ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

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四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)

(六)

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 ――だから申したではないか、おさ! 人の子など迎えたら、ロクなことにならぬと!

 誰かの声が聞こえる。

 ――哀れに思って助けるのはよい。だが、その後は人の里に返せばよかったものを。
 ――なぜ、あれを娘として迎え入れたのです、おさ

 誰だ? 誰が父さんを責めているんだ?
 ボンヤリした意識のなかで、その声を聞く。
 声は複数あって、そのどれもが父さんを強く非難する。

 ――人の子など災いのもと。
 ――あの娘のせいで、若が射られることになってしもうた。

 娘とはメドリのことか。
 人が軍を引き連れ、森を襲ってきたことに腹を立てているんだろう。メドリを拾って、メドリを娘にしたから襲われた。メドリさえいなければ、こんなことにならなかった。

 ――あの娘を、とっとと人に渡してください! そうすれば、人は去っていく!
 ――翼を持たぬ娘など、この森にはふさわしくなかったのじゃ!

 待て。
 メドリがこの森にふさわしいかどうかなんて、誰が決めるんだ。
 胸の奥に熱く渦巻くような感情が沸き起こる。
 そりゃあ、メドリは翼を持たない人の子だ。空を自由に飛ぶこともできなければ、翼にくるまって寝ることもできない。
 けど、だからって、森にふさわしくないってなんだ? メドリは、誰よりも小鳥たちに好かれているし、翼の代わりになる大鷹オオタカとも仲良くなった。
 人の子など災いのもと? メドリが何をしたっていうんだ? メドリは普通に、静かにこの森で暮らしていただけだ。それを勝手に取り戻すとかなんとか言いがかりをつけて、襲ってきたのは〝人〟だ。メドリの責任じゃない。

 どうしようもなく、心を壊してしまうだけの出来事が、このの子の身の上に降りかかったんじゃろうなあ。

 いつだったかイヒトヨさまに言われた、メドリのこと。
 メドリは、心を壊すほど悲しくつらいことを経験している。その壊された心が喉をふさぎ、声を出せずにいる。
 森をさまよい、ガリガリのボロボロになっていたメドリ。父さんが助けなけりゃ、とっくの昔に死んでいただろうメドリ。
 助けられてからも、ボクにだけ懐いて。笑うようになったけれど、それでも声を出せなくて。
 そんなメドリのどこが悪いっていうんだ! メドリは人の里にいて、その心が砕かれるような目に遭ったのかもしれないんだぞ? それなのに、人のもとに返せっていうのか? せっかく笑えるようになったのに。またメドリの心を砕くのか?

 以前のボクなら、鳥人に災いをもたらす人の子なんて、サッサと里に返せと叫んだかもしれない。人なんて大嫌いだ、人同士で争っても、そのせいで人の子がどうなろうと関係ない、と。
 でも今は。今は……。

 「メ、ドリ……」

 かろうじて浮かび上がってきた意識。なんとか声を絞り出してみたけれど、声というより、かすれた風のような音しか出なかった。

 「ボクが、守って……やる」

 意識が戻ってくると同時に、全身が燃えるように熱いことに気づく。熱い。どうしようもなく熱くて、体がきしむ。特に、背中が火のついたように熱い。
 息も苦しい。大きく吸いたいのにうまくいかなくて、浅く荒い息をくり返す。
 体は水底に沈んだように重く、指一本動かすことができなくて、どうにか開いたまぶたの先を見る。

 「メドリ……」

 かすむ目でとらえたのは、メドリの姿。その向こうには、見慣れたボクの室の壁。
 ノスリとカリガネが、ボクをここまで運んでくれたのだろうか。あの場所からボクを。矢を射られ、傷ついたボクを。

 大鷹オオタカは、どうなった?

 あの時、矢で射られたのはボクだけじゃない。肩羽を射られた大鷹オオタカのほうが、傷は重かったはずだ。
 目の前のメドリに、そのことをききたかったけれど、うまく声が出ない。あたりを見回したいけど、それもできない。目がかすむ。
 床台に横たわるボクのそばにメドリ。目を真っ赤にして、唇を噛み、肩を震わせたメドリ。
 それしかわからない。
 メドリが手に持っていた布が載せられたんだろう。痛む額にヒンヤリしたものが覆いかぶさる。
 その心地よさに、まぶたを閉じると、また意識が奥へ下へと沈んでいく。

 メドリ。
 泣くなよ。
 今泣かれても、ボクはその涙を拭ってやることすらできないんだからな。
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