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第6話 少女が手にする花言葉。
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ガラガラと、石畳を踏みしだく音を立てて、馬車は郊外へと向かう。
(この先、どうやって逃げ出そう)
キースは一緒に乗り込んできたけど、特に話すこともないし、話したくもないので一人悶々とこれからのことを考える。
本音で言えば、このまま馬車が渋滞とかに巻き込まれたスキにでもバッと飛び降りて、そのままトンズラしたい。「サヨナラ、アデュー、わたくしこのまま街で暮らしますわ~、さよ~なら~」みたいな。
でも、そんなわけにはいかないし。仮にもご令嬢なんだし。それに、そんなことしても、あっさりキースに捕まりそうだし。
ムムム。
なら、墓地で逃げ出す?
花でも買ってきてとか命じて、そのスキに?
いやいや、そんなもの頼んだって、「これをどうぞ、レディ」とかなんとか言って、手品みたいに花束を差し出されそうよ。「馬車のついでにご用意いたしました」とか。
なんていうのか、行動のすべてを先回りされそうなのよね。ってか、されてる。ただいま実行中。
なら、逃げ出すのを諦めて、敵と戦う?
アタシを殺そうとするヤツ。コイツとグルになってるのか、コイツの親玉なのかは知らないけど、とにかくアタシを邪魔に思ってるそういうヤツ。多分、子爵家の財産を狙ってるんだろうから、領地にいるっていう親族とかそういうのだと思うんだけど。
でも、どうやって敵と戦う?
敵はそう簡単に姿を現さない。いや、コイツみたいに姿を現してはいるけど、その親分は背後にスッポリ隠れちゃってる。じゃあコイツをぶっ倒して、「出てこい、親玉!!」って叫べばなんとかなる? うーん。
とりあえずは、こちらの身を守りながら、(ぶっ倒すという意味の)解決を目指して糸口を見つけたほうがいいかな。もちろん、その途中であっても、逃げ出す算段ができたら、とっとと逃げ出す。
兄さまには悪いけどさ、アタシ、子爵家になんの未練も思い入れもない。アタシを殺してでも手に入れたいのなら、「はい、どうぞ」ってリボンをつけて渡してあげたいぐらい。「これ差し上げますから、命ばかりはご勘弁を~」なんて、手を合わせてお願いするわけじゃない。「こんなもん、くれてやるから、アタシをとっとと自由にしろ!!」って、その顔面にベシッと叩きつけてやりたい。兄さまは、アタシが子爵令嬢として暮らすことを望んでたみたいだけど、アタシ、街で暮らすの嫌じゃなかったし。まあ、多少は? ひもじい思いもしたけどさ。命を狙われてまでしてしがみつく立場はないのよね、子爵令嬢って。
「着きましたよ、レディ」
アタシが思案してる間、ずっと黙ったままだった執事が言った。馬車の窓の外には、教会。それと墓地。
ああ、結局逃げ出せないまま着いちゃったか。
それならそれで、兄さまのお墓参りしておくか。ついでに、逃げる口実に使おうとしたことも謝っておこう。
「お花、お花はいかがですかぁ」
馬車の扉が開き、降り立ったアタシたちの前に小さな子供が駆け寄ってくる。花束の入ったカゴを持ってる。身なりはあまりキレイじゃない。貧しい小さな花売りの女の子。
墓地に来たということは、墓を参るということ。墓を参るということは、花を供えるということ。だから、こうしてここを訪れる人に花を売ることで生計を立てているんだろう。自分が思う最高の一品をアタシに向けて見せてくる。
(あれ――?)
「珍しい花ね」
子供が差し出した花束の中心にあったのは、濃い緑の茎とシュッとした葉を持つ、小さな白い花。うつむきがちに咲く可憐な花だけど……。
「スノードロップだよ。あっちで咲いてた」
子供が指さしたのは、教会の片隅。いや、あそこって、「花壇」って言うんじゃないの? それ「咲いてた」んじゃなくて、「誰かが育ててた」んじゃあ。
2月に教会で行われる聖燭祭。聖母マリアさまに捧げられる花だったよね、スノードロップって。だとしたら、それ、聖燭祭用に育てられてたんじゃあ……。それを無断で引っこ抜いて売り物にしてるの?
