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13.まずは、学者になって始める大江戸改革
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「ときに、土岐殿」
「はい、意知殿。なんでしょう?」
「今回は――」
ああ、お菓子ですか?
色々ありますよ。持ってきました。
「ハイ、じゃあ、まず湯を沸かしますか。それにこれをどうぞ。冷えて美味しいですよ」
俺はクーラーボックスに入れてあったジュースやお茶の類を出した。
「ほぉぉ、これが二三〇年後の茶かい?」
源内さんがそう言って手を伸ばす。
俺は「どうぞ」とか言う前に、即行動。
「おおッ! 冷てぇじゃねぇか!! なんだ? 氷室―― 小さな氷室――」
そう言ってクーラーボックスを覗きこむ。
しかし、なにもない。
驚く源内を俺は初めて「ニヤニヤ」して見たのだ。
「おお、確かに!」
「これは――」
田沼親子もペットボトルの飲み物を手に取り、驚いていた。
前回は特に冷やさず持ってきたが、今回はクーラーボックスを用意した。
まあ、小さな冷蔵庫なら、持ってくることもできるが、まだ発電機が稼動していない。
音の問題をなんとかしないと、発電機はまだ時期尚早な気がしている。
「ミカン汁か―― 果汁を冷やして飲む…… なるほどねぇ」
オレンジジュースを飲んで源内はそう言った。
「甘い、甘い茶かぁ…… 旨いモノだな」
「これは…… 不思議な味の…… しかし甘い」
田沼意次はミルクティー、息子の意知は、レモンティーを飲んでいる。
江戸も夏になりつつある――
二一世紀の容赦のない過酷な灼熱感はないが、それなりに湿気や暑さはあるのだ。
「冷気を密封する箱―― しかし、冷気をどう作る……」
江戸時代でも、冬に出来た氷を大量に集め、夏まで持たせ、冷たい物を楽しむことが出来た。
ただし、将軍とかごく一部だ。それも結構汚いドロ混じりの様な氷を使っての物だ。
さすがの天才・平賀源内も、早々答えが出るモノじゃ――
俺の思考が平賀源内の鋭い視線で止まった。
目玉からビームが出ているかのような視線が俺に向け発射されていた。
「打ち水かい―― それで気を冷やしたか…… いや、それだけじゃねぇか……」
「はい?」
恐ろしい男だった。こっちは源内の言葉で寒気がした。
「打ち水」つまり気発熱を奪う方法でも温度を下げることは可能だ。
そういった電気を使わないシステム「冷蔵庫」は実際に存在する。
(あ、乾湿計か―― オランダ製の乾湿計を作っているんだ)
源内は乾湿計をオランダ人から見せてもらい、一目で仕組みを見抜き、製作したという。
それが本当なら、湿球の周りに水分を含んだ綿があること。
その綿の水が蒸発することで、同じ温度計に差が出ていることを知っている。
つまり「水が蒸発することで気温を下げる」という事実を知っているんだ。
「だからよぉ。冷てぇ、気を作る方法だよぉ」
源内が俺に質問を続けていた。
すでに、オレンジジュースは全部飲んでいた。
五〇〇ミリリットル一気だ。
「いくつか方法はありますけど―― 打ち水、つまり、乾湿計の湿計の方法を使うこともできます」
「ふぅーん、そうかい―― でも、それだけじゃないんだろう?」
「はい、『エレキテル』です。その力で空気を圧縮して、冷やして、元に戻す。それで空気を冷やすんです」
大雑把な説明だが、今は仕方ない。
「ああ、まあ、ちとやってみねぇと分からねェなぁ…… やっぱ二三〇年先か―― すげぇもんだぜ。お代わり」
そう言って源内は、ジュースのお代わりを要求したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「しばらくはこっちで、俺も色々とやろうと思うんですけどね――」
江戸と二一世紀の現代を行ったり来たりできるのはいい。
しかし、それは江戸時代の変革を起こすためだ。
田沼政治の失敗を回避し、日本を変えるのだ。
出来れば世界に「パックス・ジャパーナ(日本支配による平和)」を実現するほどにだ。
「そうなると、まずは身分か―― 土岐殿の……」
田沼意次が思案気に言った。
この社会、人は身分に縛られている。
後世の一般の人が考えるほどガチガチではない。
だが、武士とそれ以外には確実に壁がある。
「学者ってことにしておけばいいじゃねぇですかい―― 医者でも―― 長崎帰りのオレの友人ってことでもいい――」
平賀源内が言った。
「俺、平賀源内の友達なんだぜ!」って誰も自慢できないけど、何か嬉しい。
それが仕事上のことであったとしてもだ。
「父上、その辺りが妥当では」
「うむ、まあそうだな――」
ということで、俺の身分は「平賀源内の友人の学者(医者)」ということになった。
言ってみれば、士農工商の身分の外の存在だ。
「未来から持ってきた商品は、オレの伝手で流してもいいし――、田沼様の方からは?」
そう言って、源内は田沼意次を見やった。面白そうにだった。
「それは、やはりソチたち中心がよかろう―― ワシもワシでな…… 色々ある」
田沼意次も未来から来ているのだ。
失脚寸前の時代からこの時代に、魂だけが戻っている状態だ。
城内ではやらねばいけないことがあるはずだ。
〔後で、田沼様には資料を渡しておくか、ああ、プリンターはこっちじゃまだ動かせないか)
「住まいはどうするね? 土岐殿」
源内が俺に話を振った。
確かに、そうだ。長期滞在なら家も必要だ。
家があれば、発電機を動かせるかもしれない。
広い庭のある家―― 陽当たり良好な―― ソーラ―発電も使えるし。
そして、事業がでかくなれば――
江戸にドンッとこう屋敷を構えることになるかもしれない。
つまり巨大財閥の総帥としての俺が江戸時代に出現する可能性もある。
いや、そうするのだ――
そのためには、確かにまず家が欲しい。
「まあ、しばらくは、この江戸屋敷でよかろう―― のう、意知、源内。土岐殿は不服は?」
「言え、願ってもないですが……」
確かに、しばらくは田沼意次の江戸屋敷にいてもいいかもしれない。
家が決まるまではだ――
だが、使用人でもない男がずっと権力者の家にいるというのも、変な疑念を生む可能性はある。
長居はできないだろう。
「まあ、住処の決まるまではゆっくりされるがよかろう。いざとなれな、『時渡り』で戻ることもできよう」
それは、田沼意次の言う通りだった。
時間は二三〇年だが、物理的には一里、約四キロメートルだ。
ご近所というわけではないが、自転車付リヤカーならそれほど苦になる距離ではない。
大変だが、毎日通えないというわけでもないのだ。身ひとつであれば。
俺は自転車と、リヤカーを見やる。
江戸を変えていく最重要チートツールかもしれんのだ。
「なあ? 連結できねぇのかい?」
俺の視線の先にあるモノ、源内も同じものを見て言ったのだ。
「連結?」
「この鉄の『大八車』だよ」
「ああ「リヤカー」ですね」
「『りやかぁ』ってのかい、これをずらっとつなげば、荷物をたくさん運べるぜ」
「重くなりますよ」
「一生懸命漕げばいいじゃねぇか――」
何を言っているのか?源内さんよ。
俺に『貧乳の魔法少女の歌』とか歌わせる気?
貧乳はもう間に合ってますから。
とにかく、積載重量三五〇キログラム。
自転車であっても人が引っ張るには生半可な重さではないのだ。
実際、荷物を満載すれば、かなり自転車を漕ぐのはキツイのだ。
連結とか所詮一八世紀人だなぁと俺は思ったわけだが――
「こっちの歯車か? これの大きさ変えれば、重くても動くだろ?」
そういって、ママチャリのギアを指さす。
あッ…… それは確かに…… 軽いギアにすれば……
俺は最近ずっとママチャリしか乗って無かったので自転車のギアを変えるということを完全に忘れていた。
しかしだ――
「確かに変えられるのもありますけど―― まあそれでも二台連結が限界ですよ。で、時間は多分倍かかる様になりますよ――」
「ふぅぅん、そんなもんかい」
仕事量と仕事率の問題だ。
中学三年生の一学期にやる理科だな。
しかしーー その原理。
この平賀源内―― マジで何者だよ。
俺と源内のやり取りを、ペットボトルの冷たい茶を飲みながら、田沼親子は面白そうに見ている。
「時渡りの道は一里だっけ? ワタル殿」
「そうですけど。二三〇年後の私らにとっては結構キツイんですよ。車輪があって自分で走る籠とかあるので、体力が落ちてるんですよ」
「そんな、デカイなりしてかい? ま、いいや――」
源内はそう言うと、お代りしたマンゴージュースをグビッと流し込み「カキの種」を頬張った。
よく食べる――
彼も先ほど、もカップめんを体験している。醤油味とキムチみそ味を制覇した。
細い身体のどこに消えていくんだろう……
「うめぇな、この豆と煎餅――」
ポツリと言うと、言葉を続けた。
「一里の間全部を『りやかぁ』でつなげちまえばいいんだよ。二列にだ――」
「え?」
