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『マーク・ザッカーの独り言①』
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マーク・ザッカー。それが私の名前だ。
私はジョン・オルコットの直属の部下だった。
彼は日頃から兄――レオナルド・オルコットに馬鹿にされて、いつも悔しい思いをしていた。
実際、レオナルド様は優秀だ。成績も良く、人望もある。天才肌で、何をやらせてもそつなくこなしてしまう。
対してジョン様は凡人だった。成績は下から数えた方が早く……というのは言い過ぎかもしれないが、優秀な方ではなかった。
運動神経はあるものの、レオナルド様と比べると見劣りする。要するに、レオナルド様に勝てる要素がなく、いつも馬鹿にされていたのだ。
それで、ジョン様は捻くれた――とかそんなのではなく、単純にレオナルド様に対して対抗心を燃やしていた。
本人は気づいておらずきっと無意識。しかし、その対抗心と向上心は本物だ。
――本人が気づいていないだけで。
そしてジョン様はブラコンでもある。本人は頑なに認めないのだが。嫌っている、と言っているくせに、いつもブラコン発言をしている。例えば嫌いだけど尊敬している、とか兄は天才だ、とか。
まあ要するに、ジョン様はレオナルド様のことが好きなのだ。
――本人は絶対に認めないだろうが。
そして、私はそんなジョン様のことが……好きだった。恋愛的な意味ではない。従者としてのという意味での好きだ。
素直さがなく、いつもひねくれたことを言うジョン様。
しかし、その実――とても素直で可愛らしい性格をしている。いじりがいもあるし。
反面、この国……オルコット国に対しての歴史には全くもって興味がなく、国を想う気持ちなど微塵もない。国王の息子として、それはどうかと思うのだが。しかし、国王は息子である二人――レオナルド様とジョン様のことをあんまり興味はなく、放置している。
国王は――否、旦那様は王としては優秀だ。常に効率を求め、国民からの支持も厚い。が、国民のことなど一切考えない残酷さも持ち合わせている。残酷さもあるが、同時にカリスマ性も持ち合わせており、人を惹きつける魅力もある。
それは決断の早さや、行動力にも表れているし、国民のことは考えてないけども、国のことは考えている。
それが国と国民との願いが一致しているから、この国は成り立っているのだ。
まぁ、国民の願いと国王がやりたいことが一致しているから、この国は成り立っているのだが、少しでも間違っていたらこの国は滅びるだろう。
そんな紙一重な国なのだ。この国は。
つまりかなり崖っぷちなのだ。
そんな国を救えるのは、レオナルド様しかいない。
しかし、その肝心のレオナルド様は……国に興味はない。
自分の利益しか考えていない。
自分勝手で傲慢。
それがレオナルド様なのだ。国を想う気持ちなど一切ない。ただ自分が好きなだけ。
でも、それがレオナルド様なのだ。
別にそれ自体は構わない。国王にはそういうのも大事、だと私は思う。
それにレオナルド様は決断が早く、行動力がある。
そして、カリスマ性も国王には及ばないものの、そこそこあるので人を惹きつける魅力もある。
だから、将来国王になるのはレオナルド様だとそう思っていたし、それは皆同じ考えだった。これは出来レースだ、と。全員が口を揃え、レオナルド様こそが王に相応しい、と。
実際それは私もそう思った。他の候補者にも有力なものはいるにはいるけどもレオナルド様が強すぎて。
レオナルド様は優秀で、国王に相応しいと思っていたし、実際そうなる予定だった。
……そう、なるはずだったのだ。
しかし――その予定は儚くも崩れていく。それはレオナルド様が婚約破棄をしたことで歯車が狂っていった。
レオナルド様の婚約者――カトリーヌ・エルノー嬢。
彼女は決断力がない。自分の意見を言わないし、レオナルド様に意見を合わせるのに徹している。
つまりは主体性がなく、流されやすい人間なのだ。
正直言ってカトリーヌ嬢には妃になる資質が全くない。国を想う気持ちもなければ、カリスマ性もないのだから。
そもそも、この娘は伯爵家。決して身分は低くはないけども、高くもない。
伯爵家の令嬢が王妃になるなど、前代未聞だし、効率を求める国王がそんな人を婚約者にするのも少しだけ疑問だった。だから、レオナルド様が婚約破棄をする、と言い出したとき――私は反対しなかったし、何なら国王も反対しなかった。
国王が婚約者を用意したのにそれも変な話では?と思うが、何処かホッとしたようにも見える。国王があんな表情を見せるのは珍しいから、私は少し驚いた。
わけを聞いても、国王のことだから、絶対に答えてくれないだろうし。そんなことを思いながら私は……
