知らない世界に転生したと思ったら、すぐ側にガチ勢がいた件について

花宮

文字の大きさ
20 / 75
二章 〜思惑〜

十一話 『誤魔化』

しおりを挟む
そしてニコラス様が指定されたのは学園内にある中庭である。
ここで待っとけばいいのかな?と待っていると――、


「あ……」


昨日見た謎の美女が現れた。思わずガタッと立ち上がると、その人はこちらを振り向いた。相変わらず、美しい人だ。
そして、彼女は私を見ると少しだけ驚いたように目を丸くさせた後、ニコッと微笑んだ。
私はその笑顔に見惚れてしまう。
やっぱり綺麗な人……それに、すごく優しい笑みを浮かべてる。天使みたいだ。


そんな彼女がツカツカと歩み寄ってきた。え!?なんで!? そして、その女性は私の目の前に立っている。え?なにこれ?どういう状況ですか? そして、その女性が口を開く。
一体何を言われるのかドキドキしながら待っていると、 その女性はとても意外なことを言ってきた。


「まだ気付かないの?ナタリー・アルディ」


よく知った声で名前を呼ばれ、ハッとする。
まさか、そんな……嘘でしょう?


「……に、ニコラス様?」


私が恐る恐る尋ねると、その女性はニヤッと笑ってこう言った。
その笑顔を見て確信する。間違いない。この人は――、 ニコラス・シャトレだ。


△▼△▼



あの後の記憶は全くない。
気付いたら、自分の部屋にいた。
どうやって帰ったのだろうか?全然覚えていない。
夢だと思いたかったが、頬をつねると痛かったので現実逃避は出来なかった。
あの美女がニコラス・シャトレ?嘘でしょ……女装だったの?あんな美しい人が男なわけねーだろ!って言いたくなるぐらい美しかったのに……。


いや、でも確かに声とか口調とか喋り方とか色々似てたかも……。それにしても、こんなことになるなんて……!


「(てゆうか、何でニコラス様もニコラス様で何で学園内で女装してるの?意味わかんないし)」


そんな考えがグルグルと頭の中で回る。
はぁ~。もうどうしたらいいんだよ。
そうやって悩んでいるうちに――、


「ナタリー様?どうかなさいましたか?顔色が優れないようですけど……」


心配そうな表情をしたリリィが話しかけてきた。リリィには伝えていない。あの謎の美女がニコラス様だったことなど言えるはずがない。


「い、いえ。何でもありませんよ?」


「本当ですか?」


最近、私の扱いが雑だったリリィが本気で心配してくれている。
嬉しい。だけど今はそれどころじゃないんです!! 心の中だけで叫びながら私はニッコリと笑う。


「大丈夫よ!今日は疲れたから早めに寝ますね!」


「かしこまりました。では、お休みなさいませ」


そう言ってリリィは退室した。最近のリリィはお爺様の言いつけ通りちゃんと侍女として距離を保ってくれるようになった。令嬢と侍女。その関係が崩れないように意識しているようだ。


でも、今はそれがありがたかった。
だって、今の私にとって他人からの評価なんかよりも大切なことがあるからだ。
私はベッドの上でゴロンと横になって考える。
とりあえず、これからどうしようか。
まずはあの人を――。


「…………ニコラス様に会おう」


彼に聞きたいことがたくさんあるのだ。そう、たくさんあるんだよなぁ……! 私はそう決意すると、勢いよく起き上がった。


「よしっ!頑張ろう!!」


私は拳を突き上げて叫んだのであった。


△▼△▼


次の日、私はいつもより早く起きた。そして身支度を整えると、すぐに学園に向かった。今日は馬車ではなく徒歩で来たため、かなり時間がかかってしまったが仕方ない。使用人には、めちゃくちゃ止められたし、怒られた。だが、それを無視して出てきたのである。


令嬢として自覚を持て、とお爺様に怒られそうだが今はそんなこと気にしている場合ではない。


「……誰も来てないわよね……」


当たり前の話だが、まだ早朝のため学園内は静寂に包まれていた。そして、人の気配が全くしない。
まあ、そりゃあ朝早いもんな。でも、私には必要だ。状況を整理するためにも、そして――。


「ニコラス様の机に……」


手紙を置いておきたかったからである。
昨日、私は考えた。そして結論を出した。
私はニコラス・シャトレに会いに行くと。
そして、私は彼のことをもっと知らなければならない。決して彼の女装がもっと見たい、とかそんな不純な動機で会いに行こうとしているわけではない。


………本当だよ?誰に言い訳をしているのか分からないが、心の中で呟いた。
そして、ニコラス様の机に素早く手紙を入れて私は自分の席に素早く座り、今までの状況を整理することにしたのだが――。


「(はー。あの美女が男なのかよ……)」


状況を整理しようとすると必ずと言っていいほど脳裏にあの美女が浮かぶ。あの美女と友達になりたかったのに!と嘆いてももう遅い。
しかし、何故彼は女装をしていたのだろうか?それが謎だ。
まさか、趣味で女装を?


「(仮にそうだとしても学園内でやるか?普通)」


でも、ニコラス様だしなー。
うん。あり得るかも。天然だし
そう思うと、少しだけ納得出来た気がする。


そして、しばらく考えてみたが特にこれといった答えが出るわけでもなく、時間だけが過ぎていった。
そして――。


「おはようございます、ナタリー様」


ローラが教室に入ってきて挨拶をしてきた。
その声を聞いてハッとする。
え!?もうこんなに時間が経ってたの!? 時計を見ると、既に授業開始の時間になっていた。


「お、おはよう!ローラ」


「随分と早かったですね」


「ええ。ちょっと早起きしたので」


「そうですか」


そう言うと、彼女は自分の席に座った。
彼女の言葉からは、何かを探るような雰囲気を感じた。きっと私が何をしていたか気になっているのだろう。でも、


「あ!もうそろそろ先生がいらっしゃる頃ですわね!」


故に私はあえて何も言わなかった。だって根掘り葉掘り聞かれるのは面倒臭いので適当に誤魔化すことにした
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...