66 / 75
三章 〜半年が経って〜
二十一話 『前世の夢』
しおりを挟む
急展開というのはまさにそのとおりだと思う。私だって、まさかこんなことになるなんて思わなかったし。
「………事情は分かったわ。……それで、いつ奈緒の身体が消えるのかもわからないんでしょう?その……神様曰く」
と、美香は神妙な面持ちで尋ねてくるに対し、私はこくりと頷いた。本当に、この状況に関してはいつ消えるかはわからないと、神様も言っていた。
だから……怖いという気持ちはもちろんある。
自分がいつ消えるのか、このままずっとこの身体のままなのか――。
そのことを考えると不安になる。でも、案外消えないかもしれないし。それは誰にもわからないことだ。
そんなことより今は……
「……ところでさ。あの……ナタリー・アルディが提示していたあの……闇の魔石?だっけ?あれって……」
「………ああ、あれ?あれは……スティブーン様とかが後日――」
「あ!そういえば……スティブーンのことで話が!」
スティブーン、という言葉を美香が口にした途端、私は思わず声を上げた。
そうだ。スティブーンだ。あいつも確か……
「美香は……スティブーンが前世の人間……ということは知っている?…私みたいに転生した人間なの」
「スティブーン様が?」
美香は驚いたように目を大きく見開いたが、すぐに首を横に振りながら美香はこう言った。
「いいえ。聞いてないわ……スティブーン様め……あんなくだらない話なんかよりその件のことを話せよ…」
愚痴るかのようにそう言う美香に「??」を浮かべる私。くだらない話とは?……と聞こうとしたけども、美香の顔が怖く、そんなことを聞き出せない。
それに、今そんなことは……重要ではないし。
「……今日はもう寝ましょう。奈緒」
「そ、そうね。……美香……いや、リリィ」
「別に美香でもいいけど……いや、今の身体はリリィだし……まぁ、いいか」
ため息を吐きながら、美香改めリリィはこの部屋から去っていく。リリィの背中を見送り、私はベッドに寝転がる。
にしても……今日はいろいろあったな。本当に、いろいろありすぎて疲れてしまった。
「………それに妹のことも……」
まさか、妹もここに転生して、この世界に来るとは思っていなかった。あの、憎くて憎くて仕方なかった妹も転生していたなんて。
「………あいつは……」
いつも、いつも人の物を横取りするような奴で。物も人も何もかも横取りするような奴だ。あいつが転生しているだなんて、思いもしなかった。
――殺してやりたいぐらいには。
私はそう思いながら、深いため息を吐いた。もう何も考えたくないし、ささっと寝てしまおう。
そう思いながら私は目を閉じた。
△▼△▼
――夢を見た。
その夢は前世の記憶。前世の私がまだ小学生だった頃の夢だ。あの頃の私は席の隅っこで静かに本を読んでいるタイプだった。
人と話すことよりも、本を読むことが好きな子供だった。だから私はいつも一人で浮いていた。別にそれ自体は苦ではなく、むしろその方が楽だった。そして周りからも疎遠されているな、という自覚もあった。
それ自体に少し寂しい、と思ったのは事実だったけども、周りに合わせ、愛想笑いをして、仲良くするぐらいなら一人でいた方がマシだった。
今思うと相当捻くれてるな……と自分でも思う。
一人でいる自分カッケー!という部分が少しだけあったのは否定できないので今思うと、かなり黒歴史。だけど、そんな私にも話しかけてくる人はいた。
「ねぇねぇ。遊びましょう!」
いつも、中心人物でクラスの中心にいる、明るくて元気な女の子。いつも笑顔な女の子だ。その子の名前は……美香。いつも一人で本を読んでいる私に、美香は毎回のように話しかけてくる。最初は鬱陶しいと思ったし、正直邪魔だと思っていた。だけども、何度も話しかけてくれるうちに私は少しずつ彼女に興味を持ち始めていた。
陽キャと陰キャが遊ぶなんて、絶対にないと思っていたけども美香は一緒に遊んでくれた。
正直、合わないと思っていたけども、一緒に遊んでみると案外楽しかった。
美香と私は性格は正反対だったけども、何故か気が合ったし、一緒にいて心地よかった。
どうしてだろう。価値観も性格も、感情や心が関与する事柄に対する向き合い方も、全く違うのに。
なのにどうしてだろう。美香といると心が安らぐし、心地よかった。
常に周りに人がいる美香と、いつも一人でいる私。大人数で遊ぶのを好む美香と少人数で遊ぶのを好む私。
正反対な私達だったけども、美香はそんな私を嫌がりもせず、いつも一緒にいてくれた。
もちろん、意見が衝突することもあった。その度に喧嘩になって、でもすぐに仲直りして。
美香といる時間がとても楽しかった。
家に居場所がなかった私にとって美香は唯一の居場所だった。
それ以外の居場所は無意識的に拒否していた。
だけども、美香と出会ってからは少しずつ変わっていった。
美香は私に居場所をくれたのだ。
それに、陽キャなのに、オタクな話もいける、というのが私の中で意外だった。
美香はオタクな話も、漫画の話も、アニメの話も楽しそうに聞いてくれたし、何ならオススメの漫画を貸してくれたりした。
そのおかげで、私は美香と趣味が合うことを知ったし、アニメや漫画にも興味を持った。
美香のおかげで私は自分が知らない世界を知ることが出来た。
美香のおかげで、あの頃の私は幸せだった。
△▼△▼
――意識が覚醒する。私はゆっくりと目を開け、上半身を起こしながら、
「………ふわぁ…」
煙のようなあくびをしながら、私は身体を伸ばしたのと同時に、
「失礼するわよ。奈緒」
