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月夜、帰り道。
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安達との練習はそれはもう楽しかった。
お互いの実力が―悔しいが―ほとんど互角で、実戦形式の練習では、お互いに一歩も引かず竹刀を打ち合い、思わず練習ではなく、試合だと錯覚するほど盛り上がった。
練習時間だけでは物足りなくて、他の奴らが次々と帰っていく中、俺たちはひたすら竹刀を交わしていた。
ふと、道場の外を見ると、月がぼんやりと地面を照らしていた。
「…もうこんな時間か。さすがに帰らないとまずいな。」
「…そうですね。」
竹刀を下ろして、礼。二人とも、時間を忘れるほど熱中して、汗だくになっているのが、なんだか子どもみたいで、少し笑ってしまった。
「安達、どうせなら一緒に帰ろうぜ。」
一応、ダメもとで聞いてみた。いや、絶対に断られると思ってはいた。でも、楽しかったこの時間を終わらせたくなかった。それにこれをきっかけに安達と仲良くなれたらなぁ、という下心もあった。
だって、もうあんなふうに孤立するあいつを見たくなかったから。
すると、安達は、こくり、と頷いた。
その仕草が、やっぱり子どもみたいで。
…かわいいな、なんて思ってしまった
学校を出ると、涼やかな風が頬を撫でてくる。じりりり…と、虫の声も聞こえて、夏の訪れ感じながら、二人で歩き出した。こんなとこ、女子に見られたら羨ましがられるだろうな、いや、今の状態じゃそんなこともないか、と、心の中で苦笑する。
「お前、いつも他のやつがいくら一緒に帰ろうって言っても聞かなかったのに、どうして俺のはオッケーしたんだ?」
「…あの人たちが誘ってくるのはいつも部活の練習時間の後だったから。俺、自主練して帰りたいんで。」
「ははっ、なるほどなぁ、あいつらは誘う時間がダメだったわけだ。お前、相っ変わらず、剣道バカだなぁ。で、俺は自主練後だから了承した、と。」
「剣道バカっていうのやめてください。」
「だって事実だろ~。お前、竹刀振ってるイメージしかないもん。それでもっていっつも目が本気。」
「…なんですか、それ。…絶対褒めてないですよね。」
そのキレのある返しに、思わず笑みがこぼれる。
それと同時に、こいつは誰かと関わることを拒否しているわけではないのだろう、とも思った。
事実、こうして一緒に帰ってくれたのだ。誰かと馴れ合うことが本当に嫌なのなら、今並んで歩いているのも相当苦痛だろう。少なくとも、こいつの表情を見るに―まぁ無表情ではあるのだが―大丈夫そうだ。
それなら、この状態は不本意だろう。
何とかしてやりたいな、きっとこいつは不器用なだけなのだ、ただ、真面目過ぎるだけで。
そう思案していると、ふと、安達がこちらを向いた。
「…不本意ですが、それはいったん置いといて。…聞きたいことがあるんです。」
「お、なんだなんだ?剣道の事か?それだと、俺で力になれるかは分らんぞ?」
「…なんで、俺と組んでくれたんですか。」
「…なんで、か。そうだなぁ、俺が嫌だったからだな。」
「…。」
「お前は確かに、絶望的に協調性がない。…何考えてるかも分らんしな、ちょっと怖いところもある。だけど、ちゃんと練習はするし、実力がある。自主練頑張ってんのも知ってる。…そういう真面目なところ、剣道が純粋に好きなところ、俺は、まぁ嫌いじゃないからさ。なんかいろいろ言われてるのが嫌だった。…ただ、それだけだ。」
そういってほほ笑んでやる。大丈夫だ、お前は一人じゃないんだぞ、と。そう安心させるように。…あいつにちゃんと伝わっているといいな。
安達は目を大きく見開いた後、ゆっくりと下を向いた。
そうして、
「…ありがとうございます。」
ぽつり、と呟いた。その小さな言葉に、なにかがぐっ、と込み上げてくる。
思わず、あいつのふわふわとした髪をに手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でてしまった。
「ふははっ!今日楽しかったなぁ。また組もうぜ。」
「ちょっ、やめてください!」
「はははっ!」
少し赤くなった耳が見える。あぁ、やっぱり可愛いやつだなぁ。
これからも構ってやろう。もう、一人で立ち尽くすことが無いように。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、そういえば、泣かせたあの子に謝りにいこうな。だぁ~いじょうぶ、俺もついてってやるから。」
「…子ども扱いしないでください。一人でいけます。」
「だめだ、お前怖がられてんだから、きっと逃げられるぞ。」
「…そうですよね。」
「ま、俺が居たら大丈夫だろう。きっと。」
すると、こいつは小さく息を吐いて、ぼそっと呟いた。
「…大丈夫なのか、この人で。」
「あっ!?おい!聞こえてるぞ!!」
お互いの実力が―悔しいが―ほとんど互角で、実戦形式の練習では、お互いに一歩も引かず竹刀を打ち合い、思わず練習ではなく、試合だと錯覚するほど盛り上がった。
練習時間だけでは物足りなくて、他の奴らが次々と帰っていく中、俺たちはひたすら竹刀を交わしていた。
ふと、道場の外を見ると、月がぼんやりと地面を照らしていた。
「…もうこんな時間か。さすがに帰らないとまずいな。」
「…そうですね。」
竹刀を下ろして、礼。二人とも、時間を忘れるほど熱中して、汗だくになっているのが、なんだか子どもみたいで、少し笑ってしまった。
「安達、どうせなら一緒に帰ろうぜ。」
一応、ダメもとで聞いてみた。いや、絶対に断られると思ってはいた。でも、楽しかったこの時間を終わらせたくなかった。それにこれをきっかけに安達と仲良くなれたらなぁ、という下心もあった。
だって、もうあんなふうに孤立するあいつを見たくなかったから。
すると、安達は、こくり、と頷いた。
その仕草が、やっぱり子どもみたいで。
…かわいいな、なんて思ってしまった
学校を出ると、涼やかな風が頬を撫でてくる。じりりり…と、虫の声も聞こえて、夏の訪れ感じながら、二人で歩き出した。こんなとこ、女子に見られたら羨ましがられるだろうな、いや、今の状態じゃそんなこともないか、と、心の中で苦笑する。
「お前、いつも他のやつがいくら一緒に帰ろうって言っても聞かなかったのに、どうして俺のはオッケーしたんだ?」
「…あの人たちが誘ってくるのはいつも部活の練習時間の後だったから。俺、自主練して帰りたいんで。」
「ははっ、なるほどなぁ、あいつらは誘う時間がダメだったわけだ。お前、相っ変わらず、剣道バカだなぁ。で、俺は自主練後だから了承した、と。」
「剣道バカっていうのやめてください。」
「だって事実だろ~。お前、竹刀振ってるイメージしかないもん。それでもっていっつも目が本気。」
「…なんですか、それ。…絶対褒めてないですよね。」
そのキレのある返しに、思わず笑みがこぼれる。
それと同時に、こいつは誰かと関わることを拒否しているわけではないのだろう、とも思った。
事実、こうして一緒に帰ってくれたのだ。誰かと馴れ合うことが本当に嫌なのなら、今並んで歩いているのも相当苦痛だろう。少なくとも、こいつの表情を見るに―まぁ無表情ではあるのだが―大丈夫そうだ。
それなら、この状態は不本意だろう。
何とかしてやりたいな、きっとこいつは不器用なだけなのだ、ただ、真面目過ぎるだけで。
そう思案していると、ふと、安達がこちらを向いた。
「…不本意ですが、それはいったん置いといて。…聞きたいことがあるんです。」
「お、なんだなんだ?剣道の事か?それだと、俺で力になれるかは分らんぞ?」
「…なんで、俺と組んでくれたんですか。」
「…なんで、か。そうだなぁ、俺が嫌だったからだな。」
「…。」
「お前は確かに、絶望的に協調性がない。…何考えてるかも分らんしな、ちょっと怖いところもある。だけど、ちゃんと練習はするし、実力がある。自主練頑張ってんのも知ってる。…そういう真面目なところ、剣道が純粋に好きなところ、俺は、まぁ嫌いじゃないからさ。なんかいろいろ言われてるのが嫌だった。…ただ、それだけだ。」
そういってほほ笑んでやる。大丈夫だ、お前は一人じゃないんだぞ、と。そう安心させるように。…あいつにちゃんと伝わっているといいな。
安達は目を大きく見開いた後、ゆっくりと下を向いた。
そうして、
「…ありがとうございます。」
ぽつり、と呟いた。その小さな言葉に、なにかがぐっ、と込み上げてくる。
思わず、あいつのふわふわとした髪をに手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でてしまった。
「ふははっ!今日楽しかったなぁ。また組もうぜ。」
「ちょっ、やめてください!」
「はははっ!」
少し赤くなった耳が見える。あぁ、やっぱり可愛いやつだなぁ。
これからも構ってやろう。もう、一人で立ち尽くすことが無いように。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、そういえば、泣かせたあの子に謝りにいこうな。だぁ~いじょうぶ、俺もついてってやるから。」
「…子ども扱いしないでください。一人でいけます。」
「だめだ、お前怖がられてんだから、きっと逃げられるぞ。」
「…そうですよね。」
「ま、俺が居たら大丈夫だろう。きっと。」
すると、こいつは小さく息を吐いて、ぼそっと呟いた。
「…大丈夫なのか、この人で。」
「あっ!?おい!聞こえてるぞ!!」
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