好きです、今も。

めある

文字の大きさ
8 / 41

月夜、帰り道。

安達との練習はそれはもう楽しかった。
お互いの実力が―悔しいが―ほとんど互角で、実戦形式の練習では、お互いに一歩も引かず竹刀を打ち合い、思わず練習ではなく、試合だと錯覚するほど盛り上がった。
練習時間だけでは物足りなくて、他の奴らが次々と帰っていく中、俺たちはひたすら竹刀を交わしていた。

ふと、道場の外を見ると、月がぼんやりと地面を照らしていた。


「…もうこんな時間か。さすがに帰らないとまずいな。」
「…そうですね。」


竹刀を下ろして、礼。二人とも、時間を忘れるほど熱中して、汗だくになっているのが、なんだか子どもみたいで、少し笑ってしまった。


「安達、どうせなら一緒に帰ろうぜ。」


一応、ダメもとで聞いてみた。いや、絶対に断られると思ってはいた。でも、楽しかったこの時間を終わらせたくなかった。それにこれをきっかけに安達と仲良くなれたらなぁ、という下心もあった。
だって、もうあんなふうに孤立するあいつを見たくなかったから。


すると、安達は、こくり、と頷いた。
その仕草が、やっぱり子どもみたいで。

…かわいいな、なんて思ってしまった

学校を出ると、涼やかな風が頬を撫でてくる。じりりり…と、虫の声も聞こえて、夏の訪れ感じながら、二人で歩き出した。こんなとこ、女子に見られたら羨ましがられるだろうな、いや、今の状態じゃそんなこともないか、と、心の中で苦笑する。


「お前、いつも他のやつがいくら一緒に帰ろうって言っても聞かなかったのに、どうして俺のはオッケーしたんだ?」
「…あの人たちが誘ってくるのはいつも部活の練習時間の後だったから。俺、自主練して帰りたいんで。」
「ははっ、なるほどなぁ、あいつらは誘う時間がダメだったわけだ。お前、相っ変わらず、剣道バカだなぁ。で、俺は自主練後だから了承した、と。」
「剣道バカっていうのやめてください。」
「だって事実だろ~。お前、竹刀振ってるイメージしかないもん。それでもっていっつも目が本気。」
「…なんですか、それ。…絶対褒めてないですよね。」

そのキレのある返しに、思わず笑みがこぼれる。
それと同時に、こいつは誰かと関わることを拒否しているわけではないのだろう、とも思った。
事実、こうして一緒に帰ってくれたのだ。誰かと馴れ合うことが本当に嫌なのなら、今並んで歩いているのも相当苦痛だろう。少なくとも、こいつの表情を見るに―まぁ無表情ではあるのだが―大丈夫そうだ。

それなら、この状態は不本意だろう。
何とかしてやりたいな、きっとこいつは不器用なだけなのだ、ただ、真面目過ぎるだけで。

そう思案していると、ふと、安達がこちらを向いた。


「…不本意ですが、それはいったん置いといて。…聞きたいことがあるんです。」
「お、なんだなんだ?剣道の事か?それだと、俺で力になれるかは分らんぞ?」
「…なんで、俺と組んでくれたんですか。」
「…なんで、か。そうだなぁ、俺が嫌だったからだな。」
「…。」
「お前は確かに、絶望的に協調性がない。…何考えてるかも分らんしな、ちょっと怖いところもある。だけど、ちゃんと練習はするし、実力がある。自主練頑張ってんのも知ってる。…そういう真面目なところ、剣道が純粋に好きなところ、俺は、まぁ嫌いじゃないからさ。なんかいろいろ言われてるのが嫌だった。…ただ、それだけだ。」


そういってほほ笑んでやる。大丈夫だ、お前は一人じゃないんだぞ、と。そう安心させるように。…あいつにちゃんと伝わっているといいな。


安達は目を大きく見開いた後、ゆっくりと下を向いた。
そうして、

「…ありがとうございます。」


ぽつり、と呟いた。その小さな言葉に、なにかがぐっ、と込み上げてくる。
思わず、あいつのふわふわとした髪をに手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でてしまった。


「ふははっ!今日楽しかったなぁ。また組もうぜ。」
「ちょっ、やめてください!」
「はははっ!」


少し赤くなった耳が見える。あぁ、やっぱり可愛いやつだなぁ。
これからも構ってやろう。もう、一人で立ち尽くすことが無いように。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あ、そういえば、泣かせたあの子に謝りにいこうな。だぁ~いじょうぶ、俺もついてってやるから。」
「…子ども扱いしないでください。一人でいけます。」
「だめだ、お前怖がられてんだから、きっと逃げられるぞ。」
「…そうですよね。」
「ま、俺が居たら大丈夫だろう。きっと。」

すると、こいつは小さく息を吐いて、ぼそっと呟いた。

「…大丈夫なのか、この人で。」
「あっ!?おい!聞こえてるぞ!!」



感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。