彼女(寵姫)以外は要らないと、後宮をお払い箱にされましたが、幼馴染の猛虎将軍が溺愛してくれるので問題ありません

若松だんご

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巻の十、出戻り娘、再び

 「玉鈴ユイリン~、そこの書、取ってぇ~」

 読んでいた書を、寝台の上にポイッと放置。ついでに、自分もゴロンと仰向けに転がる。

 「梨花リファさま」

 言われた通り、ちゃんと次巻を持ってきてくれた玉鈴ユイリン。お願いした通りに動いてくれた玉鈴ユイリン
 だけど、その心境までわたしに従ってくれてるわけじゃない。
 差し出された書を受け取ろうとしたら、グッと握ったまま書から手を離してくれない。ついで注がれる、メチャクチャ物言いたげな視線。

 (わかってる。わかってるわよ)

 昼間っから、寝台に寝っ転がって書ばっかり読んで! とか、そんなゴロゴロしてたら、衣にシワが入ってしまいます! とか。そういうとこでしょ。
 わかってるわよ。

 あのまま明順ミンジュンの家を飛び出して。実家に駆け込むように戻ってきた。
 父さまも兄さまも、そして義姉さまも。
 驚きはしたけど、「なにがあった」とも、「婚家に戻りなさい」とも言わなかった。
 こうして、ずっと自分の室にこもっていても、誰も近寄ってこない。わたしが、「実はね……」とか、話し出すのを待つつもりなんだろう。「あんなふうに帰ってくるなんて、よっぽどのことだ。今はそっとしておいてやろう」みたいな。
 その気遣い、うれしいんだか、寂しいんだか。でも、ありがたいので、好き放題させてもらってる。
 食事も室に運んでもらって、大好きな書を読みふける。

*  *  *  *  *

 「そんなに怯えるな」

 「おっ、怯えるなって」

 そんなの、無理な相談よ!
 一瞬で衣を剥ぎ取られた! 驚き! からの押し倒され!
 裸になった私の上にのしかかる男(もちろんこっちも衣ははだけてる)。これに驚かない乙女はいない! 絶対、どこを捜してもいない!

 「力を返してもらうだけだ。アレと戦うには、力が足りぬ」

 「そっ、それはわかるけど、だからって!」

 だからって、この状況はなにっ!?
 普段なら、いつもなら、口づけするだけで、力はアンタに戻ってたでしょうが!

 「いつもの敵なら、それで構わなかったのだが。だが、アレには、それだけでは力が足りぬ」

 虚勢を張ってるのが丸わかり。怯えたくってる私に、クスッと笑った彼。

 「それとも、お主は吾に食われたいのか?」

 「くっ……」

 食われるっ!? 

 「力を取り戻す方法。口づけよりもより力が戻るのが、まぐわい。それ以外となると、力が入り込んだ状態のお主をバリボリ食らうしか方法がない」

 「ヒッ……!」

 「大丈夫だ。そのようなことはせぬ」

 怯え、血の気の少なくなった額に、温かい彼の手が触れる。

 「そんなことをしたら、お主を永遠に失ってしまうからな」

 そりゃあ。食べたら、わたしはアンタのお腹のなかだし。

 「吾はな。……これは自分でも不思議なんだが」

 少し悩んだような顔をして見せる彼。

 「お主がおらぬようになるのは、寂しい」

 ――は?

 「寂しい? いや違うな。『嫌だ』、『辛い』、『悲しい』」

 いろんな言葉を紡ぎつつ、彼が首をひねる。

 「まあ、とにかく、そういうことだ」

 「そういうことってどういうことよ」

 わかるような、わからないような。

 「まあよい。ただ、お主を身の内に取り込んで消し去るよりも、お主を愛でたいと思おておる。このようにな」

 チュッ。

 額に、触れた温かい、濡れたもの。それが彼の唇だと気づいたのは、彼がニッと笑って私を見たからだ。

 「お主を食ろうて力を取り戻すことは容易い。だが、それでは吾は、吾の心はくちくならぬ」

 チュッ。チュッ。チュッ。

 唇が、額だけじゃなく、頬、驚いてとじた瞼の上と、いくつもの箇所に落とされていく。

 「吾はそなたを愛したい。そなたとまぐわいたい」

 「まっ、まぐっ……!」

 「それともなにか? お主は、バリボリと頭から食われることを所望するのか?」

 さすがに、それは、ちょっと……っ!
 ブンブンと首を横に振って否定。

 「ならば、力を抜いて、吾に身を委ねよ」

 言って、降りてきた唇。
 今度は、わたしの唇の上に。そして。

 「ンッ、フッ、ンンッ……」

 呑み込みそびれた息と唾液を絡め取られ、何度も角度を変えて、口づけをくり返される。
 
 (気持ちいい……)