そんな美香……ではなく、リリィの声が聞こえてきた。
「………事情は分かったわ。……それで、いつ奈緒の身体が消えるのかもわからないんでしょう?その……神様曰く」
と、美香は神妙な面持ちで尋ねてくるに対し、私はこくりと頷いた。本当に、この状況に関してはいつ消えるかはわからないと、神様も言っていた。
だから……怖いという気持ちはもちろんある。
自分がいつ消えるのか、このままずっとこの身体のままなのか――。
そのことを考えると不安になる。でも、案外消えないかもしれないし。それは誰にもわからないことだ。
そんなことより今は……
「……ところでさ。あの……ナタリー・アルディが提示していたあの……闇の魔石?だっけ?あれって……」
「………ああ、あれ?あれは……スティブーン様とかが後日――」
「あ!そういえば……スティブーンのことで話が!」
スティブーン、という言葉を美香が口にした途端、私は思わず声を上げた。
そうだ。スティブーンだ。あいつも確か……
「美香は……スティブーンが前世の人間……ということは知っている?…私みたいに転生した人間なの」
「スティブーン様が?」
美香は驚いたように目を大きく見開いたが、すぐに首を横に振りながら美香はこう言った。
「いいえ。聞いてないわ……スティブーン様め……あんなくだらない話なんかよりその件のことを話せよ…」
愚痴るかのようにそう言う美香に「??」を浮かべる私。くだらない話とは?……と聞こうとしたけども、美香の顔が怖く、そんなことを聞き出せない。
それに、今そんなことは……重要ではないし。
「……今日はもう寝ましょう。奈緒」
「そ、そうね。……美香……いや、リリィ」
「別に美香でもいいけど……いや、今の身体はリリィだし……まぁ、いいか」
ため息を吐きながら、美香改めリリィはこの部屋から去っていく。リリィの背中を見送り、私はベッドに寝転がる。
にしても……今日はいろいろあったな。本当に、いろいろありすぎて疲れてしまった。
「………それに妹のことも……」
まさか、妹もここに転生して、この世界に来るとは思っていなかった。あの、憎くて憎くて仕方なかった妹も転生していたなんて。
「………あいつは……」
いつも、いつも人の物を横取りするような奴で。物も人も何もかも横取りするような奴だ。あいつが転生しているだなんて、思いもしなかった。
――殺してやりたいぐらいには。
私はそう思いながら、深いため息を吐いた。もう何も考えたくないし、ささっと寝てしまおう。
そう思いながら私は目を閉じた。
△▼△▼
――夢を見た。
その夢は前世の記憶。前世の私がまだ小学生だった頃の夢だ。あの頃の私は席の隅っこで静かに本を読んでいるタイプだった。
人と話すことよりも、本を読むことが好きな子供だった。だから私はいつも一人で浮いていた。別にそれ自体は苦ではなく、むしろその方が楽だった。そして周りからも疎遠されているな、という自覚もあった。
それ自体に少し寂しい、と思ったのは事実だったけども、周りに合わせ、愛想笑いをして、仲良くするぐらいなら一人でいた方がマシだった。
今思うと相当捻くれてるな……と自分でも思う。
一人でいる自分カッケー!という部分が少しだけあったのは否定できないので今思うと、かなり黒歴史。だけど、そんな私にも話しかけてくる人はいた。
「ねぇねぇ。遊びましょう!」
いつも、中心人物でクラスの中心にいる、明るくて元気な女の子。いつも笑顔な女の子だ。その子の名前は……美香。いつも一人で本を読んでいる私に、美香は毎回のように話しかけてくる。最初は鬱陶しいと思ったし、正直邪魔だと思っていた。だけども、何度も話しかけてくれるうちに私は少しずつ彼女に興味を持ち始めていた。
陽キャと陰キャが遊ぶなんて、絶対にないと思っていたけども美香は一緒に遊んでくれた。
正直、合わないと思っていたけども、一緒に遊んでみると案外楽しかった。
美香と私は性格は正反対だったけども、何故か気が合ったし、一緒にいて心地よかった。
どうしてだろう。価値観も性格も、感情や心が関与する事柄に対する向き合い方も、全く違うのに。
なのにどうしてだろう。美香といると心が安らぐし、心地よかった。
常に周りに人がいる美香と、いつも一人でいる私。大人数で遊ぶのを好む美香と少人数で遊ぶのを好む私。
正反対な私達だったけども、美香はそんな私を嫌がりもせず、いつも一緒にいてくれた。
もちろん、意見が衝突することもあった。その度に喧嘩になって、でもすぐに仲直りして。
美香といる時間がとても楽しかった。
家に居場所がなかった私にとって美香は唯一の居場所だった。
それ以外の居場所は無意識的に拒否していた。
だけども、美香と出会ってからは少しずつ変わっていった。
美香は私に居場所をくれたのだ。
それに、陽キャなのに、オタクな話もいける、というのが私の中で意外だった。
美香はオタクな話も、漫画の話も、アニメの話も楽しそうに聞いてくれたし、何ならオススメの漫画を貸してくれたりした。
そのおかげで、私は美香と趣味が合うことを知ったし、アニメや漫画にも興味を持った。
美香のおかげで私は自分が知らない世界を知ることが出来た。
美香のおかげで、あの頃の私は幸せだった。
△▼△▼
――意識が覚醒する。私はゆっくりと目を開け、上半身を起こしながら、
「………ふわぁ…」
煙のようなあくびをしながら、私は身体を伸ばしたのと同時に、
「失礼するわよ。奈緒」
そんな美香……ではなく、リリィの声が聞こえてきた。
10
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる