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3.ボクは魔法少女さ―― きっと君を助けてあげる
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アイウエ王国の要塞にこもっている兵隊さんの数も一万人くらいでした。
ですので、カキクケ皇国の将軍の考えた作戦は、アイウエ王国の将軍を困らせるものだったのです。
「どうやら敵は、兵隊をふたつに分けるようです」
見はりの兵隊から知らせを聞いて、アイウエ王国の要塞を守る将軍やその補佐をする軍人は考えました。
「敵が、少しの兵隊を残しているなら、門を開けて戦いましょう!」
ひとりの軍人が言いました。多くの軍人がそれに「賛成だ! 敵を殺せ! 出撃だ!」と言いました。
しかし、アイウエ王国の将軍はその言葉とはべつのことを考えていました。
要塞は、要塞の中に兵隊がいることに価値があるのです。
要塞の石垣や堀に守られながら、そこを攻めてくる敵を攻撃するから、少ない兵隊でも多くの兵隊と戦えます。
しかし、要塞の外にでてしまえば、条件は同じです。
しかも、アイウエ王国に向かった軍勢がもどってくれば、ひとたまりもありません。
兵隊の数はずっとカキクケ皇国が多いのです。
「将軍、まずは王国に敵がむかったことを知らせねばらなりません」
将軍の補佐をする軍人のひとりが言いました。
そうです。大軍が要塞をすどおりして、王国を目指しているのです。
一刻も早くそのことを知らせなければいけません。
「うん、たしかにそのとおりだ。兵隊の中から足の速いものを選んで、王国に知らせるのだ!」
将軍は言いました。まずは、それを伝えること。
そして、できるならば王国に向かった大軍を、要塞に引き付けたいのです。
それには「敵にこの大軍はすどおりすると危険だ」と思わせればいいのです。
しかし、そのためのいい方法が中々浮かびません。
できるのは、王国に危機を伝えることだけだったのです。
◇◇◇◇◇◇
サシスは伝令の兵隊に選ばれました。
農作業できたえられたサシスは健康で、走るのが速かったのです。
そして自分の故郷に、敵の大軍勢が迫っていること――
これを一刻も早く知らせなければいけないと思ったのです。
心臓がドクドクと激しく体の中でうちひびきます。
それでもサシスは必死で野山を走りました。
急ぐのはもちろん、途中で敵の兵隊に見つかるわけにもいきません。
普通の道を走ることはできないのです。険しい岩がむき出しの大地を、けってサシスは走りました。
「アッ!!」
サシスは転びました。急ぎすぎたのと、道なき道を進んだせいだったかもしれません。
ゴロゴロと体が転がり、そして止まりました。
体のあちらこちらが痛くてたまりません。
「うーん……」
と言って、サシスは立ち上がろうとします。
幸い、脚をひねったとかはないようです。ただ背中を強く打って、ちょっと息がつまったのです。
「くそ、こんなところで、時間を無駄にはできないのにッ!」
サシスは粗い息をととのえ、再び走り出そうとしたときでした。
「兵隊さん、大変そうだね。どうしたの?」
サシスに話しかけてきた声がありました。
きれいな澄んだ声です。
それは戦争で、兵隊になったサシスが久しぶりに聞く女の子の声でした。
「君はいったい? どうしてこんなところに」
サシスは声の方を見ていいました。
それは、光が反射するツヤある黒い服を着た女の子だったのです。
長い黒い髪を後ろで一本にまとめていました。
サシスが見たこともないようなきれいな少女でした。
大きな黒い瞳はじっとサシスをみています。
サシスはなぜか、この少女の黒い瞳をどこかで見たような気がしました。
いいえ、正確にはその黒い瞳の色に見覚えがあったのです。
ただ、サシスはそのことには気がついていませんんでした。
サシスは、突然現れた美少女の黒い瞳を不思議そうに見つめていたのでした。
「この山がボクの家なんだよ。兵隊さん」
にっこりと明るい太陽のような笑みをみせてうつくしい黒髪の少女は言いました。
「ここは、危ないよ。これから戦争が始まるんだ」
「そうなんだね。だから、何日か前に、大勢の兵隊さんがずっと向こうに行ったんだね」
少女はサシスがやってきた要塞の方を指さしていいました。
その大勢の兵隊さんのひとりが、サシスだったのでしょう。
この少女が言っているのは、要塞にむかったアイウエ王国の軍隊のことと思われました。
(どうやら、敵よりも先に進んだようだ)
サシスはこの少女がカキクケ皇国の軍勢を見ていないことから、そのように思ったのです。
「ボクは王国に、敵がせまっていることを知らせなきゃいけないんだ。君も危ないから、早くここからにげた方がいいよ」
サシスはそう言って、体を動かしました。
背中は少しいたみましたが、走るのには大丈夫そうでした。
「逃げる? ボクが逃げる? なんで」
「なんでって…… だって君、大勢の敵の軍隊がせまっているんだよ。見つかったら酷い目にあうよ」
黒づくめの少女は、西に傾く陽の光を背景にして黙って、サシスの言葉を聞いていました。
ふいに吹いた風が、少女の長い黒髪をふわりと空気の中に舞わせました。
「助けてあげるよ―― ボクが君を助けてあげる」
「え?」
サシスは少女がなにを言っているのか、分かりませんでした。
折れそうな、細い身体の少女が、兵隊であるサシスに「助けてあげる」と言ったのです。
それはとっても、とっても、ありえないほどに、この場に合わない、不思議な言葉に聞こえたのです。
