思ってたのと違う! ――かもしれない。

若松だんご

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21.今日も一日、ご安全に

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 (ん、ぅ……)

 眠りから覚醒してくる瞬間。
 その時間が、とても好きだ。
 
 (朝……?)

 いつも同じ時間に起きているから。勝手に設定された体内時計が目覚めを促すのだろう。
 けど、まだまどろんでいたくて、トロンとした意識のまま転がり続ける。

 (気持ちいい……)

 頬に触れた彼の肌。伝わる温もりに、身をすり寄せる。
 目が覚めたことで、部屋の空気を冷たいと認識したから、なおさらその温もりが心地良い。

 (裸で寝ちゃったのか)

 昨夜の記憶。
 最後のほうがかなり曖昧だけど、多分いつものようにいっぱいセックスして、そのまま寝落ったんだと思う。すり寄せる私も彼もともに裸のまま。彼の腕を枕に、抱き合うようにして眠っていたらしい。

 (新崎くん……)

 あの夜、上書きをお願いしたあの日から、私たちの関係は変わった。
 偽装婚約。見せかけだけの恋人。
 新崎くんは、群がってくるお見合い案件避けのため。
 私は、棄てられた惨めな姉になりたくなくて。
 お互いの利益のために結んだ契約だったのに。

 ――僕は、但馬祥子さん。アナタが好きです。

 そう言ってくれた新崎くん。
 ずっと私を好きだったから。だから棄てられた私を放っておけなくて、その境遇をチャンスとばかりにつけこみ、契約に持ち込んだって謝ってくれた。
 けど。

 (――うれしい)

 ずっと好きでいてくれたこともなんだけど、それよりも正直に話してくれたこと、私を大事にしてくれたことが、すっごくうれしい。

 ――私も好き。

 無自覚に、でも私の中で確実に育っていた感情。
 おそらく、あの缶コーヒーを奢ってもらった時から。ずっとずっと私の中にあった感情。

 ――好き。

 その華奢で甘い印象のルックスが好き。仕事に熱心に打ち込む姿が好き。家族を大事にしてるのが好き。さり気なく私をいたわってくれるのが好き。私を「祥子さん」って呼んでくれる声が好き。仕草。匂い。何より、私を守ってくれる優しさが好き。
 誕生日を迎えて、彼より5つも年上の年増女になったけど、「好き」って感情はドンドン大きくなっていく。
 偽装じゃない、副社長秘書でもない。
 ただの但馬祥子として、純粋に彼が好き。

 思うと、それだけで「好き」が心に満ちて、感情に歯止めがきかない。少しだけ身を起こし、彼の形のいい唇にキスをする。ちょっと大胆。

 (穂積くん……)

 今はまだ名前を呼んだことはないけれど。いつか、恥ずかしがらずに名を呼んであげたい。呼んでみたい。

 (穂積くん……)

 キスしても起きない彼。乱れ、額にかかった髪を指で払い除ける。

 (まつ毛、長い……)

 いつもより若く幼く感じられる寝顔。整った印象が強いのに、どこかあどけなく見える。多分、少し唇を開いて寝てるせいだ。

 (かわいい)

 男の人に失礼かもしれないけど、それが一番ふさわしい形容だった。穂積くんの寝顔はとっても「かわいい」。
 その髪で見え隠れしてる耳も。スッキリした顎の形も。整った眉も。
 カッコいいのに、どこかかわいい。

 (おっと、いけない)

 これ以上見てたら、なんだかもっと触れたくなりそうだし。それに、たまには先に起きて朝食の準備を……って、ん?

