このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご

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それからのこと。

番外編1 王妃さまは、イタズラがお好き!?

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 「――ま、なにはともあれ、アナタが無事でよかったわ、リリー」

 「すみません、王妃さま。その……ご心配をおかけしました」

 王妃さまのお言葉に、わたしは俯いて手にしたカップを抱えるしかなくなる。
 突然、行方をくらませた侍女。国王陛下の護衛を務める夫が二年の月日をかけて探し出し、連れ帰ってきた侍女。
 お叱り、罰を受けても当然なのに、王妃さまは、わたしが無事だったことを喜び、こうしてお茶まで用意してくださった。
 手のひらから伝わるお茶の温もりに、心が締めつけられる。
 わたし、こんなにお優しい方を疑ってしまってたんだ。

 「いいのよ。エディルが言葉足らずだったのも悪いんだし。もっと前から『好き、好き』って伝えてれば、問題なかったのにねえ」

 「はあ……」

 いや、「好き、好き」連呼するエディルさまって……ちょっと想像が追いつかな……。

 (うわうわうわ~~!!)

 「どうしたの? いきなり真っ赤になって?」

 「いいいい、いえっ!! なっ、なんでもありませんっ!!」

 ホントは、なんでもあるけどっ!!
 つい、昨夜のこととか思い出しちゃっただけなんだけどっ!!
 耳元で何度も囁かれた、エディルさまの言葉。「好き、好き」どころじゃなかったそれに、頭の天辺どころか髪の毛の先まで真っ赤になる。鼻の穴とか耳の穴とか、いろんな穴から湯気が出そう。
 ダメよ、リリー。思い出しちゃ。
 冷静になろうと、熱を冷まそうと、カップのお茶をグイッと飲み干す。火照った身体に、お茶が染み渡る。

 「まあ、アナタたちも王都に戻ってきたばかりだし。出仕は生活が落ち着いてからでかまわないわ」

 「王妃さま……」

 というか、こんなわたしでも、まだお仕えさせていただけるの?
 出奔したことを不問にしてくださるそのお優しさに目が熱くなる。
 
 感動するわたしの前で、王妃さまが侍女頭のベネットさんから赤ちゃんを受け取る。
 去年お生まれになったという第一王子、ルシェルさま。
 クリクリッとした青い瞳は王妃さま譲り。人好きのする愛らしい顔立ちは国王陛下に似ていらっしゃる。 

 「あ~」

 無邪気にこちらへ伸ばされる小さな手。
 将来は、きっと陛下のように英明で誰からも愛される王子になられることだろう。
 愛おしそうに王子を抱えられる王妃さまの姿に、そんなことを思う。

 「そうね、ルシェル。リリーにはアナタのお友だちを産んでもらわなきゃいけないものね」

 は?

 軽く身体をゆすって子をあやす王妃さま。「あうあう」と声を上げる王子さまに、「ね~」って同意を求めてるけど。

 (お友だちってなんですかぁぁぁっ!!)

 再び血流急上昇。

 「あら。別に、結婚してるんだから問題ないでしょ? それもちゃんと両思いなわけだし」

 「えっ、いや、そ、それは……っ!!」

 「もしかして、まだ、そういうことしてないの?」

 「え? あ、う……」

 これ、「はい」って答えるべき? それとも「いいえ」って答えるべき?
 後ろでベネットさんが大げさすぎる咳払いをくり返すけど、効果なし。
 そうだ。王妃さまってこういうお方だった。歯に衣着せぬというか、頓着ないっていうか。二年経って、母親になって少しは変わられたかと思ったけど、そんなことはなかったみたい。

 「――妃殿下。いくら妃殿下のご質問であっても、お答え出来かねるものもあるのですよ」

 「あら、エディル。来てたの」

 「はい。陛下への帰還の報告が終わりましたので。妃殿下へのご挨拶と、妻を迎えに参りました」

 「あら、わたくしへの挨拶がついでのように聞こえるけど?」

 「そんなことはございません。妃殿下、遅くなりましたが王子殿下のご誕生、おめでとうございます」

 エディルさまが、王妃さまと王子さまの前に片膝をついて頭を垂れる。

 「王子殿下が健やかにお育ちになるよう、心から祈念しております」

 「あら、じゃあ、エディルのところでこの子のお友だちを産んでくれないかしら。健やかに育つためには、何でも話せる友だちが必要でしょうから」

 お、王妃さまっ、その話、まだ続けるつもりなんですかっ!!
 ベネットさんの咳払いが続く。

 「それは、用意して差し上げたいのはやまやまですが、こればかりは授かりものですので、確約はいたしかねます」

 赤くなるでもなく、普通にサラッと笑って答えるエディルさま。
 さすがというのか、なんというのか。
 乳兄妹だからかな。エディルさま、王妃さまの攻撃をかわすの、お上手。慣れていらっしゃる。

 「では、妃殿下、王子殿下、私たちはこれで。リリー、帰ろうか」

 「あっ、は、はいっ!!」

 「――じゃあ、またね、リリー。……がんばって」

 ニコッと微笑みながら、軽く手をふる王妃さま。
 ペコリと頭を下げ、エディルさまに手を取られて退席する。――けど。

 (「がんばって」って……なに?)

