上 下
4 / 10

4.魔法少女ロガシー

しおりを挟む
「魔法少女って…… それは」

 サシスは言いました。ここは、戦場せんじょうです。
 正確にいえば、まだ戦場せんじょうにはなっていませんが、時間の問題で戦場せんじょうになるでしょう。
 そんなところに少女がいることが不思議ふしぎといえば、不思議ふしぎです。
 多くの人たちは、このあたりから逃げています。

「魔法使いで、ボクは女の子だからね。だから魔法少女なんだ」

「魔法使い?」

 サシスはきかえしました。
 魔法使いについて、話には聞いたことがあります。
 風、火、土、水の精霊せいれいの力をかりて、不思議ふしぎな力をだす者だということをうっすらと思いだします。

 サシスは魔法使いという者にであったったのは初めてです。
 本当にそんな人がいるのかどうか、サシスは分かりません。もしかしたらいるかもしれません。
 
 でも、この目の前のかわいく、きれいな少女が「魔法使い」つまり「魔法少女」であるというのはしんじられませんでした。

「あれ、しんじられないってかおをしているね。えっと…… 名前は?」
「ボクはサシス・セソというんだ。アイウエ王国のしたっぱの兵隊へいたいだよ。今は」
「ふーん。ボクの名前はロガシーってうんだ」
「ロガシー?」

 サシスはそのきれいな少女の名を口の中でころがすように言いました。
 ロガシーと名乗った、魔法少女はむねをはっています。
 ほっそりとした体です。サシスがだききかかえたら、れてしまいそうな感じに見えました。
 
「魔法が使えるのかい? ロガシーは」

「ボクのことをうたがっているよね? いいよ。ボクのすごい魔法をみせてあげる」

 そう言うとロガシーは「トン」と一歩後ろに下がりました。
 そして、くるりとまわりをみると、ごろんところがっている大きないわをみました。

「あの大きないわをボクの魔法で木っ端こっぱみじんにするからね」

 ロガシーはニッコリ笑ってサシスに言いました。
 そのいわは、サシスの身の丈みのたけほどもあるような丸い大きないわなのです。
 サシスがどんな道具どうぐをつかっても、で木っ端こっぱみじんになどできそうにありません。

「魔法で…… そんなことができるのかい?」
「できるさ。ボクの魔法は強力なんだよ」

 フンッ! と自信たっぷりにロガシーは言いました。
 
 ロガシーは「見てて」というとすっと細い腕を前に突出し、手のひらを上に向けて構えたのです。

 ロガシーの桜色ピンクいろをしたくちびるがすっと動きました。

「にゅる にゅる にゅる ぷりぷる ぬるぬる ぷぷぷ ぬゅるりん ぬゅるりん ぷりぷり にゅるりん」

(これは、魔法の呪文じゅもんなのか?)

 サシスは思います。

「あッ!!」

 サシスは思わず声を上げていました。
 ロガシーの手のひらから、にゅるにゅると細く茶色のものが出てきたのです。
 それは、全部が茶色ではなく、ところどころ黄土色おうどいろだったり、なにかニンジンのような色をした赤いつぶつぶもまじっているようです。
 にゅるにゅるぬるぬると、手のひらから出てきた「それ」はグルグルとヘビのようにとぐろをいていきます。

 !」

 ロガシーが大きな声でそういうと、ヘビのとぐろを巻いたような茶色の物は、いきおいよくんでいきました。
 とがった方を先にして、いわに向かって一直線いっちょくせんです。

 空気がれてしまうかのようなすごい音がしました。 
 その茶色いとぐろをいたものが、いわ命中めいちゅうしたのです。
 一瞬でいわが木っ端みじんとなり、バラバラと細かい砂のようになった破片が飛んできました。

「ほら、ボクの魔法ってすごいでしょ」

 ロガシーは長い黒髪をゆらし言いました。

「す、すごい…… これが魔法なんだ……」

 サシスは、おどろきました。
 こんな、かわいく、きれいな少女が大きないわにを木っ端こっぱみじんにしたのです。
 おどろくなというほうが絶対ぜったい無理むりなのですから。

(土の精霊せいれいの魔法なのかな…… ボクは魔法にはくわしくはないけど……)

 サシスは、自分の知っている少ない魔法の知識ちしきでそう考えました。
 そして、サシスはあることを思いつきました。

「ロガシー、その魔法でボクを、いいや、ボクだけじゃない。アイウエ王国をたすけてくれないか」

「うんいいよ。ボクの魔法は、そもそも、君のために使うつもりなんだから。サシス」
 
 魔法少女ロガシーはそういってニッコリとわらうのでした。

 本当にきれいでかわいい笑顔えがおで、サシスは少しドキドキしてしまいました。
しおりを挟む

処理中です...