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凍る、恋。
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吐いた白い息が雪と混ざり合って空へ溶けていく。
冷えた空気が模試で疲れた体を容赦なく刺していった。
自己採点はまずまず。この調子で行けばきっと合格するだろう。
だが、それでも不安は付きまとうもので。
――頑張らなくては。
また一つ、白い息が風に消える。
……寒いな。思わず、手をすり合わせた。
ふと、道場の熱気を思い出した。
冬でも、己が動いてるからか、みなの熱気が籠ってるからか、なぜか暖かいあの道場。
引退してからまだ数か月しか経っていないというのに、なぜかもうあの熱気が恋しい。
覗きに行ってみるか。あそこなら、冷えた体が暖まるかもしれない。
それだけじゃない、可愛い後輩たちもいる。
そしてその中には、安達がいる。
タイミングが良ければ、また竹刀を振るあの真剣な横顔を見られるかもしれない。
そう思って、家へと向けていた足を道場へと向けた。
暗い冬の世界のなかで、ぽつりと一つだけ明かりが漏れている。
近づくにつれて聞こえる独特の掛け声。ぶつかり合う竹刀の音。
その懐かしさに小さく笑みを零して、扉へと手をかけた。
「よ、やってるなぁ。元気か?」
その声に、俺の振り返る後輩たち。
桐越先輩!と弾む声に囲まれて、胸がじんわりと暖かくなる。
しかし、その中に探していた横顔はいない。
「あ、安達なら、あっちで休憩してます。」
あっち、と指さされた先を見た瞬間、先ほどまで暖まっていた心は、一気に温度をなくした。
そこにいたのは安達と、あの事件の日、泣いていた女の子。
二人の距離はまるで恋人同士のように、近い。
耳元で何か囁いているのだろうか、安達は笑みを浮かべている。
それは、俺が誰にも見せてほしくないと願った、あの笑顔で。
呼吸が止まった。体は芯から指先に至るまで冷え込んでいく。
俺はその場で凍り付いてしまったかのように、動けなかった。
安達が俺に気づいたのか、笑顔のままこちらに手を振る。いつもなら高鳴る心臓、だが今は違う。
寒気が背中を這う。早く、ここから逃げ出したかった。
それでも、笑顔を作った。
きっとぎこちなかっただろう。それでも、笑わなければいけない。
俺は、「いい先輩」なのだから。
「安達!元気そうだな。」
「お久しぶりです、桐越先輩。」
隣の彼女も、こんにちは、と挨拶してくれた。
こんにちは、と返した俺の声は震えていなかっただろうか。
「……仲良さそうだな、お前ら。なんだ、付き合ってるのか?」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤に染めた。
「い、いえ!そんな、付き合ってるとかではないです!」
「はは、そんな照れなくても。冗談だって。……じゃあ、俺もう行くから。受験も近いからなぁ~!勉強しないと。……お前らも頑張れよ。」
そう言って、二人に背を向けて歩き出す。
「……先輩!」
呼び止める声に振り向く。
「……なんか、疲れてますか。」
窺うように言われたその声に目を見開く。
……流石に隠し切れなかったか。
それでも笑うしかない。絶対に、この恋を悟らせたくない。
「……さっきまで模試やってたからかなぁ。大丈夫、今日は早めに寝るよ。」
「そうしてください。……無理はしないでくださいね。」
心配、の顔がありありと浮かんだその顔に泣きそうになる。
かけられた優しい声に、心が折れそうだった。
「あぁ、ありがとな。」
じゃ、と手を振って歩き出した。
背中に視線を感じたが、決して振り返らずに歩き続けた。
吐く息が力なく震えて、消えていく。
痛みに似た寒さだけが、そこに残っていた。
冷えた空気が模試で疲れた体を容赦なく刺していった。
自己採点はまずまず。この調子で行けばきっと合格するだろう。
だが、それでも不安は付きまとうもので。
――頑張らなくては。
また一つ、白い息が風に消える。
……寒いな。思わず、手をすり合わせた。
ふと、道場の熱気を思い出した。
冬でも、己が動いてるからか、みなの熱気が籠ってるからか、なぜか暖かいあの道場。
引退してからまだ数か月しか経っていないというのに、なぜかもうあの熱気が恋しい。
覗きに行ってみるか。あそこなら、冷えた体が暖まるかもしれない。
それだけじゃない、可愛い後輩たちもいる。
そしてその中には、安達がいる。
タイミングが良ければ、また竹刀を振るあの真剣な横顔を見られるかもしれない。
そう思って、家へと向けていた足を道場へと向けた。
暗い冬の世界のなかで、ぽつりと一つだけ明かりが漏れている。
近づくにつれて聞こえる独特の掛け声。ぶつかり合う竹刀の音。
その懐かしさに小さく笑みを零して、扉へと手をかけた。
「よ、やってるなぁ。元気か?」
その声に、俺の振り返る後輩たち。
桐越先輩!と弾む声に囲まれて、胸がじんわりと暖かくなる。
しかし、その中に探していた横顔はいない。
「あ、安達なら、あっちで休憩してます。」
あっち、と指さされた先を見た瞬間、先ほどまで暖まっていた心は、一気に温度をなくした。
そこにいたのは安達と、あの事件の日、泣いていた女の子。
二人の距離はまるで恋人同士のように、近い。
耳元で何か囁いているのだろうか、安達は笑みを浮かべている。
それは、俺が誰にも見せてほしくないと願った、あの笑顔で。
呼吸が止まった。体は芯から指先に至るまで冷え込んでいく。
俺はその場で凍り付いてしまったかのように、動けなかった。
安達が俺に気づいたのか、笑顔のままこちらに手を振る。いつもなら高鳴る心臓、だが今は違う。
寒気が背中を這う。早く、ここから逃げ出したかった。
それでも、笑顔を作った。
きっとぎこちなかっただろう。それでも、笑わなければいけない。
俺は、「いい先輩」なのだから。
「安達!元気そうだな。」
「お久しぶりです、桐越先輩。」
隣の彼女も、こんにちは、と挨拶してくれた。
こんにちは、と返した俺の声は震えていなかっただろうか。
「……仲良さそうだな、お前ら。なんだ、付き合ってるのか?」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤に染めた。
「い、いえ!そんな、付き合ってるとかではないです!」
「はは、そんな照れなくても。冗談だって。……じゃあ、俺もう行くから。受験も近いからなぁ~!勉強しないと。……お前らも頑張れよ。」
そう言って、二人に背を向けて歩き出す。
「……先輩!」
呼び止める声に振り向く。
「……なんか、疲れてますか。」
窺うように言われたその声に目を見開く。
……流石に隠し切れなかったか。
それでも笑うしかない。絶対に、この恋を悟らせたくない。
「……さっきまで模試やってたからかなぁ。大丈夫、今日は早めに寝るよ。」
「そうしてください。……無理はしないでくださいね。」
心配、の顔がありありと浮かんだその顔に泣きそうになる。
かけられた優しい声に、心が折れそうだった。
「あぁ、ありがとな。」
じゃ、と手を振って歩き出した。
背中に視線を感じたが、決して振り返らずに歩き続けた。
吐く息が力なく震えて、消えていく。
痛みに似た寒さだけが、そこに残っていた。
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