ワケありなのに、執事がはなしてくれません!? ~庶子令嬢は、今日も脱出を試みる~

若松だんご

文字の大きさ
8 / 22

第8話 いざ出陣。お茶会結婚斡旋所。

しおりを挟む
 社交界にデビューも果たしていない子女が参加できるイベントは、さほど多くない。
 それに、アタシはまだお兄さまの喪中。普段のドレスは黒となっているし、そうそう華やかな場所にお呼ばれするわけにはいかない。
 だから、社交の場といえば、公園とかレストランとか、そういう場所に限られてくるんだけど。ドレスを何着仕立てたって、着ていける場所は限定されているんだけど。

 「お嬢さま、アフタヌーンティーの招待状が届いております」

 部屋で暇してたアタシの前、スッと銀色のお盆に載せて差し出された一通の招待状。
 ちゃんと蝋封されたその招待状の差出人は――。

 「……ランチェスター伯爵夫人?」

 誰、それ。

 「ローランドさまが懇意にされていた方ですよ。大変気さくな方ですから、一度、招待されてみては!?」
 
 「でも、アタシが伺ってもいいのかしら」

 庶子で、兄弟を亡くした喪中の女。兄弟に成り代わって子爵家を乗っ取った女。それが、兄の知り合いというだけで、参加してもいいのだろうか。ずうずうしくないだろうか。そういう集まりに一度も参加したことないから、ちょっと緊張する。

 「晩餐会とかではございませんから。気軽に参加されてもよろしいのでは?」

 確かに。アフタヌーンティーなら、気軽に伺って、挨拶を交わすぐらい。たいしたことない。

 「少しづつ社交の範囲を増やしていくためにも、是非」

 まあ、確かにそうよね。
 公園や買い物に出るよりも確実に世界が広がる。誰かと知り合うキッカケにもなる。
 喪中だから、庶子だから。
 そんな状況を、相手方、ランチェスター伯爵夫人も承知したうえで、招待状を出している。なら、遠慮することないのかもしれない。

 「そうね、参加してみようかしら」

 気軽に伺って(出来るかな?)、少しおしゃべりして(出来るのかな?)、お茶を楽しんで(出来るのかなぁ!?)、人脈を広げて(出来るのかなあぁぁ!?)。――不安。

 「では、先日のドレスの仕上がりを急がせましょう」

 あの、キースのセンスで選ばれた生地のドレス。濃い目のピンクのドレスは、多分、アフタヌーンティーという空間で、とても映えるに違いない。着るのがアタシでなければ――の話だけど。

*     *     *     *

 「ようこそ、ティーナさん。お会いできてうれしいわ」

 明るい日差しの差し込むドローイングルームに通されたアタシを出迎えてくれたのは、上品な雰囲気を漂わせる女性、ランチェスター伯爵夫人。少しふくよかな顔立ちが、優し気に微笑む。

 「お兄さまのこと、大変でしたわね。彼が繋いでくれた縁よ。これからも、こうして訪れてくださるとうれしいわ」

 「ありがとうございます、伯爵夫人」

 金縁のバラのあしらわれたティーカップで、紅茶をいただく。室内のところどころに配されたバラの花、シワひとつない上質なリネン。決して華美ではない。けれど、上品にまとめられた空間。その一つ一つが、夫人のセンスのよさと、気品と人柄を伝えてくる。
 ちょうど、今、この屋敷を訪れているのは、アタシと数人の貴婦人だけだった。みんな、夫人とよく似た年齢。おそらく、40代以上。うっかりすると、アタシの母親と言ってもおかしくない歳の人もいる。
 よって、会話がどういうことになるかというと……。

 「こんな、若いお嬢さんとお知り合いになれるなんて、わたくしたちも華やぎますわね」

 「ええ。メイフォード卿に、こんな素敵な妹さんがいらしたなんて。わたくし、存じませんでしたわ」

 「瞳の色が、お兄さまと同じなんですのね。かわいらしいわ」

 「わたくしも、こんな素敵な娘が欲しかったわね」

 「ああ、アナタのところは、息子さんばかりでしたものね」

 「そうなのよ。ああ、でも、こんなにかわいらしい娘がいたら、きっとヤキモキしてしまっていたかもしれないわ」

 「誰かに、さらわれそうで?」

 「そうね。社交界にデビューしたら、世の男性は、ほっとかないんじゃないかしら」

 「求婚者が、列をなしてくるかもね」

 「それは、選ぶ楽しみと、追い払う楽しみが出来そうだわ」

 ……なんか、ネタにされ言われ放題なんですが。
 素敵だの、かわいいだの。多分、これまでの人生で、一番褒められたんじゃないだろうか。一生分をここで聞いた気がする。
 ほめられるのが悪いわけじゃない。けど、こういう場合、どういう顔していればいいんだろう。
 お礼を言う!? 謙遜する!? それとも、はたまた当然って顔をする!?(それはないか) 
 どうしていいかよくわからなくなて、微妙な笑顔をするしかなくなる。

 「皆さま、そんなふうにおっしゃっていては、ティーナさんが困っていらしてよ」

 助け船を出してくれたのは伯爵夫人だった。

 「あら、夫人。彼女のお世話をしたい。一番そう思っていらっしゃるのは、ご自身ではございませんこと?」

 え!?

