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1.ソロモンの魔女は歌う

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「諸元がこねぇぞ! 寝てやがるのか! 電波屋(レーダ手)!」

「SGレーダー、SCレーダホワイトアウト! 無線も! 無線も使用不能!」

「対空戦闘諸元、光学照準システムに電路を切り替えろ!」

「僚艦には、光学信号だ! 奴らだ! 奴らがくる!」

 アメリカ正規空母エセックス級。
 すでに、1番艦エセックスは日本海軍の手により海の底に沈められている。
 そして、その危機がその姉妹に迫っていた。

 エセックス級3番艦イントレピッドだ。
 その戦闘指揮所(CIC)は、まさに魔女の釜をひっくり返したような様になっている。
 混乱と狂気がその空間を支配していた。

「CAPとの通信不能! 要撃指示ができません」

「くそったれが!」

 第22空母部隊の指揮官であるトーマス・スプレイグ少将は、帽子を掴んで叩きつた。

 アメリカ合衆国海軍の誇る最新鋭の電子兵装――
 SGシュガージョージレーダー、SCシュガーチャーリレーダーのPPIスコープが真っ白になっている。
 鳥のクソを大量に投げつけられたような状態だ。
 真っ白になったスコープの上を電子の捜索線が空しく回転している。
 なにも分かりゃしない。

(また、ヤツラなのか……)

 スプレイグ少将が考えた瞬間、その思いを肯定する叫びが上がった。

「奴らです…… 奴らだ…… 魔女だ! ジャップの魔女だ――」

 PPIスコープの放つ白い光が、蒼白となったレーダー手の顔に映える。
 その身体が細かく震えていた。

「歌…… 歌が聞こえる。やはり来ました。間違いありません、ジャップの魔女どもです」

 ヘッドホンをした通信員が艦長を見やる。

 艦長はひったくるようにして、通信員からヘッドホンを取った。
 そして、自分の耳に当てる。
 歌だ――
 これが、魔女の歌か……

 彼の耳には透明な意識が吸い込まれていきそうな声が響いている。
 アメリカ海軍ではそれを「歌」と称していたが、本当のところは分からない。
 ただ、それが美しい旋律を伴った歌声に聞こえるということは事実だった。

 魔女の歌声。
 それは、1944年12月のソロモン方面のアメリカ軍にとって、それは、死の前奏曲を意味していた。
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