 「――ねえ、起きてるの?」

 「フフッ、寝てますよ?」

 「ウソ!」

 だって、その手、私のお尻を掴んでるんだもん!
 目を閉じながら笑う新崎くんに抗議。

 「だって、祥子さんが僕にいっぱい触れるから。くすぐったくて」

 クスクスと笑い、目を開けた。

 「おはようございます、祥子さん」

 「おはよう……ございます」

 眠ってたはずの彼に、自分のやってたことがバレてて、すっごく恥ずかしい。恥ずかしいから、この場を逃げ出したいのに。

 「ひゃんッ!」

 片方の手が、お尻から足の間のくぼみへと滑り落ちる。

 「ダメですよ。今はこのまま一緒にいてください」

 「そんなこと、言ったってぇ、し、仕事がぁ、アァンッ!」

 ツプンと沈んだ指。裸で寝ちゃってたことが仇になった。

 「こんなに濡らして、仕事になるんですか?」

 「そ、それはぁ、あっ、あぅ……」

 浅く入り口だけをこすられる。

 「ほら、こんなに溢れてきた」

 クチクチと粘った音が、クチュクチュと溢れる水音に変化していく。

 「そ、それは、昨日のっ……、昨日、いっぱいエッチをしたからぁ……!」

 「それだけですか?」

 「わっ、わかってるくせにぃっ!」

 膣だけじゃない。彼の上に乗っかってるせいで、胸板に押し潰された胸も気持ちいい。触れる肌も。伝わる熱も。交わされたキスも。我慢できなくなって彼に口づけると、私の口腔に忍び込んできた彼の舌。
 
 「ンッ、フッ……」

 角度を変え、歯列を舐め、口蓋をなぞられ。背中がゾクゾク震え始める。
 たまらなくなって、私も舌を差し出し、絡め合う。より深く味わいたくて、口づける角度を変える。

 (もっと欲しい)
 
 どうにもならない欲望。
 小さな熾火でしかなかった欲望が、激しく燃える野火のように、一気に体中に広がっていく。
 新崎くんも同じなのか、グッと後頭部と腰を掴んで、抱き寄せられる。

 「アッ、ファ……」

 口づけの合間に息をする。
 抱きしめられ交わすキス。唇だけじゃない。下の膣口にも指が触れて、どっちにもキスされてるような感か……え? 指?
 蕩けかけた思考が少しだけ戻る。
 新崎くんの両手。それぞれ、私の後頭部と腰をガッチリ掴んでる。新崎くんに三本目の手なんてないのだから。もしかして、もしかすると、これは……。わざとそれをつつくように腰を動かしてみる。

 「ンッ、祥子さん、積極的ですね。そんなに欲しいんですか?」

 やっぱり! これ、指じゃなくて、新崎くんの朝立ちスタンダップだ!
 ヤバい。これ以上は――あ!

 「ヒャンッ!」

 グルンと、うつ伏せ四つん這いにされた体。驚く間もなく、ゴムをつけた新崎くんが戻ってきて。

 「アァン!」

 ズブリと後ろから突き立てられたそれに、声を上げる。

 「今日も一日ご安全に、ですよ、祥子さん。ゴムなしではあげません」

 「アッ、ア、アアッ……! 仕事っ、仕事、遅れちゃうっ、アアッ!」

 「構いません。一緒に遅刻しちゃいましょう」

 「そ、そんなぁ、あ、ンアッ!」

 「上司命令ですよ? 大人しく従ってください」

 ガンガンと頭の奥に響く快感の衝撃。ヤバい、この体勢。

 「祥子さん、後ろからするの、好きなんですね。締めつけが、半端ないっ!」

 「うあっ、ダメッ、ダメェ……!」

 枕を握りしめて耐えていたのに。肘を掴まれ身を起こされたせいで。

 「イッ、イクッ、イッちゃう、アッ、ああっ……!」

 「イッてください、僕も、限界、だっ……!」

 「アッ、アア――ッ!」

 絶叫。
 絶頂が突き抜ける。

 「祥子、さん……!」

 腰を震わせ、射精をくり返す新崎くん。

 「あ、ヒ、あ、あ……」

 目の前がチカチカする。
 後ろから新崎くんが抱きしめてくれなければ、そのまま崩れ落ちてたかもしれない。

 「――祥子さん。シャワー浴びましょうか」

 「え?」

 「ほらここ。汚れたままでしょ?」

 「あ、こら、ちょっと!」

 膣から抜け落ちた陰茎。代わりにまた指が沈む。

 「身だしなみを整えることは、社会人として重要なことですよ?」

 グチュグチュ。グチョグチョ。
 言ってることと指の動きは真逆。

 「ま、またお風呂場でヤるつもり、なんで、しょっ!」

 指に息が乱される。イッたばかりの体は敏感で。簡単に快感を拾い上げる。

 「祥子さんが望むなら、ですけど。でも、そんなことをしてたら、本当に遅刻しますよ?」

 「ば、バカァ……」

 そんなこと言うのなら、その指を止めなさいよ。
 いつの間にか二本に増やされた指。まだまだ元気な新崎くんのスタンダップ。

 結局。
 その日はやり過ぎで、二人仲良く遅刻した。
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