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5.日本の魔女VS米海兵の黒山羊
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アメリカ、ガダルカナル基地の航空隊司令部。
そのスピーカーが雑音混じりに、音を立てていた。
「また、魔女か……」
基地司令官のレスリー少将はつぶやく。
苦虫をかみつぶしたような顔だ。
アメリカ・ガダルカナル基地の航空隊司令部は騒然となっていた。
基地内のスピーカーが乗っ取られ、魔女の歌声が響いているのだ。
透明感のある声だった。
しかし、それはいつもの日本語ではなく、たどたどしくはあるが英語だった。
それも、酷い英語だ……
『バーカ、バーカ、売春婦の息子ども♪
ケツの穴舐めてろマヌケのウスノロで♪
ドアホウのチ〇コ頭のチ〇コ吸い♪
母親に突っ込む最低野郎だよ~♪
最低クズのウンコたれだから死ね、鬼畜米!
悔しかったらそっちから出てくればいい♪
バーカ、バーカ!
黒山羊死ね。
殺すぞ米海兵! 飛んで来い。腰抜け野郎♪』
ありとあらゆる英語の罵倒語を網羅し、並べた歌が、美しい旋律とともに流れてくる。
基地内のレーダーサイトは全て沈黙。
通信も不能になっている。
「来ます! 双発機です! "アシュレー"です! ジャップの新鋭機」
アシュレーとは双発複座攻撃機「爆星」の米軍コードネームだった。
対空監視所からの伝令員が司令部にすっ飛んできた。
電子装備が全てイカれてしまうため、有線電話すら使用ができなくなる。
まさに「魔女の歌」だ。
「対空戦闘は! 高射砲は?」
「光学測距による諸元伝達ができません」
「くそが!!」
ガダルカナル基地からは辛うじて、散発的な対空機銃が撃ち出されるだけだった。
戦闘機のスクランブルなどできない。
また、出来たとしても、最高速度400マイルを軽く超えると思われる「爆星(アシュレー)」の迎撃は今からでは間に合わない。
「敵! 降下してきます! 退避! 退避!」
声が上がる。
日本製の優美でありながら鋭角的なシルエットを見せている双発機はパワーダイブを開始。
滑走路目掛けて突っ込んできた。
細い対空機銃の火箭が伸びるが、それでジャップの機体を止めることはできそうになかった。
「投弾! 敵機投弾!」
爆星からは礫のような黒い物体が切り離された。
それは真っ直ぐに、滑走路のど真ん中に命中。
瞬発信管だったのだろうか。
暴力的な空気の塊が辺り一帯に吹き荒れる。
1500キログラムの大型爆弾が着弾したのだ。
凄まじい爆発音と爆風で周辺施設までビリビリと揺れる。
「ジャップの奴、ダムでも破壊するつもりかよ!」
タコツボの中に身を隠した米兵の1人が叫ぶ。ただ耳がワンワンと唸り、自分の声もよく聞こえなくなっている。
「ジーザス……」
司令部から、滑走路を見たレスリー少将がつぶやく。
ブスブスと地面が焦げ付き。隕石が突っ込んできたようなクレーターが出来あがっていた。
どこの三流パルプ・マガジンのSFの描写なんだと思うくらいだ。
◇◇◇◇◇◇
「少尉! 滑走路のど真ん中に大穴です!」
伝声管を通じて一花の声が聞こえる。
「そうだな」
久遠少尉は短く答えた。
念話ではないが、キンキンとした高い声は変わらない。
別に耳触りと言うわけではないが、攻撃機の操縦桿を握りながら聞く声としては違和感がある。
彼はまだそれに慣れなかった。
「しかし、こんな穴なぞ、奴らすぐ埋めちまうからな――」
米軍の土木作業の機械力については、士官レベルであれば周知の事実といってもいい。
そして、ガダルカナルには、滑走路が複数本存在していることも明らかになっている。
1500キログラムの大型爆弾を1個くらい落としてもあまり意味が無い。
本当は多数機で、小型爆弾をばらまくのが常道だ。
ただ、対艦攻撃に特化した「爆星」には、小型爆弾を搭載する場所が無い。増槽を外せば、250キロ爆弾を両翼に1発づつ搭載できる。
しかし、それでは長距離侵攻は不可能になるのだ。
そして、対地攻撃には250キロ爆弾ですら大型といっていい。