「さて。どういう展開になるのやら……」
ため息を吐きながら私は窓を拭いた。
私はジョン・オルコットの直属の部下だった。
彼は日頃から兄――レオナルド・オルコットに馬鹿にされて、いつも悔しい思いをしていた。
実際、レオナルド様は優秀だ。成績も良く、人望もある。天才肌で、何をやらせてもそつなくこなしてしまう。
対してジョン様は凡人だった。成績は下から数えた方が早く……というのは言い過ぎかもしれないが、優秀な方ではなかった。
運動神経はあるものの、レオナルド様と比べると見劣りする。要するに、レオナルド様に勝てる要素がなく、いつも馬鹿にされていたのだ。
それで、ジョン様は捻くれた――とかそんなのではなく、単純にレオナルド様に対して対抗心を燃やしていた。
本人は気づいておらずきっと無意識。しかし、その対抗心と向上心は本物だ。
――本人が気づいていないだけで。
そしてジョン様はブラコンでもある。本人は頑なに認めないのだが。嫌っている、と言っているくせに、いつもブラコン発言をしている。例えば嫌いだけど尊敬している、とか兄は天才だ、とか。
まあ要するに、ジョン様はレオナルド様のことが好きなのだ。
――本人は絶対に認めないだろうが。
そして、私はそんなジョン様のことが……好きだった。恋愛的な意味ではない。従者としてのという意味での好きだ。
素直さがなく、いつもひねくれたことを言うジョン様。
しかし、その実――とても素直で可愛らしい性格をしている。いじりがいもあるし。
反面、この国……オルコット国に対しての歴史には全くもって興味がなく、国を想う気持ちなど微塵もない。国王の息子として、それはどうかと思うのだが。しかし、国王は息子である二人――レオナルド様とジョン様のことをあんまり興味はなく、放置している。
国王は――否、旦那様は王としては優秀だ。常に効率を求め、国民からの支持も厚い。が、国民のことなど一切考えない残酷さも持ち合わせている。残酷さもあるが、同時にカリスマ性も持ち合わせており、人を惹きつける魅力もある。
それは決断の早さや、行動力にも表れているし、国民のことは考えてないけども、国のことは考えている。
それが国と国民との願いが一致しているから、この国は成り立っているのだ。
まぁ、国民の願いと国王がやりたいことが一致しているから、この国は成り立っているのだが、少しでも間違っていたらこの国は滅びるだろう。
そんな紙一重な国なのだ。この国は。
つまりかなり崖っぷちなのだ。
そんな国を救えるのは、レオナルド様しかいない。
しかし、その肝心のレオナルド様は……国に興味はない。
自分の利益しか考えていない。
自分勝手で傲慢。
それがレオナルド様なのだ。国を想う気持ちなど一切ない。ただ自分が好きなだけ。
でも、それがレオナルド様なのだ。
別にそれ自体は構わない。国王にはそういうのも大事、だと私は思う。
それにレオナルド様は決断が早く、行動力がある。
そして、カリスマ性も国王には及ばないものの、そこそこあるので人を惹きつける魅力もある。
だから、将来国王になるのはレオナルド様だとそう思っていたし、それは皆同じ考えだった。これは出来レースだ、と。全員が口を揃え、レオナルド様こそが王に相応しい、と。
実際それは私もそう思った。他の候補者にも有力なものはいるにはいるけどもレオナルド様が強すぎて。
レオナルド様は優秀で、国王に相応しいと思っていたし、実際そうなる予定だった。
……そう、なるはずだったのだ。
しかし――その予定は儚くも崩れていく。それはレオナルド様が婚約破棄をしたことで歯車が狂っていった。
レオナルド様の婚約者――カトリーヌ・エルノー嬢。
彼女は決断力がない。自分の意見を言わないし、レオナルド様に意見を合わせるのに徹している。
つまりは主体性がなく、流されやすい人間なのだ。
正直言ってカトリーヌ嬢には妃になる資質が全くない。国を想う気持ちもなければ、カリスマ性もないのだから。
そもそも、この娘は伯爵家。決して身分は低くはないけども、高くもない。
伯爵家の令嬢が王妃になるなど、前代未聞だし、効率を求める国王がそんな人を婚約者にするのも少しだけ疑問だった。だから、レオナルド様が婚約破棄をする、と言い出したとき――私は反対しなかったし、何なら国王も反対しなかった。
国王が婚約者を用意したのにそれも変な話では?と思うが、何処かホッとしたようにも見える。国王があんな表情を見せるのは珍しいから、私は少し驚いた。
わけを聞いても、国王のことだから、絶対に答えてくれないだろうし。そんなことを思いながら私は……
「さて。どういう展開になるのやら……」
ため息を吐きながら私は窓を拭いた。
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