 「そうですわ。メイフォード卿の妹さんの結婚のお世話をしたいと、以前からおっしゃっていらしたものね」

 ええっ!?

 「あら、いやだわ、皆さま。わたくし、卿の代わって、お嬢さんを幸せにして差し上げたいって申したまでですわよ」

 「それが、結婚のお世話でございましょう? 女性が幸せになるには、ステキな伴侶が必要なのですから」

 女性が幸せになるためには、夫となる男性の存在が欠かせない。
 多分、それが上流社会の基本なのだろう。女性が独身で、暮らしていくという道は、頭の片隅にも思い浮かばない。女はいつか結婚し、子を産み育てるもの。夫の身分、社会的地位、財産。それが、女性の生活、人生を大きく左右する。夫と二人で、家を守り、盛りたて、子孫へ受け継いでいく。

 「それで? ティーナさんは、どのような男性を望んでいらっしゃるの?」

 「えっ!?」

 「もちろん、子爵家につり合うだけの家の格とかもありますけど、それ以外に、男性に望まれることはなにかしら」

 ここは、結婚斡旋所!? アタシの周りは全員仲介人!?
 ご婦人方の、好奇な目線がアタシに集まる。

 「えと……、その……」

 (いきなりそんなこと訊かないで――っ!!)

 そんなの、考えたことない。結婚なんてまだまだだと思ってたし、家を継ぐって言われても、まだピンとこない状態だし。っていうか、結婚どころの状況じゃないし!!

 「やはり、優しさかしら? それとも男らしさ?」

 「自分をただ一人の女性として、心から愛してくれるのも大事ではなくって?」

 「そうね。愛されてこそ、幸せになれるってものですわ」

 「でも、財力もなければ、幸せになれませんわよ。ドレスすら新調できなくなっては悲しいですもの」

 「それに、容姿だって重要ですわ。ティーナさんの愛らしさを引き立てるだけの男性でなければ、わたくし、認めたくありませんわ」

 「そうねえ。でも、そんな素敵な殿方だと、他の女性からアプローチされそうね」

 「そこがいいのよ。ティーナさんだけじゃない。他の女性を惹きつけるだけの魅力を持ちながら、ティーナさんだけを一途に愛し、守ってくれる騎士ナイトのような男性。素晴らしいわ」

 「まあ、ロマンス小説のようね」

 「だけどそんな恋、憧れますわ」

 え、えーっと。

 「そうだわ、ティーナさん。今度、わたくしの家の舞踏会にいらっしゃいな。素敵な殿方に出会えるかもしれなくってよ」

 「そうね。それがいいわ。こんなかわいらしいお嬢さんがいらしてくだされば、場も華やぎますし。ぜひ、わたくしの家にもいらしてほしいわ」

 「うちにもいらしてくださいね。そうとなれば、早速、これといった殿方に招待状を差し上げておかねば。これは、やりがいがありますわよ、皆さま」

 ウフフ、フフフ、オホホホホ。

 アタシをネタに笑い合う奥さま方。
 久しぶりに起きたイベントに、張り切っているというか。やる気満々。

 「よかったわね、ティーナさん」

 ランチェスター伯爵夫人も笑ってる。
 まあ、自分から結婚相手を探すのって難しそうだったし。そういう場を設けてもらえるのは、ありがたいんだけど。

 (アタシ、完全に奥さま方のオモチャよね)

 軽くため息をつきつつ、亡きお兄さまに感謝する。この縁も、お兄さまがアタシに残してくれた大事なもの。
 ちょっとふり回され気味で、疲れそうだけど。

 (結婚……、ねえ)

 まだ子爵家の後継者になったことも実感ないのに。
 寄宿学校時代も、「結婚」は遠い向こうの絵空事のように感じていた。兄さまはアタシを大事にしてくれたけど、自分が結婚できる立場になるなんて思ってなかったし。だから学校の級友とも「結婚」について語り合ったことはなかった。
 それなのに。今こうして、子爵家令嬢として、遠い向こうにいたはずのボンヤリ「へのへのもへじ」だった結婚相手について考えを巡らすことになるとは。人生、いつどこで何が起きるかわかったもんじゃないわね、ホント。

 目の前のカップに残ったお茶をすべて飲み干す。お茶は、猫舌でも遠慮したいぐらいぬるく冷めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります! 🔶表紙はAI生成画像です🤖

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

処理中です...