50キロ程度の爆弾を多数ばらまくという陸軍の方式が飛行場攻撃では正しいといえた。
久遠少尉にも、上官の桃園少佐もそんなことは100も承知だ。
ただ、機材的に出来ない物はできないのだ。よって、1500キロの爆弾を叩きこむしかない。
まあ、敵の恐怖感は半端ではないだろうとは思う。
「少尉! 私の発音どうした? 英語になってました? 桃園少佐の原稿を、三恵ちゃんと一生懸命練習したから」
一花が明るく言った。一応の任務成功で、気分が高ぶっているのかもしれない。
敵電子機器を無効化する一花の歌声。
いつもはただの鼻歌のようなものだ。
今回は、英語の歌を作ってアメリカに聞かせるという方法をとった。
英文の歌詞は桃園少佐が書いた。
なんで、こんなに英語の罵倒語を知っているのか? と思わせる歌詞だった。
それを、英語の発音が一番正確な、日独ハーフの三恵が指導。
歌・作曲:白風一花一等飛行兵
作詞:桃園零子少佐
英語指導:三恵・ドライシュテイン二飛曹
と言う人員で、米軍を挑発する魔女の歌が完成したのだ。
「ねー、少尉」
「ん、なんだ? キャラメルか? 好きに食っていいぞ」
航空機搭乗員には、航空熱糧食として、甘いものが機内に搭載されている。
一花は、キャラメルとかチョコとか甘い物が大好きなのだ。
でかい練乳の缶詰を抱えて混んで、それを一気に食べたことがある。
「それも、もらうけど。少尉。この歌の日本語の意味ってなに? "ふぁっく" とか"こっくさっかー"とか?」
「すまんな。俺は数学専門で、軍隊専門用語は詳しくないんだ」
「そっかぁ~、帝大でも習わないよね。軍隊の専門用語は……」
「意味が知りたければ、三恵か少佐にでも聞いてくれ」
「うんそうする」
明るい声で一花は答えた。久遠少尉は何とも言えない気分となった。
◇◇◇◇◇◇
「く、く、く、く……」
椅子に座った桃園零子少佐が、抑えきれない愉悦を漏らすような笑い声を上げていた。
軍服の寸法が合っていないのではないかと思わせるくらい、胸はパンパンになっている。
ただ、この少佐を前にして、そんなところに視線を固定する勇気は久遠少尉にはなかった。
「少佐、なにが――」
久遠少尉は、不発弾の前に立つような気分で、言葉を発した。
桃園少佐は、口に加えていたホマレを一気に吸いこむ。
一瞬で吸い口近くまで灰になる。
それを灰皿に捨て、紫煙を吐きだした。
煙に包まれた顔が、刃物が笑ったように見える。
「奴ら、平文で発信しやがった」
そう言って、少佐はテーブルの上にその電文が書かれた紙を置いた。
「読んでみろ。少尉。ちゃんと日本語に翻訳済だ」
久遠少尉は、言われるまま手に取った。
そして目を通す。そして、もう一度読んだ。
(おいおい、ヤクザの喧嘩か? これは戦争だろ?)
久遠少尉が真っ先に抱いた感想だった。
「どうだ、色々やってみるもんだな」
「しかし、司令部はなんと…… これは軍事作戦と言うより『私闘』では?」
「それを言うなら『決闘』だろう。いいじゃないか。面白い」
その電文には、日時場所が指定され、そこにやってこいと書いてあった。
日本軍の魔女航空隊と正々堂々、同じ機数で勝負してやるとある。
そして、叩き落してやると――
以前の通信筒にあった「黒山羊(ブラック・ゴーツ)」の名前があった。
戦争はスポーツじゃない。
なんだ? これは。
「ラバウルには、報道カメラマンもいたな…… 撮影させるかぁ」
背もたれに身をあずけ、天井を見ながら、とんでもないことを言い放つ少佐。
この女は戦争をなんだと思っているのか? 娯楽か?
「しかし、少佐、これは危険です」
久遠少尉は言った。
そんな少尉を釣り目気味の目を更に鋭く釣り上げ見やる桃園少佐。
その目の光だけが暗黒の中に浮きあがっている印象を受ける。
ソロモンは日米航空戦の真っ最中なのだ。
ガダルカナルからは、ラバウル方面に夜間爆撃が続いている。
前衛の日本軍基地には昼間の時間に戦爆連合の洗礼もあるくらいだ。
ただ、このモノ島の基地は、完全に秘匿され、米軍の攻撃は無い。
下手なことをして、基地が露見してしまうことが一番危険だった。
こちらの燃料切れを待って、追跡されたらどうするのか?
