知らない世界に転生したと思ったら、すぐ側にガチ勢がいた件について

花宮

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三章 〜半年が経って〜

二十一話 『前世の夢』

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急展開というのはまさにそのとおりだと思う。私だって、まさかこんなことになるなんて思わなかったし。


「………事情は分かったわ。……それで、いつ奈緒の身体が消えるのかもわからないんでしょう?その……神様曰く」


と、美香は神妙な面持ちで尋ねてくるに対し、私はこくりと頷いた。本当に、この状況に関してはいつ消えるかはわからないと、神様も言っていた。
だから……怖いという気持ちはもちろんある。


自分がいつ消えるのか、このままずっとこの身体のままなのか――。
そのことを考えると不安になる。でも、案外消えないかもしれないし。それは誰にもわからないことだ。


そんなことより今は……


「……ところでさ。あの……ナタリー・アルディが提示していたあの……闇の魔石?だっけ?あれって……」


「………ああ、あれ?あれは……スティブーン様とかが後日――」


「あ!そういえば……スティブーンのことで話が!」


スティブーン、という言葉を美香が口にした途端、私は思わず声を上げた。
そうだ。スティブーンだ。あいつも確か……


「美香は……スティブーンが前世の人間……ということは知っている?…私みたいに転生した人間なの」


「スティブーン様が?」


美香は驚いたように目を大きく見開いたが、すぐに首を横に振りながら美香はこう言った。


「いいえ。聞いてないわ……スティブーン様め……あんなくだらない話なんかよりその件のことを話せよ…」


愚痴るかのようにそう言う美香に「??」を浮かべる私。くだらない話とは?……と聞こうとしたけども、美香の顔が怖く、そんなことを聞き出せない。


それに、今そんなことは……重要ではないし。


「……今日はもう寝ましょう。奈緒」


「そ、そうね。……美香……いや、リリィ」


「別に美香でもいいけど……いや、今の身体はリリィだし……まぁ、いいか」


ため息を吐きながら、美香改めリリィはこの部屋から去っていく。リリィの背中を見送り、私はベッドに寝転がる。
にしても……今日はいろいろあったな。本当に、いろいろありすぎて疲れてしまった。


「………それに妹のことも……」


まさか、妹もここに転生して、この世界に来るとは思っていなかった。あの、憎くて憎くて仕方なかった妹も転生していたなんて。


「………あいつは……」


いつも、いつも人の物を横取りするような奴で。物も人も何もかも横取りするような奴だ。あいつが転生しているだなんて、思いもしなかった。


――殺してやりたいぐらいには。
私はそう思いながら、深いため息を吐いた。もう何も考えたくないし、ささっと寝てしまおう。
そう思いながら私は目を閉じた。


△▼△▼


――夢を見た。
その夢は前世の記憶。前世の私がまだ小学生だった頃の夢だ。あの頃の私は席の隅っこで静かに本を読んでいるタイプだった。


人と話すことよりも、本を読むことが好きな子供だった。だから私はいつも一人で浮いていた。別にそれ自体は苦ではなく、むしろその方が楽だった。そして周りからも疎遠されているな、という自覚もあった。


それ自体に少し寂しい、と思ったのは事実だったけども、周りに合わせ、愛想笑いをして、仲良くするぐらいなら一人でいた方がマシだった。
今思うと相当捻くれてるな……と自分でも思う。


一人でいる自分カッケー!という部分が少しだけあったのは否定できないので今思うと、かなり黒歴史。だけど、そんな私にも話しかけてくる人はいた。


「ねぇねぇ。遊びましょう!」


いつも、中心人物でクラスの中心にいる、明るくて元気な女の子。いつも笑顔な女の子だ。その子の名前は……美香。いつも一人で本を読んでいる私に、美香は毎回のように話しかけてくる。最初は鬱陶しいと思ったし、正直邪魔だと思っていた。だけども、何度も話しかけてくれるうちに私は少しずつ彼女に興味を持ち始めていた。


陽キャと陰キャが遊ぶなんて、絶対にないと思っていたけども美香は一緒に遊んでくれた。
正直、合わないと思っていたけども、一緒に遊んでみると案外楽しかった。
美香と私は性格は正反対だったけども、何故か気が合ったし、一緒にいて心地よかった。


どうしてだろう。価値観も性格も、感情や心が関与する事柄に対する向き合い方も、全く違うのに。
なのにどうしてだろう。美香といると心が安らぐし、心地よかった。


常に周りに人がいる美香と、いつも一人でいる私。大人数で遊ぶのを好む美香と少人数で遊ぶのを好む私。
正反対な私達だったけども、美香はそんな私を嫌がりもせず、いつも一緒にいてくれた。


もちろん、意見が衝突することもあった。その度に喧嘩になって、でもすぐに仲直りして。
美香といる時間がとても楽しかった。
家に居場所がなかった私にとって美香は唯一の居場所だった。


それ以外の居場所は無意識的に拒否していた。
だけども、美香と出会ってからは少しずつ変わっていった。
美香は私に居場所をくれたのだ。


それに、陽キャなのに、オタクな話もいける、というのが私の中で意外だった。
美香はオタクな話も、漫画の話も、アニメの話も楽しそうに聞いてくれたし、何ならオススメの漫画を貸してくれたりした。
そのおかげで、私は美香と趣味が合うことを知ったし、アニメや漫画にも興味を持った。


美香のおかげで私は自分が知らない世界を知ることが出来た。
美香のおかげで、あの頃の私は幸せだった。


△▼△▼


――意識が覚醒する。私はゆっくりと目を開け、上半身を起こしながら、


「………ふわぁ…」


煙のようなあくびをしながら、私は身体を伸ばしたのと同時に、


「失礼するわよ。奈緒」


そんな美香……ではなく、リリィの声が聞こえてきた。
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