異世界娼館の幻想少女とひと時を -元外科医の俺は「幻想館」の支配人-

中七七三

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4.二人を西日が包み込む、娼館の裏口で

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 ハーピーのピリィナが姿を見せる。
 そして、俺の質問に対し、状況の説明を始めるのだった。

「えっとぉ、あれです。あの…… あれなんですよぉ。卵を孵化ふかさせるのはオスの役目なんです。ハーピーは。多分」
「そうなのか」
「えっとぉ、確かぁ、そうです。うん、そうです。多分。パパといっしょにいましたから。小さいころ」
「じゃあ、お客さんは、オスのハーピーの代りをしようとしたのか?」

「そうなんです。私は彼女に訊いたのです。以前、彼女の卵を持って帰って、温めたのです。ズット脇の下に縛りつけ、三か月…… しかし、孵化せず「その子」は腐ってしまったのです!! 私がぁぁ! 私の無知が、私と彼女の子を殺したのですよぉぉぉ!!」

 俺とピリィナの会話を聞いていた客が割り込んできて慟哭。
 四つん這いにうずくまり、拳でどんどんと地べたを叩く。

「え、えっと…… そうでしたっけ? あれ? あれ?」
「卵だよ、卵の話だから」
「あ、えっとぉぉぉ、そうです。それでぇ、お客さんに、卵の孵し方教えたんです。確か…… 多分……」

 その後も短期記憶が苦手(頭が悪いわけではない)ハーピーのピリィナの話と客の話を聞いた。
 そして、自分の中で情報を整理する。

 この、お客はかなりの金持ちだ。
 地主というか「大家業」を営んでいる。
 帝都エイダは、人口は多く、集合住宅が多い。
 俺のいた世界で言えば、アパートとかマンションをいくつか持っている不動産オーナーだ。
 いい客だ。卵さえ飲み込まなければ。

 で、結婚もしておらず、女遊びはやりつくし、今はハーピーのピリィナに惚れきっているのだった。

 そして、卵を殻のまま飲み込んだ理由は、ハーピーの習性をピリィナに聞いたからだった。
 ハーピーのメスは受精卵を、オスの口の中に産みつける。
 オスはそれを飲み込んで、胃の中で温める。
 卵は消化されないように、胃壁にへばり付き、胃酸を中和する成分を分泌する。
 そして、ヒナが孵り、オスの腹を突き破って出てくるわけだ。
 詳しいメカニズムは謎であるが、概ねこんな感じだ。
 
 タツノオトシゴとかティラピアとか、まあ俺のいた世界でもそういったのと似たような産卵をする生物はいる。
 まあ、異世界のモンスターなのだから、これくらいは驚くに値しないだろう。

 で、問題は、この客とピリィナの今後のことだ。

「お客さん、ピリィナ好きなんですか? マジで惚れてます」
「マジですよ! 本当に! もし許されるなら今すぐ結婚したいくらいです!」
「すりゃいいいじゃん。なあ」

 俺の言葉にウンウンと、ボーイたちが頷くのだ。
 
「はぁ…… だって、ヤシワラの娼婦じゃないですか……」
「なにぃぃ!! てめぇ、惚れてるとか言って、娼婦だから、結婚できねぇとかぬかしやがるのかぁぁ!! おい! ショートソードもってこい!!」

 俺はブチ切れる。
 娼婦だからとか汚れているとか、穢れてるとか、そんな輩が俺は超絶的に嫌いなのだ。
 娼館に来て、娼婦と遊ぶ、そんで、てめぇの欲望をまき散らす。
 それなのに、彼女たちをバカにする奴らは絶対にゆるせねぇ。
 娼館で遊んでおいて、そんなこと言うのはクソ野郎と決めている。
 あのクソのミチルですらそんな態度は示さない。

 そう言う奴は、俺ルールで殺していいことにしている。

「早くもってこんかい! ボケぇぇ!」
 
 ボーイにどなる俺。ブチ切れだ。
 俺の部屋においてあるショートソードを取ってくるために駆け出すボーイ。

「違います! 誤解です!!」
「誤解? なんじゃそりゃぁぁ!」
「彼女が娼婦だから――」
「だから、汚れてるってのかぁ! クソ野郎ぉぉ!」
「違いますよぉぉ、お金ですよぉぉ!」
「金だぁ?」
「身請けのお金。急には作れませんよぉぉぉ!」
「え? なにそれ……」
 
 冷静になる俺。一気にだ。すっと怒り消滅。
 逆におかしくなってきた。マジで、やべぇ、笑いそう……

「おま…… 身請けって…… なんなのそれ…… く、く、く」

「え…… 娼婦を身請けするのって、すごくお金かかりますよね…… それで、私は今手持ちの長屋とか売りに出してるんですけど…… 中々買い手が……」
「いらねーよ! いつの時代の話だよ!」
「えー! 私の田舎ではそうなのですけど……」
「帝都のヤシワラじゃ、違うよ。娼婦はいつでも娼婦を辞められる。彼女たちは好きでやってんだよ。この商売を」

