イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

文字の大きさ
6 / 44

6話:荒野の修行! サタンだと?

しおりを挟む
 ヨハネは朝からバッタ食って「神の国が来るぅぅぅ!!」と荒野で絶叫する。
 俺も修行の一環として、同じことを叫んでみた。
 神の国が来るのかどうか、分からん。でも、リア充は断罪されればいいと思う。

 そもそもだ。
 俺に話しかけてくる神。ああ、名前を言えないので「主」だけど。
 最近、なんかあまり出てこない。呼んでも出てこない。
 まあ、度々出てきて脳内でビンビン話しかけられても困る。
 話の筋に一貫性はないし、なにかというと、すぐに「呪うよ?」って言うから。

 で、この神は俺の幻聴とかではなく、確かにいる。まあ、俺が神の子かどうかまでは分からんが。
 証拠としては、奇跡の力だ。それは確かに身についていた。
 ヨルダン川で魚を獲って、試に増やしてみた。魚を増やす奇蹟を試したのだ。
 増えた。マジで。1尾の魚が、2尾になり、4尾になり……

「なんじゃこりゃ! 止まれ! 止まれぇぇ!」

 俺は叫んだ。
 
 魚は倍々に増えていく。多分2~3秒で分裂する。
 どんどん増えていく。俺は呆然だ。

 気が付くと魚の山ができつつあった。生臭い空気が濃厚になっていく。
 やばい。まて…… 止まらんのか?
 ああ、確かに、主は増やせるとはいったが、止められるとは言ってなかった!!

『主! 主よ! 止まらないんだけど! 魚が増えるのが止まらないんだけどぉぉ!』
 
 主に訴えるが、返答はない。
 ガンガン、増える魚。
 俺は、慌てて、ヨハネと弟子、そしてエッセネ派の連中を呼んだ。

 ドドドドドドっと砂煙をあげてやってくる奴ら。

「おお!! 奇蹟じゃ! 魚がぁ! 魚がぁぁ! ごちそうなのじゃ!」
 
 ヨハネがグルグルと回転する目玉を魚に向ける。
 今日は一段とトルクのきいた回転をしていた。

 普段、バッタとハチの巣しか食っていない奴らの目の色が変わった。
 焚き火の中に、魚をぶち込んで次々喰った。
 餓鬼の群れ。しかし、喰うことによって増殖が停止したようだ。

「ヨハネ様、魚食べていいんでしょうか。げぷぅぅ~」

 たらふく食ったあと、弟子のひとりが聞いてきた。

「我らは、神から受けたものしか食ってはいけない。イエスは神の子なので、問題ないのじゃ!」

「なるほどぉ~」

 ウンウンと頷くヨハネ弟子たち。
 俺はヨハネの溺死寸前の洗礼(パプステマ)から逃れるために、奇蹟の力で水面を歩いたのだ。
 それで、みんな俺を神の子と言っている。
 
 ヨハネは昼ごろから、洗礼(パプステマ)をやる。
 俺がなるはずだった1万人目の洗礼を受けた奴は、額に焼印を押されて喜んでいた。
 もう、よーわからん。

 で、このヨハネは金持ちとか異端が嫌いなのな。
 放浪ユダヤ人として、金持ちの多いパリサイ人とか司祭関係者のサドカイ人とかいるのよ。
 まあ、ユダヤにも色々いるわけだ。
 
 そういう上流階級の奴らもなんか洗礼に来る。
 すると、ヨハネは発狂して追い払う。

「毒蛇じゃ!! マムシなのじゃ! オマエラなんかに洗礼などしてやらんのじゃぁぁ! 死ね! 滅びろ! 断罪されろぉぉブルジョア階級!!」

 俺は、コイツラも今のユダヤ社会の腐った部分。選民思想的なダメな部分を反省してきてるんじゃねーかと思う。
 でも、ヨハネは許さない。さすがにバッタを食うだけのことはある。
 まあ、関係ないけど。