普通、こういう売り物の花は市場で仕入れてくるから、「あっちで咲いてた」産は……。これ買ったとして、アタシ、教会の人に叱られない?
「ねえ、買っておくれよ」
戸惑うアタシに、子供は必死だ。
「買ってもらえないと、父ちゃんにぶたれちまう」
え?
「この役立たずって殴られて、ジンの代わりに売り飛ばされちまう」
ええ?
驚き見れば、子供はまだ幼い。多分十二、三歳前後。
垢じみたスカートの下に覗くのは素足。ショールすらない。そんな格好で客を待っていたからか、顔は少し青ざめてる。
こんな小さな子を殴るの? こんな寒空の下で健気に頑張ってる子を?
売り飛ばすの? 酒代がわりに?
花売りは貧しい子供でもできる仕事。男の子なら煙突掃除。女の子なら花売り。他にも炭鉱労働、道路掃除、靴磨き、お針子、女工、マッチ売りなんかがある。パブで雇われたりどこかのお屋敷の召使いになれたらラッキー。だけど、そんなラッキーはそうそうどこにでも転がってるわけじゃない。
食べるためには、生きてくためにはどんなことでもする。
子爵令嬢として迎えられる前、アタシにだって経験はある。母さんが病気で動けなくなった時は、アタシも花売りをしていた。花はいつでも売れるわけじゃない。ロクに売れなくて、何も食べるものを買えなくて、トボトボ帰ったアタシを「おかえり」と温かく迎え入れてくれた母さん。お腹も空いて、寒くて仕方なかったけど、それでも母さんと一緒にいれば、とっても楽しい気分になれた。
「ねえ、お願いだよ、買っておくれよ」
だけどこの子には、それがない。貧しくても幸せに暮らせる温かさがない。
「いいわ。買うわ。――キース」
軽くふり向いてキースに支払いを命じる。なんでもご令嬢たるもの、自分でお金を持ち歩いたり、支払いをしてはいけないんだって。ああ、めんどくさ。
アタシの答えに子供の顔がパアッと明るくなる。この子をもっと助けてあげたいけど、アタシにそこまでの権限はないし……。アタシだってどうなるかわからないんだし……。
「承知いたしました、レディ。――ですが」
シュッと素早く動いたキース。アタシより前、アタシと子供の間に割り込むと、そこにあった小さな花束を叩き落とした。
「あっ、ちょっ、何するのよ!!」
受け取りそびれた花束が、クシャッと地面に落ちる。子供も「あっ」と短く声をあげたっきり、うつむいてしまった。
「失礼。そこに蜂がおりましたもので」
「蜂ぃいぃぃ~~っ!?」
声がひっくり返った。
この季節に!? 蜂!?
こんな雪が降りそうな寒空に、蜂なんているわけないでしょ!!
どうせ、「そんなみすぼらしい花を供えては恥となります、レディ」とか「そんな勝手に取ってきた花を買っては、家名に傷がつきます、レディ」とかそういうろくでもない理由なんでしょ。
この子がどんなに必死に健気に頑張ってるかとか、売れなかったらどうなるかとか、そういうこと一切加味しないで。
ちょっと、キース!! この子を見なさいよ!!
アンタに花を叩き落されたせいで、さっきからずっとうなだれてるじゃない。かわいそうに。アンタには、良心とか親切心とかそういう人としてあるべきもの、ないの?
