。それであんたを操るためにこのダンスを踊らせるためなわけ。分かった？」


「…いやいやいやいやちょっと待ってよ！！操ったとか何とか言ってるけど！！そもそもどうして私がそんな目に遭わないといけないわけ！？」


「ふーん。そんな態度なんだ？いいの？私はその気になればあんたのこと操れるのよ？」　


脅し文句怖すぎないか？その上、これがはったりでも何でもなく、事実なのだから恐ろしい。


「は？はったりじゃないの？」


「ふふっ、試してみる？私はいつでもいいわよ？」


「ぐっ……！」


妹が警戒度を高めながらも、やがてため息を吐きながら、


「わかったわ。じゃあ、どうすればいいのよ？」


と言った。するとナタリーは満足そうな顔でこう言った。


「……ふふっ。なら、まずはあんたを追い出すわ！だって本物のイザベラと話したいんですもの！」


「は？ち、ちょっと待ちなさいよ！私はどうなるの！？」


「さぁ？知らないわ。あんたも良いわよね？」


「え？まぁ、はい」


私は妹に恨みがあるので快く了承すると、「えぇ！？」と絶望した顔をする。そんな妹を見て私は笑っていた。


「ふっふっふっ……覚悟しろ！」
　

「な、なんでぇ～！？」


こうして私達は魔石を使った儀式を行った。