「だからよ、時渡りの道の中を二列のリヤカーをつないで並べるんだよ。それくれぇの幅あるんだろ?」
俺は思った。確かにそれくらいの幅はある。
つまりだ――
「グルグルこう長いつながった『りやかぁ』を回せば、二三〇年後から持って来れるモノの量は増えるぜ。いちいちコイツを漕ぐこたぁねぇ」
リヤカーで出来たベルトコンベアーを中に作れと。
そう平賀源内は言っているのだ。
恐ろしい……
なんちゅぅ、発想をするのか……
しかしだ。
「それはまだ…… リヤカーの数をそんなに揃えられませんし、リヤカーを動かす人に、時渡りの道の存在を教えることになりますよ」
「まあ、それはそうか…… ま、おいおいだな――」
恐るべきアイデアだ。なんという発想だ――
江戸に来たリヤカーを外して荷物を下し、そして未来に送るリヤカーの後ろに連結する。
向こうでは、リヤカーに荷物を載せて、江戸に送り込む。
人を動員すれば、出来なくもないような気がするが――
あくまで机上で出来るかもしれないだ。
江戸はともかく、二一世紀のゲートは俺の部屋にあるのだ。
今は、それは無理というものだ。
しかし、発想そのものものはぶっ飛んでいる。怖気を震うくらいだ。
天才だ―― やはり…‥
俺はそう思うしかなかった。
「しかし、楽しそうな道具がいっぱいだなぁ。田沼様のお屋敷が長崎よりすげぇことになってるってのもなぁ――」
源内はウキウキするように、そう言って、再びジュースを飲んでプハーとする。
俺は酒を飲まないのだが、今度「ビール」とか「ワイン」とか「酒類」も持ってこようかと思った。
すっと、田沼意次が源内に目で何かを促すようにした。
小さく、源内が頷いた。
なんだ?
源内がスッとこっちを見たのだ。
真剣な表情だった。
「あとよ…… あるんだろ? 二三〇年の日本にゃぁよ――」
「え? あるって?」
源内が「にぃ」と口元に笑みを浮かべている。
ちょっとジュースがたれている。
「鉱山の地図さ。江戸より後の時代で見つかった鉱山―― その地図だよ」
大山師――
それもまた、源内の異名であることを俺は思い出していた。
「はい、意知殿。なんでしょう?」
「今回は――」
ああ、お菓子ですか?
色々ありますよ。持ってきました。
「ハイ、じゃあ、まず湯を沸かしますか。それにこれをどうぞ。冷えて美味しいですよ」
俺はクーラーボックスに入れてあったジュースやお茶の類を出した。
「ほぉぉ、これが二三〇年後の茶かい?」
源内さんがそう言って手を伸ばす。
俺は「どうぞ」とか言う前に、即行動。
「おおッ! 冷てぇじゃねぇか!! なんだ? 氷室―― 小さな氷室――」
そう言ってクーラーボックスを覗きこむ。
しかし、なにもない。
驚く源内を俺は初めて「ニヤニヤ」して見たのだ。
「おお、確かに!」
「これは――」
田沼親子もペットボトルの飲み物を手に取り、驚いていた。
前回は特に冷やさず持ってきたが、今回はクーラーボックスを用意した。
まあ、小さな冷蔵庫なら、持ってくることもできるが、まだ発電機が稼動していない。
音の問題をなんとかしないと、発電機はまだ時期尚早な気がしている。
「ミカン汁か―― 果汁を冷やして飲む…… なるほどねぇ」
オレンジジュースを飲んで源内はそう言った。
「甘い、甘い茶かぁ…… 旨いモノだな」
「これは…… 不思議な味の…… しかし甘い」
田沼意次はミルクティー、息子の意知は、レモンティーを飲んでいる。
江戸も夏になりつつある――
二一世紀の容赦のない過酷な灼熱感はないが、それなりに湿気や暑さはあるのだ。
「冷気を密封する箱―― しかし、冷気をどう作る……」
江戸時代でも、冬に出来た氷を大量に集め、夏まで持たせ、冷たい物を楽しむことが出来た。
ただし、将軍とかごく一部だ。それも結構汚いドロ混じりの様な氷を使っての物だ。
さすがの天才・平賀源内も、早々答えが出るモノじゃ――
俺の思考が平賀源内の鋭い視線で止まった。
目玉からビームが出ているかのような視線が俺に向け発射されていた。
「打ち水かい―― それで気を冷やしたか…… いや、それだけじゃねぇか……」
「はい?」
恐ろしい男だった。こっちは源内の言葉で寒気がした。
「打ち水」つまり気発熱を奪う方法でも温度を下げることは可能だ。
そういった電気を使わないシステム「冷蔵庫」は実際に存在する。
(あ、乾湿計か―― オランダ製の乾湿計を作っているんだ)
源内は乾湿計をオランダ人から見せてもらい、一目で仕組みを見抜き、製作したという。
