女忍者は、俺に全裸を見せつけると最強になる

中七七三

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27.決着

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 漆黒の巨獣のような天牙――
 その身が一瞬で地を蹴って間合いの中に飛び込んできた。
 まるで、瞬間移動のような動きであった。

 一発、二発の攻撃ではない。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ
 肉と骨を叩く音が響き渡る。

 連撃―― お互いの。
 空間を引き裂き、真空を作り出すような拳の連撃だった。
 由良の肉体に向け、恐るべき打撃が叩き込まれていく。
「忍法脱衣無双」で防御力が最高カンスト化している由良はその攻撃を受けつつ、攻撃を返す。

 ――ほぉ……
 幕末日本最強の生物・天牙無双も驚きの声を飲み込んでいた。
 
 由良の狂気を孕んだその眼は天牙を見つめる。
 お互いの血でドロドロになったかおだった。
 一切の偽動作フェイントがない。
 全ての攻撃が真正面。一撃一撃が必殺の威力を秘めていた。
 由良も天牙も相手の攻撃を肉で受け止めているのだった。

 ぞっ――
 唐突に天牙の背中が総毛だった。
 産毛が帯電する。

「ちぃぃぃッ!!」

 由良が、連撃の拍子を一瞬変えた。
 蹴りが、地の底から吹き上がってきた。
 
「死に腐れぇぇぇぇ!!」

 絶叫と風を斬る音――
 天牙は仰け反るようにして、初めて攻撃をかわそうとした。
 が――
 間に合わない。
 天空を目指す龍のように、天に向かって突き抜けようとする蹴り。
 めじっ――
 顎に食い込んだ。
 下顎骨が粉砕されそうなほどの攻撃。
 しかし、天牙の太い首はその攻撃を受けきった。

 足首を握られた――
 
(やばッ!)

 天空に伸びきった由良の脚。
 足首を恐るべき握力で握っていた。
 めしっと、骨の軋む音が身の内に響く。
 
「がはぁ!!」

 由良は跳んだ。背中に失神した鎖々木を縛り付けたまま。
 足首を掴まれながら、残る脚で天牙の頭部を襲う。
 
 踵で天牙の顔面をぶち抜く。
 メシリと、鼻骨が粉砕する音をたてた。
 一瞬、緩んだ力――
 由良は身体を捻って、脱出した。

「やるねぇ、おねーちゃん。鼻血がでたよ」
 
 天牙はベッと、鼻から血を噴出した。

「あは♥ あはははははははははは。えー感じやわ♥」

 由良は背中から感じる鎖々木の体温で、どんどん気持ちよくなっていった。
 脳内には快感物質ダダ漏れであり、痛みなど一切感じない。
 天牙の一撃ですら、身に受けるたび気持ちよくなっていく。
 きつく亀甲縛りされていても、いい感じで鎖々木の身体が振動しているからだった。
 肌を密着させることで「忍法脱衣無双」は視線なしでも最高水準で機能していた。

 しかしだ――

 この気持ち良さが。
 あまりの気持ちよさが。性快感が――
 由良の身体の中で爆発しそうになる。

 戦いの最中なのに「気をやりそう絶頂アクメ」になってしまいそうなのだ。
 快美感が奔流となり、全身を突き抜ける。
 本来であれば、戦闘力に変換されるべき発情が溢れ出しメスの身体を震わすのだった。

 端的に言って致命的である――

「らめぇ、らめなのぉぉぉ♥ あううぅん、くうぅぅ、あはぁぁ♥♥」

 ビクンビクンと若鮎のように身を捩じらせる由良。
 口からトロリと血の混じった涎をたらす。
 瞳は蕩け、焦点が合っていない。

 由良が陽炎のように身に纏っていた殺意が、メスの匂いとなっていく。

「ゆ…… 由良…… え? いったい。何? これなんだ」

 濃厚な女の匂いに包まれ、鎖々木究が覚醒。
 自分が由良の背中に縛り付けられていることを確認。 
 艶やかな黒髪は頬に触れる。
 そして、その向こうの前方には……

「天牙独尊!」

「ほう、後ろのおにーさんも起きたのかい? なんの意味があるのかしらねーが、縛られている気分はどうなんだい?」

「あう……」

 客観的に見てどうにも締まらない状況であり、鎖々木究は口を閉じるしかなかった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――♥ 究様ぁっぁ~ 背中に硬いのが当たってりゅのぉぉぉ~」

