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希望
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俺はその場に座り込み、乾いた笑いを漏らした。
最強の装備を作りリリを守る。だがそこまでの道のりに高い壁が立ちはだかっていた。深い、深い無力感が全身を支配した。
「おにいちゃん……?」
俺の異様な雰囲気を察してか、リリが心配そうに俺の顔を覗き込む。その透き通った瞳に、俺はどんな顔を向ければいいのか分からなかった。
「……悪い、リリ。少し、一人にさせてくれ」
俺はリリの頭を撫でることもできず力なくそう言うと、ふらりと立ち上がり、宿屋を飛び出した。目的などない。ただこの息が詰まるような現実から、少しでも逃れたかった。
夕暮れの街を、俺は亡霊のように彷徨う。
行き交う人々の喧騒も、活気のある市場の賑わいも、今の俺の耳には届かない。
「どうすればいい……」
強化はほどほどにして普通の冒険者として生きていくか?
今の俺はBランク冒険者だ。このままいけば生きていくには十分な稼ぎがあるだろう。
だがしかし、今はリリがいる。
せめてリリだけは幸せにさせたい。その為にはリリの分だけでも強い装備品を与えたい。
俺はいつの間にか街の隅、人通りが少ない路地に力なく座り込んでいた。
そんな時だ。
小さな足音が聞こえたのだ。
「……おにいちゃん」
振り返るとそこには息を切らしたリリが立っていた。俺を追いかけてきたのだろう。
「どうしたリリ。一人にしてくれって、言っただろ」
「……やだ」
リリは俺の隣にちょこんと座ると、俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「おにいちゃんが、すごく悲しい顔してたから。リリ、心配で……」
「……」
俺は何も答えられなかった。
しばらく黙り込んでいると、リリは俺の顔をじっと見上げて言った。
「ねえ、おにいちゃん。キラキラ集めって、そんなに大変なこと?」
「……当たり前だろ。途方もない数だ。俺の一生をかけたって、全身の装備を『大』より上のランクにするなんて、無理かもしれない」
その時だった。
「じゃあ、リリも手伝う!」
リリは、満面の笑みで、そう言ったのだ。
「え……?」
「おにいちゃん一人で集めるのが大変なら、リリも一緒に集める! 二人でやれば、半分になるよ!」
「リリ……お前、わかってるのか? 半分になったって、とんでもない数なんだぞ」
「うん! でも、ゼロじゃないんでしょ?」
リリの瞳は、一点の曇りもなく、真っ直ぐに俺を射抜いていた。
「リリ、おにいちゃんと出会う前はずっと一人だった。明日、ご飯が食べられるかも分からなかった。未来なんて、真っ暗だった。でも今リリはここにいる。おにいちゃんと一緒だから、毎日があったかくて楽しい」
リリは、自分の胸に手を当てて、続ける。
「100個でも、1000個でも、1万個でも、リリは全然平気だよ。だっておにいちゃんと一緒だもん。おにいちゃんと一緒に、一つずつキラキラを集めて、ちょっとずつ、ちょっとずつ強くなっていくの、リリはすごく楽しいよ。それは、絶望なんかじゃない。キラキラした希望だよ」
その言葉は俺の固く凍り付いていた心を、優しく、そして力強く溶かしていった。
そうだ。俺は何を勘違いしていたんだ。
いつから、最強になることが「目的」になっていた?
違うだろ。このスキルは、リリと出会い、共に歩むための「手段」だったはずだ。
果てしなく遠い道程? 上等じゃないか。
それはつまりこの子と、それだけ長い時間、一緒にいられるということだ。
一日一個でもいい。一歩ずつでもいい。この子の隣で、同じ未来を目指して歩いていけるなら、それ以上の幸せがあるものか。
「……ははっ」
今度は、温かい笑いが、自然と込み上げてきた。
「そうか……。そうだな、リリ。お前の言う通りだ」
俺は、隣にいる小さな相棒を、力の限り抱きしめた。
「ごめんな、リリ。お前のおかげで、目が覚めた」
「えへへー」
腕の中で、リリが嬉しそうに笑う。
絶望の淵から、俺を救い上げてくれるのは、いつだってこの子の言葉と、笑顔だ。
「よし、帰るか! 宿屋に戻ってメシにしよう!」
「うん!」
俺たちは夕日に照らされた道を今度は二人で、しっかりと前を向いて歩き出した。
最強の装備を作りリリを守る。だがそこまでの道のりに高い壁が立ちはだかっていた。深い、深い無力感が全身を支配した。
「おにいちゃん……?」
俺の異様な雰囲気を察してか、リリが心配そうに俺の顔を覗き込む。その透き通った瞳に、俺はどんな顔を向ければいいのか分からなかった。
「……悪い、リリ。少し、一人にさせてくれ」
俺はリリの頭を撫でることもできず力なくそう言うと、ふらりと立ち上がり、宿屋を飛び出した。目的などない。ただこの息が詰まるような現実から、少しでも逃れたかった。
夕暮れの街を、俺は亡霊のように彷徨う。
行き交う人々の喧騒も、活気のある市場の賑わいも、今の俺の耳には届かない。
「どうすればいい……」
強化はほどほどにして普通の冒険者として生きていくか?