それが本当なら、湿球の周りに水分を含んだ綿があること。
その綿の水が蒸発することで、同じ温度計に差が出ていることを知っている。
つまり「水が蒸発することで気温を下げる」という事実を知っているんだ。
「だからよぉ。冷てぇ、気を作る方法だよぉ」
源内が俺に質問を続けていた。
すでに、オレンジジュースは全部飲んでいた。
五〇〇ミリリットル一気だ。
「いくつか方法はありますけど―― 打ち水、つまり、乾湿計の湿計の方法を使うこともできます」
「ふぅーん、そうかい―― でも、それだけじゃないんだろう?」
「はい、『エレキテル』です。その力で空気を圧縮して、冷やして、元に戻す。それで空気を冷やすんです」
大雑把な説明だが、今は仕方ない。
「ああ、まあ、ちとやってみねぇと分からねェなぁ…… やっぱ二三〇年先か―― すげぇもんだぜ。お代わり」
そう言って源内は、ジュースのお代わりを要求したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「しばらくはこっちで、俺も色々とやろうと思うんですけどね――」
江戸と二一世紀の現代を行ったり来たりできるのはいい。
しかし、それは江戸時代の変革を起こすためだ。
田沼政治の失敗を回避し、日本を変えるのだ。
出来れば世界に「パックス・ジャパーナ(日本支配による平和)」を実現するほどにだ。
「そうなると、まずは身分か―― 土岐殿の……」
田沼意次が思案気に言った。
この社会、人は身分に縛られている。
後世の一般の人が考えるほどガチガチではない。
だが、武士とそれ以外には確実に壁がある。
「学者ってことにしておけばいいじゃねぇですかい―― 医者でも―― 長崎帰りのオレの友人ってことでもいい――」
平賀源内が言った。
「俺、平賀源内の友達なんだぜ!」って誰も自慢できないけど、何か嬉しい。
それが仕事上のことであったとしてもだ。
「父上、その辺りが妥当では」
「うむ、まあそうだな――」
ということで、俺の身分は「平賀源内の友人の学者(医者)」ということになった。
言ってみれば、士農工商の身分の外の存在だ。
「未来から持ってきた商品は、オレの伝手で流してもいいし――、田沼様の方からは?」
そう言って、源内は田沼意次を見やった。面白そうにだった。
「それは、やはりソチたち中心がよかろう―― ワシもワシでな…… 色々ある」
田沼意次も未来から来ているのだ。
失脚寸前の時代からこの時代に、魂だけが戻っている状態だ。
城内ではやらねばいけないことがあるはずだ。
〔後で、田沼様には資料を渡しておくか、ああ、プリンターはこっちじゃまだ動かせないか)
「住まいはどうするね? 土岐殿」
源内が俺に話を振った。
確かに、そうだ。長期滞在なら家も必要だ。
家があれば、発電機を動かせるかもしれない。
広い庭のある家―― 陽当たり良好な―― ソーラ―発電も使えるし。
そして、事業がでかくなれば――
江戸にドンッとこう屋敷を構えることになるかもしれない。
つまり巨大財閥の総帥としての俺が江戸時代に出現する可能性もある。
いや、そうするのだ――
そのためには、確かにまず家が欲しい。
「まあ、しばらくは、この江戸屋敷でよかろう―― のう、意知、源内。土岐殿は不服は?」
「言え、願ってもないですが……」
確かに、しばらくは田沼意次の江戸屋敷にいてもいいかもしれない。
家が決まるまではだ――
だが、使用人でもない男がずっと権力者の家にいるというのも、変な疑念を生む可能性はある。
長居はできないだろう。
「まあ、住処の決まるまではゆっくりされるがよかろう。いざとなれな、『時渡り』で戻ることもできよう」
それは、田沼意次の言う通りだった。
時間は二三〇年だが、物理的には一里、約四キロメートルだ。
ご近所というわけではないが、自転車付リヤカーならそれほど苦になる距離ではない。
大変だが、毎日通えないというわけでもないのだ。身ひとつであれば。
俺は自転車と、リヤカーを見やる。
江戸を変えていく最重要チートツールかもしれんのだ。
「なあ? 連結できねぇのかい?」
俺の視線の先にあるモノ、源内も同じものを見て言ったのだ。
「連結?」
「この鉄の『大八車』だよ」
「ああ「リヤカー」ですね」
「『りやかぁ』ってのかい、これをずらっとつなげば、荷物をたくさん運べるぜ」
「重くなりますよ」
「一生懸命漕げばいいじゃねぇか――」
何を言っているのか?源内さんよ。
俺に『貧乳の魔法少女の歌』とか歌わせる気?