「でさあ、ヨハネ。ちょっと聞きたいんだけど」

「なんですじゃぁ! 神の子、イエス様ぁぁ!」

 ハイテンションの返事をするヨハネ。
 
「俺さぁ、修行してぇんだけど。なにすればいいんだ?」

 俺は言った。主は最近でてこない。
 となると、訊く相手はヨハネしかいない。
 かなり、頭は変だなと思うが、一応弟子のいる預言者だ。
 
「山籠(ごも)もりなのじゃ! 修行といえば山籠もりなのじゃ!」

「ふーん、そうかぁ……」

 底辺で大工(テクトーン)の俺には、よく分からんが、まあやってみればいいか。
 ここで、ヨハネと弟子とエッセネ派という男だらけの「狂気の童貞帝国」に居続けるよりはマシな気がした。
 端的にいって、ひとりの方がいいという感じ。

「じゃあ、俺、修行するわ」

 俺はヨハネに言った。

         ◇◇◇◇◇◇

 俺は修行をすると言ったことを即後悔していた。
 マジで。
 
 俺は手で顔を撫でた。
 それで分かる。俺の片方の眉が剃り落されのだ。
 ヨハネたちがやった。
 
 その時のことを思いだす。呪われろ思う。

「なんで! 眉毛の片方を剃るんだ! てめぇ!」

 俺は、バタバタ暴れたが、奴らはガタイがいい。
 押さえつけられ、簡単に剃り落された。
 ヨハネは「オチンチンの皮を切り落とすことを考えれば、大したことないのじゃ」と言い放った。
 
 エッセネ派にだけ伝わる修行の方法らしいが、アホウかと思う。
 なんか2000年後くらいに、遥か東の彼方の島国で同じことをする奴が出てきそうな気がした。なぜか。
 やはり、俺は神の子なのか。
 
 で、修行をするといっても何もすることが無い。
 トコトコと、荒野を歩いていた。
 そしたら、道に迷った。どこにいるのかさっぱり分からん。

「ヤバいなこれ? 遭難か……」

 修行するつもりが、ヨルダン川周辺で遭難かもしれん。
 だいたい、紀元30年くらいなので、未開地ばかりなのだ。
 草木一本無い。ぺんぺん草もない。完全な荒野。
 風の中に、砂塵が舞って、虚無感を演出するがごとき荒野。

「まあ、なんとかなんだろ――」

 俺は神の子だし、チートの奇蹟の力を持っている。
 まだ、このときは、大丈夫だろうと思っていました。

         ◇◇◇◇◇◇
 40日経過――
 甘かった。
 だって、チートの奇蹟といってもね。
 水の上を歩くとか、魚を増やすとかだし。

 ここ荒野だから水が無い。つーか、歩いてもしょうがない。 
 河もないので、魚もいない。草木もないので、食料が無い。 
 食料がないと増やせない。ゼロは何を掛けてもゼロなのである。

「腹減った…… マジで…… やばいよ」

 俺はへたり込んだ。
 まあ、普段からろくな物は喰ってなかったよ。底辺の貧民だから。
 でも、40日の飲まず食わずは辛いな。死ぬよ。本当に…‥

 薄れ行く意識。ふと何かの気配を感じた。
 俺は顔を上げた。
 なんかがいた。

「すいませーん。すいませーん。イエスさん? イエスさんでいいですか?」

「そうだけど。なんかくれるの? 食べ物」

「ああ、それはアナタ次第ですけどね。あ、私、サタンです。神に対する信仰を試す試験官と思ってください」

「いきなり出てきて、なんじゃそれは!」
 
 これは、空腹が見せる幻覚かなと思った。
 でも、結構リアルだ。
 真っ黒なイメージの男だ。結構整った顔をしている。

 サタンはスッと手を出した。
 
「これ、食べます?」

「え! くれるの!」

 俺はサタンのさしだしたものを見た。
 石だ――
 そこらに、転がっている石。

「アホウか! いくら腹減っても石が喰えるかぁ! ボケぇ!」
 
 俺は蹴りをぶち込もうと思ったが腹が減りすぎて動けない。
 そもそも、通常状態でも栄養失調気味なのだ。貧民だから。

「石をパンにすれば、食べます?」

「できるのか?」

「パンだと思えば、いいんじゃないですか? 思い込みの力ですよ。イメージの力で」

「やだよ! 元々、石じゃねーか! 人はそんなパンじゃ生きていけねーんだよ!」

「なるほど、人はパンのみに生きるにあらずですな!」

「言ってねーよそんなこと! いいから、他の食い物よこせよ」

「んじゃ、私と来てください」

 そう言って、サタンと名乗る男は俺の手を引っ張ったのだった。
 なんか、意識が薄れていった。 
 くそ、修行なんかするんじゃなかったと俺は思った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...