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「わたくしは決してそのようなことは……」
都市貴族の令嬢であり、地方台領主のファルマッハ侯爵家に嫁いだローザリンデは夫に問うていた。
真紅の宝石のような瞳に涙を浮かべ、言葉を詰まらせる。
政略結婚は貴族のとすれば当たり前ではあった。しかし、新たな生活に夢見る程にはローザリンデは純粋であり、夫を愛していた。
「では、我が家の使用人が嘘をついていると申すのかね? ローザリンデ」
氷柱のような視線を向け彼女の夫は言った。言葉は更に温度を失していた。
使用人からの告発――
ローザリンデが妖しげな呪いを行っているということだった。
敬虔な神への信仰を持つ彼女にとってはあり得ない話だった。
確かにここ最近、使用人や夫の態度が妙に冷たかったことはある。
しかし、彼女はあえて理由を問うことはなかった。
「一体誰が? 会って話を……」
「それは言えぬし、会って話などできるわけはない。分かるだろう。君は優位な立場で使用人の口を塞ぐこともできる」
彼女はその場に膝をついた。
緋色の長い髪が前に揺れる。
華麗な装飾をされたスカートがふわりと舞って、床に円を作った。
その中心でローザリンデは呆然とし、細く白い青磁の肌をもった腕を床に付ける。
冷たい温度が肌から身体の中に入り込んでくる。
「まあ、誤解であるということもあるかも知れん」
「そうです。誤解です!」
「しかし、それを証明するためどうするのだ? 私に君を異端審問に送れというのかい? んん~」
「ひっ!」
異端審問――
それは、神の教えに背く呪いや、異端の教えを信じる者を裁き、真実を究明する場所であった。表層の解釈では。
問題は真実のあり方が、教会によって、異端審問官によって自由に決められることだ。
そして、その根拠、証拠もあやふやであり、最悪火あぶりにすらなる可能性がある。
言ってしまえば、恐怖を凝縮した地獄に最も近い場所だった。
ローザリンデが恐怖のあまり現実から逃げるかのように、顔を背ける。
全身の筋肉がこわばり、手足が震えた。
「そういう、訳にはいくまい。ローザリンデよ」
優しげな表情、ただ皮一枚だけの柔和な顔を見せる夫・ファルマッハ侯爵。
「それでは……」
最悪の事態は無さそうだと感じたローザリンデは安堵の息を吐く。
しかし――
「しばらくは、当家の方法で君が潔白であるのかどうか、確認しようじゃないか」
夫は言った。その言葉はどこまでも冷たく淡々としていた。
その日から侯爵夫人・ローザリンデの生活は一変した。
都市貴族の令嬢であり、地方台領主のファルマッハ侯爵家に嫁いだローザリンデは夫に問うていた。
真紅の宝石のような瞳に涙を浮かべ、言葉を詰まらせる。
政略結婚は貴族のとすれば当たり前ではあった。しかし、新たな生活に夢見る程にはローザリンデは純粋であり、夫を愛していた。
「では、我が家の使用人が嘘をついていると申すのかね? ローザリンデ」
氷柱のような視線を向け彼女の夫は言った。言葉は更に温度を失していた。
使用人からの告発――
ローザリンデが妖しげな呪いを行っているということだった。
敬虔な神への信仰を持つ彼女にとってはあり得ない話だった。
確かにここ最近、使用人や夫の態度が妙に冷たかったことはある。
しかし、彼女はあえて理由を問うことはなかった。
「一体誰が? 会って話を……」
「それは言えぬし、会って話などできるわけはない。分かるだろう。君は優位な立場で使用人の口を塞ぐこともできる」
彼女はその場に膝をついた。
緋色の長い髪が前に揺れる。
華麗な装飾をされたスカートがふわりと舞って、床に円を作った。
その中心でローザリンデは呆然とし、細く白い青磁の肌をもった腕を床に付ける。
冷たい温度が肌から身体の中に入り込んでくる。
「まあ、誤解であるということもあるかも知れん」
「そうです。誤解です!」
「しかし、それを証明するためどうするのだ? 私に君を異端審問に送れというのかい? んん~」
「ひっ!」
異端審問――
それは、神の教えに背く呪いや、異端の教えを信じる者を裁き、真実を究明する場所であった。表層の解釈では。
問題は真実のあり方が、教会によって、異端審問官によって自由に決められることだ。
そして、その根拠、証拠もあやふやであり、最悪火あぶりにすらなる可能性がある。
言ってしまえば、恐怖を凝縮した地獄に最も近い場所だった。
ローザリンデが恐怖のあまり現実から逃げるかのように、顔を背ける。
全身の筋肉がこわばり、手足が震えた。
「そういう、訳にはいくまい。ローザリンデよ」
優しげな表情、ただ皮一枚だけの柔和な顔を見せる夫・ファルマッハ侯爵。
「それでは……」
最悪の事態は無さそうだと感じたローザリンデは安堵の息を吐く。
しかし――
「しばらくは、当家の方法で君が潔白であるのかどうか、確認しようじゃないか」
夫は言った。その言葉はどこまでも冷たく淡々としていた。
その日から侯爵夫人・ローザリンデの生活は一変した。
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