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12.忍法脱衣無双
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「姉上様の純潔を奪った行為―― くっ口にするのも悍ましい…… とにかく、万死に値する!」
ドロドロと粘液質の言葉を吐き出しながら、羅門は――
なぜか脱ぎ始めた。
忍者装束を脱ぎ、顔だけを隠し、完全に全裸となった。
まさに頭隠して尻隠さずだが、尻どころか前も丸出しである。
「想像するのだ。思うのだ、姉上の視線をぉぉ、姉上が我身をご高覧なさっていることを思うのだぁぁ」
鎖々木には、男色趣味が一切無い。
また、仕合(死合)の場で裸になる奴というのを初めて見た。
そんな頻繁に見ているとすれば、その人物の人生に大きな興味を抱かざるを得ない。
が、鎖々木はそのような特殊事例ではなかった。
「なんで! なんのつもりだ」
助けを求めるつもりで、濡れ縁に座っている炎上祭を見た。
「あ~ 忍法の秘術よ、脱げば脱ぐほど強くなる術―― 忍法脱衣無双という」
「はぁ……」
そう言えば、由良も勤皇侍を倒したときには、サラシと下帯だけになっていた。
鎖々木は、あれを気合をいれる為の儀式的なものかと思っていたのである。
(忍法とは、なんと恐ろしく、奥が深いものか)
その深遠触れ、恐れとも歓喜ともいえぬものが、鎖々木の胸に訪れる。
このような術であれば、あの理不尽な強さを持つ天牙独尊であっても倒せるかもしれぬのだ。
「では、始めるとするか、鎖々木殿――、勝利いたせば、いかようにも羅門をお使いくださいませ」
「まあ、そうですが……」
表立っての理由は、そんな感じのものであった。
が、羅門はそうは思っていない。
絶対にぶち殺す。
姉を奪った男をぶち殺すという気満々である。
全裸であるのに、体全が墨でベタ塗りになり、目だけが白く光っているかのように見える。
背中には「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」という闘気や殺意やらそんなものがあふれ出し渦を巻いている。
「両者、準備はよいか」
「いつでも」
「はい」
鎖々木はそれでも武士である。
真剣よりはマシということで、木刀をキュッを構える。
左小指に力を込め、右手は添えるように支える。
右手は、木刀の重さに任せたゆるい感じで握る。
「ほう…… 腰抜けの勤番侍と思ったが、そこそこはやるのか? まあ、最近の侍にしてはというところだろうが……」
全裸で勝ち誇ったように言う羅門だった。
風の中でゆるゆると逸物が揺れている。
「ふふん」
鎖々木はそこに、視線を送り、鼻で笑ってやった。
「き、きさまぁぁぁ!! 何を見て笑ったぁっぁ!!」
隙が出来た。
それは、鎖々木の作戦であった。
全裸を前提とする「忍法脱衣無双」は、全裸が故に丸出しである。
そこは、ある種の劣等感をも敵に晒すことになりかねない。
もし、劣等感を持っていなくとも鼻で笑われて動揺しない者がいるだろうか。
鎖々木はその点にかけた。
ふしゅッ――
短い呼気を吐いて鎖々木は間合いを詰めた。
膝の動きが袴で相手から見えない。
これにより呼び動作を隠し、一気に間合いを詰める技術だった。
鎖々木は大上段から木刀を振り下ろす。
狙いは肩―― いや正確には鎖骨だった。
細い骨で、筋肉に覆われていない。
木刀の一撃を喰らえば、いくらなんでも骨折必至である。
そして、これが仕合(死合という漢字では鎖々木は思っていない)であれば、それで終了であった。
が――
まるで大木か岩を叩いたかのような衝撃が手に走った。
確実に、十分に、間違いなく、木刀は、羅門の左鎖骨を叩いていたのにだ――
「ふふ、木刀による速さを選んだが、うぬの敗因よ……」
「な、なんだと」
「『忍法脱衣無双』は、全裸になった場合、術者の肉体を鋼と化す。大筒の一撃とて傷ひとつつかぬ――」
羅門は「忍法脱衣無双」の威力を説明する。