「ごめんね」
膝を折り、肩に手を添え、子供と同じ目線になる。
「でもちゃんとお代は支払うわ。キース」
強めに名前を呼び、言外に命じる。倍のお値段、払ってもいいぐらいよ、まったく。
「……いいの?」
子供の薄汚れた顔に、少しだけ晴れやかな笑顔が浮かぶ。
あれ? この子、汚れてるから気づかなかったけど、ちょっとかわいい? よく見れば、かわいいし、それに賢そうな顔をしてる。滅多に客は来ないかもしれないけど、来たらちゃんと花を買ってくれるだろうことを予測できるだけの頭の良さがある。
これって、もしかしたら――。
「ねえ。もしよかったら、アタシのとこで働いてみない?」
「お嬢さま!!」
キースが慌てたように抗議した。「慌てた」って、この男にしてはすっごく珍しいんじゃない? いっつも「余裕」ってかんじで「泰然」と構えられてばっかだったし。
「あら、いいじゃない。どうせ、アタシみたいな特殊すぎる子爵令嬢に仕えてくれる小間使いなんていないわよ」
ボードウィン卿が命じたりすれば、そりゃあ誰か、いやいや渋々でもやってくれるかもしれないけどさ。そんなヤル気ゼロの人に「お嬢さま」って言われてもうれしくない。
それに、こうしてコイツにも誰にも縁もゆかりもなさそうな子なら、アタシは安全だろうし。キースの手駒で囲まれる前に、アタシも自分の駒を手に入れたい。まあ、この子は幼すぎて、「駒」にするのは難しいかもしれないけど。
「ってことで、アナタ、アタシの小間使いにならない? 嫌なら断ってくれてもいいけど」
「……いいの?」
「モッチロン♪ 逆に、こっちが『アタシでよければ』って言いたいぐらいなの。アタシ、そんなちゃんとした令嬢じゃないし、昔、おんなじように花売りしてたこともあるし」
「そうなの?」
「うん。だから、アナタのこと、少しでも助けたいなって思ったんだけど、――ダメ?」
子供が、アタシとキースの顔を何度もくり返し交互に見る。
「いい」というアタシ、口を曲げたままのキース。そのどっちを頼ればいいのか。信じていいのか。ついていっても大丈夫なのか。これからの生活は? 食べ物は? 残った家族は?
多分、いろんなことを秤にかけて、いろんなことを悩んでるんだろう。
そして。
「わかった。あたい、小間使いになるよ」
子供の天秤は、大きくアタシに傾いた。
「アナタ、名前は?」
「――ジュディス」
「じゃあ、ジュディス。これからよろしくね」
「うん!! よろしく、お嬢さま!!」
ジュディスの顔が夏の太陽よりも明るく輝く。見てるアタシもなんかうれしい。
「――仕方ありませんね」
そんなアタシたちの後ろで、キースが天に向かって嘆息する。
なんか、この執事に一矢報いてやったような気分。やったね!!
(この先、どうやって逃げ出そう)
キースは一緒に乗り込んできたけど、特に話すこともないし、話したくもないので一人悶々とこれからのことを考える。
本音で言えば、このまま馬車が渋滞とかに巻き込まれたスキにでもバッと飛び降りて、そのままトンズラしたい。「サヨナラ、アデュー、わたくしこのまま街で暮らしますわ~、さよ~なら~」みたいな。
でも、そんなわけにはいかないし。仮にもご令嬢なんだし。それに、そんなことしても、あっさりキースに捕まりそうだし。
ムムム。
なら、墓地で逃げ出す?
花でも買ってきてとか命じて、そのスキに?
いやいや、そんなもの頼んだって、「これをどうぞ、レディ」とかなんとか言って、手品みたいに花束を差し出されそうよ。「馬車のついでにご用意いたしました」とか。
なんていうのか、行動のすべてを先回りされそうなのよね。ってか、されてる。ただいま実行中。
なら、逃げ出すのを諦めて、敵と戦う?
アタシを殺そうとするヤツ。コイツとグルになってるのか、コイツの親玉なのかは知らないけど、とにかくアタシを邪魔に思ってるそういうヤツ。多分、子爵家の財産を狙ってるんだろうから、領地にいるっていう親族とかそういうのだと思うんだけど。
でも、どうやって敵と戦う?
