彼女(寵姫)以外は要らないと、後宮をお払い箱にされましたが、幼馴染の猛虎将軍が溺愛してくれるので問題ありません

若松だんご

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巻の十四、妄想と現実

 「――梨花リファ

 彼の声が、優しくわたしを呼ぶ。

 「あ……、明順ミンジュン

 わたしも彼に応えたい。けど。

 「アッ、うンッ……、あ、アッ」

 漏れるのは嬌声ばかり。だって。

 「腰が揺れてるよ。感じてるの?」

 「う、ンッ。感じるっ、気持ちいいのぉっ!」

 わたしを抱き上げ座る彼。その上に跨ったわたしは、彼の太い竿に貫かれ、ユサユサと彼が揺するままに、体を揺らす。
 
 「いやらしいな、梨花リファは」

 笑いながら。でも、腰を動かすのを止めない彼。

 「だってぇ……」

 こんなことされて、いやらしくはしたなくならないってほうが無理!
 彼の腰が動くたび、わたしの奥が突き上げられて、尖ったまま放置されてる乳首が、彼のたくましい胸板でこすられる。
 乳首と膣と。
 与えられる両方の刺激。もっと欲しいって思っちゃダメ?
 
 「梨花リファ

 笑ったけど、その先を求めるように腰を揺らめかせた、わたしを軽蔑したわけじゃない彼。彼だって、さっきからドンドン大胆に腰を使い始めてる。

 「こんなに乱れた、いやらしい姿を見せるのは僕の前だけにしてくれ」

 「う、うん。アッ、明順ミンジュンだけだよ。アッ、んアッ、こんな姿を見せるの、はアッ!」

 「うれしいこと、言ってくれる、ねっ!」

 ドチュ。

 「ヒグッ!」

 ひときわ大きく穿たれ、襲い来る快感に耐えきれず、彼の肩を必死に掴む。

 グチュ。グチュ。グチュ。
 ズチュ。ズチュ。ズチュ。

 つながった所から、淫らなまでに粘ついた水音がする。

 「アッ、いっ、イイッ! 明順ミンジュンっ、明順ミンジュンっ!」

 彼の竿が、深く、浅く、わたしの膣を蹂躙する。
 腰を掴まれ、何度も穿たれ。
 体の動きに合わせ、乱れ波打つ髪。わたしの体は、嵐の海の小舟のように、彼の手で翻弄される。
 喘いで、突き抜ける快感を我慢しようとするけど、抑えられなくて。

 「梨花リファ梨花リファッ!」

 「アッ、いっ、イくっ!」

 「グッ……!」

 ビクッとひときわ大きく震えた体。その奥で、彼の欲望が弾けた。――ってどんな感じ?

     *     *     *     *

 (――って。夢、か)

 ハアッと、深くふかく息を吐く。
 気持ち良すぎて、彼の肩を強く掴んでた気がしたのに。
 実際に持っていたのは、絹糸を巻きつけた杼。目の前にあるのは彼の裸体じゃなくて、織りかけの機。
 今は、機織りの最中。
 彼の無事を祈るつもりで機織りを続けていたのに。

 (どんな夢見てるのよ、わたし!)

 ヘソじゃないけど、お湯沸かせそうなほど、顔がゆだる。
 いくらなんでも。いくら春本を読んだことあっても。そういう夢は見ちゃダメでしょ!

 (まあ、最後は夢ですら想像できてないけど)

 経験ないんだから、本を読んだだけの知識じゃ、夢でも再現できないらしい。夢で、裸の彼と睦み合ってたと思うんだけど、その体は春本の挿絵っぽかったというかなんというか。そういうのに出てくる男性の体に、ペタッと明順ミンジュンの顔を載せただけっていうか。
 つまりは。
 現実味のない夢だった。

 (バカバカし)

 もう一回フウッと息を吐き出して、杼を握り直す。
 今は、そんなはしたないことを考えてる場合じゃないの。彼の無事を祈って、機織りに専念しなきゃ。

 (でも、悪くなかったなあ)

 喘ぐわたしを翻弄する彼。
 幼い頃のひ弱な彼じゃない。白虎将軍として活躍する今の彼なら、わたしぐらい簡単に翻弄できるんだろうな。――って! そういうことを考えるんじゃない!