今の俺はBランク冒険者だ。このままいけば生きていくには十分な稼ぎがあるだろう。
だがしかし、今はリリがいる。
せめてリリだけは幸せにさせたい。その為にはリリの分だけでも強い装備品を与えたい。
俺はいつの間にか街の隅、人通りが少ない路地に力なく座り込んでいた。
そんな時だ。
小さな足音が聞こえたのだ。
「……おにいちゃん」
振り返るとそこには息を切らしたリリが立っていた。俺を追いかけてきたのだろう。
「どうしたリリ。一人にしてくれって、言っただろ」
「……やだ」
リリは俺の隣にちょこんと座ると、俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「おにいちゃんが、すごく悲しい顔してたから。リリ、心配で……」
「……」
俺は何も答えられなかった。
しばらく黙り込んでいると、リリは俺の顔をじっと見上げて言った。
「ねえ、おにいちゃん。キラキラ集めって、そんなに大変なこと?」
「……当たり前だろ。途方もない数だ。俺の一生をかけたって、全身の装備を『大』より上のランクにするなんて、無理かもしれない」
その時だった。
「じゃあ、リリも手伝う!」
リリは、満面の笑みで、そう言ったのだ。
「え……?」
「おにいちゃん一人で集めるのが大変なら、リリも一緒に集める! 二人でやれば、半分になるよ!」
「リリ……お前、わかってるのか? 半分になったって、とんでもない数なんだぞ」
「うん! でも、ゼロじゃないんでしょ?」
リリの瞳は、一点の曇りもなく、真っ直ぐに俺を射抜いていた。
「リリ、おにいちゃんと出会う前はずっと一人だった。明日、ご飯が食べられるかも分からなかった。未来なんて、真っ暗だった。でも今リリはここにいる。おにいちゃんと一緒だから、毎日があったかくて楽しい」
リリは、自分の胸に手を当てて、続ける。
「100個でも、1000個でも、1万個でも、リリは全然平気だよ。だっておにいちゃんと一緒だもん。おにいちゃんと一緒に、一つずつキラキラを集めて、ちょっとずつ、ちょっとずつ強くなっていくの、リリはすごく楽しいよ。それは、絶望なんかじゃない。キラキラした希望だよ」
その言葉は俺の固く凍り付いていた心を、優しく、そして力強く溶かしていった。
そうだ。俺は何を勘違いしていたんだ。
いつから、最強になることが「目的」になっていた?
違うだろ。このスキルは、リリと出会い、共に歩むための「手段」だったはずだ。
果てしなく遠い道程? 上等じゃないか。
それはつまりこの子と、それだけ長い時間、一緒にいられるということだ。
一日一個でもいい。一歩ずつでもいい。この子の隣で、同じ未来を目指して歩いていけるなら、それ以上の幸せがあるものか。
「……ははっ」
今度は、温かい笑いが、自然と込み上げてきた。
「そうか……。そうだな、リリ。お前の言う通りだ」
俺は、隣にいる小さな相棒を、力の限り抱きしめた。
「ごめんな、リリ。お前のおかげで、目が覚めた」
「えへへー」
腕の中で、リリが嬉しそうに笑う。
絶望の淵から、俺を救い上げてくれるのは、いつだってこの子の言葉と、笑顔だ。
「よし、帰るか! 宿屋に戻ってメシにしよう!」
「うん!」
俺たちは夕日に照らされた道を今度は二人で、しっかりと前を向いて歩き出した。
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