そして――
「死ねぇぇぇ!!」
絶叫の尾をたなびかせ、必殺の鉄拳が鎖々木の顔面に迫ってきた。
ドロドロと粘液質の言葉を吐き出しながら、羅門は――
なぜか脱ぎ始めた。
忍者装束を脱ぎ、顔だけを隠し、完全に全裸となった。
まさに頭隠して尻隠さずだが、尻どころか前も丸出しである。
「想像するのだ。思うのだ、姉上の視線をぉぉ、姉上が我身をご高覧なさっていることを思うのだぁぁ」
鎖々木には、男色趣味が一切無い。
また、仕合(死合)の場で裸になる奴というのを初めて見た。
そんな頻繁に見ているとすれば、その人物の人生に大きな興味を抱かざるを得ない。
が、鎖々木はそのような特殊事例ではなかった。
「なんで! なんのつもりだ」
助けを求めるつもりで、濡れ縁に座っている炎上祭を見た。
「あ~ 忍法の秘術よ、脱げば脱ぐほど強くなる術―― 忍法脱衣無双という」
「はぁ……」
そう言えば、由良も勤皇侍を倒したときには、サラシと下帯だけになっていた。
鎖々木は、あれを気合をいれる為の儀式的なものかと思っていたのである。
(忍法とは、なんと恐ろしく、奥が深いものか)
その深遠触れ、恐れとも歓喜ともいえぬものが、鎖々木の胸に訪れる。
このような術であれば、あの理不尽な強さを持つ天牙独尊であっても倒せるかもしれぬのだ。
「では、始めるとするか、鎖々木殿――、勝利いたせば、いかようにも羅門をお使いくださいませ」
「まあ、そうですが……」
表立っての理由は、そんな感じのものであった。
が、羅門はそうは思っていない。
絶対にぶち殺す。
姉を奪った男をぶち殺すという気満々である。
全裸であるのに、体全が墨でベタ塗りになり、目だけが白く光っているかのように見える。
背中には「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」という闘気や殺意やらそんなものがあふれ出し渦を巻いている。
「両者、準備はよいか」
「いつでも」
「はい」
鎖々木はそれでも武士である。
真剣よりはマシということで、木刀をキュッを構える。
左小指に力を込め、右手は添えるように支える。
右手は、木刀の重さに任せたゆるい感じで握る。
「ほう…… 腰抜けの勤番侍と思ったが、そこそこはやるのか? まあ、最近の侍にしてはというところだろうが……」
全裸で勝ち誇ったように言う羅門だった。
風の中でゆるゆると逸物が揺れている。
「ふふん」
鎖々木はそこに、視線を送り、鼻で笑ってやった。
「き、きさまぁぁぁ!! 何を見て笑ったぁっぁ!!」
隙が出来た。
それは、鎖々木の作戦であった。
全裸を前提とする「忍法脱衣無双」は、全裸が故に丸出しである。
そこは、ある種の劣等感をも敵に晒すことになりかねない。
もし、劣等感を持っていなくとも鼻で笑われて動揺しない者がいるだろうか。
鎖々木はその点にかけた。
ふしゅッ――
短い呼気を吐いて鎖々木は間合いを詰めた。
膝の動きが袴で相手から見えない。
これにより呼び動作を隠し、一気に間合いを詰める技術だった。
鎖々木は大上段から木刀を振り下ろす。
狙いは肩―― いや正確には鎖骨だった。
細い骨で、筋肉に覆われていない。
木刀の一撃を喰らえば、いくらなんでも骨折必至である。
そして、これが仕合(死合という漢字では鎖々木は思っていない)であれば、それで終了であった。
が――
まるで大木か岩を叩いたかのような衝撃が手に走った。
確実に、十分に、間違いなく、木刀は、羅門の左鎖骨を叩いていたのにだ――
「ふふ、木刀による速さを選んだが、うぬの敗因よ……」
「な、なんだと」
「『忍法脱衣無双』は、全裸になった場合、術者の肉体を鋼と化す。大筒の一撃とて傷ひとつつかぬ――」
羅門は「忍法脱衣無双」の威力を説明する。
そして――
「死ねぇぇぇ!!」
絶叫の尾をたなびかせ、必殺の鉄拳が鎖々木の顔面に迫ってきた。
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