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6.二十七センチの足のサイズ
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わたし、いや――
兄だ。
わたしに憑依して身体を操っている兄が「むかつくな」といいながら足で穴を掘る。
『あの…… わたしの靴、あんまり乱暴にしないで欲しいんだけど』
あたしの場合、サイズの合う靴を買うのは結構大変なのだから……
『やっぱ運動靴じゃグリップに限界あるわ』と、兄は脳内で言った。わたしの。
「すいません、どなたかスパイク貸していただけないですか!」
『あ――ッ!! ありえないんだけどぉ』
兄がトンデモないことを言った。
男子の履いていたスパイクを貸せというのだから……
ちょっと待って、それ以前に……
「サイズはいくつ?」
「えっと…… 二十七センチです!」
ドワッ――
この言葉に爆笑の渦が発生。
わたしは、自分の脳内でのたうち回る。
なんということを言ってくれやがりますのか、我お兄様はぁぁぁ。
女子で二十七センチの足の大きさというのは、それだけでギャグになる。
本人にとっては、悲劇と絶望しかないのだけど。
玄関に並んだ、二十七センチの女物の靴(持ってはいる)は「非日常」の存在感をダダ漏れにしているくらいだ。
「笑うな!」
ビシッとした有無を言わせぬ声だった。
兄だ。
「足のサイズなんかどーだっていいだろ? 早く合うスパイクを貸してくれないか」
どちらかというと今までは定型的な女子高生っぽい声音だった兄。
それが、一気に感情をむき出しにするような強い口調になった。
笑い声はぴたりと収まり、一人の部員がスパイクを持ってきた。
◇◇◇◇◇◇
「ま、数球投げるなら問題ないかな」
兄は、マウンド(投手が投げる小山になっている場所のことらしい)でトントンとジャンプする。
「お待たせしましたぁ。じゃあ、ここから本気でいきますんで」
明るく屈託の無い、わたしと真逆の女子高生キャラを演じる兄。
わたしが、どうこう思ってももう事態はどうしようもないとこまできていた。
(ああ…… 二十七センチの、バカ足がぁ…… ばれた。つーか、ばれるか普通に過ごしてれば)
とはいうものの、人前で大足であることを宣伝されたのはいい気持ではない。
『んなの、気にスンナ。この足の大きさと、手の大きさは武器だぞ』
『武器――』
「まあいい、見せてやるよ」
兄はボールを握り、振りかぶる。
ぎゅンと、大きく足を上げた。
スカートが完全にめくれかえる。
もう、どうにでもな~れ!
「はっ!」
短い呼気を吐き、兄は叩きつけるようにボールを投げた。
ボールは空気を切り裂き、伸び上がるようにしてミットに吸い込まれた。
バチーン!!
今までとは質の違う音が響く。ちなみに、今捕手をやっているのは監督だった。
「おい! 何キロだ?」と、監督が訊く。
「え? あの…… 百四十三キロです…… マジ、壊れてるんか?」
「去年買ったばかりの新品だぞ。故障はないだろ」
監督は(受けてる俺が一番分ってるんだよ)という感じで言った。
「今のは高めに外れていますね」
バッターボックスの伊来留が言った。
女子が投げた一四〇オーバーの速球にも顔色を変えない。
そもそも、回転数が半端ないのだろうか、地面すれすれから伸び上がってくるようなボールだった。
「んじゃ、ワンボールワンストライクだな」と、監督。
兄にボールを投げて返す。
『あははは、予想以上だな。オマエ、指が長いからよくスピンがかかる』
『足もでかいが、手もでかい。つーか指が長いんだよ』
『え? そうかもしれないけど』
確かにわたしは手もでかい。こういうと末端肥大症のようであるが、決してそうではない。
『ストレートの回転が半端なくかかる。速度は一四〇程度だが、質が段違いだ』
兄はそこから、ボールの回転で生まれるマグナス力(上向きにボールを持ち上げる力)が強いこと。
そのため、重力に逆らってボールが落下していかないということを簡単に説明した。
『こいつは、オマエの才能だぜ。真琴』
兄は嬉しそうに言った。
