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二章 〜思惑〜

十一話 『誤魔化』

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そしてニコラス様が指定されたのは学園内にある中庭である。
ここで待っとけばいいのかな?と待っていると――、


「あ……」


昨日見た謎の美女が現れた。思わずガタッと立ち上がると、その人はこちらを振り向いた。相変わらず、美しい人だ。
そして、彼女は私を見ると少しだけ驚いたように目を丸くさせた後、ニコッと微笑んだ。
私はその笑顔に見惚れてしまう。
やっぱり綺麗な人……それに、すごく優しい笑みを浮かべてる。天使みたいだ。


そんな彼女がツカツカと歩み寄ってきた。え!?なんで!? そして、その女性は私の目の前に立っている。え?なにこれ?どういう状況ですか? そして、その女性が口を開く。
一体何を言われるのかドキドキしながら待っていると、 その女性はとても意外なことを言ってきた。


「まだ気付かないの?ナタリー・アルディ」


よく知った声で名前を呼ばれ、ハッとする。
まさか、そんな……嘘でしょう?


「……に、ニコラス様?」


私が恐る恐る尋ねると、その女性はニヤッと笑ってこう言った。
その笑顔を見て確信する。間違いない。この人は――、 ニコラス・シャトレだ。


△▼△▼



あの後の記憶は全くない。
気付いたら、自分の部屋にいた。
どうやって帰ったのだろうか?全然覚えていない。
夢だと思いたかったが、頬をつねると痛かったので現実逃避は出来なかった。
あの美女がニコラス・シャトレ?嘘でしょ……女装だったの?あんな美しい人が男なわけねーだろ!って言いたくなるぐらい美しかったのに……。


いや、でも確かに声とか口調とか喋り方とか色々似てたかも……。それにしても、こんなことになるなんて……!


「(てゆうか、何でニコラス様もニコラス様で何で学園内で女装してるの?意味わかんないし)」


そんな考えがグルグルと頭の中で回る。
はぁ~。もうどうしたらいいんだよ。
そうやって悩んでいるうちに――、


「ナタリー様?どうかなさいましたか?顔色が優れないようですけど……」


心配そうな表情をしたリリィが話しかけてきた。リリィには伝えていない。あの謎の美女がニコラス様だったことなど言えるはずがない。


「い、いえ。何でもありませんよ?」


「本当ですか?」


最近、私の扱いが雑だったリリィが本気で心配してくれている。
嬉しい。だけど今はそれどころじゃないんです!! 心の中だけで叫びながら私はニッコリと笑う。


「大丈夫よ!今日は疲れたから早めに寝ますね!」


「かしこまりました。では、お休みなさいませ」


そう言ってリリィは退室した。最近のリリィはお爺様の言いつけ通りちゃんと侍女として距離を保ってくれるようになった。令嬢と侍女。その関係が崩れないように意識しているようだ。


でも、今はそれがありがたかった。
だって、今の私にとって他人からの評価なんかよりも大切なことがあるからだ。
私はベッドの上でゴロンと横になって考える。
とりあえず、これからどうしようか。
まずはあの人を――。


「…………ニコラス様に会おう」


彼に聞きたいことがたくさんあるのだ。そう、たくさんあるんだよなぁ……! 私はそう決意すると、勢いよく起き上がった。


「よしっ!頑張ろう!!」


私は拳を突き上げて叫んだのであった。


△▼△▼


次の日、私はいつもより早く起きた。そして身支度を整えると、すぐに学園に向かった。今日は馬車ではなく徒歩で来たため、かなり時間がかかってしまったが仕方ない。使用人には、めちゃくちゃ止められたし、怒られた。だが、それを無視して出てきたのである。


令嬢として自覚を持て、とお爺様に怒られそうだが今はそんなこと気にしている場合ではない。


「……誰も来てないわよね……」


当たり前の話だが、まだ早朝のため学園内は静寂に包まれていた。そして、人の気配が全くしない。
まあ、そりゃあ朝早いもんな。でも、私には必要だ。状況を整理するためにも、そして――。


「ニコラス様の机に……」


手紙を置いておきたかったからである。
昨日、私は考えた。そして結論を出した。
私はニコラス・シャトレに会いに行くと。
そして、私は彼のことをもっと知らなければならない。決して彼の女装がもっと見たい、とかそんな不純な動機で会いに行こうとしているわけではない。


………本当だよ?誰に言い訳をしているのか分からないが、心の中で呟いた。
そして、ニコラス様の机に素早く手紙を入れて私は自分の席に素早く座り、今までの状況を整理することにしたのだが――。


「(はー。あの美女が男なのかよ……)」


状況を整理しようとすると必ずと言っていいほど脳裏にあの美女が浮かぶ。あの美女と友達になりたかったのに!と嘆いてももう遅い。
しかし、何故彼は女装をしていたのだろうか?それが謎だ。
まさか、趣味で女装を?


「(仮にそうだとしても学園内でやるか?普通)」


でも、ニコラス様だしなー。
うん。あり得るかも。天然だし
そう思うと、少しだけ納得出来た気がする。


そして、しばらく考えてみたが特にこれといった答えが出るわけでもなく、時間だけが過ぎていった。
そして――。


「おはようございます、ナタリー様」


ローラが教室に入ってきて挨拶をしてきた。
その声を聞いてハッとする。
え!?もうこんなに時間が経ってたの!? 時計を見ると、既に授業開始の時間になっていた。


「お、おはよう!ローラ」


「随分と早かったですね」


「ええ。ちょっと早起きしたので」


「そうですか」


そう言うと、彼女は自分の席に座った。
彼女の言葉からは、何かを探るような雰囲気を感じた。きっと私が何をしていたか気になっているのだろう。でも、


「あ!もうそろそろ先生がいらっしゃる頃ですわね!」


故に私はあえて何も言わなかった。だって根掘り葉掘り聞かれるのは面倒臭いので適当に誤魔化すことにした
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