 借金まみれで、苦界に沈むというのはない。
 田舎では知らないが、この帝都では、借金で娘を売るのは禁止されている。
 少なくとも、ヤシワラの娼館に売ることはできない。
 そういったのは、私娼に流れたりするのだが、バレると、娼館そのものが罪を問われる。
  
 人権を守るためではない。
 女という存在がこの帝都では貴重なのだ。
 一種の武装都市である帝都は、軍人やら商工業者など、男手が異常に多い。
 人口比で8:2くらいではないかと思う。
 だから、娼館は旨い商売でもあるのだが……

 でだ、その少ない女が娼館に集中するってのは都合が悪いのだ。
 女手は他にも必要だ。

 よって、自由意志でなければ、娼婦になることはできない。
 彼女たちは、自分で自分の道を「娼婦」と決めた女なんだ。
 なるのも自由。辞めるのも自由だ。

「じゃあ、結婚できるんですか?」
「ピリィナが良いって言えばな…… 相手次第だろ?」

 客は振り返って、ハーピーの娼婦、ピリィナを見つめた。
 キラキラと西日を受け、鳥の羽が光を放つ。
 造形に癖があるかもしれないが、その姿は俺は美しいと思う。

「ピリィナさん、け、結婚してくだい。絶対に幸せにします! 本当に! 絶対に!」

 客はズルズルと這いつくばって、ピリィナに近づいていく。
 それをジッと見ているピリィナ。

「なあ、どうなんだ? ピリィナ」

 黙っている彼女に俺は訊いた。

「んん~ 娼館好きなんだけどぉぉ。仕事はしていいのぉ? 結婚してもぉぉ~」
 
 オマ、それはさすがに無いだろ?
 結婚してそのままさぁ、娼婦とかさぁ、それはさすがに俺でもないと思うよ。
 どうなのかな……

「いいです! いいです! その方が燃えます! ああああああ!! 最高です!! 昼間は娼婦! 夜は妻! ひゃはぁぁぁぁ!! 毎日がNTRじゃないですか!」
「う~ん、なら、結婚していい」
「やったぁぁぁ!! ピリィナちゃぁぁぁん!!」

 客がキュッとピリィナを抱きしめた。細かい羽毛が風に飛んでく。
 そんなふたりを西に傾き茜色になってきた陽光が包み込んでいった。
 そして、逆の空には、二つの月が白い姿をみせつつあった。
 
「支配人~ それで、いいかなぁ~ 兼業主婦の娼婦だけどぉぉ」
「ん…… まあ、いいんじゃね。旦那がいいつーなら」
「じゃあ、そうするぅ~」

 ということで、ふたりは結婚することになったのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

 俺は支配人室で、帳簿のチェックをする。
 あのクソ野郎のミチルが帳簿をつけているのだが、ほとんどミスがない。 
 金勘定でミスをしたり、ごまかしたりするのは「ショタ族」にとって恥ずべきことらしいのだ。
 ありとあらゆる面でクズなのだが、この点は真面目だ。

「黒字は続いてるし、オーナには、報告書を明日にでも送るかぁ」

 この幻想館のオーナは、この国でも超一流の冒険者だ。
 たまった銭でこの娼館を買って、オーナーになった。
 ただ、経営には基本ノータッチだ。

 毎月の報告を、指定された冒険者ギルドに送るだけだ。
 金が必要であれば、そこで受け取れる。好きなだけ。
 なにせ、オーナーなのだから。
 
 しかし、報告書を見て、何かを言ってくることもない。
 店の金(自分の金だ)をギルドから引き出すことはあるが、大した額ではない。
 経営には何の影響もない程度だし、影響するほどの金は一度には引き出せない。
 まあ、時々、とんでもないモノを幻想館ここに送りこんでは来るが……

「しかし、結婚式のスピーチが、俺かよぉォ。俺、独身なのによぉぉ――」

 ピリィナと客の結婚式はまだ先だ。
 しかし、その間に俺に嫁ができるわけもなし。

 そして、俺はその前に、客に手術をやったりもしたのだ。
 当然、報酬はもらった。

「しかし、オスの胃の中で孵化するとかなぁ……」

 俺は客の腹を開いて、胃の中にピリィナの卵をいれた。
 治癒魔法で、即座に傷を治して、まあなんとか手術は終わった。
 アルコール程度しか麻酔がないので、押さえつけるのが大変だった。

「いろんな種族がいるよな。ま、そういう世界も悪くない――」

 三階の支配人室からは、夜のヤシワラの景色が見える。
 天にはふたつの月――
 その青い光に照らされた、地上の花街――

 決してそこは楽園ではない。しかし、そう悪いとこでもない。
 まあ、俺の今いる世界とはそんなもんだ。

「あ、そういえば、孵化したら、また腹を切らねぇといけねーんじゃね……」

 ハーピーの繁殖方法を思い出して、俺はつぶやく。
 まあ、そのときはまた銭をとって手術してやろうと俺は思うのだった。
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