 その熱さに蕩けかけた思考が、あわてて逃げようと頭を動かそうとするけど、いつの間にか頬をガッチリ押さえられてて。

 「逃げるな。お主の怖がるようなことはせぬ」

 ズルリと口腔に忍び込んできた彼の舌。
 残っていた思考も何もかも、彼一色に染まっていく。

*  *  *  *  *
       (中略)
*  *  *  *  *

 「スゴいな、お主のなかは、食いちぎられそうなほど、クッ、締めつけてくる」

 ズチュ、ズチュ。

 言いながらも、腰を動かすことを止めない彼。
 
 「アッ、イッ、そっ、んなこっ、アアッ……」

 そんなに締めつけられてるのに、よく動かせるわね、その腰。
 言ってやりたいのに、悪態つくほどの暇も余裕もなくて。

 「アッ、アッ、アッ、アッ、んアッ、アッ……」

 彼の律動に合わせて、短い喘ぎ声だけをあげ続ける。
 気持ちいい。気持ちいい。なにこれ、気持ち良すぎる。

 「吾の力を取り込んでおるからか。お主の中は、吾に添ぐうようにできておる」

 そうなの? だからこんなに気持ちいいの?
 敷布をギュッと掴むけど、その気持ちよさにどうにかなりそう。

 「お主も気持ち良いのか? ほれ、子壺が降りてきておるぞ」

 「ンヒッ! そっ、そこをっ……!」

 ドチュ、ドチュ。

 そこをもっと突いてほしいのか。それとも与えられる快感から逃げたいのか。

 「腰が動いておるわ」

 「アヒッ……!」

 無意識だったのに。彼が笑い、さらに激しくそこを突く。
 「子壺」と言われたそこを突くだけじゃない。限界まで腰を引き、一気に突きこむ。

 「アグッ!」

 「よいな。よく締まる。そんなに吾が欲しいのか?」

 「ほ、欲しいのっ! 欲し……、アアッ!」

 だから抜けていかないで。戻ってきて。もっと。もっと突いて。
 もう、体も頭もグッチャグチャ。欲しい。もっと感じたい。アナタを。

 「アッ、アッ、アッ、ア、ン、アッ……」

 強引なまでに押し開かれて。痛いはずなのに。

 (ナニコレぇ……)

 こんな気持ちよさ、私、知らない。
 
 *  *  *  *  *

 へえ。そうですか。そうですか。
 そんなにまぐわうのは気持ちいいですか。そうですか。

 (ハァ……)

 ため息を深く吐き出して、読みかけの書をポイッと放り出す。
 この先なんて、読まなくてもわかってるの。
 道士に奪われ封印された尻尾を奪い返しに来た妖狐。ひょんなことで(というより、間抜けすぎな事由で)その尻尾は妖狐に戻るのではなく、そばにいた骨董品屋の娘の中に入り込んでしまう。
 尻尾は、妖狐の力の象徴。それを取り戻さない限り、妖狐は本来の力を発揮できない。
 そして、その尻尾は他のアヤカシにとっても、垂涎の品。(垂涎の力?) 尻尾を狙ってくるアヤカシから骨董品屋の娘を護る内に――っていう展開。
 護るためには、力が必要で。口づけるだけでも多少なら力が戻るんだけど、もっと必要な時は、まぐわうことで力を(一時的だけど)取り戻せて……。
 力のためにまぐわってるのに。力を取り戻したかったら娘を殺して奪い返せばいいのに。
 自分を護ってくれる妖狐に惚れて、戸惑う娘。
 初めて「愛しい」という感情を得た妖狐。
 この後も、なんやかんやで娘が狙われて。命がけで、娘を護っちゃったりする妖狐。ジレジレと二人の距離を縮めて。最終的に、子を孕むぐらいまぐわちゃうんだよ。それか、二人だけの楽園を求めて旅立つの。そんな感じの終わり方。
 最後に到達するまでに、……そうだな。あと二回以上は、まぐわうわよ。物語全体で、計三回、それ以上。力を渡すためにまぐわってたのが、いつの間にか、そんなの関係ねえ! 好きだからまぐわうんだ! みたいな感じになっちゃってさ。

 いいなあ。

 「ねえ、玉鈴ユイリン。ちょっと出かけるから支度してくれる?」

 「お出かけですか?」

 わたしがイキナリガバっと起きたもんだから、近くで(わたしが散らかした)書を集めていた玉鈴ユイリンが驚き、体をビクッと震わせた。
 悪かったかなって思ったけど、今は、思ったことを即実行したい。

 「林淑華シュウファさまのところに行きたいの」

 後宮にいた時、物語を書いては読ませてくれていた方。
 ご実家に帰られてから、続きを書いていらっしゃるかどうかわかんないけど。書いておられるなら、ぜひ読みたい。
 どうせ暇な実家暮らし。物語を読んでる暇なら、腐る程あるし。
 そうじゃなかったとしても、ご一緒にお茶でもしたい。お茶でも飲みながら、他愛のないことでも話したい。
 急な訪問になるけど、淑華シュウファさまなら、笑って許してくださるはず。

 「ああ、でも一応先触れは出しておいたほうがいいわね。そのへんの手配もよろしく」

 いくら淑華シュウファさまがお優しくても、なんにもなしで「こんにちは」は、ちょっと。林家とウチ、楊家では、家の格が違う。楊家は(格段に)目下。目上に向かって、礼儀知らずなことをしちゃいけない。それはこの家の恥になる。

 淑華シュウファさまに会う。
 お茶して、楽しいお話をする。
 そして、あわよくば物語の最新を読ませてもらう。

 家にいても、物語を読んでも晴れなかった気分が、少しだけ上がった気がした。
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