実際に、基地の露見を防ぐため、ラバウルを攻撃する米軍機に対する迎撃すら控えている。
この基地の独立中隊にいる異能の彼女たちの役割。
第一に、それは強大な敵艦隊の殲滅だからだ。
陸上攻撃はともかく、真正面からアメリカ機動部隊に航空攻撃を敢行できる戦力は少ない。
「爆星」も量産されつつあるが、数がまだ少ない。
しかも、一花のような存在は、我が軍には彼女一人だ。
彼女無しでは、いかに「爆星」が高性能で、「ロ式大和弾」が圧倒的破壊力を持っていても、攻撃は簡単ではない。
既存の攻撃隊は、米軍の輸送ラインが主な目標になっているのが現実だ。
こんなつまらないことで――
「総力戦なんだよ。今次大戦は――」
まるで、久遠少尉の思考を読んだかのように少佐は言った。
ピンク色をした唇が動く。
「フィルムに収めてやれ。奴ら、米海兵隊の精鋭が無残に死んでいくところを―― 皇国の魔女が、無敵であることを証明するんだよ。
中立国経由で全世界に公開してやる!! 我らに挑んだことを後悔させ、後世にまでその恥を刻みこんでやるッ!」
笑みを浮かべ叫ぶように言葉を発する少佐。まさしく、戦争中毒者の言葉だ。
「久遠少尉!」
「はい!」
直立不動になる少尉。本能的にこの上官に逆らえないのだ。
思うことは色々あったが、口に出すことはできなかった。
「確か、機体に取り付けるカメラがあったなぁ…… ラバウルにあるかもしれん。取り寄せろ。烈風に取り付けるぞ」
「はい、ラバウルの航空廠に至急確認します」
久遠少尉はそんな機材が無いことを願った。
ただ、カメラをつけると言ったら、二葉、三恵あたりは逆に喜びそうだ。
四織は、ちょっと反応の予測ができない。
頭が痛い。
要件が済んだと判断した久遠少尉は敬礼する。
そして、外に出ようとした。
「少尉――」
少佐の声が彼を呼び止める。
「なんでしょうか?」
「なあ、戦争とは斯(か)くあるべきだ。そう思わないか? 派手に行こうじゃないか」
その言葉は、ある種戦争のバカバカしさの本質を理解した者の言葉だったのかもしれない。
ただ、戦争好きの、戦争中毒者の戯言なのかもしれない。
久遠少尉にはその判断はできなかった。
そのスピーカーが雑音混じりに、音を立てていた。
「また、魔女か……」
基地司令官のレスリー少将はつぶやく。
苦虫をかみつぶしたような顔だ。
アメリカ・ガダルカナル基地の航空隊司令部は騒然となっていた。
基地内のスピーカーが乗っ取られ、魔女の歌声が響いているのだ。
透明感のある声だった。
しかし、それはいつもの日本語ではなく、たどたどしくはあるが英語だった。
それも、酷い英語だ……
『バーカ、バーカ、売春婦の息子ども♪
ケツの穴舐めてろマヌケのウスノロで♪
ドアホウのチ〇コ頭のチ〇コ吸い♪
母親に突っ込む最低野郎だよ~♪
最低クズのウンコたれだから死ね、鬼畜米!
悔しかったらそっちから出てくればいい♪
バーカ、バーカ!