貧乳はもう間に合ってますから。
とにかく、積載重量三五〇キログラム。
自転車であっても人が引っ張るには生半可な重さではないのだ。
実際、荷物を満載すれば、かなり自転車を漕ぐのはキツイのだ。
連結とか所詮一八世紀人だなぁと俺は思ったわけだが――
「こっちの歯車か? これの大きさ変えれば、重くても動くだろ?」
そういって、ママチャリのギアを指さす。
あッ…… それは確かに…… 軽いギアにすれば……
俺は最近ずっとママチャリしか乗って無かったので自転車のギアを変えるということを完全に忘れていた。
しかしだ――
「確かに変えられるのもありますけど―― まあそれでも二台連結が限界ですよ。で、時間は多分倍かかる様になりますよ――」
「ふぅぅん、そんなもんかい」
仕事量と仕事率の問題だ。
中学三年生の一学期にやる理科だな。
しかしーー その原理。
この平賀源内―― マジで何者だよ。
俺と源内のやり取りを、ペットボトルの冷たい茶を飲みながら、田沼親子は面白そうに見ている。
「時渡りの道は一里だっけ? ワタル殿」
「そうですけど。二三〇年後の私らにとっては結構キツイんですよ。車輪があって自分で走る籠とかあるので、体力が落ちてるんですよ」
「そんな、デカイなりしてかい? ま、いいや――」
源内はそう言うと、お代りしたマンゴージュースをグビッと流し込み「カキの種」を頬張った。
よく食べる――
彼も先ほど、もカップめんを体験している。醤油味とキムチみそ味を制覇した。
細い身体のどこに消えていくんだろう……
「うめぇな、この豆と煎餅――」
ポツリと言うと、言葉を続けた。
「一里の間全部を『りやかぁ』でつなげちまえばいいんだよ。二列にだ――」
「え?」
「だからよ、時渡りの道の中を二列のリヤカーをつないで並べるんだよ。それくれぇの幅あるんだろ?」
俺は思った。確かにそれくらいの幅はある。
つまりだ――
「グルグルこう長いつながった『りやかぁ』を回せば、二三〇年後から持って来れるモノの量は増えるぜ。いちいちコイツを漕ぐこたぁねぇ」
リヤカーで出来たベルトコンベアーを中に作れと。
そう平賀源内は言っているのだ。
恐ろしい……
なんちゅぅ、発想をするのか……
しかしだ。
「それはまだ…… リヤカーの数をそんなに揃えられませんし、リヤカーを動かす人に、時渡りの道の存在を教えることになりますよ」
「まあ、それはそうか…… ま、おいおいだな――」
恐るべきアイデアだ。なんという発想だ――
江戸に来たリヤカーを外して荷物を下し、そして未来に送るリヤカーの後ろに連結する。
向こうでは、リヤカーに荷物を載せて、江戸に送り込む。
人を動員すれば、出来なくもないような気がするが――
あくまで机上で出来るかもしれないだ。
江戸はともかく、二一世紀のゲートは俺の部屋にあるのだ。
今は、それは無理というものだ。
しかし、発想そのものものはぶっ飛んでいる。怖気を震うくらいだ。
天才だ―― やはり…‥
俺はそう思うしかなかった。
「しかし、楽しそうな道具がいっぱいだなぁ。田沼様のお屋敷が長崎よりすげぇことになってるってのもなぁ――」
源内はウキウキするように、そう言って、再びジュースを飲んでプハーとする。
俺は酒を飲まないのだが、今度「ビール」とか「ワイン」とか「酒類」も持ってこようかと思った。
すっと、田沼意次が源内に目で何かを促すようにした。
小さく、源内が頷いた。
なんだ?
源内がスッとこっちを見たのだ。
真剣な表情だった。
「あとよ…… あるんだろ? 二三〇年の日本にゃぁよ――」
「え? あるって?」
源内が「にぃ」と口元に笑みを浮かべている。
ちょっとジュースがたれている。
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大山師――
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