ワケありなのに、執事がはなしてくれません!? ~庶子令嬢は、今日も脱出を試みる~

若松だんご

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第4話 すべては(執事の)お気の召すまま。

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 気をつけなくちゃ……って言っても。

 (具体的に、何をどうしたらいいのか、わかんないのよね)

 イキナリ名探偵にでもなれるわけじゃないし。「犯人はアイツだ!!」「黒幕はコイツだ!!」ってひらめけるはずがない。そもそも決めつけるだけの証拠がない。
 普通に、令嬢らしくホテルで漫然と暮らすしかない現状。
 食事は、ホテルのダイニングで。ここでなら、給仕はキースたちではなく、ホテル専属の者たちがやってくれる。客もそれなりにいるし、給仕もそれなりの数。アタシのだけ毒を入れる……なんて難しそうだし、大丈夫だろう。
 念のためと、銀のカトラリーで食べ物に触れて変化を確認してから食べてる。毒が入ってると銀が黒ずむっていうし。今のところ、黒ずみ、変化――ナシ。

 「――何?」

 「いえ。お嬢様は猫舌なのですか?」

 わざとゆっくり振る舞ってたからだろう。苦笑をこらえたキースの言葉。

 「……そうね、とぉぉぉぉっても熱いのが苦手なのよ」

 ウソ。ホントはもっと早く食べたい。こんなチンタラ食べるのは性に合わない。アタシだってホントはもっと温かいまま食べたい。

 「承知いたしました。これからは、お嬢様の召し上がる飲み物もすべて冷ましておきましょう」

 いや、それは困る。

 「冗談ですよ」

 クスクス笑うクソ執事。

 「大丈夫ですよ。ここのものは都でも最高クラスのものですから。安心してお召し上がりください」
 
 あ、銀器で確認してたの、バレてたのね。うれしくないけど。
 最高クラスだとなぜ安心なのかはわかんないけど、とりあえず毒殺する気はないってことね。ま、兄さまが亡くなってすぐに妹も死んだら不審に思われるもんね。殺すなら、もっとゆっくるやるってか。不本意だけど。

 食事が終わってしまえば、あとは、基本、部屋で過ごす。部屋にいる間、特にキースがやることもないし、部屋に常駐しているわけでもない。接触も少ないので危険度も低い。

 問題があるとすれば、それは買い物。

 寄宿学校から、たいした荷物も持たずに出てきた。というか、寄宿学校で着ていたドレスはどれも質素で、時代遅れ。生前、兄さまはその辺を気にしてドレスを贈ってくださってたけど、男性が用意するには限界があって、アタシの手持ちは普通の令嬢のそれより格段に少ない。
 このまましばらく王都に滞在するのなら、誰かに呼ばれるようなことがあったりしたときのために、ドレスや身の回りのものを新調する必要があった。
 寄宿学校で着ていたもののほうが、肌に馴染んでるし、動きやすいし。楽だし。個人的には、そんな贅沢なものいらないって言いたいんだけど。

 「子爵令嬢が、そんなことではいけませんよ」

 やんわりと、キースに注意された。
 これから、男を捕まえにいく令嬢として、装いには気を使わなくてはいけないんだってさ。キレイに着飾り社交界に出ることで、アタシを気に入ってくれる男性が現れるかもしれないからって。ドレスは勝負服。戦いに出る戦士の鎧のようなもの。
 でも、正直、高い。
 髪飾り一つ、襟のレース飾り一つに、アタシは驚いてしまう。

 「どうされましたか?」

 キースに連れてこられたお高そうな店。「これはどうでしょう」「こちらは最新のモードで」と、カウンターに広げられたレースにため息をついてたら、そっと後ろから店員に訊ねられた。

 「お気に召しませんか?」

 「え!? ああ、そういうのじゃないの。うん、ステキなレースよ。キレイだわ」

 アタシがそう言うことで、目の前の店員の顔がホッと緩む。ああ、そうか。お客が浮かない顔をしてたら気になるわよね。

 「では、このレースをあしらったドレスを新調しても?」

 「え、ええ。お願いするわ」

 「では次に、こちらのテキスタイルをご覧ください」

 スッと、目の前に出されたドレスのテキスタイル。レースの比じゃない。辺り一面を埋め尽くす勢いのテキスタイル。
 いったい何枚あるのよーっ!! って叫びたい。もう、ウンザリ。
 普通の女の子みたいに、キレイだな、ステキだなって思わないわけじゃないけど。何枚も何枚も見せられると、もう、どれがなんだか。