黒山羊死ね。
殺すぞ米海兵! 飛んで来い。腰抜け野郎♪』
ありとあらゆる英語の罵倒語を網羅し、並べた歌が、美しい旋律とともに流れてくる。
基地内のレーダーサイトは全て沈黙。
通信も不能になっている。
「来ます! 双発機です! "アシュレー"です! ジャップの新鋭機」
アシュレーとは双発複座攻撃機「爆星」の米軍コードネームだった。
対空監視所からの伝令員が司令部にすっ飛んできた。
電子装備が全てイカれてしまうため、有線電話すら使用ができなくなる。
まさに「魔女の歌」だ。
「対空戦闘は! 高射砲は?」
「光学測距による諸元伝達ができません」
「くそが!!」
ガダルカナル基地からは辛うじて、散発的な対空機銃が撃ち出されるだけだった。
戦闘機のスクランブルなどできない。
また、出来たとしても、最高速度400マイルを軽く超えると思われる「爆星(アシュレー)」の迎撃は今からでは間に合わない。
「敵! 降下してきます! 退避! 退避!」
声が上がる。
日本製の優美でありながら鋭角的なシルエットを見せている双発機はパワーダイブを開始。
滑走路目掛けて突っ込んできた。
細い対空機銃の火箭が伸びるが、それでジャップの機体を止めることはできそうになかった。
「投弾! 敵機投弾!」
爆星からは礫のような黒い物体が切り離された。
それは真っ直ぐに、滑走路のど真ん中に命中。
瞬発信管だったのだろうか。
暴力的な空気の塊が辺り一帯に吹き荒れる。
1500キログラムの大型爆弾が着弾したのだ。
凄まじい爆発音と爆風で周辺施設までビリビリと揺れる。
「ジャップの奴、ダムでも破壊するつもりかよ!」
タコツボの中に身を隠した米兵の1人が叫ぶ。ただ耳がワンワンと唸り、自分の声もよく聞こえなくなっている。
「ジーザス……」
司令部から、滑走路を見たレスリー少将がつぶやく。
ブスブスと地面が焦げ付き。隕石が突っ込んできたようなクレーターが出来あがっていた。
どこの三流パルプ・マガジンのSFの描写なんだと思うくらいだ。
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「少尉! 滑走路のど真ん中に大穴です!」
伝声管を通じて一花の声が聞こえる。
「そうだな」
久遠少尉は短く答えた。
念話ではないが、キンキンとした高い声は変わらない。
別に耳触りと言うわけではないが、攻撃機の操縦桿を握りながら聞く声としては違和感がある。
彼はまだそれに慣れなかった。
「しかし、こんな穴なぞ、奴らすぐ埋めちまうからな――」
米軍の土木作業の機械力については、士官レベルであれば周知の事実といってもいい。
そして、ガダルカナルには、滑走路が複数本存在していることも明らかになっている。
1500キログラムの大型爆弾を1個くらい落としてもあまり意味が無い。
本当は多数機で、小型爆弾をばらまくのが常道だ。
ただ、対艦攻撃に特化した「爆星」には、小型爆弾を搭載する場所が無い。増槽を外せば、250キロ爆弾を両翼に1発づつ搭載できる。
しかし、それでは長距離侵攻は不可能になるのだ。
そして、対地攻撃には250キロ爆弾ですら大型といっていい。
50キロ程度の爆弾を多数ばらまくという陸軍の方式が飛行場攻撃では正しいといえた。
久遠少尉にも、上官の桃園少佐もそんなことは100も承知だ。
ただ、機材的に出来ない物はできないのだ。よって、1500キロの爆弾を叩きこむしかない。
まあ、敵の恐怖感は半端ではないだろうとは思う。
「少尉! 私の発音どうした? 英語になってました? 桃園少佐の原稿を、三恵ちゃんと一生懸命練習したから」
一花が明るく言った。一応の任務成功で、気分が高ぶっているのかもしれない。
敵電子機器を無効化する一花の歌声。
いつもはただの鼻歌のようなものだ。
今回は、英語の歌を作ってアメリカに聞かせるという方法をとった。
英文の歌詞は桃園少佐が書いた。
なんで、こんなに英語の罵倒語を知っているのか? と思わせる歌詞だった。
それを、英語の発音が一番正確な、日独ハーフの三恵が指導。
歌・作曲:白風一花一等飛行兵
作詞:桃園零子少佐
英語指導:三恵・ドライシュテイン二飛曹
と言う人員で、米軍を挑発する魔女の歌が完成したのだ。
「ねー、少尉」
「ん、なんだ? キャラメルか? 好きに食っていいぞ」
航空機搭乗員には、航空熱糧食として、甘いものが機内に搭載されている。
一花は、キャラメルとかチョコとか甘い物が大好きなのだ。
でかい練乳の缶詰を抱えて混んで、それを一気に食べたことがある。
「それも、もらうけど。少尉。この歌の日本語の意味ってなに? "ふぁっく" とか"こっくさっかー"とか?」
「すまんな。俺は数学専門で、軍隊専門用語は詳しくないんだ」
「そっかぁ~、帝大でも習わないよね。軍隊の専門用語は……」
「意味が知りたければ、三恵か少佐にでも聞いてくれ」
「うんそうする」
明るい声で一花は答えた。久遠少尉は何とも言えない気分となった。
◇◇◇◇◇◇
「く、く、く、く……」
椅子に座った桃園零子少佐が、抑えきれない愉悦を漏らすような笑い声を上げていた。
軍服の寸法が合っていないのではないかと思わせるくらい、胸はパンパンになっている。
ただ、この少佐を前にして、そんなところに視線を固定する勇気は久遠少尉にはなかった。
「少佐、なにが――」
久遠少尉は、不発弾の前に立つような気分で、言葉を発した。
桃園少佐は、口に加えていたホマレを一気に吸いこむ。
一瞬で吸い口近くまで灰になる。
それを灰皿に捨て、紫煙を吐きだした。
煙に包まれた顔が、刃物が笑ったように見える。
「奴ら、平文で発信しやがった」
そう言って、少佐はテーブルの上にその電文が書かれた紙を置いた。
「読んでみろ。少尉。ちゃんと日本語に翻訳済だ」
久遠少尉は、言われるまま手に取った。
そして目を通す。そして、もう一度読んだ。
(おいおい、ヤクザの喧嘩か? これは戦争だろ?)