敵はそう簡単に姿を現さない。いや、コイツみたいに姿を現してはいるけど、その親分は背後にスッポリ隠れちゃってる。じゃあコイツをぶっ倒して、「出てこい、親玉!!」って叫べばなんとかなる? うーん。
とりあえずは、こちらの身を守りながら、(ぶっ倒すという意味の)解決を目指して糸口を見つけたほうがいいかな。もちろん、その途中であっても、逃げ出す算段ができたら、とっとと逃げ出す。
兄さまには悪いけどさ、アタシ、子爵家になんの未練も思い入れもない。アタシを殺してでも手に入れたいのなら、「はい、どうぞ」ってリボンをつけて渡してあげたいぐらい。「これ差し上げますから、命ばかりはご勘弁を~」なんて、手を合わせてお願いするわけじゃない。「こんなもん、くれてやるから、アタシをとっとと自由にしろ!!」って、その顔面にベシッと叩きつけてやりたい。兄さまは、アタシが子爵令嬢として暮らすことを望んでたみたいだけど、アタシ、街で暮らすの嫌じゃなかったし。まあ、多少は? ひもじい思いもしたけどさ。命を狙われてまでしてしがみつく立場はないのよね、子爵令嬢って。
「着きましたよ、レディ」
アタシが思案してる間、ずっと黙ったままだった執事が言った。馬車の窓の外には、教会。それと墓地。
ああ、結局逃げ出せないまま着いちゃったか。
それならそれで、兄さまのお墓参りしておくか。ついでに、逃げる口実に使おうとしたことも謝っておこう。
「お花、お花はいかがですかぁ」
馬車の扉が開き、降り立ったアタシたちの前に小さな子供が駆け寄ってくる。花束の入ったカゴを持ってる。身なりはあまりキレイじゃない。貧しい小さな花売りの女の子。
墓地に来たということは、墓を参るということ。墓を参るということは、花を供えるということ。だから、こうしてここを訪れる人に花を売ることで生計を立てているんだろう。自分が思う最高の一品をアタシに向けて見せてくる。
(あれ――?)
「珍しい花ね」
子供が差し出した花束の中心にあったのは、濃い緑の茎とシュッとした葉を持つ、小さな白い花。うつむきがちに咲く可憐な花だけど……。
「スノードロップだよ。あっちで咲いてた」
子供が指さしたのは、教会の片隅。いや、あそこって、「花壇」って言うんじゃないの? それ「咲いてた」んじゃなくて、「誰かが育ててた」んじゃあ。
2月に教会で行われる聖燭祭。聖母マリアさまに捧げられる花だったよね、スノードロップって。だとしたら、それ、聖燭祭用に育てられてたんじゃあ……。それを無断で引っこ抜いて売り物にしてるの?
普通、こういう売り物の花は市場で仕入れてくるから、「あっちで咲いてた」産は……。これ買ったとして、アタシ、教会の人に叱られない?
「ねえ、買っておくれよ」
戸惑うアタシに、子供は必死だ。
「買ってもらえないと、父ちゃんにぶたれちまう」
え?
「この役立たずって殴られて、ジンの代わりに売り飛ばされちまう」
ええ?
驚き見れば、子供はまだ幼い。多分十二、三歳前後。
垢じみたスカートの下に覗くのは素足。ショールすらない。そんな格好で客を待っていたからか、顔は少し青ざめてる。
こんな小さな子を殴るの? こんな寒空の下で健気に頑張ってる子を?
売り飛ばすの? 酒代がわりに?
花売りは貧しい子供でもできる仕事。男の子なら煙突掃除。女の子なら花売り。他にも炭鉱労働、道路掃除、靴磨き、お針子、女工、マッチ売りなんかがある。パブで雇われたりどこかのお屋敷の召使いになれたらラッキー。だけど、そんなラッキーはそうそうどこにでも転がってるわけじゃない。
食べるためには、生きてくためにはどんなことでもする。
子爵令嬢として迎えられる前、アタシにだって経験はある。母さんが病気で動けなくなった時は、アタシも花売りをしていた。花はいつでも売れるわけじゃない。ロクに売れなくて、何も食べるものを買えなくて、トボトボ帰ったアタシを「おかえり」と温かく迎え入れてくれた母さん。お腹も空いて、寒くて仕方なかったけど、それでも母さんと一緒にいれば、とっても楽しい気分になれた。
「ねえ、お願いだよ、買っておくれよ」
だけどこの子には、それがない。貧しくても幸せに暮らせる温かさがない。
「いいわ。買うわ。――キース」
軽くふり向いてキースに支払いを命じる。なんでもご令嬢たるもの、自分でお金を持ち歩いたり、支払いをしてはいけないんだって。ああ、めんどくさ。
アタシの答えに子供の顔がパアッと明るくなる。この子をもっと助けてあげたいけど、アタシにそこまでの権限はないし……。アタシだってどうなるかわからないんだし……。
「承知いたしました、レディ。――ですが」
シュッと素早く動いたキース。アタシより前、アタシと子供の間に割り込むと、そこにあった小さな花束を叩き落とした。
「あっ、ちょっ、何するのよ!!」
受け取りそびれた花束が、クシャッと地面に落ちる。子供も「あっ」と短く声をあげたっきり、うつむいてしまった。
「失礼。そこに蜂がおりましたもので」
「蜂ぃいぃぃ~~っ!?」
声がひっくり返った。
この季節に!? 蜂!?
