鉄腕JK妹 ―わたしは幽霊となった兄と甲子園を目指すことになった―

中七七三

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19.美しすぎるエースがトレンドに

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 カーンと金属音が響く。
 どこまでも、晴れた空に高く飛球が上がった。
 ただ高いだけ。飛距離は全然出ていない。

 ポンとファーストの宇志先輩が掴んでアウト。
 ゲームセット。
 試合終了。

『勝ったな』
『そうね……』

 わたし(わたしに憑依あいた兄)はなんとか九回を投げきって一失点。
 リードを守って三対一で勝利した。
 整列して礼をする。
 相手選手の方から「女なのに凄いな」という声が聞こえるが、ちょっと心苦しい。
 実際に投げているのは兄なのだから。

『おいおい、真琴、勝ったのにそんな顔するなよ』
『そうだけど』
『勘違いしているようだけどさ、俺の力だけじゃこんなピッチングできないからな』
『そうななの?』
『元もとのオマエの身体能力が高いんだよ。宝の持ち腐れだったんだ、今まで』

 と、兄は言うが、イマイチ信じられない。
 兄が身体を操らなければ、わたしに投げられるのはアイドルの始球式程度のボールだろう。
 わたしとアイドルを比べるのは、外観の点で大いに異議がでるだろうけども。

「ナイスピッチ! 真琴」

 伊来留先輩が声をかけてきた。
 あまり表情が変わらないので、喜んでいるのかどうか分らない。

「はい、先輩」

「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ、ナイス……ビッチィィ」

 高取先輩が続いて声をかけるが「ピッチ」が「ビッチ」に聞こえたのは気のせいだろうか?

「あははは、それにしても伊来留のリードは冴えているよなぁ~」
 
 ぺたぺたと伊来留先輩の身体を触って、高取先輩は言った。
 あからさまに変な態度であるのだが、伊来留先輩は「そうか」とだけ言ってベンチに引っ込む。
 そっけない態度に、なぜか高取先輩は私をキッと睨んだ。唇をかみ締めて。

        ◇◇◇◇◇◇

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! ネットでぇぇぇ! 新聞でぇぇぇ!」

 スマホでツイッターを確認していたら「美しすぎるエース」とかトレンドになっている。
 なんだろうと、思ったら――

「わたしのことぉぉぉ。なんでぇぇぇぇぇ!!」

 部屋でのたうち回るわたし。
 スポーツ紙のサイトがわたしのことを取り上げていたのだ。
 で、それがツイッターに流れ込み、拡散されてい。
 で、トレンド入り……

「あうあうあうあうあうあううあうあうあうあうあうあう」

『仕方ねーだろ。高校野球で色物ではなく、本当に通用する選手がでてきたんだし、それも投手で』

『お兄ちゃん、それでも「美しすぎる」は皮肉だ! いじめだ! 人権侵害だ!』

 小学校、中学校とただ大きいだけの「でくの棒」であったわたしには強烈な言葉攻めだ。
「メガネナナフシ」とか「メガネ電柱」とか言われていた方がましだ。
 その方が、幾分真実が混ざっているのだから……

『そんな卑下することはねーだろ。マスコミってのはなんでも大げさなんだよ。俺の「一〇年に一度」は過小であったけどな』
『じゃあ、お兄ちゃんはわたしを「美しすぎる」と思う?」
『……』
『なんで沈黙する! この成仏しろ! 悪霊!』
『なんだよ、ひとを悪霊扱いするなよ。真琴は…… うん、美しすぎはしないが、十分に美しいんじゃないか?』
『え?』
『青春のきらめきのなかで、輝く汗の美しさは誰もがもっているから』
『詩的な言葉で誤魔化されるか!』

 兄と脳内でやりとりしても、無駄である。

『このまま、勝ち進むとどんどん注目されるの?』
『ああ、甲子園にいけば、ヒーロ? あ、ヒロインかな』
『あああああああああああ。そんあ悪目立ちしたくない!』

 わたしは部屋の中でごろごろと転がって苦悩をこね回す。
 だからといって、苦悩が形を変えるわけではないのだけど。

『とにかく、乗りかかった船なんだ、最後までやってくれ』
『う、う、う、う、う、う』

 甲子園に出ていないのに、甲子園の魔物が早くも跋扈し始めたような気がしてきた。
 地味で平凡な高校生活を彩る「部活」という領域を超え、なんかわたしはとんでもないところに向かっている気がしてきた。

(兄じゃ、話にならないし…… 誰かに……)

 わたしはそのとき、なぜか伊来留先輩のことを思い出した。
 ちょっと、顔が火照ってくる。なぜだ?
 とにかく、伊来留先輩に相談してみようと、わたしは思った。
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