そして、大きく振りかぶったのだった――
振り下ろされた腕からは閃光が発せられた。
兄だ。
わたしに憑依して身体を操っている兄が「むかつくな」といいながら足で穴を掘る。
『あの…… わたしの靴、あんまり乱暴にしないで欲しいんだけど』
あたしの場合、サイズの合う靴を買うのは結構大変なのだから……
『やっぱ運動靴じゃグリップに限界あるわ』と、兄は脳内で言った。わたしの。
「すいません、どなたかスパイク貸していただけないですか!」
『あ――ッ!! ありえないんだけどぉ』
兄がトンデモないことを言った。
男子の履いていたスパイクを貸せというのだから……
ちょっと待って、それ以前に……
「サイズはいくつ?」
「えっと…… 二十七センチです!」
ドワッ――
この言葉に爆笑の渦が発生。
わたしは、自分の脳内でのたうち回る。
なんということを言ってくれやがりますのか、我お兄様はぁぁぁ。
女子で二十七センチの足の大きさというのは、それだけでギャグになる。
本人にとっては、悲劇と絶望しかないのだけど。
玄関に並んだ、二十七センチの女物の靴(持ってはいる)は「非日常」の存在感をダダ漏れにしているくらいだ。
「笑うな!」
ビシッとした有無を言わせぬ声だった。
兄だ。
「足のサイズなんかどーだっていいだろ? 早く合うスパイクを貸してくれないか」
どちらかというと今までは定型的な女子高生っぽい声音だった兄。
それが、一気に感情をむき出しにするような強い口調になった。
笑い声はぴたりと収まり、一人の部員がスパイクを持ってきた。
◇◇◇◇◇◇
「ま、数球投げるなら問題ないかな」
兄は、マウンド(投手が投げる小山になっている場所のことらしい)でトントンとジャンプする。
「お待たせしましたぁ。じゃあ、ここから本気でいきますんで」
明るく屈託の無い、わたしと真逆の女子高生キャラを演じる兄。
わたしが、どうこう思ってももう事態はどうしようもないとこまできていた。
(ああ…… 二十七センチの、バカ足がぁ…… ばれた。つーか、ばれるか普通に過ごしてれば)
とはいうものの、人前で大足であることを宣伝されたのはいい気持ではない。
『んなの、気にスンナ。この足の大きさと、手の大きさは武器だぞ』
『武器――』
「まあいい、見せてやるよ」
兄はボールを握り、振りかぶる。
ぎゅンと、大きく足を上げた。
スカートが完全にめくれかえる。
もう、どうにでもな~れ!
「はっ!」
短い呼気を吐き、兄は叩きつけるようにボールを投げた。
ボールは空気を切り裂き、伸び上がるようにしてミットに吸い込まれた。
バチーン!!
今までとは質の違う音が響く。ちなみに、今捕手をやっているのは監督だった。
「おい! 何キロだ?」と、監督が訊く。
「え? あの…… 百四十三キロです…… マジ、壊れてるんか?」
「去年買ったばかりの新品だぞ。故障はないだろ」
監督は(受けてる俺が一番分ってるんだよ)という感じで言った。
「今のは高めに外れていますね」
バッターボックスの伊来留が言った。
女子が投げた一四〇オーバーの速球にも顔色を変えない。
そもそも、回転数が半端ないのだろうか、地面すれすれから伸び上がってくるようなボールだった。
「んじゃ、ワンボールワンストライクだな」と、監督。
兄にボールを投げて返す。
『あははは、予想以上だな。オマエ、指が長いからよくスピンがかかる』
『足もでかいが、手もでかい。つーか指が長いんだよ』
『え? そうかもしれないけど』
確かにわたしは手もでかい。こういうと末端肥大症のようであるが、決してそうではない。
『ストレートの回転が半端なくかかる。速度は一四〇程度だが、質が段違いだ』
兄はそこから、ボールの回転で生まれるマグナス力(上向きにボールを持ち上げる力)が強いこと。
そのため、重力に逆らってボールが落下していかないということを簡単に説明した。
『こいつは、オマエの才能だぜ。真琴』
兄は嬉しそうに言った。
そして、大きく振りかぶったのだった――
振り下ろされた腕からは閃光が発せられた。
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