彼女(寵姫)以外は要らないと、後宮をお払い箱にされましたが、幼馴染の猛虎将軍が溺愛してくれるので問題ありません

若松だんご

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巻の二十七、悠久の大地に、愛は花咲く

 「――こんなところにいたのね、明順ミンジュン

 「梨花リファ!」

 驚き半分、呆れ半分な顔で、夕暮れの城壁に一人立っていた彼がふり向く。

 「スゴい風ね、――キャッ!」

 わたしを守るように、自分の外套をはずし、包みかけてくれた明順ミンジュン
 外套に残ってた彼の温もりとか匂いとか。――悪くはないんだけど。

 「――こんなところに来て。風邪引いたらどうするの?」

 「大丈夫よ、心配性ね」

 風にあたったぐらいで、どうにかならないわよ。そこまでやわじゃないわ。

 「心配もするさ。今のキミは、普段の体じゃない。子を孕んでるんだから」

 …………。
 それを言われると、反論できない。素直に謝罪と感謝を述べる?

 「そう思うんだったら、こんなところに来ないで。わたしを置いて行かないでよ」

 冗談じゃない。
 わたしは「ありがとう」も「ごめんなさい」も言わないからね?
 そりゃあ、外套をかけてくれる気遣いはうれしいし、愛情を感じられて幸せだけど。
 だからって、「わたしが悪い」は納得しないの!
 そうでなくても、身重の体で城壁の上まで階段登るの、結構大変だったんだからね?
 体は重いし、城兵たちにはハラハラされるし。
 こんなところに来るなって言うなら、自分もこんなところに来ないでよ。

 「――ゴメン。ちょっと様子を見たかったから」

 「様子?」

 城壁の上から? 将軍のアナタが?

 「……敵が攻めてくるっていうの?」

 そういう情報が上がってるとか?

 「違うよ。今のところは平穏。特に動きがあるって知らせもない」

 わたしが不安そうな顔をしたんだろうか。彼がフッと口元を緩めてみせた。

 「そもそも敵におかしな動きがあったら、こんなところにキミを連れてこないよ」

 わたしを連れて、皇都を離れた明順ミンジュン
 彼の父が皇都に戻り隠棲するため、交替で西鎮守の護りに戻った。
 もともと、彼がわたしを手に入れるため任地を離れてたのに対して、代わりにここを護ってくれてただけだし。わたしを手に入れたら、サッサと戻って、老齢の父親を隠棲させるのが筋ってもんだろう。
 あっちにいる父さまや兄さまは、またもやオイオイと泣いて別れを渋ってたけど、父さまは、彼の父が戻ってくると聞いて、涙を引っ込ませた。囲碁仲間ができると、それはそれで喜んでたらしい。兄さまたちは、義姉たちに「泣くんじゃありません!」とド叱られたそうで。まあ、次兄のところにも無事に子が生まれて。育児で忙しくなるんだから、妹ごときでオイオイやってる暇はないと思う。

 「とりあえず。キミが無事に子を産むまで。いや、子を産んで、その子が立派に大人になるまで。違うな。キミとともに老いて、隠棲できるようになるまで。敵には大人しくしていてほしいんだ」

 敵。ドンドン襲撃が延期されていきます。
 わたしと子どもの平和のために、襲撃の許可が降りません。(降りても困る)

 「それで、どうやったら敵が諦めるか、講じるべき策はなんなのか。ちょっと考えてたんだ」

 それって、ほとんど戦わずして敵を敗走させたっていう、ああいう策を使うの?
 水鳥の羽ばたきで、敵をビビらせたっていう、アレ。

 「まあ本当は、敵が攻めようなんて思う余裕もないほど、シッカリ叩きのめしておいたほうがいいんだけど」

 あ。ものすごいこと、サラッと言ったわ。
 そして多分、彼なら、それぐらいのこと、簡単にやり遂げるんだろうな。

 「ゴメン。こんなのキミに話すようなことじゃないよね。怖い?」

 「ううん。平気」

 こんなことで怖がってちゃ、猛虎将軍の妻なんて務まりません。
 彼がここまで冷徹に、恐ろしくなるのは、わたしに危険が迫った時。
 彼は、わたしを溺愛するだけじゃなく、わたしを護るためなら、誰に対してであっても、猛然と牙を剥く。
 普段は、優しい気弱な猫みたいなのに。その落差、とても激しい。
 けど、悪いとは少しも思ってない。むしろ、うれしい。うれしくて、あと、彼のことだけを心配してしまう。
 彼の本性が、猛虎ではなく、大人しい猫であることを、わたしは知っているから。