 スーハー。スーハー。
 くり返す深呼吸。
 無事を祈っての機織りには、巫女的な、そういう女性の力が必要なんだから(多分)、そういうふしだらなことは考えちゃダメ! ――なのに。

 ――梨花リファ梨花リファッ!

 夢で聞いた、彼の余裕なさ気な呼び声。現実で聞いたことないはずなのに、簡単に夢で生成され、今も耳の奥底に残ってる。

 (あんなふうに、いつか呼んでくれたらなあ)

 夢ってのは、願望がそのまま体現されているのだろう。抱かれたいとか交わりたいとかじゃなくて、そんなふうに必死に求められたいと思う。

 (って、ダメだ。こんなこと考えてちゃ)

 諦め気分で、杼を置く。
 無事を祈って織りたいのに。さっきから、グルグル変なことばっかり思ってる。

 (玉鈴ユイリン、いなくてよかった)

 いつからいないのか知らないけど。今の室は、わたし一人。
 おそらくだけど、今のわたしは絶対変な顔してるだろうから、誰もいない、一人だけってのは助かる。
 って思ってたのに。

 「――お嬢さま、お嬢さまっ!」

 バタバタと回廊を走ってくる音と声。

 「な、なぁに? どうしたの玉鈴ユイリン?」

 ワタクシ、機織りに夢中でしたわよ? 変な夢なんて見てないでございますわよ。ホホホ。
 バァンと勢いよく扉を開けて飛び込んできた玉鈴ユイリン。顎まで濡れてたヨダレを拭いて、杼を持って。機織りの最中だったフリをしてみせたけど。

 「どうしたもこうしたもございませんっ!」

 ゼイゼイと息の整わない玉鈴ユイリン。胸を抑えながら、話を続ける。

 「明順ミンジュンさまがっ! 明順ミンジュンさまが、皇都にお戻りになられましたっ!」

 「なんですって!」

 明順ミンジュンが帰ってきたの? 帰ってきたってことは無事?
 持ち直した杼を落っことしたことにも気づかず、驚きのままに立ち上がる。

 「さっき、大路で兵を引き連れる明順ミンジュンさまをお見かけしました! 間違いありません! あれは明順ミンジュンさまです!」

 明順ミンジュンが。明順ミンジュンが帰ってきた。
 無事に。無事に、この皇都に。明順ミンジュンが。

 「まずは、皇帝陛下に報告に参られるのだと思いますが。近いうちに、こちらへもいらっしゃいますよ」

 「そ、そうね」

 応えた自分の声が、ものすごくうわずった。

 明順ミンジュンが。明順ミンジュンが帰ってきた。

 そのことを、宝物のように、大切にギュッと胸に抱きしめる。

 「お嬢さまの祈り、通じましたね」

 そうね。
 なれない機織りだけど、やった意味はあったのかしら。
 下手くそで、織れたのは布というより筵だったけれど。

 明順ミンジュンが帰ってきた。

 「お会いになるの、楽しみですわね」

 「そうね」

 会ったら、何を話そうかしら。いや、話すより、飛びつき抱きしめてしまうかも。「ごめんなさい」を言わなきゃいけないのに。それより先に「大好き」って言っちゃいそう。
 それほど。それほどに、帰ってきてくれたのがうれしい。泣きそうなぐらいうれしい。

 (明順ミンジュン……)

 その名前を、宝物のように何度も呟く。
 わたし、いつの間に、彼をこんなに好きになってたんだろう。

 「では、早速ですがお支度いたしましょう」

 「え? 今から?」

 「ええ。今からです。いつ明順ミンジュンさまが参られても恥ずかしくないように」

 「まさか、今日は……」

 玉鈴ユイリンの言葉に、反論したくなったけど、途中で止めた。だって。わたしはその、「まさか、今日は」の裏でひそかに期待しちゃってる。どんなに遅くてもいい。会いに来て欲しい。

          *

 けれど。
 その日、どれだけ待っても明順ミンジュンが、我が家の戸を叩くことはなかった。
 その日だけじゃない。明くる日もその次も。
 皇都に戻った明順ミンジュンが、わたしに会いに来ることはなかった。
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