鉄腕JK妹 ―わたしは幽霊となった兄と甲子園を目指すことになった―

中七七三

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15.ノーアウト満塁

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『ま、無難な立ち上がりだったな~』

 わたしに憑依した兄が満足げに呟く。
 無難などころか、三者連続三振だった。
 わたしは、ベンチに向かう。

(観客がすごくざわめいるんだけど……)

 結構な人が集まっている。やはり練習試合とは違うというか、あの記事のせいで注目が集まっているのかもしれない。

『ガン持っているやつもいるんだな。何キロでてたんだろう? ま、真琴の体じゃアベレージ一三〇キロってとこだろうけど』

『今以上に強く投げられたら、翌日体中が痛くなる……』

『よほどのことがない限りやらんから、安心しろ』

『本当に、その言葉信じるからね。お兄ちゃん……』

 と、話をしていた。当然、わたしとおにいちゃんの会話は他の人には聞こえない。
 そして、一回の裏のうちの攻撃も、三者凡退だった。
 わたしは二イニングス目のマウンドに上がった。

        ◇◇◇◇◇◇
 
 カーン!っと乾いた音が、秋の青空に響いた。
 打球は、放物線を描き、「ドンッ」とバックスクリーンに当たった。

『おいおい、一三〇メートル以上飛んだんじゃねぇ』
 
 センターのフェンスには「122」と書かれているので、確かにそれくらい飛んだのかもしれない。
 二回裏の攻撃――
 伊来留先輩がセンターバックスクリーン直撃のホームランを打った。
 ちなみに、わたしと兄は二回表も三者凡退に抑えていた。

『なんで、こんな奴が公立にいるんだよな』

 先輩は中学校時代は軟式野球をやっていた。
 学校の部活だ。
 今、プロを将来の目標にする選手だけではなく、野球で進学するとか、野球で人生を切り開こうと考えている人の多くは、中学時代から硬式のシニアリーグとかボーイズリーグに入るらしい。
 伊来留先輩は、野球で動向ということは考えていなかったらしい。
 勉強も凄く出来る。テストでは学年一位を譲ったことはないらしい。

 ゆっくりとダイアモンドを回って、伊来留先輩が帰ってきた。
 これで1-0でリード。

「すげぇ! さすが俺の伊来留ぅぅぅ!」

 と、ベンチで高取先輩が伊来留先輩に抱きつこうとする。
 伊来留先輩は高取先輩の頭を鷲づかみして、距離を空けた。

        ◇◇◇◇◇◇

 試合は六回まで終わった。
 得点は「2-0」でリードしている。
 伊来留先輩のホームランのほか、四球と相手のエラー絡みで1点を追加していた。

 で、七回表――

 ゴンッと鈍い音がして、ふらふらと打球が上がった。
 内角の速球に完全に刺し込まれた打球だった――はずが……
 
 ぽてんと、セカンドの頭の上を超え、ヒットになってしまった。

『くそ!』

 野球というのは、投手が投げ勝っても、打球が野手のいないとこに飛べばヒットになってしまうスポーツなのだから、これは仕方ない。
 不運は続いた。

 次の打者は、ボテボテのショートゴロ。
 それが、内野安打になってしまった。

『まったくついてねーな。流れがあっちなのか……』

 兄がぼやくように言った。
 わたしは汗ばんだ顔をアンダーシャツの袖でぬぐった。
 ついでに、メガネも拭く。

『まだ勝ってるし』

 わたしはなんかイライラしてる兄に言った。

『流れが悪りーんだよ。えてしてこんなときはミスもでる……』

 強気な兄がちょっと、心配そうな声でいったのは珍しいことだった。
 三人目のバッターは送りバントの構えだった。

『ノーアウト一二塁だから、送って、ワンナウト二三塁にしたいってことよね?』

『ま、そうだな。真琴もよく分かってきてるじゃねーか』

 もう2ヶ月以上野球をやっているのだ。兄に憑依されているとはいえ。
 このくらいのセオリーは分る。

 兄に憑依されたわたしは、インハイ要求のサインに頷く。
 小さく足を滑らすようにして、クイックモーション(動作の早い投げ方)で投げた。

 コーンっと音がしてフライになった。

『やったって、おいおいおい!!』

 フライになったボールが一塁手の頭を超えてコロコロ転がる。
 慌てて、二塁手が拾うが、どこも間に合わなかった。
 オールセーフ。

 七回裏、ノーアウト満塁のピンチを迎えてしまった。
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