 「明順ミンジュン

 もらった外套を動かし、隣に立つ彼もいっしょにくるめるように動く――けど、身長差もあって、抱けたのは彼の腰だけだった。悔しい。

 「梨花リファ

 わたしの意図は伝わったのか。腰しかくるめたかったわたしと違って、彼が背を丸め、いっしょに外套に包まれるように動いてくれた。
 外套のなかで、お腹をいたわるように優しく抱きしめられる。

 「キレイね」

 「うん。ここは戦は絶えないけど、素敵な土地なんだよ」

 城壁の外の景色を二人で眺める。
 落ちていく夕日。
 赤く染まる荒野。遠くの山々は藍色に沈み、太陽は、その稜線をくっきりと描き出す。 
 ふり返れば、後ろ一面の空は夜の先駆け、紺色に染まってるのだろう。
 太陽に照らされ、陰影を濃くした雲は、金色の粉をまぶしたような、不思議な色を映す。
 皇都では見たことのない、雄大な景色。

 「いつか、キミにも見せたかった。そして、ここを豊かな土地にしたいと思ってる」

 「ここを?」

 「うん。時間はかかるかもしれないけど。ここを豊かに、緑溢れる場所にして。そしていつかその技術を敵にも教えられれば。そうしたら、富を奪いに攻めてくることもなくなる。飢えを知らないのに、満ち足りてるのに命をかけて攻めてくるバカはいないだろうからね」

 なるほど。

 「でもそれ、明順ミンジュンらしいわ」

 「僕らしい?」

 クスクス笑ったわたしに、彼が少し首を傾げた。

 「昔からそうだったじゃない。争いを嫌って、知識を求めた。剣とかそういった争いの力を求めてなかった」

 こうして将軍になれるほどだから、弱かったわけじゃないと思う。ただ、争うことが嫌いで、大人しくしていることが好きだっただけ。
 だから、敵が攻めなくていいように、簡単に技術を提供しようと考えてる。
 ここを豊かにするのはいいけど、敵にまでその技術を広めるのは……。アイツが皇帝になってたら、絶対「反逆だ! 裏切りだ!」って罵られると思う。処刑まったなし。
 都では皇太子は廃嫡となり、僧院に送られ、幽閉となった。今は新しく、第二皇子が立太子しているという。

 「キミは僕のこと、すべてお見通しなんだね」

 「そうね。アナタのこと、全部知ってるつもりよ?」

 木剣で、年下の女の子にポカっとやられるほど弱かったのに。その女の子を手に入れるため、白虎将軍にまで上り詰めた。
 妻を溺愛するけど、その妻を慮りすぎて、手を出せなくなる弱虫。
 かと思えば、妻の危地には、容赦なく牙を剥く。
 純愛。溺愛。盲愛。執愛。鍾愛。切愛。偏愛。
 いろんな愛があるけど、彼の与えてくれる愛が、わたしにとって至上の愛。

 「愛してるわ、明順ミンジュン

 少し体を反らして、彼の唇をとらえる。
 受け止めた彼は驚いたみたいだけど、ちゃんとお返しに、深くわたしに口付け直してくれた。

 ――あたしを忘れないで!

 両親が睦み合うことに、お腹の子がポコリと動いて抗議した。

     *     *     *     *

 これより数年後、即位した皇帝、諡景帝の皇后は、この白虎将軍の長女、呉慈恵スーフェイである。
 西方鎮守で生まれ育った彼女は、父親譲りの英明さと勇猛さで夫となった皇帝を補佐し、母親譲りの愛の深さと明るさで皇帝を抱きしめた。
 諡号、鍾愛猛虎皇后。

 鍾得愛的猫愛を知る猫は会変成猛虎猛虎となって為了保護心愛的人而愛する者を護るために有獠牙牙をむく

 愛する者のために。愛する者を護るために。
 猫は虎になって牙をむき戦う。そして、護られる者は、己のために虎になろうとした猫を、深く深く愛する。
 時に猫に戻って愛情を深くし、時に虎となって勇猛に戦う。
 これは、そんな皇后の両親の物語である。
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