 最後に王妃さまが見せた意味深すぎる笑顔と言葉が妙に引っかかる。

*     *     *     *

 「すみません、妃殿下があのようなことを……」

 「いえ、エディルさまのせいじゃありませんから」

 「しかし、いくつになってもあのような。母親になって、少しは落ち着いたかと思ったのですが」

 王宮からの帰り道。エディルさまが軽く頭を掻いた。
 なんていうのかな。妹のダメなところを謝るお兄ちゃんってみたいで、ちょっとカワイイ。「妃殿下」って距離を置くように敬称で呼んでいらっしゃるけど、幼い頃から一緒に育ったからか、その言葉と態度に王妃さまへの親しみが滲んでみえる。
 以前のわたしなら、その言葉を邪推して恋愛感情を疑ってたのかもしれないけど、今は違う。お二人の関係を微笑ましく感じられる。

 「それより、お夕飯、どうしましょう。よろしければパイでも焼きますけど」

 以前、わたしの焼いたパイを喜んでくださったエディルさま。村にいたときも何度か焼いて差し上げたけど、王都に戻ってからはまだ作ったことがない。

 「そうですね。パイもいいですけど――」

 言いながら、スッとエディルさまがわたしの耳元に顔を寄せる。
 
 「アナタを先に食べたい――と言ったら、食べさせてくれますか?」

 え? ええっ? ええええっ!?

 「ええええええ、エディルさまっ!? なっ、なにをっ!!」

 心臓、バックバク。燃え上がっちゃいそうなぐらい熱くなった耳をおさえる。

 「冗談です。王都に帰ってきたばかりで疲れてるでしょうから。今日はどこかお店で食べて帰りましょう。パイはまた、落ち着いてから作ってください」

 「そそそ、そうですねっ!! また今度、作ることにしますねっ!!」

 慌てるわたしに、ニッコリ微笑みかけるエディルさま。
 ……なんか、結婚してから思うんだけど。エディルさま、時折、わたしをからかって楽しんでない?
 真面目で高潔で実直な人だと思ってたんだけど、なんかそれだけじゃないような。
 いやね? そりゃあエディルさまのことは大好きだし、どんなエディルさまでもステキだなって思うんだけど。落差が激しいっていうのか、なんというのか。
 さっきのことだけじゃない。
 村で雪解けを待つ間、仮の結婚式を挙げて夫婦として暮らしてたときも、その……ドギマギするようなことをいっぱいおっしゃってたような。血は繋がってないけど、一緒に育った乳兄妹だからか、どこか王妃さまに似たようなからかいかたというのか。わたしの反応を楽しんでいらっしゃるというのか。

 「どうかしましたか? リリー」

 「い、いえっ、なんでもありませんっ」

 エディルさまの怪訝なお顔。
 そうよ、リリー、ちょっと落ち着きなさい。
 軽くからかわれただけじゃない。こんなぐらいでオタオタしててどうするのよ。
 たまにはサラッとかわして、こっちからエディルさまをドギマギさせたって……って、ムリっ!! ムリムリムリっ!!
 耳元でそっと囁かれただけで腰砕けになりそうなわたしに、そんな高等な技はムリっ!! 結婚してかなり経つけど、わたしにはまだムリっ!!
 いつだってリードするのはエディルさまのほうで。恋愛初心者のわたしを優しく導いてくれて。大事にしてくださって。

 ――愛してる、リリー。

 (………………っ!!)

 不意に、昨夜のエディルさまのセリフが脳内によみがえる。
 暗い寝室。軽くきしんだ寝台の上。薄明るい月の光に浮かび上がるエディルさまの鍛えられた身体。熱い吐息。肌。軽く上気した頬。甘く耳元で囁かれた言葉。
 夜の、二人だけの時のエディルさまは、とても優しくて甘くて、それでいて大胆で少し強引で――って。あれ?

 ――ドクン。

 「リリー?」

 立ち止まってしまったわたしの顔を、エディルさまが心配そうにのぞきこむ。
 そのお顔に、また身体がブルリと震え、心臓が大きく跳ねた。ドクンドクンと脈打つ音がやけにうるさく聞こえる。
 目がどうしようもないぐらい潤んでくるし、息が浅く熱くなって、――なにより身体の奥が熱くてたまらない。思わずギュッと自分の身を抱きしめるけど、熱くてジンジンして立っていられない。
 
 「リリー、どうしました?」

 エディルさまの声にヒクンッと身体が揺れる。
 なんかヘン。身体がどうしようもないぐらい火照ってくる。身体の奥がどうしようもないぐらい――疼く。

 「……助けて、エディルさま。身体が……ヘン」

 「リリー!!」
 
 そう言うのが精一杯だった。
 崩れかけた身体をエディルさまが抱きとめてくださったけど。

 「んあっ、ああんっ……!!」

 身体を大きく反らし、ありえないぐらい甘すぎる声をあげ、わたしは意識を手放した。
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