 「あと、生地もお選びいただいてもよろしいでしょうか、お嬢さま」

 うっ。

 もう、なんでもいい。なんでもよろしくしてください、好きにしてって気分になるけど。

 「もしよろしければ、僭越ながら、わたくしがお選びいたしましょうか、レディ」

 え!? ちょっ、執事のアンタが選ぶの?
 そりゃ、選んでくれるっていうのなら、「助かる」の一言だけどさ。

 「そうですね、ティーナさまでしたら、その御髪の色が映えるように、こちらの生地はいかがでしょう」

 取り出されたのは、濃いめのピンクの生地。光沢のあるサテン地で肌触りはよく、サラッと気持ちいい。

 「これに、先ほどのレースを合わせましょう。真珠をあしらってもよろしいかと。レースと合わせることで、さらに可憐な印象になりますよ」

 いや、ちょっと待って。
 真珠だの、レースだの、可憐だの。
 男の、仮にも執事がどうこう言うものなの?
 そういうのは、女の仕事。たとえば、小間使いとか、女性が口出しするもんじゃないの?

 でも、キースの選んだものは、アタシをはじめ店員も納得するような、素晴らしいとりあわせだった。センスがある、の一言では済ませられないレベル。コイツ、いったいどこでドレスの知識、手に入れたんだろう。

 「どうかいたしましたか?」

 アタシの視線に気づいたのか、キースが少し困ったような顔で微笑んだ。

 「いや、ドレスまで選べる執事って、なかなかいないよな~って思ったから」

 「ティーナさまのお世話を仰せつかってから覚えたのでございますよ。わたくしのセンスで、お気に召していただければよろしいのですが」

 その態度はどこまでも丁寧。謙虚。

 「ただ、いつまでもわたくしが選んで差し上げると言うのもおかしな話ですので。近いうちに、お嬢さまつきの小間使いを雇わねばいけませんね」 

 まあ、普通そうだよね。レディの外出につきそうのは、執事ではなく小間使い。身の回りの世話だって、小間使いの仕事。このキースだって、本来は兄さまの執事だったってだけで、ボードウィン卿から臨時の仕事を仰せつかってるだけで。女性は女性に世話されるのが当たり前。

 「でも、アタシなんかに仕えてくれる小間使いなんているかしら」

 つい、本音がこぼれる。
 一応、女子相続人となったものの、庶子だし。領地に帰れば、相続を認めない親族もいる。
 寄宿学校でレディーとして教育を受けはしたけど、それは、ほんの三年前からの話。アタシ、お兄さまが家督を継いでアタシを妹と認めてくださるまで、子爵家に関係ない生活を送ってた。母さんと一緒に下町で暮らしてた。自分が子爵家の娘だってことも知らなかった。生い立ちからして普通のお嬢さまとはちょっと違う。そういう意味では、いわくつきの変わり者令嬢。
 そんなアタシに、よろこんで仕えてくれる小間使いがいるとは思えない。
 それに、今は身の危険もあるし。下手すると、巻き込んじゃうし。

 「大丈夫ですよ。心配ありません」

 サラリとキースが答える。

 「お嬢さまは、謙虚で控え目な性分でいらっしゃいますから。きっと、小間使いも喜んでお仕えするかと」

 ドレス選びに積極的でない態度を、謙虚で控え目と表現された。
 う~ん。
 モノは言いようだな。
 ホントは、面倒で訳が分からなくなってただけなのに。
 まあ、世の中のお嬢さまなら、自分の好み、似合う似合わないを熟知していて、ドレス作りには、イロイロ口出しするんだろうけど。その場合、ドレス一着作るだけで、ものすごい体力と精神力を消費しそう。アタシにはムリ。

 「小間使いの件は、ボードウィン卿にも相談しておきましょう。この先、お嬢さまのお世話をわたくしがすると申しましても、ドレッシングルームにまでお邪魔することは出来ませんからね」

 ドレッシングルーム。着替え、ヘアメイクなどをする部屋。女性だけの空間。もちろん、男子禁制(基本)。
 いや、そこまで入ってくる執事はいないわ。さすがに、入ってきてほしくない。

 「ねえ、もしかして、髪をドレスアップ……、できたりするの?」

 「ええ、一応は。お嬢さまにふさわしい髪型をご提案できるかと」

 おいおいおいおい。
 それって、執事の仕事の範囲なの!?
 というか、これって危険なんじゃない!?
 小間使いが見つからないまま社交界に出ることになったら、この執事がドレスだのなんだので、アタシに関わりに来ることになっちゃうんだよ!?
 ドレスのセンスを見る限り、髪型のチョイスも結構いい線いきそうだけど。それでいいの?
 アタシを殺そうとしてるかもしれない、得体の知れない執事だよ?

 「……なるべく早く、小間使いをお願いします」

 「承知いたしました。マイ・レディ」

 気を悪くしたでもなく、軽く頭を下げられる。
 身の安全のためにも、小間使いは必須かもしれない。
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