「ボクは魔法少女さ―― きっと君を助けてあげる」
美しい黒髪の少女はサシスに向かってきっぱりと言ったのでした。
ですので、カキクケ皇国の将軍の考えた作戦は、アイウエ王国の将軍を困らせるものだったのです。
「どうやら敵は、兵隊をふたつに分けるようです」
見はりの兵隊から知らせを聞いて、アイウエ王国の要塞を守る将軍やその補佐をする軍人は考えました。
「敵が、少しの兵隊を残しているなら、門を開けて戦いましょう!」
ひとりの軍人が言いました。多くの軍人がそれに「賛成だ! 敵を殺せ! 出撃だ!」と言いました。
しかし、アイウエ王国の将軍はその言葉とはべつのことを考えていました。
要塞は、要塞の中に兵隊がいることに価値があるのです。
要塞の石垣や堀に守られながら、そこを攻めてくる敵を攻撃するから、少ない兵隊でも多くの兵隊と戦えます。
しかし、要塞の外にでてしまえば、条件は同じです。
しかも、アイウエ王国に向かった軍勢がもどってくれば、ひとたまりもありません。
兵隊の数はずっとカキクケ皇国が多いのです。
「将軍、まずは王国に敵がむかったことを知らせねばらなりません」
将軍の補佐をする軍人のひとりが言いました。
そうです。大軍が要塞をすどおりして、王国を目指しているのです。
一刻も早くそのことを知らせなければいけません。
「うん、たしかにそのとおりだ。兵隊の中から足の速いものを選んで、王国に知らせるのだ!」
将軍は言いました。まずは、それを伝えること。
そして、できるならば王国に向かった大軍を、要塞に引き付けたいのです。
それには「敵にこの大軍はすどおりすると危険だ」と思わせればいいのです。
しかし、そのためのいい方法が中々浮かびません。
できるのは、王国に危機を伝えることだけだったのです。
◇◇◇◇◇◇
サシスは伝令の兵隊に選ばれました。
農作業できたえられたサシスは健康で、走るのが速かったのです。
そして自分の故郷に、敵の大軍勢が迫っていること――
これを一刻も早く知らせなければいけないと思ったのです。
心臓がドクドクと激しく体の中でうちひびきます。
それでもサシスは必死で野山を走りました。
急ぐのはもちろん、途中で敵の兵隊に見つかるわけにもいきません。
普通の道を走ることはできないのです。険しい岩がむき出しの大地を、けってサシスは走りました。
「アッ!!」
サシスは転びました。急ぎすぎたのと、道なき道を進んだせいだったかもしれません。
ゴロゴロと体が転がり、そして止まりました。
体のあちらこちらが痛くてたまりません。
「うーん……」
と言って、サシスは立ち上がろうとします。
幸い、脚をひねったとかはないようです。ただ背中を強く打って、ちょっと息がつまったのです。
「くそ、こんなところで、時間を無駄にはできないのにッ!」
サシスは粗い息をととのえ、再び走り出そうとしたときでした。
「兵隊さん、大変そうだね。どうしたの?」
サシスに話しかけてきた声がありました。
きれいな澄んだ声です。
それは戦争で、兵隊になったサシスが久しぶりに聞く女の子の声でした。
「君はいったい? どうしてこんなところに」
サシスは声の方を見ていいました。
それは、光が反射するツヤある黒い服を着た女の子だったのです。
長い黒い髪を後ろで一本にまとめていました。
サシスが見たこともないようなきれいな少女でした。
大きな黒い瞳はじっとサシスをみています。
サシスはなぜか、この少女の黒い瞳をどこかで見たような気がしました。
いいえ、正確にはその黒い瞳の色に見覚えがあったのです。
ただ、サシスはそのことには気がついていませんんでした。
サシスは、突然現れた美少女の黒い瞳を不思議そうに見つめていたのでした。
「この山がボクの家なんだよ。兵隊さん」
にっこりと明るい太陽のような笑みをみせてうつくしい黒髪の少女は言いました。
「ここは、危ないよ。これから戦争が始まるんだ」
「そうなんだね。だから、何日か前に、大勢の兵隊さんがずっと向こうに行ったんだね」
少女はサシスがやってきた要塞の方を指さしていいました。
その大勢の兵隊さんのひとりが、サシスだったのでしょう。
この少女が言っているのは、要塞にむかったアイウエ王国の軍隊のことと思われました。
(どうやら、敵よりも先に進んだようだ)
サシスはこの少女がカキクケ皇国の軍勢を見ていないことから、そのように思ったのです。
「ボクは王国に、敵がせまっていることを知らせなきゃいけないんだ。君も危ないから、早くここからにげた方がいいよ」
サシスはそう言って、体を動かしました。
背中は少しいたみましたが、走るのには大丈夫そうでした。
「逃げる? ボクが逃げる? なんで」
「なんでって…… だって君、大勢の敵の軍隊がせまっているんだよ。見つかったら酷い目にあうよ」
黒づくめの少女は、西に傾く陽の光を背景にして黙って、サシスの言葉を聞いていました。
ふいに吹いた風が、少女の長い黒髪をふわりと空気の中に舞わせました。
「助けてあげるよ―― ボクが君を助けてあげる」
「え?」
サシスは少女がなにを言っているのか、分かりませんでした。
折れそうな、細い身体の少女が、兵隊であるサシスに「助けてあげる」と言ったのです。
それはとっても、とっても、ありえないほどに、この場に合わない、不思議な言葉に聞こえたのです。
「ボクは魔法少女さ―― きっと君を助けてあげる」
美しい黒髪の少女はサシスに向かってきっぱりと言ったのでした。
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