久遠少尉が真っ先に抱いた感想だった。
「どうだ、色々やってみるもんだな」
「しかし、司令部はなんと…… これは軍事作戦と言うより『私闘』では?」
「それを言うなら『決闘』だろう。いいじゃないか。面白い」
その電文には、日時場所が指定され、そこにやってこいと書いてあった。
日本軍の魔女航空隊と正々堂々、同じ機数で勝負してやるとある。
そして、叩き落してやると――
以前の通信筒にあった「黒山羊(ブラック・ゴーツ)」の名前があった。
戦争はスポーツじゃない。
なんだ? これは。
「ラバウルには、報道カメラマンもいたな…… 撮影させるかぁ」
背もたれに身をあずけ、天井を見ながら、とんでもないことを言い放つ少佐。
この女は戦争をなんだと思っているのか? 娯楽か?
「しかし、少佐、これは危険です」
久遠少尉は言った。
そんな少尉を釣り目気味の目を更に鋭く釣り上げ見やる桃園少佐。
その目の光だけが暗黒の中に浮きあがっている印象を受ける。
ソロモンは日米航空戦の真っ最中なのだ。
ガダルカナルからは、ラバウル方面に夜間爆撃が続いている。
前衛の日本軍基地には昼間の時間に戦爆連合の洗礼もあるくらいだ。
ただ、このモノ島の基地は、完全に秘匿され、米軍の攻撃は無い。
下手なことをして、基地が露見してしまうことが一番危険だった。
こちらの燃料切れを待って、追跡されたらどうするのか?
実際に、基地の露見を防ぐため、ラバウルを攻撃する米軍機に対する迎撃すら控えている。
この基地の独立中隊にいる異能の彼女たちの役割。
第一に、それは強大な敵艦隊の殲滅だからだ。
陸上攻撃はともかく、真正面からアメリカ機動部隊に航空攻撃を敢行できる戦力は少ない。
「爆星」も量産されつつあるが、数がまだ少ない。
しかも、一花のような存在は、我が軍には彼女一人だ。
彼女無しでは、いかに「爆星」が高性能で、「ロ式大和弾」が圧倒的破壊力を持っていても、攻撃は簡単ではない。
既存の攻撃隊は、米軍の輸送ラインが主な目標になっているのが現実だ。
こんなつまらないことで――
「総力戦なんだよ。今次大戦は――」
まるで、久遠少尉の思考を読んだかのように少佐は言った。
ピンク色をした唇が動く。
「フィルムに収めてやれ。奴ら、米海兵隊の精鋭が無残に死んでいくところを―― 皇国の魔女が、無敵であることを証明するんだよ。
中立国経由で全世界に公開してやる!! 我らに挑んだことを後悔させ、後世にまでその恥を刻みこんでやるッ!」
笑みを浮かべ叫ぶように言葉を発する少佐。まさしく、戦争中毒者の言葉だ。
「久遠少尉!」
「はい!」
直立不動になる少尉。本能的にこの上官に逆らえないのだ。
思うことは色々あったが、口に出すことはできなかった。
「確か、機体に取り付けるカメラがあったなぁ…… ラバウルにあるかもしれん。取り寄せろ。烈風に取り付けるぞ」
「はい、ラバウルの航空廠に至急確認します」
久遠少尉はそんな機材が無いことを願った。
ただ、カメラをつけると言ったら、二葉、三恵あたりは逆に喜びそうだ。
四織は、ちょっと反応の予測ができない。
頭が痛い。
要件が済んだと判断した久遠少尉は敬礼する。
そして、外に出ようとした。
「少尉――」
少佐の声が彼を呼び止める。
「なんでしょうか?」
「なあ、戦争とは斯(か)くあるべきだ。そう思わないか? 派手に行こうじゃないか」
その言葉は、ある種戦争のバカバカしさの本質を理解した者の言葉だったのかもしれない。
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