「おふ?」

 どうも状況は最悪なのか混沌なのか、どんな状況なのか、よく分らない。

「由良! 倒せ! 戦うんだ!」
「あふぅ♥」

 メスの匂いの中に辛うじて殺意が混じりこむ。
 蕩けた瞳で、天牙を見つめる。

「殺しゅぅぅぅ~ 殺して気持ちよくなるのぉぉぉ~ あはははははは」

 由良は一気に天牙の懐に飛び込む。
 天牙の方も、目の前の女の奇妙な現象を興味深く見ていたので、隙があったのだ。

 が――

「死にくされぇぇぇ♥」

「おいさ!!」

 全身をメス快感に襲われた由良の拳は、鋭さを欠いていた。
 攻撃が甘くなっていた。
 本来であれば、発情を戦闘力に変換するのである。
 が、発情がメス快感の方に流れ込んでいる分攻撃が甘くなっていたのだ。
 
 拳をつかまれ、一気に投げられた。

 背中から地面に叩きつけられた。
 当然、地面の直撃を受けたのは鎖々木だった。

「おげぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 鎖々木が胃液を噴き上げる。
 全身の骨が砕けたような衝撃だった。

「究様!」
「あ、あ、あ、あ、だ……大丈夫だ」

 亀甲縛りでの「忍法脱衣無双」は背中の鎖々木への攻撃が弱点だった。
 一応、剣の腕は免許皆伝レベルで弱くはない。
 が、肉体の耐久力は常人のレベルを超えないのだった。

「うーん。これは失敗か。おねーちゃんを倒さないと面白くねーもんな」
 
 投げを打った天牙が言った。
 言うと同時に「ほいさ」という感じで、由良に馬乗りになった。
 後の世で言う「マウントポジション」であった。

        ◇◇◇◇◇◇

 マウントポジションを決められてガンガンと由良は殴られる。
 けれど「忍法脱衣無法」のせいで一発、一発のダメージは大きくない。
 が、ジリ貧であることは確かだった。

「ぬがぁぁぁ!! シネェ!! 殺す! 死なす!」

 ブンブンと、両腕を振り回すが顔面には届かない。
 天牙と由良の体格は大人と子ども以上なのだから当たり前だ。

「由良ぁぁぁ!!」

 鎖々木が叫ぶ。
 ドロリした由良の血が、鎖々木の肌の上に流れる。

 血を見ると失神する。
 気が遠くなり、正気を失う。
 過去のトラウマでそーなっている鎖々木であった。
 が、最愛の女の血を身に受け、そのトラウマを克服しつつあった。
 というか、自我が裏返りそうになる。
 恐怖と怒りと快感と、どれにも分類できない感情が胸の奥から湧き出てくるのだった。
 
 鎖々木も、体勢を変えようと足掻くが、どうにもできない。
 手をバタバタさせる。
 水平に少しは動くが起き上がることはできなかった。
 天牙独尊がたくみに、重心をコントロールし、動きを制していた。

「ぬッ」

 バタバタと動かしていた鎖々木の手に何か硬いものが触れた。

 鬼崩――

 それは、天牙独尊が素手の戦いに拘り捨てた「最強の棍棒」であった。
 指を伸ばし、鎖々木は鬼崩に触れる。握る。
 
 ――重いぃぃぃ!!
 なんだ、この重さはぁぁ!!
 
 握ったもののそれを持ち上げることすら、出来そうもなかった。

「あがががががが!!」
 
 その間にも、ボコボコと由良がぶん殴られていた。
 
 ドゴッと、凄まじい音がした。
 由良の顔面に天牙の拳が直撃した。
 口と鼻から大量の血が流れ出す。
 その血が、鎖々木の顔まで流れていった。

「あびゃぁぁぁぁぁぁぁ――」

 トラウマを克服しそうであった鎖々木だが、愛する女の大量の血が、精神を反転させた。
 失神――
 いや違った。
 身体のリミッターが外れ、鬼崩が持ち上がったのだ。
 それも一気に。
 
 ぶぉんと、風を斬る音がした。
 棍棒の長さの分だけ、天牙の顔面に届く。
 鋭い弧を描いた一撃が、天牙のこめかみに命中した。

「あがっ!!」

 天牙が体勢を崩した。前のめりになる。

「由良ぁぁぁ!!」鎖々木が叫ぶ。

「はいなッ!」

 由良がの拳が棍棒と反対側のこめかみを打ち抜いた。

 両側からの強烈な一撃。
 頭蓋が軋み、脳が揺れる。

「ぬぅぅぅ~」

 天牙はぐらりと倒れこんだ。

「死にくされぇぇぇ!!」
 
 由良は弾けるように、天牙の下から飛び出た。
 低くなっていた脳天に踵を落とした。

 棍棒――
 拳――
 踵――

 頭への三連撃だった。

「女ァァァ~」

 天牙は立ち上がろうとするが、クルッと白目をむいて倒れた。
 
 幕末最強の生物といわれた男はここに倒されたのだった。
 
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