こんな雪が降りそうな寒空に、蜂なんているわけないでしょ!!
どうせ、「そんなみすぼらしい花を供えては恥となります、レディ」とか「そんな勝手に取ってきた花を買っては、家名に傷がつきます、レディ」とかそういうろくでもない理由なんでしょ。
この子がどんなに必死に健気に頑張ってるかとか、売れなかったらどうなるかとか、そういうこと一切加味しないで。
ちょっと、キース!! この子を見なさいよ!!
アンタに花を叩き落されたせいで、さっきからずっとうなだれてるじゃない。かわいそうに。アンタには、良心とか親切心とかそういう人としてあるべきもの、ないの?
「ごめんね」
膝を折り、肩に手を添え、子供と同じ目線になる。
「でもちゃんとお代は支払うわ。キース」
強めに名前を呼び、言外に命じる。倍のお値段、払ってもいいぐらいよ、まったく。
「……いいの?」
子供の薄汚れた顔に、少しだけ晴れやかな笑顔が浮かぶ。
あれ? この子、汚れてるから気づかなかったけど、ちょっとかわいい? よく見れば、かわいいし、それに賢そうな顔をしてる。滅多に客は来ないかもしれないけど、来たらちゃんと花を買ってくれるだろうことを予測できるだけの頭の良さがある。
これって、もしかしたら――。
「ねえ。もしよかったら、アタシのとこで働いてみない?」
「お嬢さま!!」
キースが慌てたように抗議した。「慌てた」って、この男にしてはすっごく珍しいんじゃない? いっつも「余裕」ってかんじで「泰然」と構えられてばっかだったし。
「あら、いいじゃない。どうせ、アタシみたいな特殊すぎる子爵令嬢に仕えてくれる小間使いなんていないわよ」
ボードウィン卿が命じたりすれば、そりゃあ誰か、いやいや渋々でもやってくれるかもしれないけどさ。そんなヤル気ゼロの人に「お嬢さま」って言われてもうれしくない。
それに、こうしてコイツにも誰にも縁もゆかりもなさそうな子なら、アタシは安全だろうし。キースの手駒で囲まれる前に、アタシも自分の駒を手に入れたい。まあ、この子は幼すぎて、「駒」にするのは難しいかもしれないけど。
「ってことで、アナタ、アタシの小間使いにならない? 嫌なら断ってくれてもいいけど」
「……いいの?」
「モッチロン♪ 逆に、こっちが『アタシでよければ』って言いたいぐらいなの。アタシ、そんなちゃんとした令嬢じゃないし、昔、おんなじように花売りしてたこともあるし」
「そうなの?」
「うん。だから、アナタのこと、少しでも助けたいなって思ったんだけど、――ダメ?」
子供が、アタシとキースの顔を何度もくり返し交互に見る。
「いい」というアタシ、口を曲げたままのキース。そのどっちを頼ればいいのか。信じていいのか。ついていっても大丈夫なのか。これからの生活は? 食べ物は? 残った家族は?
多分、いろんなことを秤にかけて、いろんなことを悩んでるんだろう。
そして。
「わかった。あたい、小間使いになるよ」
子供の天秤は、大きくアタシに傾いた。
「アナタ、名前は?」
「――ジュディス」
「じゃあ、ジュディス。これからよろしくね」
「うん!! よろしく、お嬢さま!!」
ジュディスの顔が夏の太陽よりも明るく輝く。見てるアタシもなんかうれしい。
「――仕方ありませんね」
そんなアタシたちの後ろで、キースが天に向かって嘆息する。
なんか、この執事に一矢報いてやったような気分。やったね!!
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